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小雨が降る林の中、大蛇がトグロを巻いていた
(このサイズに育つのに何年かかるんだろう?)
フィーとリンクしてアンフィスバエナを見た時に、最初に思った事はそれだった
魔法生物のため体温が低く熱感知に反応しないのか、それとも認識阻害の効果なのか、フィーはアンフィスバエナに気づかれずに接近できた
後ろの頭はバスケットボールくらいのサイズだが、前の頭は大きなバランスボールくらいある
トグロを巻いているので全長はわからないが、胴体の太い所は直径1メートルはあるだろう
(麻痺毒を飛ばして動きを止め、即死毒でトドメを刺してから丸呑みって感じかな。もちろん巻きつかれたら終わりだ)
見た目と聞いていた情報から行動パターンを推測する
毒蛇は巻きつきの力が強くないと聞くが、あのサイズに巻きつかれたら助かるとは思えない
「胴体にはあまりダメージが通りそうにないな」
「はい、大きくなる程に鱗が硬くなります。普通のサイズでも剣はあまり効かないので、斧や大鎚などを用いる事が多いそうです」
「今回のは更に大物らしいから、なおさら刃物は通じないな。初めから使わないつもりだけど」
結局、頭を順番に潰していくしかないようだ
(サラのいつものやり方が最適解だったな。脳筋とか思ってすまん)
サラを見たまま心の中で謝罪しておく
「?」
こちらを見たサラと目が合って不思議がられたが、そのまま軽く打ち合わせをして段取りを確認する
「よし、やるか!」
「はい!」
長さ2メートルのスリングに、ソフトボールくらいの紡錘形特大ポーションをセットする
折り返したスリングの片方の輪に中指を通し、もう片方をしっかり握る
肘を脇腹に固定し、スリングを上から背中側へ向けて回す
そのまま何回か回転させて下から勢いよく投げる
ここからアンフィスバエナまでは約100メートル
ビュウンと鈍い音を立てた特大ポーションは、放物線を描いて飛んでいく
この瓶もクリエイトポーションで作るときに魔力量を調節してある
計算どおりにアンフィスバエナの頭上で瓶だけ消失し、中身の粉が雨に濡れた前の頭や体にかかった
「ジャラララララーーーー!!」
フィーからのリンクで離れていても状況は把握していた
奇声をあげ、体中から湯気を立ててアンフィスバエナがのたうちまわる
「上手くいった!いくぞ!」
「はい!」
すごい勢いでサラが駆け出していく
(全力ならカルポ並に速いってのは本当だな…)
俺も追いかけていくが、いかんせん並の身体能力では差は開く一方だ
数秒ほど遅れて到着すると、サラは既に前の頭に一撃を入れていた
時間を少し戻して…
工房で狩りの準備していた時の事
俺は匙を使って特大ポーションの空瓶に粉を詰めていた
「それは何ですか?」
サラが不思議そうに聞いてくる
「生石灰とアルミ粉末を混ぜた発熱剤。水を加えると反応して高熱を発生するんだ」
液体ではないのでスキルで入れる事はできず、自分で詰める必要があった
「水で熱くなる?なんだか不思議ですね…」
「水ってのは熱を冷ましたり火を消す印象が強いからね、そう思っても無理ないよ」
前の世界では弁当の底に仕込んで発熱させたりして利用してたらしい
らしいと言うのは、病院暮らしの長い俺はそんな弁当を食べた事がないからだ
生石灰もアルミ粉末も錬金術を駆使して用意した
精製には錬金道具と材料の他に魔力や魔法陣も使う
ここは異世界だと受け入れて活用した
魔法のおかげで常識の通じない事もあるが、物理法則は一致する事が多い
生石灰とアルミ粉末の加水による熱反応もその一つだった
「アンフィスバエナの頭に水をかけてからこの粉をかけると高熱を発するから、熱感知を撹乱できるかと思ってね」
「なるほど」
「ただの水と粉だから、スリングで飛ばしても察知されないと思う。念のため100メートルくらい離れて投げるし」
「そんな遠くからですか?」
「手前で瓶が消えて中身だけをかけてやる必要があるから、少しは練習するよ。そっちは同じ重さの砂でやるけど」
「そんな薬があるなんて知りませんでした。さすが錬金術師ですね。スリング使う人は初めて見ましたけど」
「まぁ、珍しいよね」
俺の前の世界での数少ない楽しみが、VR学習での科学実験だった
生身ではできない危険な事も平気でできてすごく楽しかった
魔法職の中から錬金術師を選んだのも、その影響はかなりあると思う
おかげで変な知識ばかり覚えたからか、化学の成績自体はそれ程良くなかったが…
この生石灰とアルミ粉末の加水実験もよく覚えていた
大量にやったので実験室は大惨事だったが、VRなので一瞬で元通りだし怪我もしない
いろいろと試して怒られた記憶も今や懐かしい
(あの実験が役に立つ日が来るなんて、夢にも思わなかったけどな。人生ってのはわからないもんだ)
戦いの場面に戻り…
サラの不意をついた一撃は前の頭の片目を潰していた
「ジャーーー!!」
先程とは違った叫び声を上げ、アンフィスバエナが暴れ回る
足元が雨で濡れているので動き難くサラは回避に必死だ
俺は10メートルほど離れた所から、短いスリングで小瓶に詰めた発熱剤を素早く投げる
当たる手前で瓶が消え、中身の発熱剤だけが後ろの頭にかかった
「シュラララーーーーー!!」
サラの隙を狙っていた後ろの頭も激しく暴れている
偶然だが発熱剤は目にも影響しているようだ
高熱によるものか、化学火傷かは分からないが、どちらの頭もサラを狙うと言うより所構わず暴れている感じだ
しばらく回避に専念していたサラは、アンフィスバエナの動きを先読みしてもう片方の目にも体重をのせた拳を叩きつけた
「ジャジャララララーーーーー!!」
蛇は嗅覚が鋭いのでまだこちらを捕捉できるだろうが、精度は格段に落ちるはずだ
俺も負けじと後ろの頭の片目を狙い、硬く作った小瓶に水を入れただけの投石用ポーション、『真水弾』を投げつける
「シャラーーーーーーー!!」
瓶の半ばまで目に刺さり、アンフィスバエナはその痛みに暴れている
それでも構わず真水弾を投げ、5発目で残っていた目に当てる事ができた
「シュララララーーーーー!!」
どちらの頭も目と熱感知を潰されて、むやみやたらに暴れている
側から見れば大蛇が大暴れしている恐ろしい光景だが、最早サラにとっては何一つ脅威では無いようだ
前の頭からの大雑把な攻撃を最小限の動きで回避し、カウンターで重い一撃を確実に当てていく
俺は安全圏から、後ろの頭の口の中を狙い真水弾を投げつける
目を除けば他にダメージの通りそうな所がなかったからなのだが、サラに攻撃しようとすると必然的に口を開くので狙いやすかった
それでもダメージは大して無さそうだが、牽制にはなる
俺達はそのまま危なげなく戦闘を続けた




