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第107話 奪われゆく学園

――翌朝。


魔法学園は、昨日までとは違っていた。


正門には黒い外套。


胸元には、王家直属監察局の紋章。


一人、二人ではない。


何人もの監察官が、門の前に立っている。


「……王家直属だって」


「本物?」


「すげぇ……」


一般科の生徒たちが、遠巻きに眺めていた。


憧れ。


好奇心。


その中に、わずかな不安が混じっている。


けれど。


特別科棟へ近づくほど、その空気は変わっていった。


廊下には、見慣れない張り紙。


――訓練場の使用には事前許可を必要とする。


――一部実習を停止する。


――夜間の移動を制限する。


――魔力測定を再実施する。


ガルドが足を止めた。


「……なんだよ、これ」


セレスが紙に目を向ける。


「教育監査、だって」


「監査?」


「魔法事故の防止と、教育環境の確認」


ガルドが鼻で笑った。


「ずいぶん大げさな確認だな」


ノアは何も言わなかった。


廊下の先。


黒い外套の監察官が、教官と話している。


いや。


話しているというより。


教官は、ただ聞いていた。


「……あの人たち」


エルフィナが小さく呟く。


「昨日まで、いなかったよね」


誰も答えない。


そのとき。


監察官の一人が、こちらを見る。


四人と目が合った。


ほんの一瞬。


そして、何事もなかったように視線を逸らした。


「……見られてるな」


ノアが呟いた。


「うん」


セレスも答える。


「ずっとね」


◇


訓練場。


いつもの教官が前に立っていた。


その隣には、黒い外套の男。


「本日より、一部の訓練内容を変更する」


教官の声は硬かった。


「王家監察局の指示に基づき、魔力行使には新たな制限が設けられる」


「待てよ」


ガルドが声を上げる。


「昨日まで、そんな話なかっただろ」


教官は答えない。


代わりに監察官が口を開いた。


「決定事項だ」


「でも――」


「従え」


短い言葉。


ガルドが眉をひそめる。


「……教官」


教官を見る。


いつもなら。


何か一言くらい返してくれる。


けれど。


「……指示に従いなさい」


それだけだった。


ガルドの顔から、表情が消える。


「……教官まで?」


教官は目を逸らした。


◇


それから数日。


変化は、少しずつ増えていった。


教師が使っていた資料が回収された。


訓練場の一角が封鎖された。


図書館の一部には立入禁止の札。


研究資料を閲覧するにも許可が必要になった。


夜になれば、廊下を黒い外套が歩く。


教師たちが管理していた場所を。


王家の監察官が管理する。


そして。


誰も、ミラベルのことを口にしなくなった。


最初は、ただ話しづらいだけだった。


けれど。


日が経つにつれ。


それは奇妙な沈黙へと変わっていった。


まるで。


その名前を口にすること自体が、禁じられているように。


⸻


その夜。


校長室。


薄暗い部屋の中。


校長は一枚の書類を机の上に置いた。


そこには。


王家監察局。


特別観察対象。


そして――


ミラベル。


校長は長い間、その名前を見つめていた。


「……動くのが早い」


静かに息を吐く。


窓の外。


夜の学園が広がっている。


生徒たちが眠る場所。


教師たちが守る場所。


そして。


長い年月をかけて守られてきた場所。


校長は目を細めた。


「……まだだ」


誰に向けた言葉でもない。


ただ。


静かに呟く。


「まだ、渡すわけにはいかんよ」


机の上。


ミラベルの名前が記された書類。


その端には――


王家からの赤い印が押されていた。

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