奥山さん、再確認する
どーも、奥山です。外はすっかり暗くなり仄かな月明かりが魔王城を照らしています。夜の静かな雰囲気と虫の鳴き声は心に安らぎとほのかな寂しさを与えてくれますね。
「ひっぐ、えっぐ…おぉう、えふ、ふぅうぅう…」
後ろから聞こえる姫様の泣き声がなければより良いのですが。
「フランソワ様、黙ってくれとは言わないのでもう少し声を落としてくれませんか?」
「何故私が泣いているのか知りたいって?聞いてくれるなんて優しいのね奥山さん。」
「どういう教育受ければそんな翻訳出来るんですか。」
もしかしてフランソワ様の耳には僕の声が届いていないのでは?何か今更な感じがするのが恐ろしいところだけど。
「今ね今期覇権アニメの最終回を見終えたところなのよ。もう本当に最高でね!やっぱりアニメの最終回はこの作品に出会えた喜び、そのアニメを最後まで見れた嬉しさ、もう見られなくなってしまうという寂しさを同時に味わえるのが良いのよね!」
「すんごい長台詞でしたけど確かにその気持ちは分かりますね。やっぱり感動出来るって素敵だと思います。」
「そうよねー、私もこんな感動的な体験したいなー。勇者が囚われの私を助けに来てくれるとか。」
「ハハハ、ないない!フランソワ様を救いに来るなんてよっぽど物好きな勇者じゃないと無理ですよ。」
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「いやぁぁぁぁあ!ごめんなさいごめんなさい僕が悪かったです!だから小窓から僕を部屋に引きずり込もうとしないで!ミンチになっちゃう!」
必死の謝罪が届いたのかフランソワ様は万力のような拘束を解いてくれましたが、まだ少し怒っておられるようです。
「まったく!失礼しちゃうわ。私だって王国の姫なのよ?守ってくれる勇者ぐらいいました!」
「ゲホゲホ!へ、へー。やっぱりそういうのっているものなんですね。ちなみにその勇者って普段どんなことしてるんです?」
「大体は魔物退治ね。王国だけじゃなくて遠方の街なんかの護衛にも行ってたり、忙しい人だったわ。まぁそれだけ実力があったってことなんだけど。」
「そんな勇者がいながらフランソワ様はさらわれちゃったんですよね。流石に魔王様相手はきつかったのかな?」
「いや、あの時彼は事前にこの日だけは休ませてくれって言って同人誌即売会に行ってたわね。なんでも普段から推してる絵師さんの同人誌が出るとかで。そしたら運悪くその日に魔っちゃんが攻めてきたの。」
「同人誌即売会の裏で侵略される王国ってなんか悲しいですね…」
僕みたいな魔界暮らしの者からすれば人間の勇者ってなんというか、空想上の生き物みたいな感覚なんですよね。実際魔界やこの魔王城に勇者が攻め込んで来たことなんて僕の知ってる限りではないですし。
「はぁ〜、何かいい手はないかしらねぇ。お手軽に勇者に助けに来てもらえる方法。」
「無理ですよ。例え勇者でも魔王城以前にまず魔界への入り方が分からないでしょうから。それに魔界に入れても道が入り組んでるんで当てずっぽうで魔王城にはたどり着けませんよ。」
「うーん…そうだ!奥山さんこういうのはどうかしら。SNS上で呟いて、助けに来てくれる人を応募するのよ!人間界には勇者がたくさんいるし、もしかしたら魔界の入り方を知ってる人がいるかもしれないわ!」
「嫌ですよSNSで勇者募集するなんて。全然ロマンがないし、よくてコスプレ撮影会かと思われるのが関の山ですよ。それにまず信用されるかどうかもですし。」
「わからないわよ?電子の快楽に溺れた現代人はね、ネット上の情報に対して疑いを持つという初歩的なことを忘れがちなのよ。」
「フランソワ様がそれを言うと説得力半端ないですよ!」
「じゃあ早速取り掛かろうかしら!フォロワー12万人の力を見せてあげるわ!我が元に集まりなさい歴戦の猛者たちよ!」
「妙にリアルなフォロワー数だな…せめて閲覧した人に馬鹿にされないことを祈ってますよ。」
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フランソワ様は意気揚々とSNS上に勇者募集のつぶやきを乗せたようです。するとすぐに多くの返答が返ってきたらしく、
フランシーヌ@囚われの姫君
[勇者募集してます!私は今魔王城に人質として捕らえられ助けを待つ身です!魔界への入り方を知っていて実力のある方は返信お待ちしてます。それとこのつぶやきを見た人はリツイートといいねお願いします!]
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オタク太郎@同人誌で金欠中
[自分で囚われの姫君とか書いてて草]
ラーメン大好き小坂さん
[まず人質なのに電波のあるところでツイートさせてもらえているというw]
島縞志摩
[草]
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案の定でしたね。
「こいつらぁあ!人を馬鹿にしくさりおってからにぃ!草を生やすな草を!」
「その人たちが正常ですよ。もうやめたほうがいいですよ、フランソワ様。フォロワー12万人にその恥ずかしいつぶやき見られちゃうんですよ?」
「大丈夫!このアカウントのフォロワーは普段はアニメレビューとか私が描いたイラストとか見にきてる人たちだからきっとわかってくれるヲタクがいるはずよ!」
「もう趣旨変わっちゃってるじゃないですか!」
「おい、何を騒いでいる奥山!勤務中は静かにせんか!」
「うわ!」
僕は階下からたしなめられ少し驚いてしまいました。一体誰かと思い、声の方向を見てみるとアザゼルの亜座美様が階段を上ってきていました。
「亜座美様!いかがされましたか?何か問題でも起こったんですか?」
「ここに監禁している娘の一挙手一投足が問題行動ではあるが別にそういうわけではない。様子見だ。今は何をしている?」
「SNS上に自分を助けてもらう内容のつぶやきをしてます。」
「絶賛問題発生中ではないかぁ!奥山お前は何を悠長にしているんだやめさせろ!」
「いいえ、多分その必要はないかと…」
「何?!」
僕の言葉の意味が分からないと言ったような顔をしている亜座美様に僕は携帯の画面にフランソワ様のアカウントを表示して渡しました。
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フランシーヌ@囚われの姫君
[先程も書きましたが勇者の方を募集中です!新人、ベテラン問いません。魔界への入り方をご存知で私を助けてくれるという方は返信お願いします!]
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オタク次郎@同人誌のために貯金中
[魔界からのツイートを人間界で見られるという謎]
小山@つけ麺派
[イラスト見にきたらやべぇツイートされてて草]
島縞志摩
[草]
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「だーから草を生やすなぁぁ!後この島縞志摩ってやつはなんなの?暇なの?!」
「こんな様子でして。」
「む、むぅ…信じられておらんのか。ならよい…いや良いのか?駄目だ。この娘のことになると頭痛がしてくる。俺はもう帰る。とりあえずこの書き込みはやめさせておけよ?」
そう言って亜座美様は早々に階段を下っていかれました。確かにこれ以上やるとフランソワ様が精神崩壊しそうですね。
「もうやめよやめ!あいつら好き勝手人のツイートを草まみれにして!もう嫌!ゲームする!」
あ、自分からやめちゃった。でもそんなに悪い人たちなのかなぁ。フランソワ様の書き方が悪いんじゃ…そう思い気になった僕は試しに自分のアカウントを立ち上げました。
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奥山@ヨガ信者
[僕の知人の娘さんが行方不明です。魔王軍の襲撃があった後から姿が見えません。特徴として髪は黒のセミロング、身長は160センチ前後の痩せ型の女の子です。何か情報をお持ちの方は返信と出来れば拡散をしていただければ助かります。]
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カイドウ@酒好き
[それは大変ですね!最近は魔王軍の侵攻が多く、行方不明者も多いそうです。もし見かけることがあればご連絡させていただきます!]
ニシン好きの岡本
[今朝王国の市場を歩いていると似たような特徴の女の子を見かけたのですが、その子はいなくなる前に白いワンピースを着ていませんでしたか?]
島縞志摩
[不安ですよね!僕は職業柄、各地の行商人に顔が効くので出来るだけ聞いて回ろうと思います!知り合いの方を諦めないよう元気付けてあげてください!]
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マジかよ、島縞志摩さんいい人じゃん!試しに書き込んだだけなのに何か悪いことしちゃったなぁ。
こちらの出方次第でここまで対応が違うなんて…改めてネットには気をつけようと実感した夜でした。




