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次の日、しっかりとマリアに教わったシンシアはサラと家賃の話をしていた
「これでは多すぎじゃ、このくらいで良い」
「いえ、安すぎです。これだけは払います」
俺の知ってる家賃交渉とまるで逆の展開だ
相手を思いやる気持ちによる激しい攻防
「やさしいせかい…」
「微笑ましいのは事実ですが、埓が明きません。そろそろ出番ですよ」
「そうだな」
俺は椅子から立ち上がり二人に近づく
「タツキも言ってやるのじゃ。サラは払い過ぎじゃと」
「シンシア様は相場を無視しています。ここは譲れません」
双方から同意を求められるが、俺の心は決まっている
「俺も一晩考えたんだけど、家賃は無料でいいだろ」
「…まあ儂はそれで構わんな」
「いやいや!ダメですよ!タツキさん何言ってるんですか?」
サラには昨日の話の中でタツキ『様』は恥ずかしいと伝えてあるので敬称が変わっている
マリアの場合は抑揚の無い呼び方なので問題無いのだ
「そもそもシンシアにとって金はあまり価値が無い。他のモノを家賃代わりに出すべきだ」
「おお、さすがタツキじゃ。よくわかっておる」
「代わるものですか?」
「人形劇関係の事とかだな」
「そうじゃな、手伝いがいると助かるのう」
「例えばもう1人くらいゴーレムを操れるとかどうだ?」
「うむうむ、もう1人か2人操る者がおると良いのう。できる事が格段に増える」
「あとセリフを分担するとか?」
「敵と味方、男と女、子供に老人などセリフを一人ではやるのが大変じゃからな。それも良いのう」
「楽器を演奏する者はどうだ?喜びの曲や悲しみの曲、恋の曲に戦いの曲。場面で変われば臨場感がでるぞ」
「おお!曲が加わるのは良いな!」
「後は舞台や背景、小道具を用意する係とかな。裏方だがかなり技術が求められる。職人の分野でもあるからな」
「背景か!なるほどそれも良いでないか!聞けばどれも欲しくなるのう」
「と言う感じでシンシアには金よりよほど価値がありそうだぞ?」
「確かにそのようですが、まさか…」
「そう。人手ならあるだろう、子供たちの出番だ」
まずシンシアが子供たちの魔力特性を見る
一人ずば抜けた才能の子供がいた
獣人ばかりの孤児の中で一人だけ獣耳のない子供、イブだ
「イブは魔族の先祖返りじゃな。両親は人間らしいが祖先に魔族がおるのじゃろう、その血が色濃くでたのじゃ」
シンシアは前から気づいていたらしく、驚く様子も無い
イブは6歳くらいの見た目だがもう12歳だそうで、孤児院の中でも年長の方なのだ
成長の遅さを気味悪がられ、去年サラの孤児院の前に捨てられていたらしい
「魔族は成長が遅い者が多いからな。儂は違うぞ、故あってこの形で過ごしておるのじゃ。実際は妖艶で見事な体を…」
「はいはい」
「お主、信じておらんな?」
「イブ、シンシアの人形劇を手伝ってくれないか?シンシアの様に操れる可能性があるのは、孤児院の中だとイブだけらしい」
「あ、あたしが?うん、やる、あたし頑張る!」
イブは胸の前で両手を握り嬉しそうに答える
「うむ、簡単なのから始めるのでな、安心するのじゃ」
「はい、おねー…えーと、師匠!」
「し、師匠…儂が、師匠」
シンシアが師匠の響きに感動していた
「楽器は笛と太鼓あたりかな、街で買ってこないと今は無いが」
「その二つがあるだけでかなり違うと思うぞ、楽しみなのじゃ」
「この中で笛を吹いた事がある人は?」
子供たちの中の3人が手を挙げる
「なら残りは太鼓なんかの打楽器だな」
「この中でままごとや勇者ごっこをよくやる人は?」
大半の子供が手を挙げる
「結構いるな、セリフ読みをやりたい子供は後で集まってもらうから」
「絵が好きだったり何かを作るのが好きな人は?」
これも結構な人数が手を挙げた
「シンシア様が近くにいるので子供たちは人形劇に関わりたかったようです。こちらとしては願った叶ったりなんですけど、本当にいいんでしょうか?」
サラが若干申し訳無さそうにしている
「そこは気にしないで欲しいな。こっちもシンシアの趣味に付き合って貰ってるし、子供たちにも役割があるほうが生活に張りが出るだろ」
「はい、とても良い経験になりますし」
子供たちは全部で25人いて、年齢は3歳から14歳まで平均的にばらけていた
年齢が高い子供が中心になって楽器、セリフ、美術に分かれる
余裕があるなら重複しても良いし、専念してもいい
大事なのは楽しんでやる事だ
意外な事にサラも笛を吹けたので楽器組の指導を任せた
シンシアがイブのゴーレム操作の指導とセリフ組の指導を兼任
マリアが美術組の指導だ
「私は絵が上手いわけでもないですし、物作りも裁縫くらいしか得意ではありませんが…」
「形になればいいんだ。観客は子供だからリアルなのよりも子供目線の方が受けが良いかも知れない」
「それでしたらお任せください。しかしそれならタツキ様ではダメなのですか?調薬作業でお忙しいとは思いますが」
「形にならないとダメなんだよ…俺はダメなんだ」
「…むしろどのようなものか気になってしまいました」
マリアが珍しく懇願するので試しに犬を描いてみたら、無表情のまま小一時間笑われた
「私の宝にします」
「ほんとヤメて」
後でサラとシンシアにも見つかって散々笑われて酷い目にあった
それから楽器や錬金道具を買いにサラとメティスへ向かう
シンシアはイブにゴーレム操作の指南をすると息巻いていたので置いてきた
「わーーーー!はやいですねーー!」
サラはカルポの速さに驚いているが、俺は俺で背中に感じる柔らかさに内心穏やかでは無い
だが操縦に集中しないと危ないので、意識を手綱へ向ける
「まだカルポは全力じゃないんだ、シンシアならもっと速く駆けさせるんだが」
「それなら私の足より速いかも知れません。さすがシンシア様の作ったゴーレムです」
(このくらいなら自分でも走れると?やっぱりコイツヤバイ奴だな…)
しばらく胸の感触を忘れてドン引きしていた
メティスへ着いたのでカルポをいつもの場所へ繋ぐ
「ところで楽器はどこに売っているんだ?」
「木工の工芸店ですね。知ってる店が何軒かあるので案内しますよ」
「ああ、頼む」
サラの案内で大通りを外れ、裏路地の方へ歩いて行く
「サラはいつ笛を覚えたんだ?」
「16くらいですかね?聖女候補の派閥争いでいろいろと精神的に辛い時に、たまたま店で笛をみかけまして。衝動買いをして何となく吹いてみたのがきっかけでした」
「よほど面倒に巻き込まれたんだな」
「はい、修行の方が楽でしたね」
毎回骨折や吐血する修行よりも派閥争いの方が辛いとは思えないが、本人がそう言うならわざわざ否定する事もない
(俺は絶対に修行の方が嫌だわ…)




