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第八章

レイワマンションの新規ご契約ありがとうございます?~第八章




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Scene. 29  それぞれの行方


真っ白なリニアのホームはひっそりと静まり返っている。

佇む3人のそれぞれにこれまでの動揺がうごめいている。

遠く先から光が見えると図ったようにリニアが到着する。

静かにハッチが開く。

3人は乗り込む。


行き先など分からぬまま、それぞれが席に着く。

ハッチは静かに閉まった。

リニアが音も無く走り出す。



「やぁ、皆さんお揃いで!」

3人の席の後方から聞き覚えのある声。

それは豊島のものだった。

どうしたわけだろう、豊島の奴。

サトルに先ほどの怒りがにわかにこみ上げる。



「豊島さん、これってどういう事?俺達の口座から勝手に大金を引き出すわ、そしてまたどこかへ連れて行こうというのかい?何故に?」


「口座?何のことやら・・・」


「とぼけるな!ヤソキチとグルになって俺達からボッタくったくせに。」


「ええと、何かの間違えかと・・・それにヤソキチさんからさっき連絡があって・・・」


「は?ヤソキチが?それで?」


「ですから、緊急の用事とのことで・・・とりあえずリニアでレイワマンションに向かって、あなた方と合流し、リニアでこちらに来るようにとのことです。」


「こちらって?」


「それが、既に行き先はリニアに設定してあるとのことで。」


豊島の話を聞くとサトルは黙り込む。

そしてリニアの表示盤の軌跡を伺う。

通常の渋谷行きの表示は無く、空白の部分へと軌跡が伸びてゆく。

サトルに嫌な予感が浮かぶ。


続いて夏子が苛立った態度で豊島に詰め寄る。


「だいたい豊島さんってどんな仕事なさってるの?ヤソキチさんとグルになって私達を困らせてどうする気よ!もしかして詐欺師?」


「いいえ、列記とした商社マンですよ。詐欺師なんかじゃありません!」


「じゃ何を売っているのよ。」


「宇宙開発関連の物資調達について担当しています。それ以上は国家プロジェクトに関わるので申し上げることは出来ません。」


「何よ!適当なこと言って私達を騙そうとしてるんでしょ。」


「そんな・・・」


豊島が夏子の気迫に押されて黙り込む。

事の成り行きに不安なエミが口を開く。


「サトル、そういえば「姫百合島」へ言ったときにヤソキチさんも国家プロジェクトに絡んでいると言ってたわね。そして豊島さんも・・・これって偶然なのかしら?そもそもこの「レイワマンション」の住民の選択もヤソキチさんが独断しているようだし、私達にも関係あるのかしら・・・不思議ね。」


リニアは更に空白の先へと軌跡を伸ばして行く。

4人の運命はその一点に託されたままに。

サトルが呟く。


「ああ、確かに。しかし僕らはあまり関係は薄いだろう。それにしてもヤソキチって何者?レイワ信託銀行にも絡んでいるし、政界にも。もともと大地主の家系とは言っていたが・・・ところで夏子さんは小説家と申していましたが、どんな小説を?」


「え、ええ。SFを少々・・・」


「え、エスエフ?ニアワネェ~」


「あらまぁ、何よそれっ!失礼ね。宇宙物理学を専攻して博士号も持っているのよ、こう見えても。だから私の作品はSFといえども実態に即しているからリアルに忠実なの。」


「へぇ~それはそれは。ということは・・・繋がった!」


「何がよ?」


「だから、豊島さんも宇宙関連で、国家プロジェクトの本当の目的は宇宙計画を見据えた未来型社会の構築を睨んで同時進行で進めていたんじゃないかと。」


「あらま、オーバーね。もっとも私の知見でもそちらの方向性は以前から行われていたのは確か。でもまだ火星にも人類は辿りついていないのだから無理よ。何百年かはかかる筈よ!」


と、何かを思い出したようにエミが飛び上がった!


「そうよ、このリニア、「次元移転装置」が着いているって言ってたじゃない、ヤソキチさんが。よく判らないけどそれって次元を移転することが可能ってことじゃない?」


一同に沈黙が訪れる。そして想いをめぐらす。

暫くして夏子が口火を切る。


「それにしても今回私達の目的は「レミママ探し」よね。それとどんな関係が?」


リニアの軌跡が尚も伸び続けている。一同は事の成り行きを見守る。



どのくらい時間が流れただろう、何やら席の後ろのほうでポリポリと音がし始める。

一同は聞き耳を立てる。どうやら豊島の席の辺りからその音が響いている。

不意にサトルが立ち上がるや様子を伺う。


「豊島さん、一体何を?」


「え、何でもない。」


「何か隠してやしないか?」


「べ、別に・・・」


不審に思ったサトルが豊島の席に向かう。

すると慌てたように豊島は鞄の中へ何かを隠す。


「それって、もしや?」


豊島は何やらモグモグと口を動かしている。


「チ、チップスターですよね?」


「あ、ばれたか・・・」


「ずるいよ、時分ばっかり!」


「わ、わかったよう、はいこれ。」


サトルは手渡されたチップスターを持って席に着く。

豊島はもう一箱もっていた。準備のいい奴。

クスクス笑いながら皆に分けると、いっせいにポリポリとやる。

リニアの中に香りが充満してゆく・・・



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Scene. 30  LIKE A ON THE RAIL


チップスターに小腹が満ちた一同は未だ見知らぬ行く宛てに漂う中で眠りにつく。

時は無常にも流れて行く。


目的さへも見失ったように、まるで銀河を漂う宇宙船の如く景色も見えぬリニアの中で夢の世界へと誘われていった。



どれくらいの時が流れたであろう、サトルが気がつくとリニアが速度を落とし始めるような気がした。

掲示板の軌跡が止まるや、画面表示が消える。

やがてハッチは開かれて行く。



ハッチの外には真っ暗闇が広がっている。

何やら鈴虫が鳴いている声がする。

確か以前も同じような光景が広がっていたような・・・

一同はハッチから踏み出すと、そこには真っ暗闇の大地が広がっていた。

夜空に星星が輝き、ただ鈴虫がさえずって鳴り止まないでいる。

4人は草原の草むらにたたずむ。



そこへやはり以前同様にと、遠くから何やら光る点がこちらに向かってくるのが見える。右へ左にと揺らめきながら近づいてくる。自転車に乗っている姿が月明かりに照らされる。

徐々に姿が確認できる距離になる。


やはりこの前と同じシーンとなる。

サトルは、まるで時間を巻き戻されたような錯覚に陥る。

豊島とエミも同様だが、夏子は不安な様子を隠せないまま。

自転車の主は原田女史だった。先日同様に。



「あらら、又戻ってきちゃったのね。事情は父から聞いております。」


「と、申しますと?」


「この時間に皆さんがこちらへ参られると。父と母は既に家におります。」


姫百合島に到着した一同はキツネにつままれた様子で原田女史に先導されて行く。

無言のまま、大空にはただ星星が輝いていることに宇宙を感じる。



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~



コンシェルジュ☆ヤソキチ夫婦は既に女史の居間で何事も無かったかのようにくつろいでいた。僕らの心配も他所に、そしてレミママの失踪のことも忘れたかのように!


「それにしても一体これはどういうことですか!まったく。」


サトルはついに怒りをあらわにする。

ヤソキチは一同を居間のソファに座らせると話し始める。


「君達が此処に来るまで黙っていたのは申し訳なかったが、これには深い事情があってね。」


「何言ってるんですか、寄りにもよってあなた方も失踪して、挙句の果てに僕らまでこんな遠くに連れてきてしまうなんて!なんて身勝手な。」


「君達の気持ちは十分承知しているが、これはね、君達の運命に大きく関係することなんだ。そう、そのための相談をするためにこちらにお呼びしたのだよ。」


「そもそも皆マンションの住民だからあそこで話せば良いだけじゃないですか!」


「それが・・・まずいのだよ。あそこでは。実はレミママとは懇意の仲で、別に神さんにやましい事など神に誓って無いのだが。信じる信じないは君達のご想像にお任せするとして・・・

実はある内通者があのマンションに潜んでいることが知らされたんだよ。政府機関の情報筋からね。それによるとどうやらあのレミママがその役目を担っているようなんだよ。そして今回のレミママの失踪が決定打となった。

既にマンションじゅうに盗聴器が張り巡らされており、住人の情報が漏れていたようだ。もちろんあそこでこれから話す内容を聞かれてしまえば拡散は防げない。既に君達のスマホにはマンションのアプリが入っているからこちらからリモートすることは容易い。居場所は常に私から把握できている。

しかしレミママのそれは昨夜から履歴が途絶えていたのだ。そして今朝、忽然とレミママの住みかが消えた訳さ。」


一同がヤソキチの話に聞き入る。沈黙の中、女史がアールグレイを各々に注ぐ。


「実はレミママは国外の諜報機関から国家プロジェクトの内容を盗むために派遣されたスパイだったのさ。そしてレミママの別れた彼氏がそのリーダー格であって、つい先日偶然にもレミママの店で会っているところを目撃したのだよ。はじめは信じがたかったのだが。そして私は不信に思い政府機関に調査を依頼したところ、スパイ活動が浮き彫りとなったのさ。そう、情報は筒抜けだったのだ!」


聞き入っていた豊島が詰め寄る。


「しかし、何をスパイ活動していたのでしょうか?私達をスパイしてどうしようというのですか・・・」


「それなのだが・・・先ず私が国家プロジェクトに関わっている事は君達も既にご存知だね。そしてあのレイワマンションが最先端技術の塊であることも。もっともそれはある国家プロジェクトのための実験場としての機能なのだが。その中でも特に重要な部分はリニアに移植してあるハイテク機構、そう、「次元移転装置」なのさ。」


唐突にエミが先ほどのリニアでの様子と動揺に飛び上がる。


「やっぱり!ということは・・・もしかして次元を移転することが可能なんですか?」


「ああ、これはこれは。お察しが宜しいようで私もビックリです。エミさん、やはり血は争えませんね。」


「それってどういう意味ですか?」


「ええ、話はここからが重要なのですが、あなた方を我がプロジェクトのメンバー、もとい、あのマンションの住民として選ばせていただいたのは、ある必然からなのです。皆さん、覚悟して聞いて下さい。いいですか?」


一同が呼吸を止めたかのように静まり返る。


「では、お話しましょう。私達が今いる場所、「姫百合島」ですが・・・ここに来るためにはある特殊な手法が必要でありまして。それというのもその「次元移転装置」が無ければ可能とはならない場所なのです。そしてこの装置は名前の通り次元を移転することが可能であるのです。この技術は豊島さんの商社の顧客である宇宙関連企業が発明したものであり、リニアと同時進行で完成に至りました。もっともリニアの体裁をしておりますが、ある意味未来型宇宙船として誕生しました。それもこれも全て国家プロジェクトとして地球の将来の人口爆発及び食料・環境要因の危惧から世界的プロジェクトとしての実験環境の模索から始まったのがこの技術開発の目的となっていたのです。

ちょっと話は飛びましたがあなた方を人選したその必然性というのも、その未来像に適した経験知を有していることに基づいています。夏子さんの描く小説の中の未来像がまさにそれに等しいのであり、豊島さんが経験されている宇宙関連の情報、そして我が娘に託した自然由来的な「ビオトープ構想」、そして娘の亭主原田の次元移転装置開発、全てが国家プロジェクトのための必須条件となっているのです。そして・・・エミさんは・・・血筋です。」


一同がポカリと大きな口を広げて驚愕する。

エミは怪訝な表情を拭い去れずにいる。


「エミさん・・・あなたのお父さん、宇宙飛行士ですよね。そう、実を申しますと世界的に内密にしていた火星プロジェクトは既にとうの昔に達成していたのです。そして調べつくされていて、そして情報は操作されていったのです。

皆さんの動揺は無理もありません。人類は月への到達が有人で唯一可能となっている星との情報になっているのは常識化されています。中々理解してはいただけないでしょうが、当然です。


歴史はウソの塊だからです。それは現代人の歴史においてあまりにも唐突であり、人々がこのことを知った暁にはパニックが起こるのは必至であります。順序だてて説明しますと、遥かエジプトの時代に月面には既に到達しており、その文明は滅んでしまっていたのです。そして月面にプラントが完成し人類の生活が始まった。一部の優秀な選ばれた人々のみで。そしてそれ以外の地球人が愚かな争いの暁に文明が淘汰されてしまったのです。」


夏子女史は事の成り行きに頷くばかりだった。というのも彼女の作品の中で展開されている内容そのものであったから。彼女は既にエジプト古文書から解読された極秘事項を入手したことで、それを元に作品を展開していたのであった。

それを知らぬ一同には緊張が走っている。

ただ違うのはコンシェルジュ☆ヤソキチ家族のみである。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Scene. 30  ON THE EARTH ?


夜も更ける中、ヤソキチの話は続く。


「夏子さん、そう、あなたは既に気付いていますね。

人類滅亡後、再び人類が地球上に存在できたのは実は月にいた人類が戻ってきたことに始まっているのです。

そのエジプトの古文書にある内容は既に国際宇宙局によって封印されています。全ては時が来るまで人類が知ることによるパニックを防ぐためなのです。

ところが宇宙局の内通者からある国にその情報が流れたことで反社会的機関が誕生し、資源の利権争いの勃発のために他の惑星へ侵攻しようと画策したことで事態は急変していった。そして我が国が宇宙技術の最先端となったことでスパイが送り込まれたのです。

月面飛行は既知のことですが反社会的機関から技術内容をカモフラージュするため、火星到達は宇宙局によって内密に伏せられていました。しかしまたしてもその情報が漏れてしまったことで、とうとう我が国のプロジェクト案件であるレイワマンションまでスパイ活動が及んでしまったのです。そして・・・エミさん、あなたのお父さんが人類初の火星パイロットになったのです!」


それを聞いたエミは年甲斐も無くカタカタと震えだす。

無理もない。エミにとっても実の父親からもこの話は伝わっていなかったのだから。

夏子は平然とヤソキチの話を聞いていた。そして今までに見たことの無い形相でヤソキチを睨むや、静かに呟き始める。


「ヤソキチさん、気は済んだかしら?アナタって人は昔から何にも変わってはいない。そもそもこの話、私の小説の内容そのままじゃないの。ウソよこんな絵空事!あなたもとんだ役者よね、だいたい可笑しいじゃないの。ちゃんと人選していた筈なのに、なんで30年前からいたレミママが今頃になってスパイになったのよ!そもそもレミママとあなたの関係をうまく言いくるめるために私のSFを持ち出すなんて酷い人よね。そしてレミママをどこかへ高飛びさせたのはアナタがやったんじゃないかしら?よりにもよってエミちゃんのお父さんまで持ち出して火星パイロットなんかにしちゃって。あなたの頭の中って私の小説よりもSFよね。ああ、呆れた!」


それを聞くやヤソキチが目を丸くする。

ヤソキチの妻が怪訝な様子でヤソキチの顔を覗き込む。

と、黙っていた豊島が遮るように口火を切る。


「夏子さん、アナタが一番ご存知ですよね、この話。あなたがそもそもエジプトの古文書の内容をどうやってご存知になったので?これは国際宇宙局によって封印されていた筈で、そしてそれを知るのは関係者か、或いはある国の反社会的機関でしかない筈。アナタこそレミママと旧知の仲であり、そしてレミママとグルでスパイ活動に加担していたんじゃないかな?」


「何よ、この詐欺師が!そもそもエミちゃんとこと私の口座からボッタくろうと画策したのはアナタじゃないの?ヤソキチとグルになっちゃって、あなたこそスパイよ!」


状況はもはや修羅場と化した。

そしてサトルにもジットリと冷や汗が流れる。


と、先ほどまで矍鑠としていたヤソキチの表情が虚ろになってゆく。

まるで宇宙人のように・・・




「レ・レ・レ、レミちゅわんぅ~ムゥゥ・・・」







~ To Be Continued ! ~



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