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14、ローザ、聖女を偽る



 土下座。

 誠心誠意真心を込めた、最大級の謝罪。

 掌を八の字にして地面につけて、額もガッツリくっつけます。

 ああ。草の匂いがかぐわしい。

 きっとドレスは砂まみれの草まみれ。

 髪の毛も顔も汚れに汚れて、大変悲惨なことになっているのだろう。

 ああ、だがしかし、だからと言って、私の目の前に立ち仁王様と化している相手の怒気は、微塵も揺るがないのです。


「申し訳ございませんでした!」


 叫ぶように謝罪する。

 心の底から相手に申し訳ないと思うとき、自然とヒトは頭を下げるものなのよ?

 そんなことを言ったのはいったい誰だったのでしょう。

 ついでに、どんなにひどく怒らせた相手でも、許してもらえる裏技的なやつが、カスカスの脳内から捻り出せないものだろうか?

 うん。むりっぽ。

 特にいい方法も思い付かず、ひたすら頭を下げ続けることくらいしか出来ません。


「顔をあげて、ローザ」


 とてとてと、近づいてきたキースがしゃがみこみ、私の両手を握りしめる。


 そろそろと顔をあげると、優しげに笑うキースの顔があった。


「……きーす」


 もしかして許してくれるの?と、甘い考えがちらりと頭を過り。


「どうしてあんなことをしたの」


 微かな希望は全力で走り去っていきました。

 ああっ。お待ちになって希望さん!と白いハンカチを握りしめ、さながら舞台の真ん中で絶望に打ちひしがれる女優気分……とか、ふざけてる場合ではないですね、はい。


 キースの笑顔が大変素敵に怖いです。

 もうね、質問口調でしたが、命令だよコレは。

 話せや、と、彼の背後で渦巻いているなにかが副音声で命令してくるよーです。そんな風に感じまして。


「……えーと……それは、デス、ね」


 思いっきり目が泳ぎます。

 はい、ローザはピンチなのです。


 スキルの確認です、なんて口が裂けても言えないですよねー?


 この世界にスキルの認識があろうが無かろうが【パーフェクトガード】とか【オールクリーン】なんてぶっ壊れスキルが存在しているとは思えないよね。

 ゲームの知識で申し上げますと、防御力を上げる魔法はあるが、ダメージを無効にすることは出来ませんでした。

 ステータス異常も同じく、耐性を上げる手段はあっても、無効化することは不可能だった。

 

 物理攻撃も魔法攻撃も毒とか麻痺なんかも効かない存在。

 そんな危険極まりないものがそこらじゅうにウヨウヨしている世界なんて、ぶっちゃけ嫌だろう。

 仮にソレが人類(でいいのかな、人族?)の敵だった場合、どーやって倒すんだよ。



 例えばだ、全員で押さえつけて水の中に突っ込んで水死とか?コレって物理攻撃にカウントされるのかな。

 あーでも、命を奪うために『捕縛』するなら、もうそこには立派に殺意が含まれるよね?


 そもそもだ、人……族でいいか……の敵になった存在をそんなに簡単に捕まえられるの?

 仮に私がその『敵』であった場合、物理攻撃も魔法攻撃も怖くないし、ステータス異常を怖がる必要もないから【イミテーション】で色んな人の能力を真似て、相手の弱点をついて、ばっさばっさと斬り捨て、どんどん魔法でぶっ飛ばすね。

 ヤヴェ、もしや私、チートってやつじゃないですか?


「ローザ、きいてる?」 


「ひっ!ご、ごごごめんなさい!ごめんなさい!マジで調子に乗りました!」


 もう二度としません!だから許してキースさんんんんっ!

 



 さてさて、異世界転生モノのライトノベルじゃお約束ですが、異質すぎる能力はトラブルの元ですよね。

 平凡人生を歩みたければ、強すぎる能力は隠蔽しましょう。そーしましょー。


 もちろん平凡な人生を歩めるとは微塵も思っておりませんけどね、ちくせぅ。

 しかーし!死亡エンドルート回避だけでお腹一杯なのでこれ以上の厄介事は丁重にお断りしたいのであります!

 そんなわけで、ローザのブッ壊れスキルについては、全力で隠すことにして、だ……どうやって、キースの尋問から逃げ切ろう。


 散々悩んだ末、私が出した結論は。


「大精霊のお告げがあったの!」


 ドン引きされました。

 キース、ではなく、失礼男にだ。


 なぁ、お前の姉さん、正気か?とかなんとか、めちゃ失礼な暴言か聞こえた気がするが、無視だ無視。

 モブに構ってる余裕はない。

 私は正座したまま、真っ直ぐにキースを見上げた。

 

 ゲームのシナリオだの死亡エンドだの説明したところで理解されるとは思わない。

 下手すれば軟禁コース。

 だけど、木の上から飛び降りるという奇行の理由を、彼らが納得出来るものにしなければ、このピンチからの脱出も不可能だ。


 この世界のルールに則って、奇行の理由を説明する。

 誰もが納得できる理由。いや、納得するかどうかはともかく、怪我ひとつ無い事の理由を『それならば有り得ないこともない』と思わせなければ。


「ローザはお父様にお告げの事を聞かれても否定したよね。嘘をついたってこと?それに、どうしてお告げで『木の上から飛び降りる』なんてことになるのかな?」

 

 ごもっとも!

 木の上から飛び降りろとかどんなお告げですかってねぇ!

 だがしかし、足りない脳みそを回転させて、私は必死に道を探す。死亡エンドを全力回避ですよ、ローザ!


「えっと、御告げを受けたけどね、ローザは知らんぷりしたの。精霊の声を聞く人は、教会にいってシスターにならなきゃいけないでしょ?」


 例外はあるが、精霊の加護持ちは教会で管理される。精霊の特定を行い、重要度の高い者はそのまま協会に籍をおき、国に遣えることになる。


 ゲームシナリオだと、未来(とき)()みの力を持つ、大精霊ウレキサイトの加護を持つ未来の聖女ちゃんは、強制的に聖女候補として教会に誘拐され……ゲフンゲフン、教会に引き取られて聖女修行がはじまるわけです。たぶん今から2、3年後くらいにはじまるストーリー。


 ゲームの中の聖女ちゃんも過去に色々苦労したんだよ!的なシナリオがありましたね。大事にされ過ぎて籠の鳥状態になるよーです。


「でも、ローザはシスターになりたくないの。キースと一緒にここにいたいの」


 子どものワガママです。

 けれど、お姉ちゃん大好きな弟ならば、きっと分かってくれるだろう。大体、8歳の子どもに大精霊の加護がどんなに重要かなんて理解できるわけがない。


 解っていることは、精霊の加護を持つ者が教会に連れていかれて、自由に会うことが出来なくなるってことだけだ。


 【ずっと一緒にいる】と【ローザを守る】。

 その二つがキースの中で重要なこと。


 どうやら私の読みは大当たりで、キースは嘘をついた理由をすんなりと納得してくれた。


 ちなみに木の上からどうして飛んだのかと?という質問には。


「大精霊の加護を貰ったから、修行することにしたの!」と、答えた。


 木の上から飛び降りても怪我ひとつしなかった理由は、精霊の加護のお陰で納得できるが、どうして修行する必要があるのだろうと不思議そうに首を傾げるキースに、私は彼が救世主となって旅に出る話をする。


「キースはね人々を救うヒーローになるの」


「ひーろー?」


「ウェンデル・ヴェルヴェットに剣と魔法を学び、幼馴染みのテイトも一緒に救済の旅にでるの。魔物が活性化した世界で、キースだけが人の世に平和をもたらすことが出来るの!キースはね、大きくなったら勇者になるのよ!」


 私はキースの両手をぎゅっと握りしめた。

 キースは救世主になる。

 みんなに愛される勇者になる。


「救済の旅には私も一緒に行くの。だからね、それまでに私は強くなるよ。キースを守れるくらいに強くなる」


 風が吹き、ローザの髪の毛にくっついていた白い花びらが、ひらりと落ちる。


 いつか、どこかでそれを見た。

 いつだったのか、遠い昔、私は今日と同じように、キースの手を握りしめて言った。


「ローザはね、キースとずーっと一緒にいるの」


 例えばそれは、空き部屋の片隅。

 ある時は、広い庭の中のどこかの木の上。

 屋根裏や、時には屋根の上。


 キースがローザを見つけ出して、ひとりっきりにしなかったように、私もキースをひとりぼっちにはさせない。

 もうひとつの破壊者の道を歩むことは絶対にない。

 知る必要さえない。

 彼は苦しんだ。


 そう……あの日からだ。

 いつもいつも私を見つけて追いかけてくるキース。木の上でも屋根の上でも暗い部屋の物陰でも、私を見つけて側にやってくるキースが、その日だけは違った。

 二つの未来を告げられた日だ。

 キースが、相対する自分の運命を知った日だ。

 その日から彼は、大切な者をその手で壊してしてうかも知れない未来に怯え、苦しんだ。


 彼が自分の運命を知った日。

 いつも自分を追ってくる背中を、私は追いかけた。


 キースの髪にくっついた白い花びらがひらりと落ちる。

 笑顔の真ん中に、悲しい色を押し込んだ、二つの青があった。

 そして私は曖昧に今日を生きることをやめた。

 

『例えお前がどんな道を選ぼうとも、私は最後までお前の側にいる。救い主として困難な道を行くときも、破壊者となって世界が敵になろうとも、キースの隣には私がいる』


「私と一緒に生きよう、キース」


 びっくりして目を見開く幼いキースの姿が、私のよく知る18歳のキースとタブって見えた。

 およそ10年先に起こるシナリオに似たイベントをいま起こしちゃうのはちょっぴりヤバイ気がしないでもないが……まぁ、仕方ない。

 通常展開だとbadendまっしぐらだ。

 結末を変えられないなんて、なんのための記憶持ちだ。


 キースを守る。

 ローザの死亡エンドを回避する。


 その二つが達成できるなら、多少の犠牲など些細なことだ。

 私は神様じゃないし、すべてを守るなんて、か弱い人の身で出来るわけがない。

 ま、ローザは人じゃないんだけど、それでも守れるものなんて精々両手の数くらいですよ。


 驚き顔のキースの表情がゆっくりと笑顔を変わる。

 ふわぁっと心があたたかいモノで一杯になった。

 

「一緒に、いきる。うん、ローザと一緒にいるよ」


 ローザを守れるくらい強くなるね、とキースが笑った。

 えへへへっと照れたように笑い返しながら、私は心の中で拳を握る。


 よしっ。なんとか危機を脱した。

 ふふ、キースの性格&思考ならば手に取るようにわかるのだよ。

 これぞ21回のゲームプレイの賜物だ。

 もっともキースに告げた言葉は私の本音で、キースと一緒にいたいし、彼を守りたいし、ローザの未来を変えたいのだ。

 そんなわけで、これから本来のゲーム開始までの10年間に、キースを構い倒し、自らを鍛えて私たちの未来を変えるためにこっそり暗躍しなければ!


 キースと手を繋いで、さあ部屋に戻ろうかと歩き出した私の背中に、折角の高揚感をぶっ壊す声がかけられた。


「あのさ、話が纏まったところに水を指すようで悪いんだけど、神様のお告げがあったら教会に報告するのは義務だぞ」


 …………。

 いやホント、せっかく色々うやむやに終わらせようと頑張ったのに、余計な発言するのは誰だよおい。

 ちらり、と背後を振り替えると、あきれ顔の失礼男ことモブその1。


 いや……誰も居ませんね。

 私の目にはキース以下の容姿の人物は見えないので、たったイマカラ。


「キース、お部屋に戻ろ?」


 ガン無視して、部屋に戻ることにしました。




見直しが甘いですが取り敢えず投稿。

そろそろ黒ウサ仮面ローザに戻りたい←


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