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奥の部屋へ通されると改めて話を聞かれた
「それで、何を騒いでいたのですか?」
「魔の森の人形館が冒険者のランク付けの場になっていると聞きました、何故ですか?」
「何故と聞かれましても、あのランクにそもそもギルドは関与しておりません。冒険者達の間で勝手にそう決められているようです」
「しかし受付の方も詳しく知っていましたし、多くの冒険者からも力試しの場所と言う認識の様ですよ」
「それはまあ、冒険者に関連した情報なのである程度は把握していますが。そちらこそ、何故その様な事で騒いでいたのですか?」
「紹介が遅れましたね、こちらはシンシア、人形館の主です。彼女の知らぬ間に人形館が冒険者ランクの査定の場になっていた理由を調べています」
「い、今…なんと…?」
副代表はかなり狼狽している
予想外の反応を見た俺は『10倍速』を発動し、考えを巡らす
(これは…思ったよりこちらが有利なのでは?)
あちこちで聞いた情報から使えそうなモノをピックアップしてみる
(確か魔族でも公的に権利は認められていたはず。シンシアはかなり昔からあそこに住んでたらしいから、冒険者達の不法侵入はありそうだな)
こちらの法律はあまり知らないが、街の外の事に関してはかなり雑な印象だった
(あとはランク査定を冒険者が勝手にやっている事。よく考えたらコレはかなり異常だ。このあたりが狙い目かな…)
ここで『10倍速』を解除、実際の時間は2秒も経ってないはずだ
「ではもう一度、主である彼女の知らぬ間に人形館が査定の場になっていた理由を調べています」
さっき考えていた二点をちらつかせると、副代表は全面降伏したようで、事情を説明してくれた
その昔、ある冒険者達が人形館で度胸試しをした事が始まりらしい
何度か繰り返す内に、彼らは人形館のゴーレムが逃げる者を追わない事に気づく
その話が広まり今あるランクの査定に繋がるそうだ
この辺りで活動する冒険者はほとんどがシルバー級だが、等級が一緒でも強さはピンキリである
そこでシルバー級の中でA〜Cのランク分けして、自分の強さに合ったダンジョンへ潜っていた
当時の世間は魔族に対して風当たりが強かったので、人形館を査定の場とする事が問題視される事も無かった
そしてそのまま現在に至る、と言う事らしい
後で聞いた所、シンシアはシンシアで街に出る事も無く引きこもりの様に暮らしていた為、襲撃の増加に対して多少煩わしいくらいで特に何も思わなかったらしい
ゴーレム達に冒険者を深追いさせない理由は
「死体の処理が面倒じゃ、うっかりアンデットやゴーストにでもなられたらたまったものではない」
との事だった
副代表は考えていた
ギルドが主導したワケでは無いが、冒険者達は個人の家に長年にわたり不法侵入を繰り返していたのだ
現在は魔族に対して友好的な流れがあるため、この話が広まるとギルドや冒険者の印象が悪くなる可能性が高い
そして先日シンシアが珍しく依頼を持ち込んできたが、それを素気無く断っている
前金制度に則ったギルドに非は無いが、シンシアとの関係性も悪化したと
何より冒険者達が自分らでランクのシステムを作り、人形館での査定法を編み出したのはギルドがニーズに合った等級のシステムを用意していなかったためだ
これは冒険者ギルドの怠慢と言っても過言では無く、今ここで対応を誤れば大事になる可能性は高い
その為に副代表はシンシアに全ての情報を開示し、内々に事態を収拾する事に努めた
タツキには知り得ぬ話だが、メティスによる冒険者ギルドの影響はかなり大きく、様々な方向から利益を掠めとろうとする者が後を立たない
知らぬ存ぜぬで押し通した場合、どこからか情報が漏れたりすれば、その厄介な連中に弱味を握られて後々面倒な事になるだろう
本来ならそう言った事はギルドマスターの得意分野なのだが、その厄介な連中を押さえるために今日はギルドから離れている
そのため副代表は滝の様な汗を流して、タツキとやり取りをするしか無かったのだった
「こちらの条件が全て通ってよかったのう」
ギルドから出て大通りを歩くシンシアは上機嫌である
「交渉役は俺に代わっておいて正解だったろ?ああいう時、偉いポジションの者は黙って睨みを利かせるのが一番効果的なんだよ」
「そうじゃな、偉い者は黙して語らずじゃ」
シンシアの素性を明かした時の副代表の動揺は相当なものだった
おそらく交渉事は得意なタイプでは無いのだろう
心象を悪くする事をかなり恐れていたので、楽に話が進んだ
「条件だって大したモノはないからな。金銭的にも負担は少ないし、ギルドの体裁も取り繕えたはずだ」
提示した条件は4つ
ランク査定はギルドが責任を持って引き継ぐ事
『人形館閉鎖』をギルドで大々的に宣伝し、周知させる事
人形館跡地にあるタツキ達の工房に通じる街道にギルドの管轄で『人形館閉鎖』の看板を出す事
今後一年間、タツキ達の工房に敵対行為をした場合、その者を反撃で死亡させたとしても不問にする事
最後の条件はさすがに難色を示されたが、一年と期間を区切った事、殺すのが目的ではなく、そのくらい激しく反撃すると言う意思表示であると伝えて何とか呑んで貰えた
(どこにでも話の通じない奴はいるからな。数人を血祭りにあげれば、その後は平和になるだろう)
ちなみにタツキはテーベ村にいた時に何度か盗賊や山賊の襲撃を受けて、村人達と返り討ちにしている
正当防衛だが何度も人は殺しているので、鉄火場には慣れていた
殺らねば殺られるのがこの世界なので、今となってはそこに逡巡は無い
「さて、一番の面倒事は済ませたし、買い物でもいくか?予算も増えたし」
インベントリの瓦礫リストから幾らかの現金を見つけていたので、今回は買い物も予定していた
その上ギルドを去る際に、副代表からせめて足代だけでもと金貨を数枚渡されたのだ
「予算に余裕があるの良いな!しかし儂は小腹も空いたぞ。なんぞ食べたいのう」
「じゃあ少し早いが昼飯にしようか」
「何を食べようかのう、楽しみじゃのう」
シンシアが嬉しそうだし、今日は多少散財してもいいだろう
マリアへのお土産に何枚か布を買って帰ると大層喜ばれた
「マスター、タツキ様、ありがとうございます。この柄は初めて見ますね。こっちの方の色合いもなかなかです。あら、この肌触り、素材は何を…」
無表情だが明らかに見た事の無いテンションではしゃいでいた
「な?儂の言う通りじゃろう?マリアは服作りが趣味なのじゃ。儂の服はほとんどマリアが作ったものじゃぞ」
「あれが全部手作りか、マリアの腕前は相当だな」
普段着ているゴスロリはかなり手が込んでいるし、昨日街へ行くとき着たのも落ち着いた感じだったが、よく見るとかなり丁寧に作られていた
「と言うか、シンシアの好みであのデザインを選んでたワケじゃないのか?」
「儂は着心地が良ければ何でも良いのじゃ。あれは暇を持て余したマリアの趣味が行き着いた結果じゃな」
「街で売ったら人気が出そうだな」
「技術はあるしデザインも良いからのう。しかし無理じゃな、マリアは儂の服しか作らぬ」
「いえ別にマスター以外の方の服も作りますよ?むしろ作りたいですけど?タツキ様のもぜひ作ってみたいです」
「え…」
地味にマリアがショックを受けている
「デザインや色をシンプルにしてくれるなら、俺もお願いしたいな」
「お任せください、実はもう何パターンか考えてありまして。では失礼して」
そう言うと俺の体のサイズを手早く測っていた
「マリア…儂にしか作らんのでは?」
「以前からゴーレム達の服も全部作っておりましたが?」
「…そう言えばそうじゃったな」
納得しながらもシンシアは少ししょんぼりしていた




