34
サラの案内した店でいくつか楽器を買う
子供用とは言え、なかなか高価だった
その後に俺の用事、錬金道具も買い求める
シンシアが言っていた通り、前回販売を拒否した店の人はかなり怯えていた
「気の毒なほど恐れていましたね」
サラは道具屋の店主達に少し同情している
彼らは特に何を言うでもないのに奥から秘蔵の品をあれこれと持ってきてくれたのだ
俺はこれで手打ちとばかりに、金に糸目をつけずに買っていた
おかげで結構な散財ではあったが、これで調薬作業が捗るなら結果オーライだ
「別に値下げを強要したりとかはしてないし、また来るからその内慣れてくれるだろう」
「そうでしょうか?あの感じではしばらく恐れられると思いますよ」
苦笑いしながらサラが続ける
「しかしタツキさんは、性能の良い魔法の鞄を持っているんですね。あんな大きな錬金釜まで収納してしまうなんて」
「ああ、これは魔法の鞄じゃない。使い魔のスキルで収納してるんだ。ほら」
鞄の蓋を開け、認識阻害を解くとフィーが出てきた
掌を出してをそこへ呼ぶと、挨拶とばかりにクルクル回っている
「あら、可愛い」
サラは胸の前で手を合わせて嬉しそうにしている
「こいつはフィー、俺の相棒だ。アイテムを収納する以外にもいろいろできるんだ。ただ規格外過ぎるから、工房関係者以外には秘密にしてほしい」
「わ、分かりました。しかし、こんな可愛いのにすごい子なんですね」
サラにフィーのスキルを説明しながら歩く
「マッピングに索敵なんて羨ましいです。討伐依頼を受けても目当てのモンスターを探すのが大変なんですよ。先に察知されて逃げられる事が何回あったか…」
「だったら素材集めを兼ねて、サラの依頼を手伝ってもいいぞ」
「え、いいんですか?」
「ああ、その代わり他の素材採取の時の俺の護衛を頼みたい。戦闘は得意じゃないからな」
「任せてください、では早速ギルドに寄って依頼をチェックしましょう」
サラが軽い足取りで先を歩いて行く
(…なるほど、機嫌が良いと尻尾がああなるのか)
俺はテンポよく左右に揺れるサラの尻尾を見ながら後を追った
ギルドに入り、貼り出された依頼の紙を見ながらサラと相談する
「ああ、俺の分の報酬は要らない」
「どうしてですか?」
「俺はポーションの売り上げがあるから金は困ってない。それに俺は冒険者じゃないからな、いろいろと面倒だろう?」
「登録してないんですか…」
「前来た時に断られたんだ、メティスだと新規登録できないって。わかりやすい実力や実績があれば登録できたみたいだけど」
「タツキさんはあの巨大なゴーレムを無力化したとシンシア様から聞いてますが、それでもダメなんですか?」
「登録の時はまだ何もしてないからな。ゴーレムの無力化はここで断られた後の事なんだ」
「でしたら今なら登録できるのでは?」
「いや、敢えて登録しないでいようかと思ってる。今となっては登録するメリットが無いし。守らないといけないルールなんかもあるだろう?」
「そうですね、モンスターの大量発生などの緊急時には強制的に召集されますし。その他にもいろいろとあるみたいです」
「自由な感じに慣れてしまったからな、勝手にやっていたいんだ。個人的に副代表なんかとは繋がりはあるけどな」
試作品のサンプルを置かせてもらったり、先行購入に応じたりと、気づけばビジネスライクな付き合いをしていた
「そんなわけで、報酬はサラが全部貰ってくれ。代わりに依頼に不要なモンスターの素材や魔石が欲しい」
「分かりました。それで構いません」
「魔石は金になるから、それは悪いと思うが…」
「いえ、報酬の総取りでも十分過ぎるほどですし。私は討伐依頼を主に請け負うので、素材や魔石は討伐証明部位でなければ全て差し上げてます」
「商談成立だ、よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
冗談っぽく笑いながら軽い握手を交わす
こうして超武闘派の元聖女候補と俺は臨時パーティを組む事になった
工房へ帰り、パーティを組んだ事をシンシアに報告すると怒られた
床に正座させられて、めちゃくちゃ怒られた
シンシアが怒りながら泣き始めたので、マリアに助けを求めて視線を送る
「…プイッ」
擬音付きでそっぽを向かれた
シンシアはかなり興奮していたので支離滅裂だったが、ようやく話が見えてきた
結論から言うと、パーティメンバーであるシンシアに相談なくメンバーを増やすな、という事だ
(参ったな。シンシアもマリアも戦闘向きでは無いから、最初からパーティメンバーとしては数に入れて無い事をどう説明しよう…でも今更そんな事言っても火に油だしな…)
二人とも巨大ゴーレムを操る事で大幅に戦闘能力は上がるが、あんなデカいのは素材採取に連れて歩けない
一角兎の時は、カルポがシンシアしか操縦できないから同行してもらった
オバケウルシの時は万が一の保険として、マリアに控えてもらっていた
俺としてはどちらも一時的な手伝いのつもりで頼んだのだ
しかし二人は俺の正式なパーティメンバーとして、今後も素材採取についてくるつもりだったらしい
「うっぐ、うっぐ、マリア、タツキは酷い男なのじゃ、ひぐっ」
とうとうシンシアはマリアに抱きついて泣きじゃくり始めた
「ええ、全くです」
無表情なマリアからの視線が痛い
「ひぐっ、ひっく、う、浮気、浮気じゃ…」
「はい、浮気ですね」
「…違うよ?」
「えっぐ、浮気した者はみなそう言うのじゃ…」
「初めにタツキ様から申しておりますよ?語るに落ちるとはこの事です」
「えぇ…」
実はもう何回も10倍速で思考時間を伸ばして打開策を考えているが、全然思いつかない
サラとは今回だけのパーティだと説明しても、まるで浮気は今回だけ、みたいに受け取られてしまう
(マリアが味方にいないとパワーバランスが傾きっぱなしだ。どうにもできないな、久々に詰んだわ。あと足が痺れてツラい。これは状態異常じゃないのかよ、無効化して欲しかった)
「えぅ、ひっく、これはもう仕方がないのじゃ。ひぐっ、我が家の作法に則り、浮気者には処罰を与えねばならん」
「はい、厳罰に処します。慈悲はありません」
「…マジ?」
この世界でなんとか生きていける様になったのに、こんな形で詰むとは思わなかった




