奥山さん、遭遇する
皆さんどうもこんばんは、奥山です。
今私は夜のランニングに興じているフランソワ様の見張りをしています。日常的にはふざけたような態度を取るお方ですがこの時だけは真剣は面持ちです。
「普段からこんな感じならいいのに…」
「何か言った?奥山さん。」
「いえなんでも。それにしても今日はいつもより多く走られますね?お昼が生姜焼き定食だったにしても、あまり無理はなさらない方がいいですよ?」
「そこに気づくとは流石は生姜焼き、もとい奥山さんね!」
「そういう消化の悪いボケやめてもらえません?」
「実はね、ネットで面白い記事を見たの!魔界で同じ場所を何回も走っていると何かの儀式と勘違いして魔獣がやってくるらしいのよ!」
「いやいや絶対ガセですよ。そんな噂聞いたことないですもん。ていうか魔王城の庭に魔獣召喚する気ですか…」
「でもこんなの魔界にいる今しか出来ないじゃない。気になったらやってみたくなるタチなのよ私。」
そういうとフランソワ様はまた走り始めました。まぁ出なかったとしても残念だったね、くらいで終わるでしょうししばらく待っていましょう。
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「ぜーっ!や、やっぱり、ヒーッ!でてこ、オェッ!こなかった…わね。」
「やっぱりガセだったでしょう?それに流石に20周はやりすぎですよ。ここの庭も狭くないんですから。あと年頃の女の子がオェッとか言わないの。」
「はぁ〜残念だわぁ。せっかくだからどんな風に魔獣が召喚されるかみたかったのに。」
「はいはい今度魔王様にでもお願いしたらいいんじゃないですか?さ、早くシャワーを浴びてお部屋に帰りましょうね。」
まだぶつくさ言っているフランソワ様の背中を押しながらお城の方に向かっていると急に背後から巨大な魔力を感じました。驚いて振り返って見るとそこには巨大は魔法陣が展開されているではありませんか。
「ええええ!!!?嘘でしょ?!本当に来ちゃうの?最後あたりとか吐きそうになりながら走ってたのに?!」
「ほら見なさいよ奥山さん!何事もやってみなければわからないでしょう!あなたは今からビーストテイマーフランソワの誕生に立ち会うのよ!」
「ビーストテイマーになっちゃうんですか?!監禁されてるのにどうお世話するんですか僕は知りませんからね!」
「酷い!ここに立ち会っている以上奥山さんも共犯なんだからね!」
そんなやり取りをしていると魔法陣が消え、魔獣の召喚が終わりました。そこに立っていたのは、
5メートルほどの体長、額に角、背中に翼を携えた黒いライオンに似た魔獣でした。
「嘘でしょこういうのってポメラニアンみたいな可愛いのが出てくるのがお決まりじゃないんですか?なんかめちゃくちゃ強そうなの来ましたよ!」
「私の中に眠る力がそうさせたのかしら?我ながら自分の才能が怖い…」
「言ってる場合ですか…あ、ちょっとフランソワ様!近づいたら危ないですって!」
「さぁ私の使い魔よ!あなたの名前を聞かせなさい!」
僕の心配など露知らずフランソワ様はツカツカと歩み寄り魔獣に話しかけています。すると魔獣はフランソワ様を見つめ、その巨大な口を開きました。
『どーも、いつもお世話になっております。ワタクシ魔王様御付きの魔獣、獅子村と申します。』
「「は?」」
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『あー、なるほど。あのサインを出したのは魔王様ではなくそちらのお嬢様だったのですね?』
「はい、申し訳ありません。こんな夜更けにこちらの手違いでご迷惑を。」
『ハハハ、ワタクシも久々の呼び出しかと勘違いして確認を怠っていました。年甲斐もなく張り切ってしまい、お恥ずかしい。』
どうやらこの魔獣の名前は獅子村さん。魔獣の中ではかなり高位な方で、魔王様とは長年契約を結んでいる間柄なんだとか。それにしても見た目に反してめちゃくちゃ物腰が柔らかくて僕は一安心なのですが、姫様は未だに興奮が収まらないようで…
「あなた!名前はなんと言うの?」
『獅子村でございます。』
「シシー・ザ・ムーラー?いいじゃない!サーヴァントっぽいわ!」
「いや獅子村って言ってるでしょ、耳腐ってるんですか。」
「だってー、せっかく召喚出来たと思ったら魔っちゃんの子なんでしょー?つまんないわよー。」
その言葉を聞いて獅子村さんの目つきが少しきつくなったように感じた僕は焦りながら、
「間違って召喚したのに何言ってんですか謝んなさい!あと魔王様を魔っちゃんって言わないの!」
『よくわかりませんがワタクシが原因でお気を害してしまったようで、申し訳ありません。』
「いやいや獅子村さんは謝らなくていいんですよ。ほら、フランソワ様!ちゃんと頭さげて!」
「ねぇねぇムーラーってどれぐらい強いの?」
「ここまで綺麗にスルーされるとヘコむんですけど…」
『どれぐらい、でございますか?うーん困った質問でごさいますねえ。どう答えれば良いのやら。』
「やっぱり魔っちゃんに仕えてるから最強とか言っちゃう。」
『そうですねぇ、最強というか比べる対象がいないというか…』
「ひゅーっ!ムーラー言ってくれるねぇ!SI・BI・RE・RU!」
「あんた本当テンションどうしちゃったんだよ。」
ニコニコしながらフランソワ様に接する獅子村さんを見て僕も気が緩んでしまい、つい質問してしまいました。
「サインを見て来たと仰っていましたが本当にフランソワ様のランニングがサインになっていたのですか?」
「確かに、私もネットの情報を頼りにこの庭を走ってたんだけど、だいぶヤケクソだったのよ?」
「あんなこと言っておいてヤケクソだったんですか…」
『条件でございますか?えぇ満たしておられましたよ。完璧でした。必要なものとしましては、まず1つ目は夜であること、2つ目はワタクシの体より大きめな円を描くこと、最後に一定量の人間の体液で御座います。』
「体液?私のってこと?心当たりがないわよ?」
『フランソワ様の場合は何周もしたことで靴跡が円になり、ランニングでかかれた汗が体液に該当しますね。』
「え?じゃああなた私の汗でここに来たの?獅子村さん、その性癖はあまり人に言わない方が身のためよ?」
「獅子村さん、もうこの姫様食べちゃっていいですよ。」
『ハハハ、まぁまぁ喧嘩なさらずに。それとこれは条件とは言い難いのですが、召喚はルーレットのような要素も含みます。高位の者を呼び出すとなると召喚者の魔力量も関係してきますね。』
「やめてやめて、これ以上私を褒めても何もないわよ!ただ私の溢れんばかりの才能が白日の下に晒されるだけよ。」
「ぜっったいマグレですよ!普段からゲームばっかやってる人にそんな魔力ないですって!」
「奥山さんご存知ないかしら?能ある鷹は爪を隠す、という言葉を。」
「うわー、その顔すんごい腹立つんですけど。」
凄まじいドヤ顔で僕を見つめてくるフランソワ様から目を背けると獅子村さんが魔王城の最上階、魔王様のお部屋がある場所を見つめていました。色々な感情が読み取れそうな大きな瞳で。
『さて、それではワタクシはお暇させていただきます。これ以上お邪魔していると迷惑でしょうから。』
「すいません、急にお呼びしてしまったお詫びが出来ればよかったのですが。」
『お気になさらずに、久々に魔王城を見れただけでこの獅子村、無常の喜びで御座います。』
「ムーラー!また今度お話ししましょ!今度は美味しい豚料理を用意しておくわ。」
「なんで豚限定?!僕じゃないよね?材料僕じゃないよね?!」
『ハッハッハ!面白いお方だ。是非御相伴に預かりたいですね。』
「食べないでよ?絶対嫌ですからね僕!」
地面を揺らすような大きな笑い声をあげながら獅子村さんはその場で消えていってしまいました。なんだかどっと疲れた気がします。
「とってもいいライオンだったわね!明日からランニングをする楽しみが増えたわ。」
「また召喚する気ですか?あまりご迷惑はかけない方がいいですよ。」
「大丈夫よ!ムーラーは優しいんだから!」
興奮しまくっているフランソワ様の背中を押しながら今度こそシャワールームに向かおうとしていると今度は違う黒い影が目の前に立っていました。
「ま、魔王様?!何故このような時間に?!」
「あ、魔っちゃんだ。」
焦る僕とマイペースなフランソワ様の声は届いていないのか、魔王様はジッと獅子村さんがいた場所を眺めて
「ここに…獅子村が来てたのか?」
「え、えぇ。フランソワ様の手違いで召喚されてしまって、今さっきお帰りになられたところです。」
「お前らよく無事で済んだな。」
「何言ってるのよ魔っちゃん。ムーラーは優しいライオンよ?」
「魔っちゃんはやめなさいって!」
「まぁ、生きてるってことは認めたってことか。じゃあどーでもいいか。」
そういって魔王様は欠伸をしながら城の上階へ飛んでいかれました。
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あの日の夜の魔王様の言葉が忘れられず、僕は魔王城の書庫で魔獣関連の文献を調べてみました。
どうやらかつて獅子村さんは魔界中の魔獣を襲い、食べ漁っていたようです。その凶暴性と凄まじい戦闘力に魔王様が目をつけ討伐に動き出し、重傷を負いながらもなんとか手懐けるまでに至ったのだとか。
ただその頃には獅子村さんは既に魔界にいる自身以外の魔獣を食い殺したあとだったそうです。
つまりフランソワ様が獅子村さんを呼び出せたのも比べる対象がいないと言ったのもこの魔界に獅子村さん以外の魔獣が存在していないからということになりますね。
「怖いなー、何で無事だったんだろう僕たち。あれ?概要欄に何か書いてある…」
[好物:女性の体液 特に汗]
…魔獣って怖い。




