奥山さん、泊まる
皆さんこんばんは、奥山です。今日の朝、僕はフランソワ様の帰省についていくため人間界を訪れ、なんやかんやあってフランソワ様の実家のお城に泊まることになりました。
「はぁ……泊まることになった時はどうなるかと思ったけどちゃんと個室を用意してもらえてよかった…」
ベットに腰掛けて時計を見ると時刻は22時、外はすっかり暗くなっています。普段なら起きている時間ですが今日はドッと疲れたしもう寝ちゃいましょう。
コンコンコンコンッ。
僕がベッドの上に横になろうとしたら部屋の扉がノックされました。誰だろう、フランソワ様かな?
「はーい、どうぞー。」
「奥山様、失礼します。」
「あ、シャルルさん。どうしたんですか?それは……お酒ですか?」
「えぇ、昼間は失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした。お詫びにオススメのブランデーを持ってきたのですが、お酒はお飲みになられますか?」
「そんな、気にしなくていいのに。でもせっかく持ってきて下さったんですし、いただきます。」
僕がそう言うとシャルルさんは部屋に入ってきて、棚から小ぶりなグラスを一つ取り出しベッドの近くのテーブルに置きました。
「シャルルさんは飲まないんですか?」
「え?」
「いや、グラスを一つだけ出されたから飲まないのかなと思って、せっかくだし一緒に飲んでくれませんか?」
「は、はい。奥山様がそう仰るのであれば。」
シャルルさんは少しぎこちなさを感じさせる動きで棚からもう一つグラスを取り出し、お酒を注いでくれました。
シャルルさんが僕の対面に座った後、乾杯をして僕がお酒を飲もうとしていると……
「あの、シャルルさん。何でそんなに僕のこと見つめてきてるんですか?」
「へぁ?!見つめ、見つめてる?そそ、そんなことありませんよ!」
「何ですかその絵に描いたような動揺の仕方!どうしちゃったんですか急に!」
「ど、動揺なんてしてません!私のことなんていいですから!ほら、早くお飲みになってください!」
あ、怪しすぎる……絶対このブランデーに何か仕込んでるよ。……ちょっとカマかけてみようかな。そう思った僕はグラスに鼻を近づけて、少し大げさに匂いを嗅ぎました。
「シャルルさん。このブランデー、何か混ぜてます?」
「な、何ですか突然?!」
「僕たちオークは鼻が効くんです。それで何かこのブランデーから薬のような匂いがしたと言うか。」
「い、入れてませんよ!決してあなたを殺せばフランソワ様が魔界に戻る必要がなくなると思ってこのブランデーに毒を混ぜるなんて、そんなこと私はしてませんから!」
「全部言っちゃったよ!聞き出そうとしたこっちがびっくりするくらいの情報量なんですけど!」
「クッ!まさかこんなすぐに見破るなんて……どうやらあなたのことを過小評価していたようです。」
「どうしてあの発言の後でそんな大物ぶれるの?一から十まで全部シャルルさんが言ったんですからね!」
こんなこと言うのはなんだけど間違いない。この人バカだ!仕事は出来てみんなから頼られるけどこういう心理戦みたいなことは全く向いてないタイプの人だぞ!
「奥山様、一つ約束していただけますか?」
「え?こ、今度は何ですか?」
「私やこの城に仕えているもの。そしてもちろんアレクセイ様はフランソワ様のことを自分の命よりも大切に思っています。そんなフランソワ様がたった1人、魔界で魔物に囲まれて過ごしていると思うと不安で仕方ないのです。」
「あのですね、昼間も説明した通り魔王城でフランソワ様はそれはそれは悠々自適な生活を……」
「約束してください!フランソワ様を絶対に辛い目に合わせないと!」
「おかしいな、こんなに近距離にいるのに僕の声届いてないの?!結構声張ってるよ!」
「私が言いたいのはそれだけです。このこと決してお忘れなきように。それでは失礼します。」
そう言ってシャルルさんは僕に背を向けて部屋を出て行きました。なんだろう、嵐みたいな人だったな……
疲れてる時にあれはきついよ。残りの体力ごっそり持っていかれたもん。よし、今度こそ寝るぞ!
コンコンコンコンッ
え?また?!こ、今度は誰だ?
「は、はい。どうぞ…」
「奥山殿起きておられますか?」
「アレクセイさん?どうされたんですか?」
「いやなに、せっかく魔界から客人が来られたのです。ここは是非ワシ秘蔵のラム酒をご馳走しようかと思いましてな。」
「あの、無礼を承知でお聞きするんですけど。そのラム酒、変なものが入ってたりはしないですよね?」
「ファ?!ななな、なんで急にそんなことを?!こきゅおう、国王たるこのワシがそのようなことをしゅるわけがないじゃん!」
「あんたもかよ!もう動揺しすぎてキャラ変わってきてるじゃないですか!絶対飲まないですからねそのラム酒!」
「奥山殿、ワシを含めたこの城の者達は本当に……」
「聞いた!それももう聞きましたから!大丈夫ですからもう寝かせてください!」
僕はまだ何か言いたげなアレクセイさんを部屋から無理矢理押し出して扉の鍵を閉めました。
「はぁ…はぁ…やっぱりここはヤバい。なんかどんどん生気を吸い取られていってる気がする……今度こそ、今度こそ寝るぞ……」
コンコンコンコンッ
「奥山さーん、私の部屋で昔やってたTCG見つけたんだけど一緒にやらない?ていうかやりましょうよ。」
「……」
「奥山さん?奥山さーん。もう寝ちゃったの?」
「……」
「ドロー!モンスターカード!」
「……」
その後何回かフランソワ様はノックと呼びかけを繰り返してきましたが僕は布団にくるまり、返事をせずなんとかやり過ごしました。
まぁその後もシャルルさんやアレクセイさんがやってきて寝ることが出来なかったわけですが……
=====
翌日 早朝
「それじゃあ、お父様。私魔界に帰るから。」
「あぁ……名残惜しいな。元気でやるんだぞフランソワ。」
「私共はフランソワ様のご無事を常に祈っておりますから。」
「心配し過ぎよ二人共。ね、奥山さん。あれ?奥山さん、なんかやつれてない?」
「フランソワ様、早く行きましょう…僕もう耐えられないですよ……」
最早帰るというより逃げ出すような形で僕は転送の魔法陣に入りました。その様子を悲しそうな表情で見ていたアレクセイさんとシャルルさんが僕に呼びかけてきました。
「奥山殿、フランソワをお願いしますぞ!土産にこの王国名産のワインを持って行ってくだされ!」
「私は故郷の地酒を用意しました。どうぞ皆さんで飲んでください。」
「いやだ!絶対いらない!魔法陣!魔法陣早くしてぇ!!」
酒瓶を持って近づいてくる狂人二人を避けるように魔法陣が作動し、気がつけば僕たちは魔王城の敷地の中に立っていました。
「あ、おかえり二人共。」
「ただいま五部原さん。はぁーなんやかんやで魔界が落ち着くようになってきたわねぇ。順応って怖いわ。」
「よう、奥山。人間界どうだった?楽しかったか?」
「地獄があるとすれば間違いなくあそこなんだと思う……」
「お前どこ行ってきたんだよ!」
やっと…やっと帰ってこれた…とりあえず明日は有給を取ろうと思います。ゆっくり家で撮りためたアニメでも見よう……
気に入っていただけましたらブックマーク等よろしくお願いします。




