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第三章

新規入居のレイワマンションを巡る不思議な出来事にサトルとエミはどこまで耐えられるのか・・・試練は続く---第三章はじまり始まり

レイワマンションの新規ご契約ありがとうございます?~第三章

作: 大丈生夫 (ダイジョウイクオ)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Scene.12  黄昏のコンシェルジュ



姫百合の不動産屋に到着する二人。

古びた店頭のサッシをガラリと開けると、老夫婦はいつもの席からこちらを臨む。

二人はいくらかやつれた様にも伺える。

いつもの席でお茶を飲みテレビを眺めて客を待つ日課。

あんなに景気良さそうに言ってはいたが、いつ来ても閑古鳥。

景気もそんなに良くは無いから無理も無いのだろう。

良質物件はあるかもしれないが、此の店構えじゃあね。

決して商売が上手なほうでは無い。

老紳士が出迎える。


「やぁ、お二方お揃いで。どうしたのかな?」

「どうもこうもないですよ、何も教えてくれないで。」

困り顔のヤソキチがサトルを伺う。


「勝手に個人情報広めては困りますよ。レイワ信託から聞きましたよ。」

「そうですか、それはそれは・・・」

「経営、うまく行ってないのですか?」

「ああ、そんな話まで聞いてきたのかい。」

「それはそうと、僕らの素行調査の情報はレイワ信託から聞いていたのですか?一体僕らのこと何処までご存知なんです?」

「いやはや。参りましたねぇ・・・そうと判れば使用が無い。実はレイワ信託の相談役の立場をちょっと利用させていただいてまして。富裕層の調査結果を私どもの不動産業務にフィードバックして営業活動していました。貴方方が高額当選されていたことは既に存じ上げておりまして、銀行側の調査員があなた方を追跡調査していた際に、偶然にもこちらに立寄られたので、利用させていただいた次第でして・・・申し訳御座いません。」

「ということは、僕らにレイワマンションを薦められたのは、僕らの懐具合をご存知だったからですか?」

「ええ。入店された際に調査員からスマホに連絡が入りました。カモネギと。」

「え?僕らがカモネギ?」

「そう。カモがネギ背負ってやってきた!プッ。」

「ちょっとそれ、酷くないですか?」

「ですから丁重に店屋物のランチで釣ったのですよ。ププッ。」

サトルとエミは開いた口が塞がらないまま突っ立っている。


「さあさ、こちらへ掛けて下さいな。お茶でもどうぞ。」

奥から御上さんがお茶菓子と一緒にお茶を出す。

暫く沈黙する一同。頭の整理が就かぬままのサトル。

コンシェルジュであり相談役のヤソキチが話し始める。


「話せば永い話にはなりますが、どうかご静聴を。このあたりの土地は、当時荘園領主だった祖祖父の時代からうち等の物でして・・・代々引き継いできましたが、戦時中に国家プロジェクトとして持ち上がった軍用施設構想の一環として、巨大防空壕、もとい地下シェルターの建設に着手することになりました。そこで当時内閣にいた祖父の手引きで、軍用施設及び都心部からの地下道建設のプロジェクトによる特需を目論み、代々の土地を利用しようと画策したのであります。


事はとんとん拍子に進み、渋谷駅からここ姫百合までの地下道建設、姫百合地下シェルター建設に着手したのです。この構想は一部の政治家のみの極秘事項として秘密裏に行われました。理由は国家の重要人物のみの非難場所として運用するためのものであったからです。要は自分たちだけ助かるために・・・


祖父は政治家の伝手を生かし、政治資金をシコタマ流用することで、我が令和財閥が誕生し、此のプロジェクトを牛耳ったのです。当初は潤沢な資金を元に建築費をかけて行っていましたが、戦況が劣勢になる中で完成する前に資金は尽きていきました。そのため運用までに漕ぎつくことも無く、遺跡のように構造物のみが残ったのであります。その後、終戦してからも尚、いざなぎ景気・バブル景気の繁栄に乗ってインフラ事業も奏効し、やがて我が令和財閥は破竹の勢いで強大な地位へと成長を遂げて参りました。より一層肥え太っていったのです。かく言う私とて小さな頃からその恩恵を受けてきました次第です。

そしてバブルが弾けてからと言うもの、倒産の嵐、そしてそんな計画は頓挫し、誰もが忘れていきました・・・」


サトルとエミは事の成り行きを、尚も口を大きく開いたまま、ヤソキチの話に没入している。

「ええと、で、あなた方は今日は何しにこちらへ?」

まるでとぼけたかの様子に見えるヤソキチのその言葉にハッとした二人。


「ですからねぇ・・・う~ん、ずるいよ!」

サトルが支離滅裂に言う。


「そうよ、ずるいわよ!」

続いてエミ。


そんな様子を神妙そうに伺っていた御上さんが呟く。

「まぁまぁ、そんな顔しないで・・・と言っても無理よね。実はね、私たちもそろそろ店じまいしようかと思っていたのよ、こんな時代遅れの不動産屋、そろそろ誰も見向きもしないからと思ってね。しかし、実際、負債は莫大。やめるにもやめられないのよ・・・でね、貴方方がまるで天使に見えちゃってね!カモネギは言いすぎだけど、それでも物件の質には手抜きをした覚えはなかったから・・・変な自信はあったのね。だから取って置きの物件をそろそろこの方々に破格で提供してもいいのではと主人に口ぞえしたのよ。ごめんね・・・」


御上さんのその謙虚な様子に二人は困惑する。確かに正直この物件のクオリティーには度肝を抜かれた。更にこれまでの歴史についても改めた感心させられて・・・それは二人の言葉を失わせるには十分なものであった・・・


暫くの沈黙の後、サトルは意を決したように老紳士でありコンシェルジュのヤソキチに問い始める。


「で、実際。何故僕らの素行を調べていたのでしょうか・・・というか、ご存知だったのですね、僕らが高額当選していたことを!」


ヤソキチが神さんに目配せすると神さんがウンと頷く。やっと重い口を開き始める

「そうです、そのとおり。カモネギなんて言葉では申し訳なかったが、実際私たちの人生をかけた最期の切り札として、まさに絶好のタイミングであったのは確かでした。そしてあの事件が起きたので・・・そう、ご存知の通りの強盗事件。これは何かのチャンスではないかと、何か利用する術はないかと。そう、私の相談役としての」立場を利用すれば、こちらの思惑に引っ張り込むことができると銀行内部に働きかけました。存外にこれが銀行の経営状態とも合致して、このような運びとなった所存であります・・・」



所存って・・・そう言い掛けたサトルではあったが、ジッとヤソキチの言葉の行く先に食い入る。エミも呆然と見守る。


「それで、僕らの口座には10億円振り込まれる筈が9億円となり、牽いては1億円をくすねたと言うわけですよね?」


「それは・・・」

ヤソキチの指先がモジモジとする。


「ですがね、私たちも苦境の最中ではありますが最善のご配慮を施させていただいた次第でありまして・・・もっとも煩雑の事情の渦中で営業活動に没頭していたこともあり、お二方に十分なご説明も行えなかったのは遺憾ではあります。」


神妙そうに俯く老紳士。一口茶をすすっている。

二人の烈火は次第に萎えていった・・・


「それでは、ご恩返しもオコガマシイのですが、これから私ども先祖代々が築き上げたこの「レイワマンション」の実態を今からご案内させていただくと言うのは、どうですかね?」

ヤソキチが訴えるような眼で二人に嘆願するように言い放った。


「まぁ、良いでしょう。な、エミ。令和信託も経営大変そうだし、こちらも同じく傾きかけている。しかし僕らも安全な住処を提供していただけたことには感謝していますし、まぁ残りの1億もおいおいご返済くださるようですので異論は無いかなと・・・」

尚も神妙な老夫婦にいささか攻め立てるのも理不尽かと察知したサトルがエミに目配せする。エミも同意したように頷く。


「そ、そうですか!判っていただけたのですね!いや、ありがとう。」

ようやくいつもの調子に戻ってきたコンシェルジュ。さぁ君の出番が来たよ!


そして二人はコンシェルジュの先導のまま、手を振るいたいけな神さんの見送りを受け、予定した明日の「レイワマンション」の実態へと鉾先を向かわせてゆく―――






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

Scene.13  地下の異世界探訪


明くる日の午後、予定の時間に二人は待ち合わせの1階エントランスロビーの席に向かう。

いくらか様子を把握した二人にとって、1億円の行方を確認出来た今、そして老夫婦にとってこの負債が明日への希望となったことに対して、良い行いをしているのだという気持ちから、なんだかすがすがしい気がしていた・・・


やがてヤソキチが現れた。

上下真っ白なスーツを纏い、同じく白いボルサリーノのハットを決め込んでいる。

なんともキザなコンシェルジュ!


「お待たせしました。さぁ、振り出しに戻りましたが、これから此のマンションの様々な先端技術を駆使した機能についてご紹介し、これからの生活の中で飽きることの無い最先端の生活空間の実態を堪能していただきたいと思います!

何かが吹っ切れたように、ヤソキチが演説を打ち、二人をエレベーターへと導く。


一向はいつものエレベーターでキザな老紳士の押した「B20F」へと向かう。


扉が開く。


そこは今までの他の階同様に先へと通路の続くフロアの造り。

ただ、ヤソキチの出で立ちのように真っ白な空間が広がっている。

まるで研究所の中にでも入り込んだような異世界感が満ちている・・・


奥のエントランスには扉、それは自動ドアとなっており、やはりコンシェルジュのヤソキチが手を翳すと生態認証にて開かれる。他のフロアと異なっていることは、そこに部屋があるわけではなく、ただ白い空間の通路が先へと伸びている。どうやら何か列車のホームのようだ。ヤソキチがスマホを確認しながら二人に告げる。


「後5分ほどで渋谷行きが到着するからね。」

自体を飲み込めぬままの二人。

渋谷?そういえば昨日の話で渋谷までの旧軍部の通路があるとか・・・しかし、渋谷行きとは?二人は思い巡らす。


やがて、やはり駅のホームのような場所に到着する。先ほどまでと同様に真っ白い空間。

列車の軌道と思える掘れた道が1本、遠く彼方まで続いている。

そして5分ほど経ったころ彼方からライトの光、と思ったのも束の間に、あっという間に真っ白な流線型の単線が到着する。リニアに似てるその形状は未来的だ。

「これって・・・」

エミがそう呟くと、ガルウイングが開き、一人の40代のスーツの紳士が降り立つ。


「これはこれは豊島さん、お帰りなさい。」

ヤソキチは紳士にお辞儀する。

無言のままの紳士は、挨拶もそこそこに3人をかわすようにエレベーター方面へと向かって行く。何とも無愛想・・・


「彼はいつもあんな感じ。大手の商社マンだがいつも忙しそうにせかせかとしている。今まで10年ほど会ってはいるが、ろくに会話をしたことが無い。」


「へぇ、いろんな住人が居るのね。」


「さ、それではお乗りください。これは渋谷直行便のリニアモーターカーです。もちろん住人専用ですよ!10分ほどで到着ですよ!」


ヤソキチの言葉に驚く、が、これまでもいくつものサプライズがあった二人にとって、今のところ一番のサプライズであることは間違いない。なんとこの「レイワマンション」から直行便のリニアモーターカーが出ており、しかも住人専用で、10分で渋谷に到着・・・なんという未来、いや現在・・・これは何かキツネにでも摘まれたのか?

そしてヤソキチに促されるまま乗り込む。


内部は割と簡素で、8人分のシートが備えられている。窓も無く、操縦席もない。座席に着きシートベルトをつけると、座席が回転し、進行方向に向く。全部にあるディスプレイにはマップがあり、現在地と渋谷までの軌跡が表示されている。ガルウイングが閉まり、音も無く発車する。リビングに居るような3人。無音無振動な車内。ただディスプレイの軌跡のみ「レイワマンション」から「渋谷駅」まで進行していることを点線で辿っている。


「どうですか、全く走行感が無いでしょう~~~異次元の乗り物ですよね!わがマンションの一番の自慢の機能であります。」


ヤソキチが自慢げに話す。二人は夢でも見ているように、ただ画面上の軌跡をボーッと見つめている。そろそろ到着の様子。


「さ、到着です。」


ヤソキチが言い終わるが先か、シートベルトが自動で巻きこまれていく。先ほどのガルウイングが開く。


「では、ご案内しましょう。」


到着したホームも真っ白な簡素な空間。先ほどのフロア同様に。

案内されるまま、長いホームの通路を歩いて行く3人。

そして、やはりマンションのとき同様に自動ドアを抜けると、エレベーターに辿りつく。

エレベーターに乗り込む。


ヤソキチが「1F」のボタンを押す。

いったい、何処に連れて行かれるのだろう・・・エレベーターが階を増すごとに、二人の密かな不安が募る。


「お待たせしました、ハイッ、到着!」


扉が開く。そこはガランとしたロッカールーム。


「えっ、ここって?」


「はい、渋谷駅構内のロッカールームで御座います!」


「・・・・・・・・」



二人は唖然としたまま、辺りを伺う。驚きの連続。


「では、此の後の予定ですが、如何いたしますか?」


ヤソキチが何事も無かったかのように二人に呟く。


「如何って?ていうかここ渋谷駅ですよね。」

「ハイ然様で。」

「で、ヤソキチさんは?」

「はい、帰ります。」

「どちらへ?」

「マンションへ。」

「何で?」

「仕事が御座いますので。」

「じゃ、私たちは?」

「ご自由にどうぞ。」

「ご自由にって、どうすれば?」

「どうもこうも、ご自由に。」

「帰りは?」

「帰りもご自由に。」

「帰らない場合は?」

「ご自由に。」

「帰りの時間は?」

「ご自由に。」

「帰る場所は?」

「ご自由に。」

「あなた、パカあるか?」

「はぁ?パカと申しますと?」

「アルパカ。」

「アル・・パカ?」

「はい。」

「と、申しますと?」

「ご想像にお任せします。」


やっと我に返ったようにクスクスと笑うサトルとエミ。


リニアは予約制で運行しているとヤソキチが言う。

予約はヤソキチのスマホのアプリで管理されるとのこと。

初めてなので、PM5:00に迎えに来るようにと告げる二人。

そしてロッカールームを後にする。

不思議な気分のまま~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

Scene.14  渋谷にて


「それにしても、凄かったわね!」

「ああ、まるでワープだ。ほら、まだこんな時間・・・」

「電車じゃこうは行かないわね。なんか私達、特別扱いよね。」

「ああ、意味わからん。」

「でも、便利ね。」

「それもそうだ。」


話しながらロッカールームから駅構内の雑踏に紛れる二人。



ヤソキチには「PM5:00」に迎えに来るよう告げたが、果たして本当に先ほどの場所まで来てくれるのだろうか。もしやこの出来事が二人の白昼夢であり、ロッカールームにはエレベーターも無かったりして・・・

二人は渋谷の街をぶらついて時間をつぶす。唯それまでの出来事をまだ疑ったまま地に足がつかない気分で彷徨っている~~~~~~~~~~~~


「サトル、こんなに凄いことってある?こんなに特別扱いなマンションって。」


「うぅん、よく解らないが・・・何故僕らが選ばれたのだろう、あのマンションの住人として。そういえば先ほどの降車したスーツ、大手商社マンって言ってたよな。多分、相当な所得がある筈。エリートだな。僕らとは比べ物にはならない・・・なのに何故、僕らが同じ住民に成り得るのだろうか。」


「そうよね、私だってただのパートさん・・・でも違うところと言えば、10億当たったことぐらい。だけど家賃は月額15万円って高いけど、こんなに凄い装備があるマンションなら桁が違う筈だし・・・もしかして私達騙されてはいないかしら?」


「え、例えば?ま、現状9億円しか振り込まれていないが。」


「ほら、それよ、それ。」


「だけどヤソキチは必ず返すと言ってたし・・・確かに家賃1億円ならこれくらいの機能があってもおかしくないよな。え、そういうこと?」


「ほらねっ、騙されちゃって!」


「ナニィ!お前こそ。」


「なによ、その態度。ムカツクッ。」


「このパカモノッ(笑)」


「え、パカって・・・あなたのことでしょ。」


「そうかもね・・・いや、そんなこと無い。そんなこと此の世の中で通る筈はない!」


「そうよね・・・でも現実に・・・え、此の世の中?もしかして此処は本当に此の世の中なの?」


「エミちゃん?それってどういう意味?」


「何か、そう。私そういえば宝くじが当たる前に、結構異世界ものの小説に嵌っていたのよ。」


「え、てことは此処はその・・・異世界ってこと?そんな馬鹿な。」


「それをいうならパカでしょ!ていうかそれは置いといて・・・もう一度順を追って一つずつ確認したほうが良さそうね。」


「いや、それはないな。ほら僕だって君と同じ体験をしているのだから。」


「そうかしら。私の目の前のあなたも本当にサトルかどうか・・・」


「おい、いい加減にしろよ!俺だよオレ!」


「え、もしかしてオレオレ詐欺?」


「違うよ俺だって・・・」


「え、貴方誰あるか?」


「アルパカ。」


「それもそうよね。」


取り留めの無い二人。しかし二人に笑みは無くなっていた。

ただそこにあるなんとも理解しがたい不安感が残る。

暫く歩き疲れた二人はドトールに入る。

席に着きコーヒーを注文する。

無言のまま向き合う二人。

と、サトルのスマホが鳴る。


「あ、サトルクン?先ほどのコンシェルジュで御座います。帰りの便ですが、もう一方乗り合いとなりますが、大丈夫でしょうか。もしお嫌でしたら時間をずらすことも可能ですが。もちろんその方は怪しい方では御座いません。何たってウチのマンションにお住まいの方ですから。」

「ええ、そういうことでしたら問題ないですよ。はい、では。」

サトルは内容をエミに伝える。


「え、私嫌よ。誰だかわからない人と、いわば未だ訳のわからないリニアで同席なんて!」

「大丈夫だよ、僕らと同じ住人だよ。」

「ほら、どんな人か解らないでしょ。もし誘拐でもされたら・・・さっきの商社マンだってヤソキチさんもあまり話したことが無いって言ってたし。何考えてるか解らない感じだし。どんな人だか―――」

「え、そんなこと言っても。行き先はマンションだけの一本道だし大丈夫さ。」

先ほどの異世界のことをまだ引きずっているエミをなだめる。


「しかし、なんでこうなっちゃったのかしら?私達ただ普通の地味なマンションに引っ越したかっただけなのに・・・なのに地下でリニアに乗ってここにいるのよ。」

「ヤソキチさんが財閥の御曹司だからお金が有り余ってるのじゃないのか?」

「だけど、今は私たちのお金を流用してる・・・ほらやっぱり騙されてない?」

「いや、わからん。しかし乗り出した船だから、もう先あるのみ!」

不安な二人はコーヒーをすする。宛ての無い航海の途上で―――



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

Scene.15  住処への帰り道


約束の時間前に二人はロッカールームへ向かう。もう予定も無く彷徨って渋谷の街もだいぶ堪能した。


エレベーターで「B20F」を押す。

扉が開き、先ほどの真っ白な空間の先へと歩む。

そして先ほどのホームに辿りつく頃、ポツリと人影を見つける。

どうやらヤソキチの言っていた乗り合い客だ。


「あ、どうも。」


「あら、先ほどの・・・」


その乗客は商社マンの豊島だった。先ほどの無愛想な様子はいくらか無さそうな。


「お仕事ですか?」


「ええ。呼び出されまして・・・」


「お忙しいのですね。」


「はぁ。」


やはり口数は少ない。

あまり質問するのも失礼に当たるので、サトルがエミに目配せをする。

と、豊島から呟き始めた。


「あなた方、最近越されたのですか?」


「はい。」


「それはそれは。でも不思議なマンションですよね。」


「はあ。」


「僕も10年前からここに住んでいるのですが、このリニアが運行されたのはまだ去年のことです。兎に角驚きました。徐々にハイテク化はされていましたが、ここまでやるとは・・・」


「そうですね、私たちも驚きの連続で・・・」


「それもそうでしょう、僕が知っている限り、此処の住民はあなた方を含めてたったの10人ですから。」


「え、10人?」


二人は眼を丸くする。

リニアが到着する。ヤソキチの姿が無いことに不安な二人。

乗り込んだ3人。シートが進行方向に回転する。

そしてリニアは静かに走り始める。


「どう考えてもこんな設備を作ったって採算は合わないでしょう。僕らの家賃だけでは。」

尚も豊島が話を続ける・・・



「どうみてもオーバークオリティー。こんな至れり尽くせりなマンション、考えられないでしょ?」


「住人は10人しか居ないのですか?」


「ええ、まだご存じなかったことでしょう。他の方々は僕よりも長く住んでいる方々ばかり。僕が一番最後に入居して、それまで8人のみ、10年間で貴方方が始めての新しい入居者ですよ。それにしてもどういったご事情で?」


「いえ、普通にマンション探していたら紹介されまして。」


「そうでしたか、私も同様。結局コンシェルジュの趣味かと思うようにしていますが。あ、まただ!」


豊島がそう言うとディスプレイを見つめる。

来るときには表示されていなかった分岐点から点線が違う角度の方向へとリニアを進行させているのが映し出されている。

「これは大変だ。」

豊島はそう言うと、慌てるようにスーツの胸ポケットからスマホを取り出す。

事の事情が呑み込めぬままのサトルとエミ。

空しくも画面表示は空白部分へとリニアを走らせていく様子を赤い点線のみが延びてゆく。


「ああ、通じない。」

スマホを切る豊島。

3人に謎の状況から来る焦燥感が漂う。


「あのぅ~、これって?「まただ」ってことは以前にも?」


「ええ、前にもとんでもない所へ連れて行かれた。」


「とんでもない所。」


「ええ、帰るまで3日はかかった。それにしてもコンシェルジュにも電話が通じないし・・・以前よりも状況は深刻だな。しかし、あなた方も災難ですね。」

豊島が意味深へに笑みを浮かべたことに、二人の動揺が急上昇する。


~~~~サトルは恐ろしい想像を繰り広げる。これって・・・

――――エミにも何か思い当たるような気がして嫌な汗が手に滲む・・・


これは、そしてこれからは・・・まさか、「異世界」?!


豊島は何故か不適な態度で笑みを浮かべながらディスプレイ画面の繰り広げる赤い軌跡を眺めている。


~~~~こいつもしや、何かこうなることを知っていたのでは・・・

――――此の人、初対面から何かいけ好かない感じがしていたのよ・・・

無言のままの二人は、そんな豊島の様子を成すすべもなく怪訝そうに伺う。


不適のままの豊島が口をつく。

「さあ、今回はどうなることやら・・・なにせ3日も彷徨ったもんな。まぁ、これも人生。一瞬先は闇。但し、脱線だけはしないでくれよ、リニアちゃん!」

更に奇妙なことを言う豊島に、二人の背筋が凍りつく。


~~~~こいつ、何か企んではしないか・・・

――――此の人、頭が変になっちゃったの?もしや元々?・・・


そして豊島はカバンからなにやら取り出す。チップスターだ。

しかも封を開けるや3~4枚ずつの塊で口の中に放り込みボリボリやる。

その響きだけが簡素な車内に不気味に響く―――



まるで長旅を予期でもしていたかのような周到な準備に、二人は尚も凍りつく。

もう、戻れないかもしれない・・・・・・


行方を失ったように、理不尽にもリニアは異世界へと突き進む








~次回へつづく~




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