奥山さん、危機に陥る。
皆さん突然ですが魔法についてどんなイメージをお持ちですか?魔法陣からサムシングを召喚したり、炎や雷を出して戦うといったようなものでしょうか?少なくとも私の後ろの姫様はそんなイメージを持っているようです。
「奥山さん、出して!軽くでいいから!滅びのなんちゃらストリームみたいなやつ!」
「滅びってついてるものを軽く出しちゃダメでしょ!あのですねフランソワ様。僕は魔法は使えません。そもそも戦場で炎を出して戦っている魔物はそういう能力を生まれながらに持っている存在だけなんですよ。」
「えー、何それつまんなーい。じゃあ奥山さんは口からビームは出せないってこと?」
「何で口限定なんですか…でもまぁそういうことです。それに魔法を使える魔物たちは戦士というより研究者の気質が強いんですよ。ですから魔法使い達は戦闘には参加せず城の研究室で魔法道具や術式の開発などの後方支援をしてもらっているんです。」
「ふーんそんなところがあるのね。興味が出てきたわ!連れてって!」
「ダメですよ!研究室は機密性の高い場所ですし、危険なものもいっぱいなんですから。いくらフランソワ様でも連れていけません。」
「そうじゃよ。どんなお転婆娘さんでもこれだけは我慢してもらわんとな。」
「…ねぇ奥山さん。そのおじいちゃん誰?」
「は?え、えぇ?!雨井博士?!どうしてここにいらっしゃるんですか?!」
「研究がメンドくさくてサボってきちゃった。テヘッ!」
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大分ふざけたご老人ですが僕の隣にいるこの人は雨井博士。魔王城の魔法研究室の室長で魔法道具開発の第一人者でもあります。凄い人なんですよ?ふざけてますけど…
「自分でもちゃんと挨拶せんとな。初めましてフランソワちゃん。儂はアマイモンの雨井じゃ。ここの研究室で魔法道具の研究をしておるよ。」
「よろしく雨井さん!ところで差し支えなければ教えて欲しいんだけど好きなものって何?」
「辛いもんじゃ。」
「いや甘いもんじゃないんかーい!」
「「あーはっはっはっは!」」…チラッ。
「嫌ですよ?!ツッコみませんからね!ていうか打ち合わせしてんのかあんたら!」
ヤバイ!これはヤバイぞ!今までフランソワ様に会わせちゃいけない奴は何人かいたけど、この博士はマズイ!
「博士!ご用件はなんでしょうか?ないようなら早急にお帰り願いたいのですが!」
「なんじゃい、年寄りを厄介者扱いしおってこの生姜焼き野郎め!用件ならちゃんとあるわい!」
「待って雨井さん。奥山さんはどちらかというとポークカツレツじゃないかしら?」
「やっぱりだよチクショウ!嫌な予感的中じゃないか!」
そんな僕の苦悩などどこ吹く風な雨井博士は淡々と自分が来た目的を話しはじめました。
「実はな、今日ここに来たのは魔法道具の試作品の効果を確認するためなんじゃ。」
「試作品?いつも魔王様に見せに行ってるようなものですか?」
「まぁそんなところじゃ。じゃが今回はテーマがちと特殊での。魔法道具の人間に対する影響効果についてなんじゃ。魔法道具は基本的に魔物が使うことしか考えられておらんが、それを人間に使うとどうなるか気になってのう。」
なるほど。確かにそんな事例は聞いたことないですね。
…待てよ?博士の話から察するにその魔法道具の被験者って、
「凄い!私魔法道具を使わせてもらえるの?夢みたい!ワクワクしてきたわ!」
「その通り!フランソワちゃんは物分かりがええのう。」
やっぱりだ!このジジイ、フランソワ様が姫の皮を被った悪鬼羅刹だということをわかってないんだ!
「ダメダメダメ!絶対にダーメ!もしその試作品を使ってフランソワ様かパワーアップでもしてごらんなさいよ!とんでもないことになりますよ!?」
「なんじゃいうるさいのう!そんなに実験を止めたいのなら儂の好物を持ってこんか!」
「ねぇ雨井さん。その好物っ何?」
「辛いもんじゃ。」
「「あーはっはっはっは!」」…チラッ。
「何なの?新手の拷問?!」
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僕の制止の言葉も虚しく、博士はフランソワ様を部屋の外に連れ出し、早速試作品の1つだという缶を渡しました。
「まずはこの軟膏じゃ。少しだけとって手に塗っとくれ。」
「楽しみだわー。もしかしたら私、究極生命体になっちゃうかも!」
流石にそれはないだろう…ないよな?気になった僕は博士に軟膏の効果を聞いてみました。
「博士、あの軟膏ってどんな効き目があるんです?恐ろしいことにならないですよね?」
「なーに安心せい。あの軟膏はな、塗った者の腕力を五倍にするんじゃ。」
「ダメじゃん!生まれちゃんよ?究極生命体爆誕しちゃうよ!」
なんてこった!博士はとんでもない爆弾を投下してくれやがりました!このままじゃ僕の命が!
「こ、これは…」
「大丈夫ですかフランソワ様!恐いから出来れば近付きたくないんですけど大丈夫ですか!」
「力が湧いてくる感じはないわね。なんか手がポカポカする。雨井さんこれ何なのかしら?」
雨井博士はフランソワ様の両手を手に取り、触診しながらマジマジと観察しはじめました。すると、
「こ、これは!手の血行が促進されておる!何と健康的な肌ツヤじゃ!」
「…はい?」
「凄いわ雨井さん!この軟膏があれば世界中の冷え性の人を救えるわね!」
「あぁ!儂はとんでもない健康商品を作ってしまったのやもしれぬ!」
「え?いいの?これでオーケーなの?」
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雨井博士は余程この結果が嬉しかったのか、どんどん試作品を試していきました。
千里眼になる眼鏡は眼精疲労、空を飛べるようになるマントは肩凝り、水面を歩けるようになるブーツは足のむくみ、などなど雨井博士の研究品はどんどんフランソワ様を健康にしていきました。
「何ということだ!人間と魔物でここまで効果の違いが出るとは!素晴らしいぞフランソワちゃん!」
「もう!照れるでしょやめてよ雨井さん!」
「あれ?魔王城って医療品メーカーでしたっけ?」
この時点で二人のテンションは最高潮に達し試作品はいよいよ最後の1つとなりました。見た目は真珠のような小さな球体がついたイヤリングですね。
「博士、最後の試作品はどういう効果なんですか?」
「よくぞ聞いてくれた奥山よ!このイヤリングはな、付けたものの潜在能力を引き出すことの出来る儂一押しの逸品なのじゃ!さあフランソワちゃん!はよう付けておくれ!」
「見た目は可愛いわね!これは頭痛予防になるのかしら?」パチンッ!
「大変です博士。フランソワ様が試作品を健康商品としか見なくなってます…なんだこの風?!」
イヤリングを身につけた瞬間、フランソワ様を中心に爆風が巻き起こり、身体を赤黒いオーラが包み込んでしまいました。とんでもない魔力量です!
「な、何なんですかこれ?!人間って健康になりすぎるとこんなのになっちゃうんですか?!」
「いや!今回は正常に効果が出ておる…つまり、これはフランソワちゃんの奥底に眠っておる力そのものなのじゃ!」
マジかよ?!前々から化け物だとは思ってたけどここまでだったとは…
「凄い、凄いわ!内からどんどん力が湧いてくる!雨井さん、奥山さん、オラ今なら何でも出来そうな気がすっぞ!」
「喋り方変わっちゃってるじゃん!フランソワ様ストップ!早くそれ外してください!」
「外す?何を言っているの!力を手に入れたばかりの頃はそれに溺れるものよ!さぁとくとその目に焼き付けなさい。必殺!滅びのバーストかーめーはー…」
「ダメだから!それ以上は物理的にも版権的にもダメだから!博士逃げましょう!このままじゃ僕たち消し炭ですよ!」
「なーに、その心配はないぞい。ほれ見てみぃ。」
パリンッ!
博士が指差すと甲高い音をたててイヤリングが壊れてしまいました。一体どうしたのでしょうか?
「はー!!…あれ?いつもの状態に戻ってる。」
「当たり前じゃ。あのイヤリングは試作品じゃぞ?あんなとんでもない魔力を浴びたら壊れてしまうわい。」
「えー、つまんないわよぉ〜。もう少しで撃てたのにぃ。」
「ナイス!博士超ナイス!」
あのフランソワ様を見てイヤリングが壊れてしまうと予測していたなんて、流石は雨井博士ですね!尊敬する気にはなりませんけど!
「ホッホッホ!まぁ儂もちと肝が冷えたがの。さて面白いデータも沢山とれたし、今日はこれで帰るとするわい。」
「終わりですか。よかった〜、もう僕疲れちゃいましたよ。やっと落ち着ける。」
「楽しかったわ雨井さん!また何か出来たら持ってきてね!」
「おうとも!その時は儂のオススメの品を持ってくるとしよう。」
「本当に?それってどんなものかしら!」
やれやれ…最後くらいはツッコンであげますか。
「ホホホ、甘いもんじゃ。」
「あら素敵!なら美味しいお茶を用意しておくわね!」
「え?辛いもん…え?」
どうやら僕にこの二人の間に入ることは出来そうにありません。




