奥山さん、調停する
皆さんこんにちは、奥山……
「おーい奥山、奥山いるかー?」
「どうしたんだよ五部原。今挨拶の途中なんだけど。」
「前から気になってたんだけどお前誰に挨拶してんの?」
ゴブリンの五部原が手に何かを持って階段を上がってきています。一体なんなのでしょうか?
「五部原、持ってるそれ何なの?」
「あぁ、内容は知らないけど魔王様からお前とフランソワちゃん宛の手紙だよ。はい、じゃあ確かに渡したからな。それじゃあな。」
五部原はそう言って僕に手紙を渡し、そそくさと去っていきました。普段なら自分が僕たちのところに来たり、大広間に呼び出したりする魔王様が手紙なんて、一体どうしたんでしょうか?
シャンッ!
「なになに奥山さん。なんか私の名前も呼ばれてたけどなんて書いてあるの?」
「本当こういうことにはすぐ反応しますね……ちょっと待ってくださいよ。なになに……」
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よう!奥山、フランソワちゃん。元気してるか?いつもなら二人を呼び出してるところなんだがちと急用でな。こうして手紙を書いた次第だ。
早速本題に入るぞ。……お前らがこれを読んでいる時俺は既に死んでいるだろう……
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「言いたいだけだろ!何この魔王、もしかして普段しないことしてるからテンション上がってんの?子供か!」
「奥山さーん、そんなのいいから早く続き読んでよー。」
しまった、手紙相手にツッコんでしまった!いかんいかん。あの魔王様が書いた手紙なんだ。いちいち気にしてたら日が暮れちゃうよ。早く続きを読まないと……
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まぁ俺が死ぬなんてことは万に一つもないわけだが。じゃあ書くなって?いいじゃんこういうのに憧れたことって誰しも一回あるだろ?
おっと、いけねぇ。本題を書いてねぇや。実はだな、奥山とフランソワちゃんに東の方で起きてるリザードマンと巨人の部族抗争の調停に行って欲しい。
そんでもって強そうなやつはスカウトしてきてくれ。魔界での部族抗争は望ましくねぇ、かといって幹部達を派遣するほどの規模でもねぇ。だから二人を抜擢した次第だ。そんじゃ任せるわ。魔法陣も用意してあっからさ。頑張れよ!
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手紙を読み終えた僕は自然とフランソワ様と扉の小窓越しに目が合いました。本当に手紙の内容を理解したのかと言いたくなるほどのキラキラと輝く目と。
「こんなに楽しそうなこと私たちに任せるなんて、さすが魔っちゃん。見る目があるわね!早速準備しましょう奥山さん!」
「あの、フランソワ様本気で行く気なんですか?」
「……ファァァ?」
「謎の奇声を絞り出すように言わないでくださいよ。なんかすごいおぞましいじゃないですか。」
「何を腑抜けたことを言ってるの奥山さん!部族抗争という悲しみの連鎖を私達の手で断ち切ることにより、ゆくゆくは私専用のハーレムギルドを作り上げていきましょうよ!」
「話飛躍しすぎじゃない?!あとそれ僕に何のメリットもないじゃないですか!」
「ほら、早く魔法陣に行くわよ!奥山さんはハーレムを遠くから見つめる大臣に任命してあげるから安心して!」
「近くには寄らせてもらえないんですね……」
僕は監禁部屋の扉を開け、フランソワ様と共に魔王城の中庭に設置された魔法陣のところまで移動しました。
東かぁ、魔界といえど広いですから魔界住まいも僕でさえ行ったことがないところはたくさんあります。確か東の方の魔物達は気性が荒いって聞いたことがあるけど……大丈夫かなぁ。
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「とう!ちゃーーーく!!……で?ここどこ?」
「荒野ですね……おかしいな、てっきりリザードマンか巨人どっちかの集落に転送されるかと思ったんですけど。」
「奥山さん、太った?」
「重量オーバーじゃないですよ!転送場所狂わせるとかどんだけ重いんだよ僕!」
「それにしても困ったわねぇ。どこに向かえばいいのかしら。奥山さんこの辺りの土地勘ある?」
「すいません、完全に初めて来る場所ですね。全く分からないです。」
うーん、どうしよう。魔法陣が誤作動を起こしたとかじゃなければ転送先はここに設定されてたってことだよな。そもそも設定を間違えてたのか?
ザッザッザッザッ……
僕とフランソワ様が困り果てているとどこからか足音が聞こえてきました。音の正体を探すために辺りを見回していると、僕達の背後からフード付きのマントを羽織った人がこちらに近づいて来ていました。
「貴公達、魔王軍の方々か?」
「あ、はい。魔王様の命で来ました。奥山と申します。」
「フランソワよ!いずれ酒池肉林のハーレムギルドを作る者よ!」
「え、人間?酒池肉林?ハーレム?」
「あ、気にしないでください。気にしてたらSAN値がぐちゃぐちゃになっちゃいますから。」
「奥山さん、あなた私のことをクトゥルフだとでも思ってるの?」
フランソワ様のはちゃめちゃな挨拶に少し動揺していたフードの人は少し躊躇いながらフードを取り、僕達に顔を見せてくれました。
「本日は救援に来てくださり誠にありがとうございます。私はリザードマン族長の矢守と申します。お二人を我が集落にご案内するために参上しました。」
「あ、リザードマン!しかも族長さんでしたか!わざわざありがとうございま……」
「ねぇねぇ矢守さんって女の子?」
「はい、人間の方からは見分けがつきにくいと思いますが私は女ですよ。……ちょ、えぇ?!」
フランソワ様はいきなり矢守さんの右手を両手で掴み、鼻息荒めに早口で語り始めました。
「矢守さん!あなた私のハーレムギルドのメンバー第一号にならない?大丈夫、福利厚生は充実させるから!」
「フランソワ様落ち着いて!何で今日に限ってそんな節操ないんだよあんた!」
「いいじゃないリザードマンの女の子!あのクールな目にサファイアのように青い鱗、最高だわ!」
「えーっと、それでは集落にご案内しますね。」
「お願いしま…コラ!ダメでしょフランソワ様!矢守さんの尻尾を触ろうとするんじゃありません!」
矢守さんを先頭にリザードマンの集落へ向かっている最中もフランソワ様はひたすら矢守さんに話しかけていました。
色々質問され、最初は引き気味だった矢守さんでしたが、次第に楽しそうに笑うようになり改めてフランソワ様のコミュ力の凄まじさを思い知らされました。
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荒野からしばらく歩いた場所に洞窟があり、中に入るとかなり広々とした空間があり、そこでは多くのリザードマン達が料理をしたり道具の手入れをしたりと抗争中とは思えないほのぼのとした空気が流れていました。
「皆、注目してほしい!」
洞窟の中にあった演説台のような大きく平たい岩の上から矢守さんがリザードマン達に呼びかけました。
洞窟の中だけあって矢守さんの声は反響し、集落にいたリザードマン達の視線が一斉に僕達に集まります。
「先日皆には言ったな。魔王軍から救援が来ると。そう、この方達こそが魔王軍から此度の戦いの調停に来てくださったお二人だ!」
「えー、奥山です。今回は……」
「おぉ!あの方達が魔王軍の精鋭か!」
ん?今なんて?
「らしいな!たった二人でこの抗争を止めるほどの力を有しておられるんだ!相当な実力者なのだろう!」
「確か二人のうちの一方は一騎当千の猛者らしいが……恐らくあのオークの方だろうな。」
ちょっと……やだ何この空気。
「あれは人間の女?魔術師か?」
「恐らくオーク殿の下僕だろう。あんな子が戦えるわけがない。」
「そりゃそうだ。ハハハハハ!」
一人のリザードマンが笑い出すとその笑いは瞬く間に伝播していき、あっという間に洞窟の中を満たしていきました。
「おい皆!失礼だろう!すいませんフランソワ殿。私の同胞達がご無礼を。」
「……」
「フランソワ様?何で黙って……ちょ、どこ行くんですか?!」
フランソワ様は無言のまま歩き出し、一番最初に笑い出したリザードマンのところに歩み寄りました。
「む?どうした人間の少女よ。何か…パウ!!」
フランソワ様がリザードマンの頰に痛烈なビンタを叩き込むとリザードマンは近くに者達を巻き込みながら横に吹き飛んでいきました。
たった一発のビンタで洞窟内にいる全てのリザードマン達が理解したことでしょう。
『あ、こっちがヤベェ方だ』と
「はーい、それじゃぁ今回の調停に関する指揮は全部私が取ろうと思うんだけど異論ある人。」
「「「異論ありません!」」」
「大丈夫、なるべく血が流れない方法で考えるからそこんとこよろしく!」
「「「はい!よろしくお願いします!」」」
フランソワ様の言葉に対してリザードマン達は全員正座で返事をしています。もう場の空気は完全にフランソワ様が制圧してしまいました。
「あの、奥山殿。フランソワ殿は一体何者なのですか?」
「……魑魅魍魎と悪鬼羅刹を一緒に煮込んで出てきた灰汁を固めたような人です。」
「じゃ、邪悪な方なのですね……」
こうして邪悪の化身フランソワをトップに据えた巨人・リザードマン間部族抗争調停会議が開催されることとなりました。
大丈夫かこれ……
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