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ポーション販売を始めた次の日、冒険者が大挙して現れた
彼らの目当ては麻痺耐性薬だ
予想を遥かに超える売れ行きに嬉しい悲鳴ではあるが、一つ忘れていた事がある
「工房の名前、全然決めて無かった」
「お主普段は驚く程頭が回るのに、たまにあり得ないところで抜けてるのう」
「ぐうの音もでねぇ…」
ポーションを買っていく冒険者に聞かれるまで、まるで頭に無かったのだ
「適当につけるのもアレだしな、とは言えもう商売を始めちゃったから名無しのままなのも困るし、どうしよう」
錬金釜で麻痺耐性薬を作りながら考える
以前はクリエイトポーションで材料から1つずつ細々と作っていたが、飛ぶように売れるのでまとめて作る事にした
スキル発動時に近くにある対象やインベントリの中の物を選択するように強くイメージすると、液体限定で充填できる
他にも色々試したが、クリエイトポーションは割と応用が効くスキルだ
これにより必要な魔力は瓶の分だけで済み、かなり節約できるので生産力が上がる
魔力回復ポーションはかなり手間がかかる上に、材料もレアなものばかりなので普段使いはできない
基本的に自然回復しか魔力の回復方法が無かった
「シンシア、何かいい名前ないか?」
俺は錬金釜をかき混ぜながら尋ねる
シンシアは近くのテーブルで、マリアの作った焼き菓子を食べながら優雅にティータイムを過ごしていた
「タツキ工房で良いのではないか?」
「やだよ、自分の名前が広まるのは恥ずかしいだろ」
「そんなものかのう…では人形館工房はどうじゃ?」
「人形館閉鎖して人形館工房ができるとかややこしいわ。それに人形は扱ってないだろ」
「むう、聞かれたから答えてやったのに文句ばかりじゃのう。少しはお主も考えんか、自分の工房じゃぞ」
「昨日からずっと考えてるけどいいのが思いつかないんだよ。作業しながらだと他の事考える余裕もあまり無いし」
そう言いながらも錬金釜に材料の薬草や一角兎の角の粉末を入れ、さらにかき混ぜる
「魔の森工房などはいかがでしょう?」
シンシアのそばに控えるマリアが提案する
「ふむ、悪くないな。場所を名前に使うのは定番だし。魔の文字があるから少し印象が良くない気もするが、逆になんか凄そうな感じもある。さすがマリアだ、ここぞと言う時に役に立つ」
「ありがとうございます」
「お主それは少し褒め過ぎであろう?ここの名前をつけただけではないか。それに儂は役に立たぬとでも?」
軽く一礼をしたマリアを横目で見ながらシンシアが絡んできた
「お前の作ったマリアの手柄は、言うなればお前の手柄だろう。つまりシンシアがすごい」
「うむうむ!そうじゃな!」
俺の詭弁に満足した主人にマリアが憐みの目線を向けるが、見なかった事にする
「メティスあたりで同じ名前の工房が無いなら魔の森工房で決めたいけど、一度調べないとな」
「魔の森に最寄りの街は確かにメティスじゃが、人の足では半日近くかかるぞ。そんな場所の名前を付ける者がメティスにいるかのう?」
「前にいた世界では小さな街の施設に大きな隣街の名前をつけたりした例があって、それを知ってるからなぁ。心配し過ぎかな」
「なんじゃそれ?どこにある施設か分からんではないか」
「そうなんだけども、それでまかり通ってるしね。それに大きな街の名前がついてると箔が付くし」
「なるほどな、それなら分かる気もするのう」
と言う感じで俺の店名は『魔の森工房』を採用、後日メティスで調べたが同名の工房は無かったので正式に決定した
開店から一週間、麻痺耐性薬の人気は高いが、さすがに一通り行き渡ったようで落ち着いてきた
例の老店主も耐性薬の開発に成功したようで、数は少ないがメティスでも買えるのが影響したらしい
そして今度は普通の回復用ポーションが売り上げを伸ばしている
回復効果もきちんと評価されているが、容器が人気の理由らしい
瓶に関しては全て俺のスキルで作っているのだが、瓶が割れない、蓋が外れない、封を切ってもすぐには効果が下がらないと、冒険者に受けが良い
(それ最低限なところじゃないのか?まぁ人気なのはいい事だけど…)
そんな感じで魔の森工房のポーション販売は順調な滑り出しで始まったのだ
「さて、そろそろ次の薬を作りたい」
夕食を済ませ、まったりしていたところで話を始める
「次の薬とは?」
「他のモンスターの状態異常の耐性薬だ。他の錬金術工房が麻痺耐性薬をヒントに作り出す可能性がある。そのに前に売り出したい」
「なるほど、人気に胡座をかかぬ攻めの経営と言うヤツじゃな」
「お前どこでそんな言葉覚えたんだよ。合ってるけどさ」
「儂はこう見えてお主よりもかなり長く生きておる。舐めるでないわ」
「人形劇で顔馴染みになった屋台の主人に経営のコツを聞いたそうです。タツキ様のお役に立てればと」
食後の紅茶を配りながらマリアがサラッと言う
「マリアー!なんですぐバラすのじゃ!」
「年寄りアピールより、健気さを示した方が効果的かと」
「そうなのか?しかし年上の余裕ある姿も見せたいのじゃが…」
「そう言う事を考える時点で年上の余裕も何も無い事に気づいてください」
(実際マリアのおかげでシンシアの事を見直したけど、面白いから言わないでおこう)
いつもの主従漫才を眺めながら再び話を始める
「話を戻すけど、他の耐性薬を作るにあたり問題が一つ」
「なんじゃ?」
「薬を売るのが忙しくなってマリアの負担が増えると予想される。現状で想定より忙しいし」
「…そうじゃな、儂は劇の方で手一杯じゃし」
「私の方は問題ありません。以前とは違い仮の体ですが、この程度ならまだ余裕があります。昔に比べて管理する家も広くありませんし、マスターも手が掛からないので」
「なんじゃ、儂はそんなに手が掛かっておったかのう?」
シンシアはご立腹の様だ
「ええ、それはもう。ただ、タツキ様の前でお話してもよろしいのですか?全自動着替え用ゴーレムの話などはさすがに私でも憚られますが…」
「儂が悪かったのじゃ!あの事は内密に頼む…」
シンシアのライフはゼロの様だ
大体予想できるが気になる話ではある
残念ながら闇に葬られたようだが、あとで蒸し返してみよう
「なら次の薬作りを始めるか。モンスターの目星はつけてあるんだ」
「なんと言うモンスターじゃ?」
「魔の森で一角兎と並んで厄介なモンスター、オバケウルシだ」




