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奥山さん、同行する

皆さんこんにちは奥山です。今日の朝、フランソワ様の監禁部屋に着いた瞬間にとんでもないことを言われました。まぁいつものことだとは思うんですが。


「奥山さん、私実家に帰省しようと思うんだけどいいかしら?」


「……一応理由を聞かせていただけます?」


「そんな大した理由じゃないわ。昨日の夜ね、パパからメールがあったの。『元気にしてるか?久しぶりに顔を見たいから帰ってこないか』って」


「フランソワ様、念のため確認しますね。フランソワ様の魔王城での立場って理解されてますか?」


「言うまでもないわ、人質よ。」


「じゃあ人質が実家に帰省出来ると思います?」


「奥山さん、あの魔っちゃんがトップをやってる魔王城においてこの問答は不要じゃなくて?」


クソ!反論できない!現に何回も同じような場面があってフランソワ様は監禁部屋を自由に出入りしちゃってるんだ!今更止めるだけ無駄なのかな……


「でもいいですかフランソワ様。一応魔王様には許可は取ってもらいますよ?いくらフランソワ様でもここで許可が下りなかったら……」


「大丈夫大丈夫、もう許可は取ってあるし転送用の魔法陣も門の近くに用意してくれてるらしいから。あと、奥山さんにも付いてきてもらうわよ?さぁ早く行きましょ!」


「何その根回しの良さ!人質の帰省にどんだけ協力的なんだよウチの職場!」


こうして僕は攻め込むためではなく、フランソワ様の帰省のお目付役として人間界に行くことになりました。


この広い魔界中を探し回ってもこんな理由で人間界に行くのは僕だけでしょうね。全く自慢できませんけど……


=====


そういうわけで諸々準備を済ませた後、僕もフランソワ様は転送の魔法陣で魔界から人間界に移動しました。

転送が完了すると僕達は白い巨大なお城が立っていました。


「こ、これがフランソワ様の実家なんですか?マジで王国の姫様だったんですね転々…」


「そうそう、何だか懐かしいわねぇ。昔から嫌になる程見てきたはずなのに。まぁそんなことどうでもいいわ。早くお父様のところに行くわよ奥山さん。」


「どうでもいいの?久しぶりの人間界なのに冷めすぎじゃないこの人?!」


懐かしいと言いながら全くそんな素振りを見せないフランソワ様と僕がお城の扉を前に立つと扉が自然に開きそこには大勢のメイドさん達が頭を下げ、フランソワ様を出迎えていました。


「お帰りなさいませフランソワ様。ご無事で何よりでございます。」


「ただいまシャルル。奥山さん、この人はウチのメイド長のシャルルよ。」


フランソワ様が紹介してきたシャルルさんは黒く長い髪を後ろで束ね、銀縁の眼鏡をかけたとても知的な女性でした。


「どうも初めまして、オークの奥山と申します。今日はフランソワ様の監視として同行しています。」


「魔物……あなた、フランソワ様に何か酷いことをしていないでしょうね!」


「シャルルさん、むしろされているのは僕なんですよ!この悪鬼羅刹と魑魅魍魎を一緒に煮込んで出てきた灰汁みたいな姫様から!」


「心配しないでシャルル。奥山さんはギリセーフな常識ある魔物だから。」


「ギリなの?!もう思いっきりアウトゾーンにいるフランソワ様から見て僕ギリなの?!」


「そうですか。まぁフランソワ様がそうおっしゃるのであれば……それではアレクセイ様がお待ちですのでご案内しますフランソワ様、豚。」


「突然ぶっ込んでくるのやめてくれません?しかも地味に心に刺さるやつ。」


「ぶ……奥山さん許してあげて、シャルルは魔物が苦手なだけなの。」


「言いかけたよね?今豚って言いかけたよね?」


=====


シャルルさんに案内され、僕達は城の応接室に入りました。部屋に置かれたソファには白い髪の壮年の男性が腰掛けていました。

この方が恐らくアレクセイさん、フランソワ様のお父様なのでしょう。


「おぉフランソワ!愛しい娘よ!大丈夫だったか?病気や怪我はないか?」


「久しぶりパパ。大丈夫、魔王城の暮らしってかなり快適なのよ?」


「快適なことがおかしいんですけどね……」


「フランソワ…そちらの方は?」


「あぁ、紹介するわね。この人はオークの奥山さん。いつも私の監視をやってるの。」


「監視……奥山殿、あなたフランソワに何か酷いことをしていないでしょうな?」


「この短時間の間に違う人から同じこと聞かれたんですけど!」


「奥山さん許してあげて。パパは……」


「魔物が苦手なんでしょ!やめてやめてなんか無限ループに入ったみたいで怖くなってくるから!」


ここで僕は実感しました。この城に住む人たちがフランソワ様が育って行く中でその人格形成に影響を与えたのは間違いありません。

つまりフランソワ様に似たり寄ったりな感じの人が何人もいるということ……


「地獄かここは……」


「まぁせっかく来てくださったのだ。もてなさんわけにもいくまい。フランソワ、お腹が空いているだろう?」


「確かに、今日は朝ごはん食べなかったしね。」


「それはいかん、おいシャルル。食事を持ってきてくれ、生姜焼山殿の分もな。」


「何その悪質な間違い方!もう画数がど偉いことになってるじゃないですか!」


「おぉこれは失敬、私は好物がパスタでね。つい間違えてしまった。」


「間違えようがないよね?!だって麺類だもん!悪意しか感じないよ!」


やっぱりだ!この感じ、フランソワ様と一緒にいて嫌という程味わってきたものと全く一緒だぞ!


もはや僕の脳内ではフランソワの監視ではなく、この城から生きて帰ることが目的に変わりました。


=====


「お待たせいたしました。」


しばらくしてシャルルさんが数名のメイドと一緒に部屋に戻ってきました。手に持ったお盆の上には綺麗なお皿に美しく料理が盛り付けられており、まるで一つの芸術品のようでした。


「シャルルの手料理も久しぶりね。凄く美味しそうだわ!」


「たくさん食べるといい。今日のためにいつもより高級な食材を取り寄せたのだからな。さぁ、奥山殿も遠慮なさらずに。」


「ありがとうございます。楽しみだなぁ、こんな料理初め……え?」


僕の前に置かれたのはお皿は他の2人と同じなのですが盛り付けられている料理が……


「あの、シャルルさん。これは?」


「はい、豚ロースの生姜焼でございます。奥山様がお好きかと思いまして。」


「さっきからその生姜焼推しはなんなの?!他の2人が魚料理だから悪意が満ちてるとしか思えないよ!」


「大丈夫よ奥山さん。シャルルの料理は世界一だから!」


「論点が違いますよフランソワ様……はぁ、そういいや。これ以上は体がもたない気がする……」


突っ込むのに疲れ、食事を進めているとアレクセイさんが僕に話しかけてきました。


「奥山殿、フランソワは魔王城でちゃんとした食事は取れているのかね?粗末な料理を与えたりしていないか?」


「大丈夫ですよアレクセイさん。魔笛屋っていう食堂から出前をとったり、魔王城の食堂でみんなと一緒に食べたりしてます。もちろん一日三食。」


「なんと!フランソワ、本当なのか?!」


「そうよー、しかもどれも美味しいの。私魔笛屋のレバニラ炒めが大好物なのよね。」


「そうか、てっきりひどい扱いを受けていると思ったが安心したよ。」


「アレクセイさん、考えてみてくださいよ。普通に娘とメール出来て、こうやって帰省してる時点でひどい扱い受けてるわけないでしょ。」


なんだろう、もしかして人間と魔物の間で人質の認識って違うの?人間界って人質は精一杯もてなすものなの?


「これは失礼、私はてっきり娘を痛めつけているものだとばかり。」


「そんなことないわよ。ね、奥山さん?」


「そうですねぇ、日々痛めつけられてるのは僕の精神ですからねぇ。」


「そうか、魔王城はフランソワによくしてくれているのか……そうと分かれば話は別だ!さぁどんどん食べてくだされ奥山殿!生姜焼のおかわりはまだまだありますぞ!」


「なんで生姜焼限定なの?!こんな脂っこいもの何個も食べられるわけないでしょ!」


「よかったわね奥山さん!いつも言ってたじゃない。生姜焼の海に溺れたいって!」


「言ってねぇよ!そんな固形の海誰も溺れたくないわ!」


こんな会話をしつつも、なんとかアレクセイさんの誤解は解けたようで最初に来た時よりは和やかな雰囲気で食事を進めることが出来ました。


=====


食事が終わり、僕達三人は同じ部屋でそのまま話し込んでいると窓の外では日が沈みかけていました。あぁやっとだ、やっと帰れる!


「フランソワ様、そろそろ……」


「あぁ、そうね。じゃあ私達帰るわねパパ。」


「おいおい、もう行ってしまうのか?」


「アレクセイさん、フランソワ様は一応人質なのであまり長い時間外出させるわけにはいかないんですよ。」


「そうか、泊まっていけばいいと思っていたのだが。奥山殿もご一緒にいかがですかな?」


嫌だ!早く帰りたい!こんな空間に長居したら僕の自我が崩壊しそうだ!現に食事が終わってからの会話中も数え切れないくらいツッコんだし……

プルルルル…プルルルル…


ん?この着信音って確かフランソワ様の携帯?


「はいはーい魔っちゃんどうしたの?…え?せっかく親御さんのところに帰ったんだから一泊していけ?いいわよそんなに気を遣わなくて。……うん、うん。あぁそうなの?分かったわ、じゃあそういうことで。」


おいおいやめてくれ。なんかすごい恐ろしいフレーズが聞こえてきたぞ!


「奥山さん、魔っちゃんが泊まっていけだって。転送用の魔法陣も明日に開くように設定したらしいわ。」


その言葉に僕は何も言い返すことが出来ず、その場に膝から崩れ落ちてしまいました。

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