奥山さん、追い込まれる。
最近なんだがフランソワ様の様子が変なんです。え?元々だろって?まぁその通りなんですが、いつもよりさらに変と言いますか…
部屋でブツブツ独り言を言いながらカチャカチャと何かをいじっていて気味が悪いなと思っていたら急に声を荒げてテーブルを叩いているのです。
ここは魔界。何か霊的なものに取り憑かれてもおかしくはありません。誰かに相談すべきでしょうか…
「おーくーやーまーさーん…」
「うわぁぁぁぁぁ!悪霊退散悪霊退散!!」
「だれがあくりょうですってー…」
「ふ、フランソワ様?!うわ、小窓からでも分かるくらい髪ボッサボサじゃないですか!どうしたんです?!」
「憎いわ…奴らが憎いのよ!」
これは本格的に悪霊案件かもしれません。
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「格ゲーのオンライン対戦ですか?」
どうやらフランソワ様は最近格ゲーにハマっているらしく、長時間プレイされているそうでそれなりに実力はあるらしいのですが…
「ここ最近オンライン対戦をやっているとね、ちょくちょく負けるのよ。それ自体は特に文句はないわよ?でもねあいつらときたら…!」
「何かされたんですか?」
「煽ってきやがるのよ!倒れている私に向かって連続でしゃがんできてバカにしてくるのよ!あぁ憎い!憎いわ!」
「そんなの気にするだけ無駄ですよ。無視すればいいじゃないですか。強くなって見返してやりましょうよ。」
「いいえ!そんなんじゃ私の中の殺意の波動は抑えられない!このままじゃ魔に身を堕とすことになる!」
「一国の姫がゲームの対戦で闇堕ちなんて目も当てられませんね。」
「というわけでストレス発散のために今から庭に行くわよ!付いてきなさい奥山さん!」
「監禁されてる人に付いて来いとか言われましても…」
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ストレス発散の内容は知らされずフランソワ様と魔王城の庭にやってきました。でもストレス発散のために運動しようと思うのはとても健全ですよね。少しフランソワ様を見直しました。
「んー!やっぱり外の空気はいいわよねぇ。よし!準備体操も終わったし、それじゃあ組手しましょうか奥山さん!」
「…ファ?!」
「ほら早く構えて!遠慮はいらないから。」
「遠慮とかそういうことの前に何故組手なんですか!ランニングじゃないんですか?」
「はぁ…あのね奥山さん。格ゲーに負けた年頃の女の子は組手をするって習わなかったの?こんなの初等教育よ?」
「人間って初等教育でそんなこと習うの?どれだけ捻じ曲がった勉強させられてんですか!」
「リアルで組手をする事で感覚を研ぎ澄まし、それをゲームに活かす。ゲームのためにもなるし体も動かせるし一石二鳥でしょ?」
フランソワ様はそれっぽい事を言っているつもりかもしれませんが未だに僕は訳がわからないままです。というか分かりたくない。それに僕とフランソワ様では体格差がありすぎますし。
「危ないですよフランソワ様。僕も一応歩兵ですから武術の経験はありますし、うっかり怪我させちゃうかもしれません。」
「心配しないで、私身体は頑丈な方だから。あ、でも怪我して抵抗できない私に薄い本みたいな事しようとしたらミンチにするわよ?」
「僕はフランソワ様の脳内が不安ですよ…」
「さぁ早く構えて!私今動きたくてしょうがないのよ!」
「はぁ…分かりました。でも危なくなったらすぐやめますからね?」
人質とはいえ女性を傷つけることはしたくありません。軽くあしらってあげれば…
ズドンッ!
あれ?フランソワ様が凄い勢いで離れていきますね。僕はまだ攻撃してないんですが。…ていうか僕飛んでね?
ガシャン!ゴロゴロゴロ!
「ぐぁぁぁぁ!い、痛えぇぇぇ!」
「もー、ボーッとしてちゃダメよ奥山さん。防具だって万能じゃないんだからちゃんとガードしないと。」
「何をしたんですかフランソワ様…うわ!胴鎧がベッコリへこんでる!」
「がら空きだったから軽く鉄山靠を入れただけよ。何を不思議がってるの?」
「鉄山靠って軽く出せるもんなの?!あとなんでフランソワ様は鉄山靠が出来るの?!」
「格ゲーをやっていれば自然と身につくものよ。プロゲーマーレベルになると波動拳も出せると聞いたことがあるわ。」
「絶対デマだよ!格ゲーにそんな効果あったら安心して外歩けなくなるよ!」
マジかよ。前々から馬力があるとは思ってたけど武術の心得があったのか!マズイぞ、このままでは僕の命が持たない!というか純粋に怖い!
「くっ、おかしい!なんですかこの展開。日常コメディとは思えないバトル展開になっちゃってますよ!」
「よく分からないけどやる気になってくれたのね!いいわ私の即死コンボをお見舞いしてあげる!」
「即死すんの?!ヤダヤダ僕まだ死にたくないですよ!」
「問答無用!くらえ!弱P弱P前入力弱K強P!」
「うわぁぁぁぁぁ!なんかよく分からないコマンド言いながら追いかけてくる!たすけてくれぇぇぇ!」
最早フランソワ様は殺戮マシンとなって僕を追いかけてきます。ここで捕まるわけにはいきません。…僕は今何をさせられているんでしょうか。そんな事を考えているといつのまにか魔王城の外壁まで追い詰められてしまいました。これって、絶体絶命というやつでは?
「フフフ、行き止まりのようね奥山さん。さぁ私の攻撃を見事防ぎきってみせなさい!」
「くっ!フランソワ様思い出してください!今この庭にいる理由はなんでしたか?」
「理由?組手で身体を動かすためよ。」
「その通り!そう考えると僕はろくにお相手出来ませんでしたが身体を動かすという根本的な目標は達成出来てますよね!それに組手は相手を痛めつけるものではない!」
「つまり何が言いたいのかしら?」
「ここで終わりにしましょう!フランソワ様は身体を動かせた!僕は痛い目を見なくて済む!お互いに損はないじゃないですか!」
「いいえ、それはおかしいわ。」
「へ?」
「だってここでやめたら…奥山さんをボコボコにするという私の楽しみが無くなってしまうじゃない!」
「うわぁぁぁぁぁ!既に闇に堕ちちゃってるよこの姫様ぁぁぁぁ!もうダメだーー!」
「喰らえ!瞬・獄・殺フランソワアレンジバージョン!」
あぁお父さんお母さん、先立つ不孝をお許しください…
「こんちわー、大衆食堂魔笛屋でーす。」
ピタッ……先程の勢いが嘘のようにフランソワ様の動きが止まりました。
「待ってましたー!ちゃんとレバニラはニラとタレ多めにしてくれた?」
「ええ!フランソワ様はお得意様ですからね!ご飯も大盛りにしときましたよ!」
「ありがとう大将!あっ、奥山さん代金払っといてねー。」
格ゲーのために組手をやりたいといい、組手は関係なく僕をボコボコにしたいといい、そして最後はレバニラにシフトチェンジしていく。フランソワ様の精神はどうなっているんでしょうか。助かったのにモヤモヤします。
「あのー奥山さん。レバニラ定食ご飯大盛りで合計850円になります。」
僕をボコボコにすることは850円の定食ほどの価値もないのか…あれ?今の僕相当気持ち悪いのでは?
「奥山さん?代金払ってもらっていいですか?」
「……はい。」
チャリン…




