第四章
レイワマンションの新規ご契約ありがとうございます?~第四章
作: 大丈生夫 (ダイジョウイクオ)
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Scene. 16 リニアよ何処へ
そう―――どのくらいの時間が経ったであろう、3人は行方知れずのリニアに取り残されたまま、唯、あてを失った赤い軌跡を描くディスプレイを黙って見つめている。
ただ、サトルとエミの不安をよそに、チップスターを尚も3~4枚づつ口に放り込みにやにや何かをたくらんでいる様な隣の男、そう、豊島は不気味なオーラを漂わせている・・・
「私たちを一体どうしたいのかしら?」
エミがサトルに囁く。
「どうしたいっていうか、行く先はこの男も知らないんじゃ?」
「それもそうね。てか、なによあいつ、ポリポリと!」
「ああ、なんだか羨ましいなぁ。」
「え、さっきコーヒー飲んだでしょっ、もう!」
「コーヒーだけジャン。エミのいじわる!」
「なによ、あなたホント暢気よね。この状況下で!」
「え、焦ったってしょうがないジャン。諦めが肝心さ。」
「なによっジャンジャン言って、あなた横浜出身じゃないでしょ。」
「うん、言ったっていいジャン。」
「それもそうね。」
相変わらず取り留めの無い会話の二人。
暫くの沈黙の後、やっとチップスターを食べきったポリポリ男が話し始める。
「さぁて、どうなることかね~今回の旅は。君たちも楽しみかな?」
可笑しなことを言う豊島のニヤケ顔に鳥肌が立つ二人。
どう答えようかと、ただ頷くことしかできないでいる。
「しかし、初めて乗ったリニアでいきなりこんな目に会うなんて、お二人さんも中々持ってますねぇ・・・僕なんて通勤で毎日使用しているけど1年に1回もないですよ。さあて、こうなった以上、時の流れに任せるしかないかな。そう、これも人生。いい経験さ。」
「で、以前たどり着いた場所から3日かかったって言ってましたけど、どちらに行かれていたのですか?」
鳥肌の消えぬまま不安なエミは豊島に問いかける。
「ある離島にたどり着いたのだが、リニアを降りたとたん、何とリニアが勝手に戻ってしまったんだ。何かジャングルみたいな藪の中で、待てどもリニアは帰ってこない。しかも辺りを散策することにしたのだが、結局リニアで辿り着いた場所を見失ってしまい、或いは忽然と消滅でもしてしまったような―――お陰で帰るのが遅れてしまって。」
「それで、どうやって帰ってきたのですか?」
「実はその島は無人島で、海岸に出たら海の彼方に陸地が広がっているのが見えたので、それを目指して泳いで帰った。」
このポリポリ豊島の話にサトルも乗り出すように聞き入る。
サトルが質問する。
「え、泳いで?どれくらいの距離ですか?」
「ざっと3kmってとこかな。泳ぎには自信があるもんでね。トライアスロンにはまっていた時期が長かったから。」
豊島が自慢げにポーズをとる。
二人はそんなポリポリ男の姿に幾らかの安心感を覚える。
「で、3日もどうやって生活していたんですか?」
「チップスターさ、これいつも常備しているので。食事は海には魚や獲物が居るので潜って取ったり、水はきれいな湧き水があったから大丈夫だし。だけど決まった仕事と違って、なんだか充実していたなぁ。まるで原始人にでも成った様だったが、苦にはならなかったよ。」
「陸地にたどり着いてからはどのように?」
「ああ、公共交通機関で。田舎過ぎて誰にも会わなかったから。少し歩くとバス停があって、半日も待たされたっけ。そして街に出て飛行機で帰ってきた。」
ポカンと口を開けたままの二人。
何とも不思議なことがあるものだと。しかし、今回もまたそんな場所に連れて行かれたら、二人は泳ぎも得意ではないし、チップスターも持っていない事に焦りを覚えるサトル。
「あのぅ~チップスターって何個お持ちで?」
意外な質問で返すサトルを口を開けたままのエミがガン見する。
「は、ああ、いつもいえと会社に常備しているから・・・出るときに1箱持って出る習慣が身についているんだ。しかし何故?」
「え、分けてもらおうと思って。」
申し訳なさそうに豊島を見つめるサトルにエミが吹き出す。
「プッ、何よそれっ!笑えるぅい~」
「お前こそなんだよっ!人が真剣に考えているのにっ。」
「うぇ~っ?何よその態度!」
「な・に・が・DA!」
「え~、貴方お熱でもあるのぅ~?そんな顔しちゃって、プッ!」
「なんだとぅぉおおお、お前の顔にも書いてあるぞっ!」
「え、何て?」
「ブスッて。」
「キャーッやだぅあ~っ、なによ酷い人!もう、降ろしてぇ~」
「ですよねぇ~豊島さん!」
「は、はぁ・・・」
「え、何よ豊島さんまでぇ、もう二人ともぱかっ!」
「と、申しますと?」
「アルパカ。」
いつものような調子に戻ったサトルとエミはゲラゲラと笑い出す。
二人の奇妙なやり取りに呆気に取られる豊島に鳥肌が立つ。
そんなこんなで奇妙な空気がいくらか流れた頃、いきなり「ドスン!」という音とともに車体が激しく揺れる。リニアが止まったようだが、いつもと違い何かにぶつかった様な衝撃があった。もしや脱線でもしたのであろうか。ディスプレイは消えている~~~~
そして静かにガルウイングが開く。
外は真っ暗闇で静まり返っている。
スマホのライトを頼りに3人は車外へと降り立つ。
そこは・・・草むらだった。
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Scene. 17 草葉の陰
「私達、何処にいるのかしら。」
「ああ、スマホも圏外になっている・・・通じない。」
「またかっ、よりにもよってこんな草むら・・・チップスターも食べちゃったし。」
「良いじゃない、自分だけ腹ごしらい出来たんだから!」
「ああ、すんまそん。」
おどける豊島に吹き出す二人。
しかし、よりにもよって真っ暗闇。まさに前途多難の始まりを予期させるに十分なシチュエーションに3人は呆然とする。ライトの光をあてにして彷徨う。
幸いにも今日は満月であり、眼が順応したためライト無しでも何とかなった。
そこには、ただただ草原が広がっているだけだった。
「しかし、弱ったものだな。方位は星の位置で何とかなるが、ただ東へ向かうか西に向かったほうが良いか。どっちが東京かな。」
サトルが不安げに夜空の星を眺める。
「あたりは草むらで、道すらない。一体どうしたものか・・・街の明かりさへ見当も付かないな。明日になるまで待つか?」
「こんなところにたどり着いて、一体なんの異世界物なのよっ、神様ずるいよ!」
「ハハッ、エミちゃんはいつから神様を信じていたのですかぁ~」
サトルが意地悪くニヤリとする。
「何よ、困ったときの何とやらよ、もうっイヤラシィ!」
「そうだ、リニアの向きを見ればどっちから来たか解るよな。えっと進行方向が・・・あれっ、リニアは何処?消えちゃった?」
先ほどまで乗ってきたリニアの方に振り返るとライトを向ける。やはり無い。
「これは一体・・・」
「ほらっ、やっぱり異世界じゃないの!じゃなきゃ消えたりはしないわよ。それにしてもリアルね。私達ワープして来たのねっ、まるで未来人!」
浮かれるエミをよそに、呆れた豊島とサトルは先へと進む。
「何処へ向かうのですか?」
黙々と歩き出す豊島に問いかけるサトル。
「リニアの進行方向は向こうを向いていたから多分こちらが正解だろう。どうやらこの場所は東京よりも西になるようだ。こちらに向かってみようかと。」
取り残されたエミも二人に追いつく。3人は黙々と歩いて行く。
と、遠くから何やら光る点がこちらに向かってくるのが見える。右へ左にと揺らめきながら近づいてくる。人だ。第一村人を発見したらしい・・・
3人も光の近づく方向を目指す。自転車に乗っている姿が月明かりに照らされる。
女性のようだ。徐々に姿が確認できる距離になる。
「ようこそ、皆さん。」
その声に聞き覚えがあるかの如く、豊島がハッとする。
「あれ、あなたは原田さんでは?行方不明の・・・」
「あら、豊島さんね、お久しぶり。ビックリしたでしょう。コンシェルジュから連絡があって、此処に来ている筈だと。」
何故?3人は不思議な話をする原田女史の様子を伺う。
何故コンシェルジュにはリニアが此処に到着することが解っていたのか。
何故、行方不明だった筈の原田さんと連絡が取れたのか。
「どうして原田さんがここに居るんですか?」
「どうもこうもないのよ、もう5年も彷徨っているのよ、こちらの世界に。」
怪訝そうなエミが原田に問いかける。
「あのう、こちらの世界と今仰いましたよね・・・もしかして異世界?」
「それがね、私にも解らないのよ・・・なのに、今日突然コンシエルジュのヤソキチさんから手紙が届いたのよ。それには8時に此処に来るようにと書いてあったの。この5年間、連絡の術もなく暮らしてきたのに、昨日ポストに手紙が入っていたのよ。」
「それで、ここの地名は?」
「村人はここを「姫百合島」と呼んでいるわ。どうやら日本から独立しているようなのよ。」
「日本から・・・独立国?」
「そうみたい・・・私も詳しい事情は聞き出せていないので詳細はわかりませんが。それがね、ある事情でこの地から出ることは原則禁止されているそうなの。国でまかなえない必要な物資は」日本からチャーターしているようなの。私も5年前のある日、リニアでお買い物の帰りにこの地に迷い込んでしまったのよ―――そして此処の方々にお世話になって居るのよ。唯、約束事として、この地から出てはいけない、この地のことを他の地の人に喋ってはいけない、ということなのよ。だけどどうしてもあなた方には解って貰いたくて・・・それから、お友達を作ることは自由だけど、その人のことを詮索してはいけない、そして自分のこれまでの生活の事を話してはいけない、ということなの。何かしら閉鎖的よね。」
「で、日本に帰る術は無いということ?」
「そうなの。」
「そうなのって・・・じゃあどうしたらいいのよ。」
「だから、私だって5年も経つけど帰れないで居るじゃないの。」
「帰りたくなかったのでは?実際。」
「それもあるかも知れない、今思えば。意外に悪くは無いのよ、此処の生活が。皆優しい人たちばかりで、この島、いやこの国では助け合って昔ながらの生活を営んでいるのよ。それが此処での仕事。自給自足で皆で物資を分け合って暮らしているの。だから貨幣もないし、税金も無い。全て国からの配給と自給で成り立っているのよ。そのかわり日本であるような特別な贅沢や娯楽は何も無いのよ。自然は豊かで公害も無い、ある意味理想社会が形成されているの。ビオトープのようなものね。」
「じゃ、帰りたくないんだ・・・私たちも帰れないって事ね。どうしよう・・・」
「でもね、ご心配は無用よ。どういう訳かは知らないけれど、ヤソキチさん、明日迎えに来てくれるそうよ。私も帰れるかもしれないの。未だ考え中だけど。じゃ、私の家まで案内します。」
原田女史の不思議な話に気が遠くなりそうな3人ではあったが、今までも不思議なことの連続に戸惑いながらも納得するしか出来ないで居た時分、彼女に従うことにする。
暫く歩き続けた頃、ようやく明かりがちらほらと見えてくる。どうやら村中に辿りついたようだ。一軒一軒が大分離れて点在している。どれも大きな家ばかり。
「ほら、見えてきたわ。あれが私の家。」
原田女史の指差す方角に、やはり大きなペンション風の家が見えてきた。
エミがハッとする。
「サトル、こ、この家よ!あの時夢に出てきた、貴方が買った家よ!」
「え、そんな話聞いてたっけ?おまえ転んで頭でも打ったのか?」
「そんなことないわよ、夢で貴方が二人の家って案内してくれたのよ!」
「はいはい、異世界へようこそ、エミちゃん(笑)」
「もう、知らない。」
近づくとそれは中々の豪邸であった。
原田女史に促されて両開きの玄関ドアを入って行く。シャンデリアがきらびやかに輝く。
「あのう、さっき贅沢とか出来ないって仰っていませんでしたっけ?」
「は、ああそうよね。でもこれは庶民的ですよ、別に贅沢なんか・・・」
何故かそそくさとスリッパをパタつかせながら奥の部屋へと案内する。
そこは立派なダイニングテーブルが鎮座する食堂とでもいえる広さのダイニングキッチン
であった。テーブルには皿が4人分既に並べられている。
「さて、長旅お疲れ様でした。では食事にしましょうね。もう準備してあるから。」
ヤソキチの手紙に予定人数でも入っていたのだろうか。さては、これもあいつの罠だったのか。ヤソキチの奴、会ったら文句言ってやる!
料理が次々と運ばれてくる。どれもこれも美味しそう。原田女史、料理が趣味なのか?
「ところで、この家にお一人で暮らされているのですか?」
「ええ、ここの生活で友達もいっぱい出来たので、よく食事会をやるのよ。私の自慢の手料理を皆さんに振舞っているの。」
「やっぱり贅沢じゃない。羨ましい~。私もこんな生活してみたい。」
「あら、じゃあ皆でここに住むって言うのはどうかしら?」
「お、オレは困ります・・・エミは置いていくからじゃあね!」
「え~、それも困るし。ヤソキチさんに遅く来てもらえないかしら、折角こんなに素敵な場所に偶然にも来られたのだから・・・この異世界、素敵ね!」
「あらやだ、異世界なんて。でもね、不思議なことに此処の住民は昔から此処で暮らしているのではどうもなさそうなのよ。
昔ながらの生活をしてはいるけれど、かなりの知識人ばかりの様子で、夫々が何かしらここで研究しているようなのよ―――
だけど此処での決まりは、あまり他の人のことを詮索してはいけないし、自分の今までの生活のことを喋ってもいけないのよね。
だから当たらず触らずの範囲での会話しか出来ないのよ。
まるで夫々が何か隠しているみたいで奇妙なの―――気になるのはそれくらい。
生活は至って快適そのものだし、国からの支給で何でも揃うし、特別何も仕事もしなくてもいいの。
だから食料とかは自分の栽培した野菜と米を物々交換とかしてお互いに助け合っている感じ。」
食事を済ませるとシャワーを浴びて人心地着く。
リビングに通されて、更に一同は豪華さに圧倒させられる。
分厚いフカフカの絨毯の上に大きなソファがどっしりと鎮座し、吹き抜けには素敵なステンドグラスを照らす大きなシャンデリアがぶら下がっている、極上空間がそこにはあった。
フカフカのソファに身をゆだねながら、おもてなされたアールグレイを嗜む。
もう何も言うことがない・・・
「そうね、さっきの話の続きだけど、この国はどうやら昔、戦禍に見舞われて多くの死傷者を出したそうなのよ。そして日本から独立していった暗い影があるらしいわ。そのために閉鎖的な文化が花開いたのかもしれないわね。でもある意味エミさんの言葉を借りると「異世界」には違いないけど、理想郷よ。オーガニックな生活が此処にはある。近代社会に進化した、強欲にまみれた今の文明とは逆の方向かと思うの。」
確かに理想的だが、しかしこの家は贅沢すぎはしないか・・・サトルには一抹の疑義が湧きあがる。他の家に比べて立派過ぎるたたずまいの家。何故此処の住民にこのような家を提供してもらえるのだろうか。何かしらの権限が彼女には与えられているのではなかろうか―――両手離しに喜ぶエミとは対照的に、何故かサトルには不安が消えないでいる。
と、玄関の呼び鈴が鳴る。こんな夜遅くに一体誰が。
原田女史がパタパタとスリッパの音を響かせながら廊下を向かう。
そして現れたのは、ヤソキチだった・・・
「やあ、皆さんお揃いで。こんばんは。」
ヤソキチがニヤリとするのに豊島がソファーを立ち上がる。
「一体どういうことなんですか!こんな場所に私たちを連れてきて・・・もう明日の商談もパァですよっ、全く!」
ヤソキチは空いている席にどっぷりと着いた。
「これはこれは豊島さん、そう怒りなさるなって。人生一瞬先は闇ですよ。まぁ、これも人生、貴方は仕事しすぎなんですから、たまにはゆっくりとしなさいって。」
「そんな悠長な事言ってられないんですよ、私の立場は。あなたは良いですよ、悠々自適なライフスタイルですからね、老後の。」
「え、私だって経営大変なんですよ。資金繰りが、ねっ、エミさん。」
全然大変そうな素振りの無いヤソキチにエミがむっとする。
「そうですかね?それにしてもどういうご事情で?」
「リニアに着いている制御系統がたまにミスを発生させるんですよ。それで誤ったルートが設定されて、そこに向かって突進していってしまったせいで、何と申しましょう時空の揺らぎが・・・」
「時空の揺らぎって、タイムマシンでも無かろうに。可笑しな説明だ。」
「あれ、ご存じない?実は最先端技術の結晶ですよ、この乗り物は。タイムマシンとは申しませんが、実験的に様々な装備を随時試験的に搭載し、進化している途上ではありますし。」
「何ですと?試験的に?それでは私達はまるで実験台のモルモットではあ~りませんか?」
血圧の上がった豊島が頭の上に両手を開く。ミッキーちゃんのように。
「ハハハ、良いじゃないですか、将来的に満遍ない贅沢な最先端技術を堪能できるのだから。しかし今回は私も驚きましたよ。こんな場所に辿り着くなんてね。」
「は?あなたにも予測がつかないと?全く信用なりませんね。コンシェルジュ失格だ!」
ニコニコと見守るように話を聞いていた原田女史がヤソキチのお茶の支度に席を立つ。
彼女が部屋を出て扉を閉めると、ヤソキチが乗り出してひそひそと話し始める。
「いいかね、彼女には気をつけろっ!」
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Scene. 18 天使の悲鳴
「何を仰っているのか意味が解りかねますが。貴方が昨日、原田女史宛に手紙を送って、僕たちが来るから迎えに来いって・・・」
「ウソだ。それが彼女の罠だ。君たちを信じ込ませるためのな。」
「そんなぁ~。」
「実は、このリニアの設定スケジュールを調べるために君たちが降りて直ぐ、遠隔操作にて車体をマンションまで引き返したのだ。
そしてメカニックたちに調べさせてところ、彼らが設定していないパーツが据え付けられていたのだ!
大凡の予測だが、どうやらその部品は「次元移転装置」ではないかとの見解に至った。もちろん現在の私たちの最先端技術においてもそのような代物を作り出すことは不可能である。どうやら何者かがこの場所に君たちを導くために設置したに違いない!」
一同が顔を見合わせる。豊島が呟く。
「ということは、このマンションの誰かが故意に設置したのですか?」
「ああ、多分な。しかしそうとも限らない。悪意のある人間は私の経験上居ない筈。ただし人の心は移ろいやすいもの。特にマンションから離れてしまった人間ならばな。」
「えっ、てことは原田女史が!」
「あくまで私の机上の空想に過ぎないのだが・・・しかし裏づけるものはある。」
と言うやヤソキチがスマホの着信履歴を皆に見せる。
それは原田女史からのものだった。
内容はこうだ。
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拝啓:ヤソキチ様
ご無沙汰しております、原田です。お元気でいらっしゃいますか?
5年間もお留守にしてしまって申し訳御座いません。
実はリニアに乗って豊島氏とサトルさんエミさんご夫妻がこちらの島に参っております。
お手数ですがヤソキチさんに迎えに来ていただきたく存じます。
こちらに来られる方法としましてはPM8:00にリニアが発車しますのでそれにご乗車ください。 以上。
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メールの内容を確認した一同は呆然と天井を見上げる。
真ん中のステンドグラスには十字架にキリストが縛り付けられている絵。
おお、ジーザス―――
と、そこへマイセンの茶器を一組お盆に載せて原田女史が帰ってくる。
「あ~ら、どうしたの?皆さんそんな顔して?」
「原田さん、貴方私たちを騙しましたね?」
豊島はヤソキチからスマホを取り上げるやメールの内容を女史に見せる。
「やれやれ、バレちゃー使用が無いわね、ああ、そうよっ!あたいがアンタ達を引っ張ってきたのさ。悪いかしら?」
女史の豹変振りに一同がおののく。
仰天したエミが思わずティーカップを引っくり返しそうになる。
「そうよ、私がこっそりとリニアの設定を変えたのよ。あなた達を利用するためにね。」
女史は不敵な笑みを浮かべながら眼をギラつかせている。
まるで魔女のように―――
「そもそも私がここに迷い込んだ5年前に、ヤソキチさん、貴方探してくれましたか?そうよ、何もしてくれなかった。行方不明のままにして知らぬ振り。私は帰りたかった・・・
ある日一人の技師にこの話をしたところ、良い案があるとの事でこの「次元移転装置」の開発に着手したのよ。そして完成に至った。そしてリニアにこの装置を設置したのさ。
5年は長いのよ。人の心を変えてしまう・・・そしてある決意に至った。」
ギラついた眼差しで先ほどのステンドグラスのキリスト像を見やると、原田が呟く。
「復讐よ!」
~次回へつづく~




