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気がつけば後ろへ見覚えのある少女が立っていた
「て、てめぇ…」
背中に冷や汗を流しながら、それでも睨みをきかせて振り返る
「儂の工房への最初の客人じゃ。遠慮するでないぞ、ゆっくりしていくが良い」
「俺の手下に何をしやがった!」
親分が分厚い長剣を構えながら聞いてくる
「何、少し眠ってもらっておるだけじゃ。場合によっては永い眠りになるがのう」
「ふざけた事をぬかしやがって!オラァ!」
そのまま踏み出して剣を振り下ろす
少女は臆する事なく掌で受けるように腕を伸ばした
ガギン!
鈍い音と共に剣は半ばで折れ、近くの地面に回転しながら欠けた剣の切先が落ちる
「う、うわーーー化け物ーーー!」
折れた剣を捨てて親分が逃げ出した
「その言い分は酷いのう…化け物などと…」
剣では与えれ無かったダメージを精神的に食らわせた事を、親分は知る由もない
暗い森の中を親分が一人で走る
(チクショー、どうしてこんな事に…一体何が…)
一攫千金で成り上がるはずが、手下を見捨てて一人で逃げ帰る事になるなんて…
突入した手下は音も無く倒れていた
殺されたのかも知れない
逃げ道を塞ぐ様に現れた巨大なゴーレム、あんなものを見たのは初めてだった
そして人形館の主、魔族の少女
素手で剣を折るなんて聞いてない
いかに魔族とは言え、そんな芸当簡単には出来ないだろう
街で見かけた時はただのガキに見えたが、相当な実力を持つ恐るべき存在だったのだ
(クソッ、これじゃあ街にもいられん…しかしまずは生きて帰らんとな…もう少しだ…)
やっと街道が見えて来たあたりで急に意識が飛んだ
それから目を覚ました後の事は朧気にしか覚えていない
あれは悪夢、そう夢だ
あんな地獄の様な事は現実では無い
あれは夢なのだ………
「おかえりなさいませマスター、タツキ様」
「うむ、今戻ったぞ」
「ああ、ただいま」
襲撃を受けた次の日、即席の馬車に乗せた侵入者達をカルポで引いてメティスまで連れて行った
馬車はとにかく頑丈に作っただけで乗り心地は最悪、しかもシンシアがカルポを荒馬のように走らせたので侵入者達は酷い有様だった
全身しっかりと席に縄で固定していので怪我人はいないが、全員が吐瀉物に塗れており、まさに地獄絵図だった
そのまま大通りを闊歩してギルドへ送り届けると今度はギルドマスターが出迎えてくれたが、馬車の様子を見た時はさすがに絶句していた
全員生きており怪我も治してあると伝え、今後このような事が無いようにとだけ告げて帰ってきた
「しかしタツキはなかなかなエグい事をするのう。親分なんぞはあと一歩で精神的にお終いと言う所まできていたと思うぞ」
「やたらとタフだったから逆に無茶しちゃったよ、いや〜うっかりうっかり。別に私怨があったワケじゃないんだよ。ホントダヨ」
「私が侵入者に同情する日がくるとは…世の中わからないものですね」
侵入者達は全員捕獲してタツキの研究に協力してもらってからメティスへ送った
要は人体実験である
様々な種類の毒を用いて、どのくらいの量でどれほどのダメージを受けるか、解毒剤はどう効くのか、効き目の長さはどうなのか、などを20人で比較実験した
しっかりと解毒し、ポーションも惜しみなく使ったので肉体的には全回復状態だ
「保険として殺しても不問にってしたけど、別に殺したいワケじゃないしね。こうして得たデータは薬学的なすごい役に立つから、彼らも人助けになったときっと喜んでるよ、うん」
「ふふ、本音は?」
「押し込み強盗する様な奴らには死ぬよりも辛い苦しみを与えてやる。どうせこっちを皆殺しにする予定だったんだろうし。殺さなかったのは此処にケンカを売る奴は酷い目にあうっていう見せしめだ。実験データはかなり役に立つけどね」
「ふふふっ、お主も割と過激じゃのう」
そう言いながら、シンシアは嬉しそうだ
「なんだかお前ご機嫌だな」
「タツキ様が自分の為に憤っている事を喜んでいるんですよ。よかったですね、マスター」
「な!マリア、何を!」
「しかしタツキ様の睡眠薬はすごい効き目でしたね。押し入ってきた者達が、バタバタと倒れた時は驚きました」
「確かにな。あと逃げる親分はどうやって眠らせたのじゃ?スリングで投げていたが、当たったら死ぬじゃろ、あれ」
「ああ、あれな。クリエイトポーションで小瓶を作る時に必要最小限の魔力だけで作ると、投げて数秒で瓶だけ消えるんだ」
「瓶だけ消えるじゃと?」
「そう。だから狙った場所に中身だけをかける事が出来る。この睡眠薬は揮発性が高いからすぐに気体になって鼻や口から吸引されたんだ」
「普通は飲ませねば効果が無いのにすごいのう」
「………夜更かしをするマスターのお部屋へお持ちしたいですね。タツキ様少し譲って頂けませんか?」
「うん、いいよ」
「よくないわ!儂はあんな気絶するような寝方は嫌じゃ!」
「そう言えばシンシアの防御魔法もすごかったな。まさか親分の剣を折るとはな」
「む、そうじゃろ!あれは儂のとっておきじゃ。無詠唱であの堅さは魔族でもなかなかできる者はおらんぞ」
「魔族は基本的に攻撃魔法に特化しがちですので、防御魔法を極める者が稀なのです」
「なるほどな。でもマイナーな分野でトップに立つのも結構すごいと思うよ」
「そうじゃろう、そうじゃろう。あの他にもな…」
シンシアの防御魔法講座はしばらく続いた
「この度は誠に申し訳ない」
次の日に工房へやってきたギルドマスターは挨拶もそこそこに深々と頭を下げた
隣に座る副代表も同様に頭を下げる
「謝罪は受け取りました、顔を上げてください」
前回の様にタツキが話をする横でシンシアが腕組みをしていた
「それで、今回の被害について弁償したいのですが…」
「入り口の扉に傷がついた程度なので、これといって被害はないですよ。特に必要はありません」
「そうですか、しかしこちらから何もしないと言うワケにも…」
「でしたら街道へ設置してもらう看板について、多少の融通を利かせて貰いたいのですが?」
「…融通とは?」
「現在看板には『人形館閉鎖』の文言を書いて貰う予定ですが、この工房が完成した場合などはその都度情報を更新したいと思います。その際にこちらで看板の内容を変更したいのです」
「なるほど…」
「そしてこの看板がギルドの管轄下にある事をしっかりと明記してあれば、今回の様な事はもう起こらないでしょう。看板への悪戯なども防げるかと」
ギルドマスターと副代表は安堵したように目線を交わし、こちらの提案を快諾してくれた




