26
「いつもありがとうございます」
孤児院の院長、サラがこちらへ来て頭を下げた
「いえ、いいんですよ。こちらが好きでやってる事です」
「そうじゃぞ。人形劇は観客があって初めて成り立つ。儂の劇に子供らは欠かせぬでな」
「それでも本当に助かっています。おかげで子供たちも以前より元気いっぱいで」
「そのようじゃな、実に良い事じゃ」
「あの…そちらの方は?」
「おお、まだ言って無かったのう。儂のゴーレムじゃ、マリアと言う」
「お初にお目にかかります、マリアと申します」
マリアが丁寧に礼をする
「あ、こ、こちらこそ、名乗るのか遅れまして。サラと申します。えと、ゴーレムなんですか?とてもそうは見えませんが…」
「シンシアは腕利きのゴーレムマスターなんだ。マリアはほんと、人と見分けがつかないからな」
「ふふふ、そうじゃろう。マリアは初めて作ったゴーレムじゃから、かなり手が込んでおる。とは言え今は仮の体だがのう」
「これで仮の体なんですか?信じられません。シンシア様は本当にすごいんですねぇ」
サラが手放しで褒めているからシンシアがすごい角度で踏ん反り返っている
このままではゴーレムの講釈が始まって面倒なので話しの腰を折った
「次は4日後に伺います。ただ俺たちは明後日までメティスで観光していますから、どこかでまた会うかも知れないですね」
「そうなんですか、スラムの案内ならできますが…しない方がいいですよね?」
「その方が良さそうです」
俺は苦笑しながら答える
この孤児院はスラムの入り口にあり、治安の良いとこではない
ここより奥はあまり立ち入るべきでは無いだろう
そうして日の高い内に孤児院を離れた
その後はまず宿を確保して、それから再び3人でメティス観光を続ける
大通りの店を全て見終わった頃にはすっかり日が沈んでいた
「晩飯はどうしようか?宿には食堂もあったけど…」
「今日は少し疲れたのう。宿で食べて早う寝たいのじゃ」
シンシアがはしゃぎ過ぎたのか疲れ切っていたので、観光初日は早々に休む事にした
次の日は朝早くからメティス中の店を回る
シンシアの欲しかった物語の本やマリアの希望した鏡も予算内で買えた
問題は俺の欲しかった錬金道具が全く手に入らない事だ
錬金道具を扱う店はいくつかあったが、先約があるとか、これは商品では無いとか、無理矢理な理由をつけて売ってくれなかった
ある店など、俺たちを見るや否や慌てて店仕舞いする始末だ
「…これどう思う?」
「明らかに何者かの意図を感じますね」
「いくらなんでも酷過ぎるのじゃ…」
思い当たる節がないわけでは無い
答え合わせの意味を込めていつもの魔法薬店へ行く
「どうやらお前さんはすっかり目をつけられた様じゃな」
と老店主が教えてくれた
「この街に魔法薬店は数多くあるが、大きく2つに分けられる。薬瓶を自分で作る店と空瓶屋から仕入れる店じゃ。もちろんここでは儂が作っておる」
そう言って老店主はクリエイトポーションを発動して小瓶を作る
「お主も知っての通り、これには少々コツが要るのでな。慣れるまでは形が安定せずに蓋が外れやすかったり、割れやすかったりと商品にならぬ事が多い。儂くらいになれば瓶を見ただけでも推し量れるものがある」
初めてここに来た時に俺のポーションを高く評価してくれていたのも、瓶の造りから察したようだ
「確かにそうですね、初めの頃は魔力の消費も無駄が多くて数を作れませんでしたし」
「魔法学校で調薬の理論は学べる。しかし薬瓶を上手く効率よく作るには、とにかく数を作って腕を磨かねばならん。実に地道な作業じゃ」
そこで、と老店主は続ける
「ひと昔前に瓶だけを大量に作って安く売る空瓶屋が現れてな。何年もかけて規模を大きくしていき、今ではこの街の大半の魔法薬店はその店が牛耳っておる」
「なるほど、その空瓶を仕入れている店は、急に仕入れを止められると自前で用意できないのですね」
「普段から自分で作っとらんからな。なので魔法薬店と繋がりの深い、錬金道具を扱う店にもかなり影響力がある。そちらからお主に売るなと圧力がかけられたのじゃろう。お主の工房に多くの客を取られた腹いせじゃな」
「そこまで客を取るつもりでは無かったんですが、向こうには分からない事ですからね。教えて頂きありがとうございます」
「良い良い、儂もあの連中は好かんのでな。しかし、悪い噂もあるから気をつけるのじゃぞ」
「噂とは?」
「若い錬金術師を罠に嵌めて借金漬けにして、空瓶作りを強制していると言う話じゃ。スラムなどの裏の者達と繋がっているとも聞く」
老店主に礼を告げ、店を後にする
「だいたい思った通りだったな。正直稼ぎ過ぎたと自分でも思うし」
「自分の所より評判が良いから嫌がらせとは了見の狭い奴らじゃ」
「まぁな。空瓶を売るやり方は面白いけど、それを逆手に取って圧力をかけるのは少しやり過ぎだ」
「してお主よ、どうするのじゃ?」
「どうするかね?」
「なんじゃ、他人事みたいに」
「実際、この程度の嫌がらせなら放置しようかなと思っているしな」
「それで良いのか?」
「空瓶屋を相手にケンカして仮に勝っても、錬金道具が買えるようになるだけ。負けたら最悪工房を失うかも知れない。どう見てもメリットが少ないだろ?」
「しかし、このままではやられっぱなしではないか…」
「タツキ様はマスターの身を案じているのです。争いに巻き込みたくないのですよ」
「そうなのか…しかしのう。身を案じてくれるのは嬉しいのじゃが…」
理屈は分かるが気持ちが納得できないようだ
その後はシンシアのテンションもすっかり下がってしまい、俺やマリアも観光気分ではなくなってしまった
仕方ないので観光の日程を早めて昼前に工房へ帰る事にした
予定よりかなり早く帰ってきたので、シンシアを工房へ送ってからマリアと2人でオバケウルシの群生地へ向かった
今回はシンシアも大人しく留守番をしていると言う
しばらくオバケウルシを狩り、前回より大量に素材を手に入れた
「手伝って貰って助かるよ。さすがに一人では危険だしな」
「このくらいなんて事ありません。メティスではいろいろと買って頂きましたから」
「マリアには店番もして貰う事が多いし、あれはお礼の意味で買ったから気にしなくていいのに」
などと話しながら帰る
工房の近くまで来た時、フィーが警戒を知らせてきた
「…マリア急ぐぞ、しっかり掴まれ」
「何かありましたか?」
「おそらく工房が襲われている」
「…それは心配ですね」
「ああ、シンシアが無事なら良いんだが…」
「いえ襲撃している方が、です」
「どう言う事だ?」
「見れば分かりますよ。今はカルポを操るのに集中してください。マスターなら大丈夫ですから」
「…よくわからないがマリアを信じよう」
そうは言っても俺は手綱を握る手を緩める事はできなかった




