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第103話 思わぬ来訪者

薄暗い部屋にいた。


両手には、冷たい拘束具。


魔力を流そうとしても――何も起こらない。


「……ここ、は……」


返事はない。


ミラベルは周囲を見回した。


窓はない。


家具もない。


あるのは、重い扉が一つだけ。


「あっ……」


ふと、胸元へ手を伸ばす。


「ペンダント……!」


あった。


いつものように、そこにある。


ミラベルは安堵したように息を吐いた。


けれど。


ぎゅっと握り締めても――


何も起こらない。


あの研究所で、あれほど強く応えてくれた魔力も。


今は、まるで眠ってしまったかのように静まり返っている。


「……どうして」


その時だった。


重い扉の向こうから、足音が近づいてくる。


コツ。


コツ。


コツ。


ミラベルは顔を上げた。


足音が止まる。


「対象を起こせ」


知らない声。


カチャリ。


鍵が回った。


扉が開く。


「おい! 起きろ!」


恰幅のいい男が、ドスの利いた声とともに入ってきた。


その瞬間――


ドンッ!


鈍い音。


男の巨体が、床に転がった。


「女の子に、乱暴な言葉遣いはダメだよ」


聞き覚えのある声。


ミラベルが目を瞬かせる。


「……セドリック先輩?」


倒れた男の向こうから。


満面の笑みを浮かべたセドリックが顔を出した。


「やあ」


何事もなかったかのように、軽く手を振る。


「先輩の乱暴は許されるんですか?」


「僕はいいのさ!」


胸を張る。


「君を守るためだからね!」


「……そこまでして守られたいとは思いません」


「まあ、まあ」


セドリックは楽しそうに笑いながら、部屋へ入ってくる。


「細かいことは気にしないで」


そして。


にこり、と笑った。


「本当はね」


一歩。


「君と二人きりで話したかったんだ」


ミラベルは困ったように眉を下げる。


「……守っていただかなくていいので」


一拍。


「ここから出してください」


「それは僕にはできないよ」


即答だった。


「……」


ミラベルは、じっとセドリックを見る。


「言っていること、チグハグですね」


「そうかなぁ?」


セドリックは首を傾げる。


「そうでもないと思うけど」


「それで先輩は……」


ミラベルは拘束された手首へ視線を落とす。


「助けに来てくれたわけではなく、何をしに来たんですか?」


その瞬間。


セドリックの笑顔が――


ほんの少しだけ変わった。


「物分かりがよくて助かるよ」


先ほどまでの軽い声音とは違う。


静かな声だった。


「僕は君に、質問があってね」


「質問……?」


「うん」


セドリックはミラベルを見つめる。


「君のことを教えてよ」


「……私の?」


「そう」


ミラベルは戸惑う。


「私も、自分のことは……」


「分からない?」


言葉を奪うように、セドリックが続けた。


「じゃあ――」


口元だけが笑う。


「僕が教えてあげようか?」


「え……?」


セドリックが一歩近づいた。


「君はね」


声が落ちる。


「生まれてはいけない存在だよ」


ミラベルの瞳が揺れた。


「……え?」


「生きていてはいけない」


笑っている。


なのに。


その顔は、先ほどまでよりずっと怖かった。


ミラベルは言葉を失う。


セドリックはそんな彼女を見つめたまま――


ふっと、自嘲するように笑った。


「……まあ」


「それで言えば」


ほんの一瞬。


その瞳から笑みが消える。


「僕もなんだけどね」


――静寂。


ミラベルには、その言葉の意味が分からなかった。


ただ。


笑いながら言うセドリックの顔は怖かった。

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