奥山さん、慣れる。
どうも皆さ…
「はぁ…」
おや?どうしたのでしょうか。口を開けば外に出せだの出前を取れだの課金ができる魔法のカードを買って来いだの言ってくるフランソワ様がため息をついています、それも悲しげな。これは気になります。声をかけてみましょう。
「どうかされましたか?フランソワ様。」
「同化されました?私は超生命体ではないのよ奥山さん。」
「変換ミスみたいなボケやめてくださいよ…」
「聞いて奥山さん私今ネットニュースを見ていたらね。あ、ちゃんとニュースも見るんだ感心だなーとか思ってもこのまま話を聞いてね?」
「今日はやたら畳みかけてきますね。それでニュースがどうしたんです?」
「どうやら人間界の村が魔族に襲われたみたいなの。王国の姫として心が痛むわ。それに魔族がとても恐ろしいとも思ったの。」
この人にもこんな感情が…いや、これはだいぶ失礼なのでやめておきましょう。ですがフランソワ様の人間らしい一面を初めて見たというのは確かです。
「まぁ、人間の魔族への恐怖感情は深まる一方でしょうね。」
「そうよねぇ。私なんて魔族が近くにいると思うと安心して眠ることすら出来ないわ。」
「…ねぇフランソワ様?1つよろしいですか?」
「あら?何かしら、悲しみに暮れる姫君の心を癒してくれるの?」
「ここが魔王城ってこと忘れてません?」
「あ!!」
マジかよこの人。今の声色からしてかなり素のリアクションでしたよ。
「な、なーにを言っているのかしらぁ奥山さーん?この私が囚われのVIP…じゃなくて姫だということを忘れることがあるわけないじゃない。オーホッホッホッホ!」
…もしかしたらこの姫様は人間ではないのかもしれません。
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自分の動揺を紛らわせるようにフランソワ様は出前を頼むよう言ってきました。今日は天そばの気分だそうです。
カツーン、カツーン。
私が注文を取るために下の階に向かっていると私とは別の足音が下から聞こえてきました。その音に気づいた時には音の主はすでに僕の目の前に立っていました。なんかもうオーラがヤバイです。
「貴様が奥山か?」
「亜座美様?!どどど、どうしてこのようなところに?!」
今僕の目の前にいるのはアザゼルの亜座美様、魔王軍幹部の一人で魔王城の予算管理を部下の方々と請け負っておられるお方です。その部下の方々は少数精鋭のエリート揃いで、それをまとめる亜座美様は魔王軍きっての頭脳派と言われており、戦闘時には参謀として参加し多くの戦いを勝利に導いてこられました。
「今日俺がこの場を訪れたのは他ではない。この監禁部屋に関する予算について直接聴きたいことがある。」
「予算…ですか?何かおかしいところでも?」
「阿呆か貴様はぁ!おかしなところだらけだ!見ろ!まずはこの食事代、毎度毎度出前を頼んでいるな?しかもそこそこ高級な!」
「あ、そうなんですよー。そのせいで僕出前のお兄さんに名前覚えられちゃって。受け渡しの時に今日は寒いねーなんて言い合ったりして。」
「たわけぇ!そんなことはどうでもよいのだ!他にも部屋の修繕費とかこつけて高級ベットやハイスペックPCを揃えるだとぉ?舐めた真似を!俺たちの部署のPCより高性能ではないかぁぁぁ…」
亜座美様が身をよじらせてますがどうしたんでしょう?…そうだおかしい!最近フランソワ様と過ごす時間が多いせいで感覚が麻痺してたけどこの状況十分異常だよ!完全に頭から抜け落ちてました、順応って怖いですねー。
「奥山!部屋まで連れて行け!堕落しくさった姫にこの亜座美がお灸を据えてやらんとなぁ!」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「安心しろ、手加減はしてやるさ。人間の小娘など少し凄めばすぐに折れるものよ、フハハハハ!」
僕が心配しているのは亜座美様の方なんですけど…
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僕は亜座美様の前を誘導するように歩き、監禁部屋の前にたどり着きました。部屋の前に着いた途端、亜座美様は殺気をムンムンに出しまくっています、手加減するって言いましたよね?
「フランソワ様、よろしいですか?」
「貴様人質に敬語で話しかけているのか…」
シャンッ!
「はいはーい何かしら、あら?隣のお方はどなた?」
「お初にお目にかかる。俺は魔王軍幹部アザゼルの亜座美だ。今日はお前に言いたいことがあってなぁフランソワ。よくもまぁここまで勝手気ままに過ごしてくれたな小娘ぇ!」
「あら怖い、何をそんなに怒ってらっしゃるの?」
「いけしゃあしゃあとほざきやがって!貴様が出前を取ったりハイスペックPCを買ったりしているのがおかしいと言っているのだ!」
「はぁ…あのね亜座美さん、オンラインでの戦いは数秒のラグですら命取りなの。そんな戦いに身を投じる私がこのPCに行き着くのは自然なことじゃなくて?」
「何だその上級者が初心者を見るような哀れみの目はぁ!ここは監禁部屋だぞ、寛ぐための部屋ではない!」
「でもここで暮らしていく以上、私は最善を尽くしてこの部屋を良くするわ。そのためなら使えるコネは全て使う。衣食住を充実させようとすることは人間の本能なのだから。」
「何故そこまで偉そうに開き直ることが出来るのだ貴様?!いいか!お前はここが魔王城だということをわすれ…」
「あ、そのやり取りもうやったからいいわよ?」
「キィィィィィィィィ…!!!!」
魔王軍の幹部が人間の女の子との口論で踏み潰された虫のような声を上げています。世も末ですね。僕はこの口論に関しては無言を貫こうと思っていたのですが1つ気になることがあったのでこれだけは聞いてみようと思います。
「そういえばフランソワ様に関する費用が魔王城の経費から落ちるようになったのは何故なんです?」
「おぉ!そうそれだ!俺も聞こうと思っていた!それさえなければ俺がこんな徒労を食うことはなかったのだ!」
僕と亜座美様の視線が一気に小窓から覗いているフランソワ様に集まります。一体真相はどうなのでしょうか。
「え?魔王が使っていいって言ったわよ?魔王城名義の口座番号教えてくれたし。」
場に沈黙が訪れました。僕はあらかた予想はついていたのですが亜座美様は違ったらしく顔を真っ赤にして叫びながら階下に走って行きました。
「松尾ォォォォォォ!!このボンクラがぁぁぁ!!!!」
ダダダダダダ…
「魔王様って、松尾って名前だったんですね。」
「何だか面白い人だったわね!今度あの人と3人でお茶しましょうよ。楽しくなりそう!」
これ以上関わったら亜座美様が消滅してしまうのではないか、そんなありそうで怖いことを考えながら過ごしている今日この頃です。以上、奥山でした。




