奥山さん、引く
皆さんこんばんは奥山です。僕は今夕飯を食べ終え、フランソワ様のいる監禁部屋に向かっているところです。監禁部屋までの階段はそれなりの段数があるので食後の運動にいいですね。あれ?
「ちょっとフランソワ様!勝手に部屋から出ないでって言ってるじゃないです……か…」
「あ、奥山さーん見て見て!これすごくない?」
そう言って階段の踊り場に立つフランソワ様はその両手で女性の生首を僕に向かって掲げてきました。フフ、さぁて喉の調子は…大丈夫そうですね。
「いやぁぁぁあ!!!な、何やってんですかフランソワ様!あんたついに!ついに越えてはならぬ一線を!!」
「え?何言ってんの?生きてるわよこの人。」
「ごめんなさいフランソワ様……あなたがそこまで精神を病んでいることに僕は気づいてあげられなかったんですね……」
「あ、あの奥山くん。フランソワちゃんは本当のこと言ってるよ?」
「いやぁぁぁあ!!生首が喋ったぁぁぁあ!!」
「奥山さんって魔界に住んでるのにこういうことへの耐性皆無なのね。」
今度からフランソワ様の所に行く時は軽めな食事にしようと思いました。あまりの衝撃で胃の中のコロッケ定食が大暴れしちゃってます。
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「驚かせちゃってごめんね。フランソワちゃんと遊んでたら盛り上がっちゃって。」
「いえ、僕も驚き過ぎちゃいました。でも寺原さんが首を外してるところ初めて見ましたよ。」
フランソワ様が持っていた生首の正体は魔王城の受付で働いているデュラハンの寺原さんでした。普段受付にいるときは、ちょっとおかしい言い方かもしれませんが首は繋がっている状態なんです。
ですがデュラハンとしては首を外して腕で抱えている方が落ち着くのだとか。
「フランソワ様と寺原さんって仲よかったんですね。」
「何を言ってるの?私が誰とでも仲良くなれる慈母神のような心の持ち主だということは奥山さんが一番分かってるでしょ?」
「フランソワ様、自分を偽ることほど虚しいことはない……痛い痛い痛い!!やめて耳つねらないで!ちぎれる、千切れるから!」
僕とフランソワ様のやりとりを見て寺原さんは可笑しそうに微笑んでいます。
「本当に二人って仲がいいんだね。」
「仲良く見えるの?現在進行形で耳が千切られそうな僕と千切ろうとしてるフランソワ様が?!」
「寺原さん、あなたの目は真実がちゃんと見えているのね。それはあなたの心が清らかである証拠よ。」
「そんなセリフをよくこの状況で言えますねあんた!お願い!本当にもう許して!」
何故僕は今フランソワ様に許しを求めているのでしょうか。なんとか離してもらえましたがもう耳の感触ないですよ……
すると寺原さんが何か思い出したかのように手を打ち合わせました。
「そうだ、今日はね。フランソワちゃんと奥山くんの二人に用があって来たの。」
「え?僕にも?一体どんなご用件で?」
「実はね、アタシ達デュラハンには色々な仕事道具があるんだけどね。パパとママが時代にあったデザインにしたいって言って試作品をいくつか作ったから意見を聞かせて欲しいの。」
「それ、私達でいいの?他のデュラハンの人達に聞くとかした方がいいんじゃない?」
「アタシ達の仕事の対象って人間だから出来れば人間の意見も取り入れたいの。それに別の魔族から見た意見もね。」
「なるほどそういうことですか。全然大丈夫ですよ。僕でよければ協力させてください。」
「私もOKよ。」
「ありがとう二人とも!じゃあ早速一つ目ね!」
そう言って寺原さんは足元に置いていたカバンの中からステンレス製の円柱状の物を出してきました。
「寺原さん、それ仕事道具なんですか?」
「うん、そうだよ。ちょっと待ってね、今コップに注ぐから。」
どうやら取り出しものの正体は水筒だったらしく、カバンの中から取り出した二つの紙コップにその中を入れて僕とフランソワ様に渡してきました。
「うーんいい香り!寺原さん、これってもしかしてミネストローネ?」
「本当だ!結構具材もゴロゴロしてますね!寺原さんのご実家ってレストランなんですか?」
「うぅん、違うよ。アタシ達デュラハンの仕事は人間に死を予言することなの。」
「え?死を予言…ですか?」
「人間の家の玄関に立って扉を開けて出てきた瞬間にタライいっぱいの血をその人間にかけるんだよ。」
……ちょっと待って?その話からすると仕事道具って、果てはこのミネストローネって……
「二人が持ってるそれはね、ミネストローネ風血液だよ!最近はオシャレにしなきゃいけないからってお父さんが自作したんだけど、どうかな?」
「どうもこうもないわ!何なの、ミネストローネ風血液って!あんたのお父さんなんちゅうサイコパスなことやってんですか!」
「でも奥山さん、香りから察するにちゃんとブイヨンを作ってるわ。市販のコンソメの素を使ってない本格派よ!」
「最早そんな次元に収まる話じゃないでしょ!これを人間にかけるんだとしたらもう悪質としか言いようが……ちょっとフランソワ様!何僕にかけようとしてきてるんですか!」
「いやぁ予言しちゃおうかなって。」
「しなくていいから!なんでちょっとお茶目な感じで言ってんですか!」
僕の様子を見て寺原さんは残念そうな顔をしています。むしろこんなものを持っていて褒められると思っていたのでしょうか?
「じゃあ次!次の試作品も見て欲しいの!今度のはアタシとお母さんが一緒に作った自信作だから!」
「嫌だなぁ。もう不安しかないよ……」
「これ、飲んでみようかしら?」
「ダメ!絶対ダメ!」
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「次の試作品はこれだよ!」
次に寺原さんがカバンから取り出したのはピンク色のリボンでした。結構な長さがあるのか小さく巻いて纏められています。
「可愛い!ねえ寺原さん、伸ばしてみてもいい?」
「うん、いいよ。触った感想とかも聞きたいから。」
フランソワ様がシュルシュルと音を立ててリボンを伸ばすとリボンは目測で4メートルほどはありそうな長さでした。
「あれも仕事道具なんですか?は!まさかあれで人間を縛り上げて!」
「違う違う。そんなことしないよ奥山くん。あれはね。」
「奥山さん奥山さん。このリボン思ったより重量があるわよ!これなら……」
スパーーーン!
「え?」
部屋の中に破裂音が轟き、驚いて部屋の中を見渡すと、フランソワ様がリボンを叩きつけた箇所の石壁がごっそり抉れてました。
「あれはリボン型の鞭なの。アタシ達は人間に姿を見られたときに鞭で両目を潰すようにしてるんだ!!」
「恐ろしい内容を明るく語らないでくださいよ!もう色々間違いすぎててどこを修正すべきか分かんないよ!」
「でもこれならいいんじゃない?可愛いから人間の警戒心もとけると思うけど。」
「よく考えてフランソワ様!もしそれ採用しちゃったら人間達の前に生首抱えながらミネストローネとリボンを装備してる変態が現れることになるんですよ!」
「もしかして持ってきた試作品ダメだった?」
「ダメというか発想が斜め上を行きすぎて普通の感性じゃ評価できないというか。」
「うーん、鞭の見た目をリボンにするのはよかったわ。あとはミネストローネに胡椒をもう少し加えると香りが引き立つと思うの。」
「いたよ斜め上すぎる感性持ってる人!」
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二つの試作品を試した寺原さんはフランソワ様から色々アドバイスをもらいとても満足そうに帰って行きました。
デュラハンって全員あんなやばい感性をしてるのでしょうか?
「ねぇ奥山さん、これチンしてきて欲しいんだけど。」
「え?なんです……ちょっと!なんでまだミネストローネ風血液持ってんですかフランソワ様!」
「いや、美味しそうだったからつい。奥山さんもどう?」
「いらないから!あとチンもしないから!あと断られたら僕にかけようとしてくるのやめてください!」
もうフランソワ様をデュラハンの一族に預けちゃっていいんじゃないかな?絶対意気投合するよ……
そう感じた魔王城での夕暮れ時でした。
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