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「え?わ、私が依頼を受けるんですか?」
サラは驚いて目を白黒させている
「ここでサラが受けた事にしておけばこちらは安心だ。暗殺者がどんな手段を用いるかわからないから、雇えないならそれが一番いい。向こうはどうせサラのせいにする予定だったし、他になり手が無いなら一石二鳥だろ」
「まあ、確かに…」
「あの男の今いる場所はここから近いか?」
「そうですね、走ればすぐです」
「なら接触してきてくれ。成功報酬と言う事にして、金額はこのサインだ」
俺はあの男が何度も使う指のサインを教えた
「はい、では行ってきます」
しばらくして戻ったサラは嬉しそうに報告してくる
「上手くいきました!」
「ああ、フィーを通して見ていたよ」
「サラなら上手くやると思っておったぞ」
「いやお前すげぇハラハラしてたろ」
「…そうじゃったかのう」
「すいません、ご心配おかけしました」
例の怪しい男はサラの接触にかなり驚いた様子だった
暗殺者を探している事や提示する金額を把握してた事から、サラを侮れないと判断したようだ
何より成功報酬が効いた
仮にサラが失敗しても男にデメリットが無い
運良く相討ちにでもなれば、報酬を横取りすらできる
最悪、この金を持って他の街へ逃げてもいい
どうせこの先、空瓶屋は落ち目だ
「なんて事を呟いてるぞ」
「欲深で金の切れ目が縁の切れ目、と言うヤツじゃな」
「この後の事を考えると、その方が楽で良い。忠義に厚いタイプだとむしろ困る」
「あの様な男に忠臣など仕えぬだろうよ」
「しかしサラもなかなか役者じゃないか。『私には金が必要なのです』って言った時の表情は真に迫るモノがあったぞ」
「いえ、あれは演技ではないです。ここ数年ずっとお金の事を考えて生きていましたから」
シンシアが援助するまで孤児院の経営はかなり逼迫していた
サラの金を求める気持ちが嘘偽りの無いものだったから、あの怪しい男もひとまず信用したのだろう
「さて、明日は早くから動く事になる。もう休んで備えよう。ただ、俺はあの見張りの男に会って来る」
「何のためにじゃ?」
「少し頼み事をな。フィーがいるから居場所も分かるし、すぐに戻るよ」
早朝、孤児院の子供たちを馬車に乗せて魔の森工房へ向かう
サラが暗殺やゴーレム対策として子供たちを囮に使う様な事を匂わせたので、空瓶屋の者達を多少は欺けたようだ
子供たちを送った後は護衛として工房にシンシアが残っている
俺とサラは再び孤児院へ戻り、使える家具をできる限り積んでいく
念のためついてきたが、サラ一人でほとんど運べるので俺はまるで役に立っていない
工房の方には昨日からマリアに簡単な広い小屋を建ててもらっていて、そこが仮の孤児院になる
そうして昼頃には孤児院の引っ越しは全て終わった
見張りの男に解毒剤に見立てた適当なポーションを渡し、お役御免を言い渡す
「また何かあったらよろしくな、見かけたら声をかけるよ」
「あ、はい、また…」
こう言えばこの男もメティスから離れるだろう
例の怪しい男にはフィーをつけていたが、サラが寝返った事をいち早く察知し、既にメティスから逃げ出した事を確認してある
俺はシンシアと2人でカルポに乗りメティスに向かっていた
「あの怪しい男はもうメティスには怖くて近寄れないって言ってたから、まあ大丈夫だな」
「裏稼業にも通すべき筋があるのじゃろう。不義理をした者には報いもあり、戻ったところでロクな目に合わんのじゃろうな」
「これで残るは空瓶屋の主だけだ」
「なあ、お主よ。奴を潰しても他の者が取って代わるだけでは無いのか?」
「空瓶屋は継ぐ者が出てくるだろうな、それは好きにさせるさ。こちらの狙いは今後サラを脅して手駒にする事を防ぐ事。後は俺達に手を出したら誰であろうと身を滅ぼすって事が、メティスで周知されればそれでいい」
「ふむ、それもそうじゃな」
「若い錬金術師が借金漬けで働かされてるとかは本当なら気の毒な話だが、俺は正義の味方じゃないしな。真偽を確かめて彼らを救い出す、とかまでは荷が重いよ。空瓶屋自体は既にメティスの経済基盤に組み込まれているんだし、下手に手を出したくない」
「確かにな。しわ寄せでこれ以上工房が忙しくなると、また倒れんとも限らんしな」
「そう言う事」
そんな話をしている内にメティスへ到着する
「さて、どうなるかな」
「おい、どう言う事だ!」
空瓶屋の主はサラが裏切ったと報告を受け、こめかみに青筋をたてて怒鳴っている
「は、はい、馬車に子供や荷物を載せて、何食わぬ顔で引っ越して行きました」
「どこへだ?」
「魔の森工房だそうです」
「孤児院を引っ越し…ゴーレム対策とか言う話は嘘か!見張りにつけてた野郎はどうした?」
「それが、朝にここで見た者はいますが、昼過ぎから誰も見てないそうで…」
「クソッ、おい!あの男はどうした?スラムへ渡りをつけていた奴は?」
「いつもの所にはいないそうです。ただ…」
「ただ、なんだ?」
「西門の方で見かけたと言っている者が数人おります」
西門は魔の森工房とは真逆の方向にある
あれから誰かを雇ったとの報告も受けていない
「西…まさか依頼用の金を持って逃げた?」
あの男とは長い付き合いで、もう何年も荒事を任せていた
「俺を…見限っただと…?」
サラの裏切りや部下の行方不明などよりも、あの男に見限られた事の方がショックである
奴は金の匂いに敏感な男でもあった
「この俺が落ち目だとでも言うのか?あの野郎、ふざけやがって!」
空瓶屋の主はテーブルの上のものを腕で払い落とし、愛用のグラスを投げつける
壁に当たったグラスは甲高い音を立てて砕けた
「ひぃ!」
報告にきた部下は身を竦ませて主が暴れるのを眺めるだけだった
「はぁ、はぁ、クソッ、あの野郎…舐めやがって…」
ひとしきり暴れた後、気がつくと部下はいなかった
「喉が…」
棚から酒を取り出して蓋を開け、瓶のまま飲み始める
「チッ、…どいつもこいつも…役に立たねぇ奴らばかりだ」
腹の立つ事が多すぎるからか、酒を勢いよく飲んでいた
「魔の…森の…奴ら…め…今に…見て…ろ」
完全に目が据わり、座っているのに体が左右に揺れている
それでも酒を飲む手は止まらない
何度か瓶を呷った後、ゴトッと音がして手にしていた空の酒瓶が床に落ちる
「……うぅ……あ……」
そう呻きながら空瓶屋の主はテーブルに突っ伏してしまった




