↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
103/139

第102話 強制された帰路

「……ミラベルは?」


重い足取りで、一人戻ってきたノアに。


エルフィナが駆け寄った。


けれど。


ノアは答えなかった。


ただ、俯いたまま歩いていく。


その表情を見れば、それだけで分かった。


「……そう」


エルフィナの声が震える。


ガルドは拳を握り締めた。


「……くそ」


誰も、それ以上は聞けなかった。


◇


魔導車が、揺れながら研究所を離れていく。


誰も、口を開かなかった。


窓の外。


遠ざかっていく旧魔法研究所を、四人とも見ている。


やがて。


その姿が木々の向こうへ消えた。


「……」


ガルドが拳を握る。


「なんでだよ……」


低い声が漏れた。


「なんで、あいつを置いていくんだよ」


返事はない。


ノアも、ずっと黙ったままだった。


その手には。


まだ、あの時の感触が残っている気がした。


腕の中にいた、ミラベルの温もり。


伸ばした手。


届かなかった指先。


「……くそ」


ノアは、もう一度だけ呟いた。


エルフィナは俯いたまま、両手を強く握っている。


しばらくして。


「……もう」


ガルドが呟いた。


「何だったんだよ、あの試験」


その言葉に。


セレスが静かに口を開いた。


「……僕は」


三人が顔を上げる。


セレスは、しばらく黙っていた。


そして。


制服の内側から、一冊の古びた日記を取り出した。


「みんなに話してないことがある」


「……それは?」


ノアが尋ねる。


「日記」


セレスは表紙を撫でた。


「学園の図書館。その地下で見つけた」


ガルドが眉をひそめる。


「地下なんてあったのか?」


「僕も、あの時まで知らなかった」


セレスは苦笑した。


「ただ……これがね」


日記を開く。


「字がひどくて」


「そんなにか?」


「うん」


少しだけ、困ったように笑う。


「僕でも読めなかった」


「だから、何日も……?」


ノアが呟いた。


その瞬間。


あの数日のことが、ようやく繋がった。


授業にも姿を見せなかった。


食事にも来なかった。


何をしているのか聞いても、曖昧に笑っていた。


――ずっと、これを読んでいたのか。


「……そうだったのか」


ノアが小さく呟く。


セレスは頷いた。


「何日もかけて、少しずつ読んだ」


そして。


一枚の頁を開く。


「そこに書かれていた名前が――」


指先が止まる。


「アウレリア」


空気が変わった。


三人が黙り込む。


その名前。


研究所で見つけた日記にも、確かにあった。


「……今日の研究所でも」


セレスが続ける。


「同じ人物が書いたと思われる日記を見つけた」


「同じ人物……」


エルフィナが呟く。


「うん」


セレスは、ゆっくりと頁をめくった。


「そして――」


その先を見つめる。


「あのゴーレムが、それを守った」


誰も口を挟まない。


「僕を守ったのかもしれない」


セレスは静かに言った。


「でも……」


日記へ視線を落とす。


「最後まで、これを離さなかった」


ノアが眉を寄せる。


「……本を?」


「そう」


セレスは頷く。


「まるで、ずっと昔から」


一拍。


「この日記を知っていたみたいに」


馬車の中が静まり返る。


ガルドが腕を組んだ。


「じゃあ、あの研究所は……」


「僕たちが思っているような場所じゃない」


セレスが答えた。


「少なくとも、ただの廃研究所じゃない」


エルフィナが窓の外を見る。


もう研究所は見えない。


「……ミラベルも?」


セレスは答えなかった。


ただ。


手の中の日記を見つめる。


「……分からない」


そして、ゆっくりと顔を上げた。


「でも」


「ミラベルがあの場所で、あれほど強い魔力を出したことも」


「ゴーレムが彼女の前で反応したことも」


「全部、偶然とは思えない」


ノアの目が細くなる。


「……ミラベルは、何者なんだ」


誰も答えられない。


魔導車の車輪が、一定の音を刻んでいく。


ガタン。


ガタン。


窓の外では。


旧魔法研究所が、もう見えなくなっていた。


けれど。


四人の胸には――


あの場所で置いてきた少女の姿が。


消えずに残っていた。


そして。


セレスの手の中には。


まだ、古びた日記があった。


――アウレリア。


その名前だけが。


静かに、四人の間に残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。