第五章
レイワマンションの新規ご契約ありがとうございます?~第五章
作: 大丈生夫 (ダイジョウイクオ)
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Scene. 19 それぞれのストラーダ
「復讐」?
この原田女史の言葉の重みを誰もが勝手な想像の中で解釈しようとしていた。
それには大分時間がかかりそうだった。およそ一昼夜は・・・
暫くして、今は頼りなきコンシェルジュ☆ヤソキチが切り出す。
「次元移転装置」についての技師の意向はどのようなものだったのでしょうか?ここ「姫百合島」への熱い想い、人々の昔ながらの、そう、いまどきの言葉を借りれば「ビオトープ」のようなもの。いわゆる理想郷のようなもの。年代によって微妙に解釈は異なるものだろうが、ここで繰り広げられているのは、純粋に懐古主義的なものなのだろう。しかし知識層には様々な思惑があろう。もしかしたら、この理想的に5年の間に構築された島を、あくまで推論だよ、自然由来の物質で構成し化学合成的な近代を構築し、私利私欲的な、もとい、独占的社会、もとい、独立国という名の独裁国を築こうとしている輩がいても不思議は無い・・・あくまで私の推測だが。」
この話を聞き入っていた原田女史がようやく口を開く。
「ヤソキチさん、5年もの間、私達の苦労についてご存じないから使用が無いけれども、貴方って人は何にも変わっていないのね!もうお歳だから固くなった頭は変わらないのでしょうが・・・それもあって、私からエスケープしたのかも知れないわね・・・ただ、私が苦労したこの5年間、そう、どちらかと言えば私のほうが変わってしまったのでしょうね。」
そして一同の前で、事もあろうか女史は泣き出してしまう。
「ああ、そうよ!そもそもあんたが迎えに来てくれなかったからいけないのよ!この悪党コンシェルジュめが!人をぞんざいにして、挙句にこんな別世界に葬り去ったのだからね、これ以上私が暴露してもいいこと?」
その様子に一同が動揺する。殊更同様の度合いが高いのは老コンシェルジュのようだ。
「ああ、ゴメンな。お前の気持ちは痛いほどわかる・・・だがな、運命と言うのはなんとも説明しがたいもの。お前が考えているほど単純なものではないのだよ。解っているか知らないがね。私が日々精進して築いた「レイワマンション」をビオトープとして構築したかったのは君も良く知っているだろう。しかし結果論にはなるのだが、きみにとっては永き5年間であったとは思うが、僕の構想よりも遥かに速い速度で、もしかしたら君のほうが先手を打ったのだからね!私は君を、ある意味嫉妬するよ!」
一同は二人のやり取りを見守ることしか出来なかった。
二人の会話の意味の一握りさへも理解することは出来ぬままに・・・
そして沈黙が始まる。二人の複雑な表情には5年の月日が走馬灯のように流れる。
「で、これからどうしましょうか?」豊島が切り出す。
そして不安ながらもエミから、あるアイディアが繰り出す。
「皆さん、此処に来たのも何かのご縁かと思いませんか?中々一生の人生の中で味わえな
いひと時を、今、私達は共有しているのではないでしょうか?」
唐突なエミの意見にサトルも同調する。
「そうかもしれないね。僕も実のところ流されるままにここまで職も無く、尚且つ人生設計どころか、単にやりたいことすら見つけられずに若い大事な時間を費やしているのですが、今、このような状況に置かれたことによって、新しい「何か」を見つけられそうな気がして、何かふつふつと希望が膨らんでくる気がします・・・具体的には申し上げられませんが。」
と、話の行く末を涙ぐんだまま見据えていた原田女史が重い口を開く。
何故かヤソキチをじっと見据えて・・・
「お父さん、もういいわよね。皆んなにブッケチャっても・・・」
まるで心臓でも止まってしまったようなヤソキチがそこに居る。
「だから言ってるじゃないの、お父さん。昔からあなたは身勝手すぎるのよ!家族っていう感覚が大分薄いのよね・・・お母さんも相当苦労していることも気付かずに。」
一同は女史の言葉にハッとする。お父さんって・・・
「お父さんの魂胆など、端から私には解っているのよ・・・でもねお父さん。私を貴方の色に染めるのは金輪際止めてくれない?貴方の気持ちも痛いほどわかるからこれまで切り出せなかったけど。そのせいでお母さんだって不幸の連続だったと思う。
今日は私の見方が多いから大船に乗った気持ちで切り出すことが出来るけど。少しは私の話も聞いてよ!
先ず、貴方の魂胆はその、いわゆる貴方の頭の中に描いた理想卿、そう「ビオトープ構想」が発端だと考えるの。少しの誤解はあるかもしれないけど。
私の進路が決まらなかったときに、ここぞとばかりに貴方が少年時代から描いていた空想を植えつけるべく、私を英才教育でもするかのように、自分の将来的展望を一人娘に教育しようとしたのかもしれない・・・
そしてこの5年間の月日で私を育てたつもりでしょうけど。
ある意味それは成功したかもしれない。
次にこの構想には莫大な費用を捻出する必要性に気付いたのよ。そこで貴方がとった行動は、あらゆる手段においてこの地に知識人を送り込み、一人娘のための家庭教師の如くここに研究機関を据えたのよ。そして極めつけは、資金作りの一環としてマンション住民の中でも特に金銭的に裕福だとリサーチの結果引っかかったこちらの「豊島さん」を私の伴侶に据えようと、今日このときに誘い込んだ次第なのよ。
ま、私の勝手な想像ね。どう、この話?」
娘のその眼差しにギョッとしたヤソキチは、目を丸くする。
その話に同様を隠せない豊島も、女史の言動に固唾をのむ。
暫く固まっていたヤソキチが、やっとのことでか細い声で呟き始める。
「嗚呼、私としたことが・・・たったの5年間で娘を此処まで変貌させてしまった。もういいだろう、では、種明かしをしよう・・・実は、私のこの構想の発端は、私の妻、そう、この娘の母親の心情から始まったものでもあるのだよ。」
サトルは、もう冷めてしまったアールグレイをゴクリとやる。エミはその様子を縋るように見つめるのみ。
ヤソキチは続ける~
「あれは8年前。大学院を無事卒業したものの、将来展望なきまま、ただ世の移り変わりを孤独に見つめていた娘、そして娘は引き篭っていった・・・
それを危惧した妻が出した提案から始まったのは間違いなかろう・・・私といえば、今までの先祖の残した遺産ともいえるこのマンションのシェルター計画を引き継いで、国家プロジェクトの拠点として将来的にも成り立たせることに躍起に成っていた頃であり、そしてそれを娘の代に引き継ぐべく、具体的な構想に着手する方向でしか頭が回らなかった。
まるで私のエゴの産物に他ならないだろう。何も娘の心情や、妻の本心を聞き入れるだけの余裕などこれっぽちもなかったことは認めよう。だがね、悪いことだとはこれっぽちも、そう、今このときも思っては居ない。先ほどの娘の話も間違いではない。そう、そのものなのだから・・・勝手ながら豊島君、悪いが今後も君を利用させてもらうつもりだ。」
そのヤソキチの言葉にムッとした様な豊島。しかし反論はしなかった。
そしてずっと黙っていた豊島から、誰もが想像もしなかった言葉がはじき出される。
「いいよ、僕の方は。そうだねぇ今の話。乗ってみても悪くないかもね。だけど娘さんは何で「原田女史」と呼ばれているんだい?まさか既婚者じゃあないだろうね?」
鋭い商社マンのその謎解きにも似た言葉にヤソキチは苦虫をつぶしたような表情となる。
「嗚呼、私は何てバカなんだ・・・こんな簡単な搾取は直ぐにばれてしまうものさ・・・実はね、娘の将来を危惧したことの主な要因は、そう、貴方の言う「原田」という娘の初婚の亭主に問題があることが要因になっているのだよ。原田が娘の人生を潰したと言っても過言では無かろう・・・。原田は私が政界に籍を置いていたころの秘書なのだよ。そいつは若い頃から優秀敏腕で、私も高く評価していたものだ・・・貧しい育ちであった彼だが、その仕事ぶりと勤勉さが私の娘にとって理想的な人物に映ったのさ。そして娘の卒業を機に結婚する運びとなったのさ。しかし・・・原田の魂胆は私の理想郷の想像を受け継ぐどころか、私の途方も無い財産のことばかりに眼が眩んでいたせいで私を凌駕することを標榜し、事あるごとに資産をせびってきたのだ。わからんでもないがあまりに執拗であるため、私の眼の黒いうちは渡せぬと言い放ったが、それは変わらなかった・・・そして妻がその状況を危惧して娘を此処に匿ったというのが、今思えば本心かもしれない・・・」
話が混沌としてきたことによってエミはソファに寝そべってしまっていた。
疲れきったエミを抱きかかえると、サトルは涙を拭った女史の案内で寝室へと運んでいった。
ヤソキチの話は続く。
「そこで申し訳ないのだが、豊島君。全てを君に話したこの状況下で恐縮ではあるが、娘を見初めてくれはしないかい?」
唐突なヤソキチの要求にギョッとした豊島は言葉を失いながら眼を見開く。
そして、あまりの動揺に変な行動に出始める豊島。
カバンの外ポケットに隠しておいたチップスターの蓋を開けて食べ始めてしまった。もう一個持っていたなんて・・・
「ポリポリ・・・え、ヤソキチさん。それって僕に不倫しろって意味ですか?」
「ああ、そうじゃが・・・」
「なるほど!ってか、あんた本当にそれでも親なのか?」
「いや、そう問われると・・・自信は無いのじゃ!」
「え、それってどういう意味?」
「もしかしたら、ワシの愛人かもねぇ・・・記憶が虚ろで・・・」
「うっそぅ?今までの話と違うし。」
「そうかもね。」
「ホント?」
「かもね。」
「え、カモメ?」
「カモメのジョナサン(笑)」
「それって・・・ご冗談を?」
「だといいが・・・私も近頃耄碌しておってね、自分の言葉にも自信は持てないのだよ・・・君ならどう思う?」
「どうって・・・どうもこうも?てか、奥さんは正妻?」
「なにを~この期に及んで、チミは!」
「ハッ、すんまそん。ただ、僕の辞書には「不倫が文化」と言う言葉は無くって、清廉潔白を通して生きて行きたいと思っている今日このごろでありまする!」
「何と!お主、さては武士か?」
「は、欧米か?」
「ああ、アッシは欧米じゃ。」
「変なコンシェルジュだよね、チミは。」
「はぁ、そのようで・・・って、何だと!」
「ハイッ、ゴメンナチャイナ!(笑)」
何とも緊迫していた展開が、二人の冗談交じりのやり取りでいくらかお茶が濁った。
しかし、先ほど女史の言った「復習」と言う言葉の意味に翻弄されたまま、一同に重い空気が淀んでいる。
暫くして原田女史がリビングに戻る。
「やれやれ、エミちゃんだけじゃなくって、サトルさんも寝てしまって。」
「そうかい、そりゃあ疲れが出たのだろう。そういうことなら再開祝いでも始めようかね!」
「は、再開祝いって?」
「何を言う、俺とお前のだよ!そして将来のだんなを交えて、なぁ豊島君!」
「えっ、そんなぁ・・・」
3人はことのなりゆきが曖昧のまま苦笑する。そして奇妙な宴が始まった・・・
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Scene. 20 姫百合島への熱い想い
女史が宴のために酒の支度をする。
VSOPをロックで皆に振舞う。
つまみはこの島で取れたイカの天ぷら。カラッと揚っていて実に旨い。
岩牡蠣も大皿にズラリと並ぶ。
堪能したところで本題に戻るように豊島が女史に質問攻めする。
まるでどこかの放送局のインタビュアーの如く。
「で、女史。貴方この島の暮らし、辛いのでは?」
「ええ、お父さんとお母さんの気持ちが解らなかったから・・・でもね、旦那が私にはかばってくれなかったので、生成していたのも事実よ。この島の自然が私を解き放ってくれたのは事実。そして昔からの住民の方々を優しくしてくださって。この大きな家も皆で手伝ってくれて完成したのよ。ここの助け合いながらの自給自足的なビオトープシステムも気に入っていたから。しかし、5年の期間は長いのも事実。徐々にここの理想社会と思えてきたものが崩れていったの。リニアで移住してくる人が増えてから、少しずつ生活習慣が変わっていった。新たなビオトープ構想を標榜する研究者連中によって大きな研究所が建ち並び、急速に近代化していった。そして新しい街が出来、物資も潤沢に揃うようになり、人々の欲望も膨らんで行った・・・やはり何処も一緒ね。人間が本来持ち合わせている欲望には逆らえないもの。便利さを求め、研究者達の中にも次第にエゴが芽生えて行く。それぞれのエゴは果てしなく、やがて選挙が開催された。そう、この「姫百合島」の支配者になろうという人物が現れたのよ。そして人口が研究機関に従事する人々の割合が勝っていたこともあり、選挙の結果、研究所の所長が事も無く当選した。ここの治外法権的な土壌を生かして「独立国」としての道のりを歩み始めたの。海外への貿易で蓄財した富裕層たちが新たな都市を構築し、豪邸が立ち並ぶ。やがてその様子に感化された住民達も研究機関に従事するようになり、己の欲望を金銭的なものへと変貌して言ったのよ。」
「都市って仰いましたが、そんなもの見当たりませんでしたが。」
「ええ、この島は貴方が想像するよりも非常に広大なのよ。一山越えた向こうには、もう昔の面影が無いほどの未来的な街並みが完成されているの。」
「しかし、貴方はそれには応じなかったと言うことですよね。」
「はい。私はそんなものにはこれっぽちも興味がありませんでしたからね。私は元々文科系の人間ですし、ここの昔からの生活習慣が気に入っていましたから。」
「ですが、あなたのお父さんがあの「レイワマンション」で構築しているシステムはまるで未来そのものだと思うのですが。」
「そうですね。でも私はそれも気に入らなかったの。あまりに時代が急速に進んでしまったことに私のほうが付いていけなかったのかもしれませんがね・・・」
「そして、「復讐」と仰っていましたが、どなたに?」
「ああ、それは物のたとえですのでお気になさらずに・・・咄嗟に申した次第で・・・」
何かを思い出したような仕草の女史はそう言うや、それっきり口を噤んだ。
豊島には何故か触れてはいけないものにぶち当たった様に感じられた。
やがて、ヤソキチがか細く呟くように語る。
「嗚呼、それもこれも私達のせいかもしれないね。そう、娘は私達に復讐の念を抱いているのだろう・・・娘はこの5年の間に相当な苦労をしたに違いない。全て私のエゴから始まったのに違いない・・・そして娘は私達に「復讐」するためこの地に呼び寄せたという算段さ。ああ、私はそれを否定などせず全て受け入れよう。そう、娘の気が済むまで・・・」
一同がしばし黙り込む。
豊島が女史にまた質問をし始める。
「しかし女史、あなたの「復讐」の鉾先は間違っては居ませんでしょうか?まず復讐すべきは貴方やヤソキチ夫婦を裏切った貴方の旦那さんでは?」
「ええ、そうかもしれませんね。しかし、私に何も相談もせずにこの「姫百合島」へと追いやるようにした父。そして音沙汰さえも無かったのですから私がこんなことを抱くのも無理も無いことではないでしょ?何が悪いのよ!」
「それもそうかも知れませんね。ですが、事の発端は旦那さんですし、この島の生活スタイルが変わったことも大きな要因ではないでしょうか?」
「ええ、確かに。しかし、その生活スタイルを変えてしまった研究者連中に移住を口添えしたのは何処のどちらサンだったのでしょうね、ねぇ、お父さん。」
ヤソキチが力なく話し始める。
「嗚呼、私としたことが・・・ああ、その通りかもしれない。だがね、私が彼らに移住を募ったのは、新しいビオトープ構想に従事してもらい、環境に良い未来生活のモデルとなり、牽いては各国に推進していくことを望んだことに他ならないのだ。そして我が娘にもそれを世界に発信してもらう第一人者になってほしいと希望していたのだよ。しかし計算が大きく狂ったようだね。人間とは如何に私利私欲的な生き物だと言うことがよく判ったよ。」
「だからお父さん、甘いのよ昔から。私に説明もしないで、いつも貴方のエゴが勝るから。」
「それもそうだね。全ては私のエゴの産物かもしれない。娘のためをと思って始めたのを良いことに、レイワマンションの中だけで完結すればよかったことをこの大地にまで展開しようと標榜したのは私なのかもしれない・・・」
「ええ、そうよ。貴方がこの島の「独裁者」になろうとしたのよ!そしてよりにもよってその全てのお株を研究者連中にパクられただけなのさ、いい気味よ!」
「で、女史。貴方の復讐の矛先は本当に貴方のお父さんに向けたものなのですか?そしてこの地に私達を呼び寄せた・・・ですが、復讐ならこんなに手の込んだことをしなくても良いと思うのですが。私達だって関係ないんだし、実に迷惑な話なのですよ。」
「あ~ら、ゴメンナサイ。ですが私もリサーチしていないほどバカではありません。」
「と、申しますと?」
「貴方だって普段の生活に飽き足らなかったのでは?そしてサトルさんやエミさんも。」
「ええ、否定はしませんが・・・だからって。」
「此処まで話が進んだんですから、そろそろ申しましょう。さぁもう一杯如何です?」
豊島とヤソキチは言われるがままにグラスを差し出す。
どうやら朝まで語りは続きそうだ。
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Scene. 21 奇妙な宴
壁にかかる古時計が夜中の二時になったことを告げる。
深まる夜の中3人のそれぞれの濃度が増して行く。
女史は続ける~
「では申しましょう。この5年間のときの移ろいに私は不安を感じていた。いつも。そして週末のミサや料理教室などで時間を潰す一方、研究者連中の裏切り行為へのある「復讐」を思いついたのよ。そう、すく週の矛先は連中に決まっているじゃあないの、ね、お父さん!」
ヤソキチは眼を丸くしポッカリと口を開ける。
豊島も新たな展開に興味津々。
「親子の絆なんて他人にはわからないほど強固なものなのよ、実際。私がこの5年もの月日を黙ってみているわけ無いじゃないの、バカじゃあるまいし!私はそこで、ある計画を思い立ったのよ。そしてミサで知り合った旧来の生活を好む住民達に声かけをして、研究機関内部に送り込んだのよ。まずは情報収集、そして仲間達を増やして行ったの。」
「それで?」
豊島が乗り出すように女史に詰め寄る。
「情報によると研究機関の所長である独裁者が各国の首脳陣に賄賂を渡していることが解ったの。そしてここに「クリーンエネルギー」という振れ込みで大規模な原子力発電所の設営を構想し、将来的にはここがそのイメージリーダーとして発信し、クリーンでエコな電力供給という偽りの名の下、各国にも設営を促そうとしていることを知った。そして地球上での黒幕としての独裁者となりうることも標榜していることを。」
「やや!」
と叫ぶや、ヤソキチは腰を抜かさんばかりにのけぞる。
豊島の両手におもわず力が入る。
「そこでね、研究機関の中枢をまとめているシンクタンクの権力者をこちら側へ導くことに成功したのよ。彼もそのことについては全く知らなかったのだけれども、研究機関の所長の標榜に気付くや、疑義を生じていたそうなの。そして意見が一致したことで事は着々と進行して行った。そして彼率いる反体制派を軸として内密に工作が行われ、ついに「次元移転装置」をようやく完成することに漕ぎ着けたのよ。そこで機が熟すのを伺ってあなた方を呼ぶ手はずを整えていった・・・そしてあなた方を呼んだのよ。そう、ようやくその日が明日に控えている!」
聞き入る二人はギョッとしたように打ちのめされた!
なんとこの女史が「復讐」する算段を綿密にもやってのけたのだから!
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Scene. 22 シンクタンク
女史は続ける。
「料理教室のね、長老とでも言うべき風土料理が得意な中根さんと言うおばちゃんが居てね、豚足と海鮮を使った煮込みが得意で、いつも皆さんに振舞っていたのよ。そのおばちゃんの何とご子息が、能力を買われてなんとそのシンクタンクの長に治まったのが事の発端なの。」
ヤソキチは何か思案にふけっている様子。
それをよそに女史の話しは続く。
「それから話がとんとん拍子に進み、ご子息のリサーチからどうもその原子力発電の将来研究の一環として「次元移転装置」の開発が別部門で展開していることを突き止めたのよ。そしてご子息自ら完成された「次元移転装置」の試運転の初期段階から立ち会って、リニアにおいて試験走行を展開するようにと指示したの。それによってのルートは権限を利用して「レイワマンション」までの道のりを提示し承諾された。まぁ日本の国家プロジェクトの一環に同調させる形を呈してね。詳細は私にはわかりませんが・・・そして「レイワマンション」のリニアに設置することが無事完了できた次第なの。」
黙々と女史の話を聞き入る二人。間もなく古時計は3時を指していった。
身をの乗り出して聞き入る二人。話は続く。
「でもね、それは知らずに噂話として何処からとも無く漏れていったの。不思議ね。そしてリニアの運行は始まったのだけれど、所長率いる上層部は怪訝な面持ちでご子息であるシンクタンクに妨害策を企ててきた。しかしとき既に遅し、こうして今日の皆さんの到着に間に合った次第なのよ。」
と、いきなり銃声のような音が轟く。閑静な女史の住宅地に!
女史が見る見る青ざめるのに豊島が気付く。
「さぁ、こっちこっち!」
突然形相を変えた女史ではあったが実に沈着冷静に戸外へと二人を案内する。
そして二発めの銃声が鳴るや否や、掃除にリビングのガラスが物凄い音で割れる。
廊下に出るやサトルたちも気付いた様子でこちらに駆け出してくる!
「さぁ、私の「要塞」が役立つときがいよいよやってきたわねつ!」
意味不明な言葉を口ずさみながら女史が廊下の先へと皆を率いる。
「さぁ、此処から先は暗いですから気をつけてください。」
そう告げると女史は廊下の突き当たりにある、何やら金庫の扉のような金属の両開きの扉を放ち始める。それは重々しく開放されて行く。
一同は暗く先の見えないその扉の内側へと入って行く。
そして女史は力いっぱいに占めると。ハンドルを回し扉を恰も潜水艦のハッチをロックするように閉めていった。
「こ、これは・・・どういう事?」
豊島は居てもたっても居られない様子で女史に話しかける。
女史は無言のまま、扉の内側に吊るされていた充電式のLEDランタンを照らしながら奥の階下へと皆を導く。ヤソキチも息を切らせながら必死について行く。
「さぁ、たどり着きました。」
そういうや女史はまたも突き当たりの堅牢な扉を開放する。
どうやらそこは地下ガレージの様子であった。
「さぁ、あれで行きましょう!」
そこには巨大な重量級の戦車のようなメガクルーザーが置かれていた。
「これは「次元移転装置」を利用して自衛隊から拝借してきた4駆よ。ご子息の顔で。」
ヤソキチは先ほどから腑に落ちない質問を娘に投げかける。
「おい、その後子息ってもしや。」
「お父さん、ご名答!何れ皆さんにも紹介するわ。」
「お前って奴は・・・やや、さすが我が娘!皆、大船に乗ったつもりで娘に命を任せ賜え!」
そういうや、女史の乗った運転席の脇に腰を下ろすヤソキチ。
一体全体どうなっているのか?怪訝な面持ちを引きずったままのサトルとエミ。そして無我夢中で良いも冷めた様子の豊島が乗り込む。
「それではいざ出発!ま、飲酒運転なので少々乱暴にはなりますが、ご愛嬌ね!」
急発進をかました巨体のメガクルーザーがガレージのシャッターを派手に蹴散らしながら暗闇へと突進する。どうやら女史はこの5年で運転の腕前を上げたらしく、地の利も把握している様子で軽やかにその重い車体を突進させる。
ミラー越しに先ほど攻撃をかましてきた誰とも知らぬ敵の車両らしいヘッドランプの群れが追ってくるのに一同の動揺が高鳴る。
老齢のヤソキチには振動も手伝って心身ともに応えるのだが・・・
一時間くらい彷徨ったであろうか、どうやら相手側の車列を巻いたようだ。もうミラーには何も写ってはいない。
その後、「姫百合駐屯地」と書かれた門柱をメガクルーザーは通過し、守衛所に停車する。
この島のいわば自衛隊駐屯地のようなものであろうか。
「良くご無事で、原田様。状況は逐次把握いたしております。」
守衛の誘導で難なくゲートを通過した。
幾台もの車両が駐車してあるエリアにメガクルーザーを停車し、さらに案内されるまま屋内へと入っていく一同。
入り口からエレベーターで建物最上階に到着。そそくさとある一室へと案内される。
そこでヤソキチガ目撃したのは・・・
「ご心配しましたが皆さんご無事で安心しました。ヤソキチさん、お久しぶりです!」
その快活な様子はいつかの青年時代を髣髴させる。ヤソキチの目に。
「おお、そうだったのか・・・やはり。」
「はい、その節は色々とご迷惑をおかけしました。さぁ長い話は置いといて・・・」
一同を奥のソファへと案内するその人こそ、女史の旦那でありシンクタンク長の原田であった。
「皆さん、遠いところから私達の壮大な計画のためにこの地においでくださり、誠にありがとう御座います。昨今は私の立場も何かと情報が漏洩しやすい現状であるため、このように十分なコンセンサスも無いままお呼びする形となったこと、申し訳なく存じます。しかし、事は急を要していたのであります。この島、もとい独立国としての第一歩である「原子力発電所開発」の海外運用の一環の手始めである第一便の出航が明日に控えていた状況下にありますのでご了承いただきたく存じます。この計画立案は私がちょうど結婚する際に既に国家プロジェクト関係者から何かにつけ聞かされていた事案でありました。ヤソキチさんの計画とは異系列で進行していた事案でありましたので耳に入れる機械はありませんでしたが、そんな業務にかまけていたために終に家庭を顧みる余裕さえ失っていたことも事実であります。そんな中、ヤソキチさんのご支持でこちらの研究機関に出向することとなり、今日に至った次第であります!」
ヤソキチは何か涙ぐむように黙って頷いていた。
原田の話を遮る形で女史が話し始める。
「これは全て偶然の仕業なのよ。運命って残酷ね。私の嫌っていたその頃の旦那が、事もあろうかこの地の研究機関に配属されていた、大事なシンクタンク業務を取り仕切っていたことは私にも驚きでした・・・父のせめてもの娘への護衛としての策略だったかどうかは今更どうでも良いのですが、結果として再び私達が会う機会が与えられたのは間違い御座いません。私も中根おばちゃんからご子息のことを聞いているうちに、まさかとは思っていたのです。そして「中根」という苗字は旦那のお母さんの旧姓にも当たります。そう、諸事情でお母さんは離婚されていたのです。そしてその事情を聞いていくにあたり、私は確信したのです。ご子息が原田だということを・・・」
ヤソキチは感慨にふけっていると、原田シンクタンク局長が話し始める。
「ヤソキチさんにも国家プロジェクトの詳細には耳に入れていませんでした。それというのも何時如何なる状況において情報が漏洩するかもしれないため、それを恐れて黙っているしか御座いませんでした、誠に請謁ながら・・・」
「いいんだよ、原田君。これまでのことは全て水に流そうではないか。そして渡したい家族の抱えていたその疑義でさえ、今や海の藻屑と消えうせたのに相違無いのだから!」
「あ、有難きお言葉、感謝します!」
「それより今日まで娘を庇ってくれてありがとう!私こそ礼を言うよ。」
豊島が事の状況を把握した中で冷静にも話を本題に戻そうと取り掛かる。
「そして、今日決着が着くとのお話でしたが、どのような手配が完了しているので?」
と、原田の机上にある旧式のダイヤル電話がけたたましく鳴り出す。
「ああ、私だ。ナニィ、道添所長が此処に到着したというのか・・・どこから情報を嗅ぎつけたと言うのだ・・・ま、話は早いかな。」
原田は道添所長、そうこの「姫百合島」を独占し世界を揺るがそうと画策した張本人であるその所長本人がハイヤーで到着したことを皆に告げる。
暫く無言のままの一同。そして扉が開かれていった。
「おお、これはこれは皆さんお揃いで。いやね、原田君。私の耳に妙なウワサが飛び込んできたもんだからつい気になってここに参上した次第なのだよ。話はこうだ。私がこの国を占拠し、原発開発のモデルを世界に提案して牛耳ろうと画策しているという話なのだが・・・どうも話が唐突過ぎてね。そこで君から事の次第を直接伺おうと思ってね。」
道添所長の背後にはSPが何人も護衛している。その様子は通常の警備とは異なり厳重に過ぎる。それで原田はある決意を固める。
「いやあ、所長殿。丁度良いところにお越しくださりました。それにしましても厳重すぎはしませんか、警備体制が。まさか私を封じ込めようとでも為さるおつもりで?」
「おお、これは察しが良いことですね、さすがシンクタンク長ともなると情報網や察しは一流ですね。御尤も。私は貴方の不穏な行動に辟易としていたのは事実。だが時期が来るまで泳がしていたのですぞ、なぁ、警視総監。」
こともあろうか警視総監が護衛の背後から現れてことに原田に動揺が走る。
「今は私にとって大事な貿易が始まる大事な時期だというのに、君はこの事態で私の画策を妨害しようと企んだのだからね。だから貴方を「国家反逆罪」に適用し、収監してもらうためにこちら警視総監直々においで願ったのだよ。」
原田の額にいやな汗が滲む。
「警視総監、話が違うじゃないですか・・・あなたは私の陣営に付いてくれるのではなかったのですか?」
「ああ、最初はね。君の言う事を信じていたのだが・・だがね、所長のほうから大枚の賄賂をいただける事にどうも欲が勝ってしまったようなのです・・・さぁ、皆連れてけ!」
「そんなぁ~」
誰もが事の成り行きを疑った。やはりだめな国家というものは末端まで買収されているのだろうとヤソキチも身を挺して気付かずにはいられなかった。この歳にして・・・
そして戸外へ出ると既に警察車両が到着していた。しかも先ほど追いすがってきた女史の家を襲った連中の車両までも・・・皆グルだったのか。
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Scene. 23 家族の肖像
一同が警視庁に到着する頃、辺りは夜明けの白みかかった空を大地に広げていった。
その光景が妙に美しく目に焼きつく。
そして一同は仲良く収監されていった。
同じ鉄格子の房にこれからの暮らしも浮かばない面々がそこに集う。
時の流れも理不尽に、唯空しくも空虚な時間だけが刻まれていった。
「お父さん、こんなことになってゴメンね。」
「ええ、私も人が信じられなくなってしまいましたよ、ヤソキチさん。貴方のお気持ちが解るような気がします。私があなた方家族を裏切り続けたのでしょう・・・そして終にこんな羽目に嵌ってしまうなんて。」
「いいや、いいんだよ。私だってこの状況は好ましいものとは思ってはいないのだが、唯一ついえることは、原田も娘も、そして此処にいらっしゃる何方も私のことを裏切ってなんか居やしないということさ。全て時が解決するさ!」
「いいえ、お父さん。少なくとも私だけは貴方を一つだけ裏切っているのですが・・・それは。」
「ダメよ、そんなこと言っては、もしや私が裏切っているのかもしれないのだから。」
と、そこへ一人の看守がやってくる。朝食の支度をワゴンに載せた一陣を連ねて。それにしても囚人になんとも豪華な一陣で登場したものだ。
そして看守は手に持っていた鍵の束から一つを見つけると檻の扉を開く。
檻の中にテーブルを据えつけるや両氏の皿を載せて行く。ホテルとあまり変わらぬ様子のモーニングに一同は違和感を覚える。
一先ず食卓に就くと一同は食事を始める。ことのほか美味しいのに驚く。
看守からある言葉が告げられる。
「これらは警視総監殿からの差し入れであります。総監殿によりますと、せめてもの選別だということにあります。存分に味わってくれと申しております。」
可笑しなことをいう看守に見とれている一同。と、その傍らに一人の影が近づいてくるのに気付く。そして警視総監が現れた。
「いやぁ、」皆楽しんでいるかい?どうだね、中々美味しいだろう!」
その言葉に尚も立腹したように原田が怒鳴りつける。
「この、買収野朗が、私と交わした密約ではあいつをあの場所で捕らえる筈ではなかったのか?寄りにもよってその約束を裏切るばかりか私達のほうを収監しやがって!」
「まぁ、そう焦りなさんな。実はね、これも私の一つの策略なのだよ。所長が武装集団の陣営を率いて駐屯地に来ることは予測がついていたのさ。そこで君達に危害が加えられないように私が指示しここに収監させていただいた次第なのだよ。別に裏切ってなんかいやしない。それどころか事は順調に進み、既に駐屯地の裏方に控えていた軍隊によって身柄の確保を無事やってのけた次第さ。これにて一件落着!その料理は全てホテルシェフに依頼した出前だぞ、ご祝儀と思って堪能してくれたまえ!ハハッ!」
何とも人の悪い警視総監の様子に皆が呆れ顔となった。
そして一同は無事女史の家に退散することとなった。
「やれやれ、大層な島じゃないか、全く!」
やっとのことで緊張のほぐれた豊島の口から悪態が飛び出す。
「それでも非日常が味わえただけでも良かったではないのでしょうか。」
サトルも肩の荷が下りたように話し始める。
ヤソキチの顔にも笑みが浮かぶ。
「オイ娘よ、それでこれからどうする予定なんだ?旦那にも会えて幸せそうに見えるのじゃが?」
「ええ、皆さん暫くの間こちらでお寛ぎになっては?折角いらしたのですから・・・」
「だが年寄りって者は慣れない生活は身体が受け付けないのじゃ、さ、速く皆と一緒に帰ろう。」
申し訳なさそうに口を噤んでいた原田がやっと口火を切る。
「実は、私達夫婦にとってこの一件を機会に二人の本心がやっと理解できたような気がしているのです。そして所長が陣営が退陣するのを見届けて新たなこの島の政治を見届けるまでは離れるわけには参らないのです。そこまでは責任を持って見届けないと。妻も理解してくれていますし、実のところこの5年は短いようで長いもの。私達も夫々に深い人脈や仲間達が出来上がったのも事実。すっかりこっちの人になりました。そしてこれからが本当の意味で二人が理想とする社会を築き上げなければいけないのだという責任感が生じているのです。どうか温かい眼で見守ってやっては戴けないでしょうか?」
ヤソキチはつまらない話でも聞いているように唇をとんがらせている。
「ああ、そうかい!ならいい。勝手にしやがれってもんさ、さあさ、サトル君たち、豊島君も、帰ろう!」
不安なエミが質問する。
「でも、どうやって?」
「決まっとろうが、リニアじゃよリニア!」
女史はいつものヤソキチに戻ったことに嬉しそう。
「わかりました。では「次元移転装置で呼び寄せましょう。」
原田が窓の外を指差しながら皆に言う。
「ああ、そのことなら大丈夫。既に家の前に停まっているよ!」
一同は唖然とする。
リニアでの帰り道、一同はニコヤカに二人の未来を想いながら談話する。
それにしても人騒がせな夫婦だったなあと。
ま、ヤソキチの子供じゃ使用が無いかなと。
~次回へつづく~




