15、長い回想だった……
結論から言おう。
私は聖女候補として教会に拉致ゲフンゲフン……身柄を引き渡されました。って言い方もどーよ……預けられました。よし、それで。
そんなわけで、グロシュラリア国の王都カーバンクルの正教会もとい、聖教会が私の新たな生活拠点となりました。
いやー、色々足掻いてみたけどダメだった。
失礼男がなんやかんやと騒ぐが、所詮は尻の青いガキンチョだと余裕ぶっこいたの誰ですかね?
ああ、私さ。
因みに、失礼男は精神をへし折る方向で撃退した。
『私の守護精霊さまは教会に行けなんて一言も仰ってませんがなにか?』とか。
『私はこの世界の拠り所のキースと引き離されたら、精神が弱って死んじゃうけど覚悟の上での発言かしら?』とか。
『私の死は貴重な精霊加護持ちが死ぬって事なんだけどそーなったらアンタ責任とれんの?』とか。
『大体私が木の上から飛び降りたところはキースとアンタしか見てないよね、どーやって証明するの?もっかい大人たちの前で飛ぶの?次は死ぬかも知れないのに?ってゆーか子どもの言い分を全面的に信用してそんな危険なことを幼い少女にさせると思う?因みに先に言っとくけど、あんたが何を言おうが、私はなんの事だかサッパリわかりませんってシラを切りますので悪しからず』などという屁理屈理屈を並び立てて、ガキンチョを泣かせてしまいました。
悔し泣きする失礼男にべーっと舌を出してキースとお部屋に戻ります。
うーむ。
失礼男はキースと同じくらいの年だから10歳未満だよな?
そんな子ども泣かせて『勝った』と、本気で握りこぶしをつくって喜んでる私ってちょっとどーなのかしら。
むむむっ。紙切れ程度でも前世の記憶があるから自分では大人だと思ってたけど……あれれ。
ちらちらと後方を振り返りながら、それでも私と一緒に部屋に戻るキースに嬉しくなり、二度目の『よし、勝った!』と小さなガッツポーズをしたところで、大人ってなんたっけ?と頭の端で小さな疑問が生まれた。
だが直ぐに「まぁいいか」と興味が失せた。
どうやら精神は肉体に寄与するらしい。
それか、紙切れ程度の記憶では、精神になんの影響も与えないのか。
あれ?ちょっと待てよ、自我の目覚めと確立うんぬんはこの場合どーなるんだ?
私は私を構成する過去を持たない。
私の中にあるのは『境界のBinary Star』というゲームに登場するキャラクターのローザが好きで、死亡エンドしかない彼女の幸せを望んでいた、その感情だけだ。
だけれどそれは私の人格を形成する要因にはならない……ってこれって今までの『私ってなんだっけ?』と同じ疑問じゃないか?
「キース、魔法の言葉を言って」
「ローザ大好き?」
はい、終了~。
時間の無駄でしかない同等巡りはおしまいですよ。
キースの愛があるかぎりローザは最強なのだ。
魔法の言葉が疑問形に聞こえたが、たぶん気のせいだろう。
失礼男の存在など数秒で頭から追い出し、スキル『イミテーション』が問題なく発動したことで、我無敵なりと内心ニマニマしながら部屋へと向かい……途中でメイドさんに捕縛された。
「旦那様が御呼びです」
完璧な所作でもって頭を下げるメイドさんに惚れ惚れしながら、とてとてと彼女の後をついていった私は、なにも知らない子羊でした。
応接間に案内されて中に足を踏み入れた瞬間、ヤベェと心臓が凍りついた。
部屋の中にはすこし硬い表情のキースパパと心配顔のキースママ、感情を表に出さない優秀な執事さんにちょっぴし不安そうなメイドのお姉さん数人、それから完全武装の兵士さん少々、んでもって止めに、にっこり笑顔が実に胡散臭い男がひとり。
まるっこい眼鏡の向こうで細められている目が、胡散臭さを倍増中。
足丈の黒い祭服に身を包み後ろに回した手を組んで、ゆるく頭を傾けながら男が唇を開いた。
「こんにちは、君がローザかな?」
疑問符がついていたが答えは聞くまでもなく、わかっていたのだろう。
どこぞの失礼男を屁理屈理屈を並び立ててはねのけたところで、突き立てたフラグは簡単には折れないらしい。
尻の青いガキなのは私の方だったようだ。
るーる~、るーるるる~。
時計は止まるとかどーたらな歌詞が頭の中でリピート。
前後が完全に飛んでいて、何がなんだかさっぱりわかりませんが、前の世界には時間が止まる魔法か何かが存在したんでしょーかねー?
なにぶん自分の名前すら覚えてないので答えは解らないのですが、取り合えず薄れ逝くゲームの知識を最大限書き留めておいた紙には、時間を操る魔法については書かれておりませんでした。
そーいやー、ぶっ壊れステータスによりますと、私は最上級レベルの魔法が使用可能とのことですが、それってどんな?
都合よく時間も操れたりしませんかね。
出来れば失言五秒前くらいまで戻ってくださいプリーズ、お願い、へるぷみー。
「あ、の、黒うさぎ、さん?」
ああ、どうしてこうなったのかと今での短い人生が走馬灯のように浮かんでは消え浮かんでは消え浮かんでは消える。
薄っぺらい人生だ。
ローザの体にインしたあと、なんやかんやで教会の所属となり、あれやこれやで黒ウサ仮面に変身。大体ここまでで30日くらいですかね。ぺらい人生だ。
ああ、もう三日もキースに会っていないよ……。
弟成分が足りなすぎてお姉ちゃん萎れそうです、くすん。
「あ、あのぅ」
現実逃避する私の目の前には、胸の前で手を組んだ美少女ちゃんがひとり。
おずおずと話しかけてくる、庇護欲を刺激しまくるひ弱そうな姿は誰得?俺得!なミリアちゃんが、とっても不思議そうな顔をしてローザを見ております。
ローザってゆーかブラック・ラビットと名乗った、ぷりてぃな黒ウサ仮面を装着したちみっこを見てるんだけどな。
うん、つまり、私だな。
私を見てるな。
ものっさ見つめてくるな。
そして、か弱いふりしてこの子、割とやるもんだぜぇ。
ぐぃぐぃくるな。うん、ぐぃぐぃくる。
いわく『どーして?どーして?どーして依頼内容知ってるの?』です。
私は無言で、無視した。
だって答えられないし。
ゲームの知識とか言えないし。
威圧が使えるかどーかはともかく、クールなローザの心強い味方、スキル【ポーカーフェイス】様、フルで発揮します。
それ以上質問すんなオーラを一生懸命出してみたよ。
だがしかし、彼女は微塵も諦めないのだ。
ついでに彼女と接触前に少々目立つ事をした黒ウサギさんは、ギルド内のむさいおっさんどもの視線を集めに集め、いまや少女二人は注目の的。
聞き耳たてんなロリコンども。そんな無実の罪でおっさんたちをディスっておく。
いえすろりーたのーたっち。
そんな、不思議な呪文がペラペラの記憶の彼方からふっと顔を覗かせたので、全力で蹴り飛ばしておきました。
なぜかな、そうした方がいいって、内なる声が囁いた気がするよ。
私に無視されて目の前の美少女の顔が段々と暗くなっていく。
いかんいかん。
どんな理由があろうとも可愛い女の子を困らせてはいけないのだ。
だって可愛い子は笑ってる方がいーじゃん。
ほわっとした笑顔とか癒されるじゃん?
私の愛しのローザねぇさま程ではないが、彼女のことももちろん大好きだった。
せっかくニマニマするほど可愛いんだから、ほんわか笑顔でいて欲しいです。
まぁ、泣き顔が可愛い子ってーのもありですけどね。
「失礼…………依頼の話でございましたかしら?」
スキル【ポーカーフェイス】の兄貴が作用しない精神はグダグダのぐるぐるで、内側の動揺がバッチリ口調に現れております。
しかし、なにも気にすることはないのだよ。
黒うさぎさんの汚名は、ローザの汚名にはならないからね。
「あ……はい、そーです!レ、レッドベアの、討伐の依頼にきました!」
うん。知ってる。
ゲームでミリアルートシナリオに彼女の過去の出来事を語るってゆーのがあった。
幼い頃に住んでいた村がレッドベアに襲われ、彼女の両親や親しい人たちが大勢亡くなった。
『あの時私がもっと早く王都のギルドに辿り着いていれば……』そういって、10年の時が過ぎたあとでも自分を責めて涙する美しい女性の姿に、テレビの前でコントロール握りしめて私は泣いた。
いやー……絵師さまは神だわ。
もちろんシナリオも神仕様……っと、現実逃避してる場合じゃないや。
ここに彼女がいるってことは、タイムリミットギリギリじゃん。
下手すりゃゲームのシナリオ通り間に合わなくて犠牲が多々出るではないか。
いかんいかん。
暗い過去の影をもつ美女も大好物ですが、悲劇が起こると知っていて見捨てるなんて非道すぎる。
「そうでござりますですか、もちろんお受けする」
おっと、口調口調。
黒ウサバージョンの私は、ゲームのローザのようにクールを装うぜ。
聖女を演じるのにクールキャラはちょぃと不都合だからね、黒ウサバージョンでクールを装いますよ。
まぁ、全く装えていないが、ローザと黒ウサギをイコールで繋げない為だ。努力しよう、うん。
「あ……!いえ、その!たしかにレッドベアを倒してくれる人を探しに来たのですが、直接貴女に依頼をしようとしたわけではなくてですね!」
なぬ。
それはいったいなにゆえ……って当たり前か。実力もわからない相手に、指名依頼とかねぇーわな。
んー。私としてはその依頼を受けたいんだけどな。
ローザが教会の所属になるという、ゲームシナリオ全無視の展開に突っ込んだからな、シナリオを逸脱し過ぎて私の持ってるゲーム知識がゴミ屑になる前に、ミリアが持ってるアイテムを手に入れたいのよね。
最悪、奪い取るという選択もあるのだが……。
「では、私になんの用だ?」
あっれー。ローザ姉さんってこんな喋り方であってたかなぁ。
うん。中の人のスペックの違いって大きいよね~。
声優さんだと、クールで色っぽくてカッコいいのに、私が真似すると道化みたいだわ。
ツルッパゲさんを扱き下ろした時は、結構うまく出来たと思ったんだけどな~。
やっぱ声優はぱねぇわ。
「あの、レッドベアを倒せる強い人を紹介していただけないかと……」
「レッドベアくらいロー……こほん、黒ウサギさんことブラック・ラビットならば瞬殺だが」
「え…………瞬、殺、ですか?」
「瞬殺だ」
胸の前で手を組んだまま、ミリアは固まっている。
間抜けっぽく口を開いておりますが、美少女はどんな顔でも絵になるなぁ。目の包容です。
でもなんでそんな顔をしているのですかねぇ。
おっさんどももなんでざわざわしているのでしょうか。
ん、ん?私、なんか変なこと言ったか?
レッドベアってゲームスタート地点からほど近い場所に出現する低レベルのモンスターじゃなかったか?
ん、アレはレッドってついてなかったか?
でも熊の見た目のボスキャラとかいなかったしなぁ。
熊の見た目のモンスターってほんと初期の敵だから、ゲームレベル10あれば、一人でも楽に倒せたはず。
まぁ、いまはレベル表記ないんですけどねー、あはは。
「……の、ガキ!ホラ吹いてんじゃねーぞ!」
おおう。なんか知らんがホラ吹き呼ばわりされたぞ。
んん、どこの誰だね、そんな失礼な事をローザに言いやがるのは。
黒ウサ仮面の下で僅かに目を細めながら、声がした方に視線を向けた。
そこには、窓から入る太陽光をつるりん頭部で跳ね返す、名も知らぬ三下やられキャラくんがいた。
まさかの第二ラウンドの鐘が鳴った。




