奥山さん、黙認する
シャンッ!
「いいこと思いついたわ奥山さん!」
「いきなりですね。どうせロクでもないことなんでしょうけど、どうしたんですかフランソワ様。」
「私ね、動画サイトでバーチャルな存在になるわ!」
「あの、マジで何言ってんですか?お医者さん行きます?」
「今ね、そのバーチャルな存在になるのが流行ってるんですって!その状態でゲームしたり雑談したりするのを配信すると視聴者にちやほやされるんだって!私ちやほやされたい!」
まーた変なネットの記事に影響されたなこの人。ここで止めてあげなきゃ本当に面倒くさくなるぞ。
「あのですねフランソワ様。あなたは一国の姫なんですよ?別にバーチャルな存在にならなくても色んな人にちやほやされるでしょ?」
「フッ、甘い。本当に甘いわ奥山さん。」
「え?何か変なこと言いました?」
「奥山さんは世界中探し回ってゲーム廃人で大飯食らいの姫をちやほやする国を見つけられる自信、ある?」
「……なんかすいません。」
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今日は魔王城の場内が少し慌ただしくなっています。それも当然でしょう。なんと今日はあの魔界のトップ、ルシファーの琉詩緒様がいらっしゃるそうなのです。魔王様も確かに私たち魔物を統べる高位なお方なのですが琉詩緒様は更にその上、魔界全土を統べておられるのです。そんなお方が魔王様との会食に来られるとなれば慌ただしくもなりますよね。
「まぁ監視役の僕には関係ないんですけどね。堅苦しいの苦手だし楽できるしラッキーだったかも。」
「おーい奥山ー!大変だぞー!」
おや?下の階からゴブリンの五部原が何か叫びながら駆け上がってきました。かなり焦っている様子ですね。
「五部原どうしたんだよ。お前今日は事務担当だったんじゃないの?」
「それどころじゃないんだよ奥山!お前今から正装に着替えて来い、こっちで用意してあるから!」
「話が見えてこないんだけど。何で僕が着替えなきゃいけないんだよ。僕会食への立ち会いは免除されてるんだよ?」
「いやお前はこれからこの城の中で一番重要な仕事を任されるぞ!何故なら…あの琉詩緒様がこの監禁部屋に来られるそうだ、お前はその案内役だよ!」
「…お腹痛くなってきた。」
=====
急いで下の階に行き、五部原が用意してくれた祝い事の時に着るような装飾品付きの鎧に着替えました。後は琉詩緒様のご到着を待つだけなのですが…
「どうしてこんなところにお越しになるんだろう。フランソワ様目当てかな?」
「どうやらそうらしいぜ。聞く話によると琉詩緒様は大層な女好きだそうだ。…よし鎧に変なとこはないな。じゃあ頑張れよ!俺は城に戻るから!」
そう言って五部原は逃げるように走って行きました。あぁ一人になってしまった。不安だなぁ、周りの景色が暗く見えてきました。明るいな…いやめっちゃ明るいぞ何だこれ?!急な明るさに戸惑って上を見上げてみるとそこには宙から降りてくる1つのシルエットがありました。
「まさかの上から?!しかもめっちゃ神々しいんですけど。」
「そこなオークよ。何人も余が地に降り立つ姿を見上げることは許さぬ。弁えぬか!」
「失礼しました!」
間違いないこの方が琉詩緒様だ!金髪のロングヘアーで真っ白いスーツを着て、背中に片方が黒、もう一方が白の翼が生えています。
何でしょう…僕の印象はもっと武将みたいなイメージだったんですが、パッと見は個性出そうとしすぎて失敗したホストのようにしか見えません。
「貴様がここの監視役のオークか。ふん、普段なら貴様のような下賎な魔物など余の声を聞くことすら許さぬのだが今日は特別だ。余の寛大さを讃えるが良い!」
「やっべぇ。超苦手なタイプだわこの人。」
「おい!会食まで少し余裕はあるが、いつまで余のこのような場所に立たせているつもりだ?早く案内せよ人界の姫の元にな!」
「はーい、こちらになりまーす。」
「フフフ、今頃余のオーラを感じ取りあまりの神々しさに身を悶えさせているところだろうよ!ハーハッハッハッハ!」
ないない。それだけは絶対ない。
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その後も自分の偉大さをマシンガントークで自慢してくる琉詩緒様を連れながら監禁部屋の前に到着しました。フランソワ様は大体これくらいの時間にはアニメを見ているかゲームをしているかのどちらかですね。
「ふむ、絶望的に狭い場所ではあるが清掃は行き届いておるな。まぁ余の体に1つでも埃を付けようものなら貴様の首をはねていたところだ。」
「はいはいそうですか…フランソワ様ー、お客様を…」
「余だ!余が直々に来てやったぞ。人界の姫君よ!余はルシファーの琉詩緒!この魔界の頂点であり、全ての存在を統べる者である!この声を骨身にまで染みこませよ!余と話せる幸福に身を震わせながらそなたの姿を…」
シャンッ!
「うっさい!今イウレカヘブンの最終回をヘビロテしてんだから邪魔しないでよ!私ね金髪はラーメン屋のあんちゃん以外は信用しないようにしてるのよ!…あと何その背中の翼。趣味悪!」
シャンッ!
いやー、ブレないっすねぇフランソワ先輩マジぱねぇっす。今日に限ってはあんたのキャラが果てしなくありがたいっす。
「フ、フフフ…照れ隠しか?良い良い。仕方があるまいな、余を前にしているのだからな愛いやつよ。」
「琉詩緒さん、涙目になってますよ?」
「人間の小娘ともなればひ弱なものだと思っておったが中々強かな娘ではないか!余は気に入ったぞフランソワとやら!貴様余の従者になる気はないか!」
シーン…
「多分うるさいからヘッドフォン付けてイウレカヘブン見てるんだと思いますよ?密着型のやつだから扉越しの声は届かないかと。」
「余の声が届かぬだと?!そんな生物が存在するのか!それよりもオークよ、そのイウレカヘブンとは何だ?食い物か?」
「ロボットアニメですね、僕らの世代では大流行りでした。あれを見て何人の友達がスケボーを始めたことか。」
「アニメだと?は!下らぬな、そんな低俗なものに時間を割くとは人界の姫君は余程愚鈍な女よな。見下げ果てたわ。」
あ、この人死んだわ。
「おいオークよ、何という目で余を見ておる。まるでこれから余の身に何か起きるような…ぐわぁぁぁぁ!」
ガッシャァァァアン!ズドンッ!
監禁部屋の扉が勢いよく吹き飛び琉詩緒様に直撃、そのまま琉詩緒様を壁と板挟みにしてしまいました。そして監禁部屋から怒りを全身に漲らせた鬼神が怒髪天の様相で歩み出てきました。
「フランソワ様、悪口言った奴なら扉の後ろにいますよー。」
『ありがとう奥山さん。さぁて楽しい楽しい処刑の時間よ。おらぁ!いつまで寝とんじゃ起きんかいゴルァ!』
「痛だだだだ!や、やめよ貴様ぁ!誰の髪を引っ張っておるのか理解しておるのか!余の体の一部に触れるなど万死に…あひん!」
ゴッ!
フランソワ様の痛烈なビンタが琉詩緒様の顔面に炸裂しました。ていうか音鈍すぎない?
『万死に値するですって?それはこっちのセリフよ。私を馬鹿にするならまだしもアニメを低俗と言ったわね?魔界のトップか知らないけど言葉を選びなさいな!』
「よ、良いのか?!余にこのようなことをすれば魔界中が黙っておらぬぞ!」
『あなた今の自分の状況分かってる?上等じゃない。千でも万でも兵隊連れてきなさいよ!その兵隊達が来るまであなたが生きていられる保証はどこにもないわ!』
「ヒィィィィイ!オーク!何を見ておるか、早く余を助けよ!」
「無理ですね、その状態のフランソワ様を止めるなんて。僕まだ死にたくないですし。」
「おのれ、この下郎共がぁぁぁ!」
琉詩緒様がそう叫ぶと翼が急に発光し始めました。明らかにビームが出そうです。
「貴様が悪いのだぞフランソワ!消し炭になれぃ!」
『フンッ!』ブチィ!
「ぎゃぁぁぁぁ!もがれた!翼もがれたぁぁあ!貴様ぁ!ビームを撃つ前の翼をもぐとは何事かぁ!」
『わざわざ撃たせてやる義理なんて持ち合わせてないのよ。さぁて手と足どっちの指からが良い?一本ずつ爪を剥いだ後関節ごとに骨を折ってあげるわ。ヒーヒヒヒヒヒ!』
「あ…あぁ…あああ…」ガクッ…
「あ、気絶した。」
まぁ最後の方のフランソワ様とかこの魔王城にいる誰よりも悪魔ぽかったからなぁ。本当に怒らせないようにしよう。
「ふぅ、思ったより早く気絶したわね。奥山さんこの人の処理任せるわね。あと扉の修理もよろしく。」
「最初から気絶させるつもりだったんですか?まぁ狙ってできること自体すごいんですけど。」
「まぁ、ある程度痛めつけるつもりだったけどこんなにあっさりいくとはね、魔界も大したことないわ。」
「何も言い返せない…まぁフランソワ様の前でアニメを馬鹿にしちゃいけない良い見本でしたよ。」
「別に?奥山さんみたいな人にはここまでしないわよ。私はね、こういうアニメのアの字もわかってないチヤホヤされてそうなパツキンのチャラ男に馬鹿にされるのが一番頭にくるだけよ。」
「はぁ、左様ですか。」
「さぁて動いたからお腹減ったわねー。奥山さん今日はロースカツ定食でお願いねー。」
そういってフランソワ様は部屋に戻っていかれました。僕はその後魔王様にこのことを報告すると「俺もこいつ嫌いだったから気にしなくて良いよ」と言い、後始末を引き受けて下さいました。
人間界の姫様が魔界のトップの翼をもいだ、そんな出来事をさらりと流してしまうあたり魔王様って色々スゴイ人なんだと再確認しました。まぁこれで一件落着ってことで良いのかな?うん、多分いいんだろう。
「ねー奥山さん。」
「ん?どうかしましたフランソワ様。」
「あいつからもいだこの翼どうするの?」
「どっか…飾っときます?」
一件落着…ですよね?




