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奥山さん、譲歩する

皆さんこんばんは、奥山です。今日から久しぶりの深夜勤務が始まります。うちの魔王様は深夜に部下を働かせることを嫌い、早々に帰宅させてもらえるのですが無理を言ってこの時間にもシフトを入れてもらいました。理由は…


「ねぇ奥山さん!出してよ!これからランニングの時間なんだから!」


「ダメです!なにを当たり前のように言ってるんですか!」


この人質にも関わらず自宅同然の生活をしているフランソワ様を監視するためです。

=====

先日僕はどうしても深夜の見張りが必要ということを魔王様に伝えるために王の間を訪ねました。


「勢いそのままに来たはいいもののやっぱり緊張するなぁ。いや!躊躇ってちゃダメだ。ここはガツンと…」


「ん?何やってんの俺の部屋の前で。」


「いえ、魔王様にちょっとお話が…きゃぁぁぁ!魔王さまぁぁあ?!」


いつのまにか僕の後ろに魔王様が立たれていました、コーヒー牛乳を飲みながら。


「そんな悲鳴あげなくてもいいじゃん…まぁいいや、話あるんでしょ?入んなよ。」


「か、軽いなぁ。いいのかなぁ。」


どうやら僕の躊躇いは杞憂だったらしく、すんなり部屋に通され気付いた時には魔王様の対面のソファに座らされていました。無駄話をして魔王様にお時間を取らせたくはありません。早速本題に入りましょう。


「魔王様、フランソワ様のことでご相談がございます。」


「あー、フランソワちゃんね。知ってる?あの子最近体型維持のためにランニング始めたんだぜ?偉いよなー、女性の鑑だよなぁ。」


「それ!魔王様それ!それが私の悩みなんですここ最近の!」


「なんで?なかなかいないよ?あんな意識高い姫様。」


「…魔王様考えてみてください。人質が監禁されている場所を自由に出入り出来て何不自由ない生活をしていたらどう思いますか?」


「それもう人質じゃねぇよwwwそこを管理してるやつの神経疑うわw」


「魔王様、その言葉がご自身に刺さりまくっているご自覚はないんですね…」


いい加減すぎる、どうすればいいんだ…どう説得すればフランソワ様をきちんと閉じ込めるよう魔王様を納得させられるんだ…まるで打開策が思いつかない。すると魔王様の雰囲気が急に厳かなものに変わりました。


「でもさぁ、別にいいんじゃねぇの?」


「いいんじゃねぇの、とは?」


「あんな年頃の子がさぁ、一人で知らない城に連れてこられてんだぜ?それだけでも十分辛いのに狭い部屋に閉じ込められ続けるなんて可哀想だろ?」


「魔王様…」


「あの子を連れて来たのは利用出来ると思ったからで、痛めつけたいだなんて思ったことは一度もねぇよ。」


まさかそんなお考えがあったとは、さっきまでのいい加減の言動とは違い真面目に話す魔王様を見て、いい加減なのか優しいのかよく分からない気持ちになってきました。ですがこの瞬間に改めてこの方の配下で良かったと確信し、この方のために頑張りたいとそう感じたのです。


「分かりました、魔王様。でもやはりまだ心配なので深夜まで見張りをしてもよろしいですか?」


「あぁ?!深夜勤務だとぉ?!もっと自分を労われこの豚野郎!」


「ひど!いや優しい?何この怒り方!」

=====

そんなことがありながらなんとか深夜の見張りの許可を取り付けることが出来ました。まぁ想像していた通りフランソワ様はダダをこねまくっております。


「奥山さん出してよー、今日はピザ食べたからランニングしなきゃ奥山さんみたいなブクブクオーク体型になっちゃうよぉ〜。」


「太ってませんー、オークの中では割と痩せ型の方ですー!」


「奥山さんよく考えてみて?人質になった姫がグータラした結果チャーミングおデブちゃんになったら周りは一体どう思うかしら?」


自分でチャーミングって言ったよ…いや!ここで押されちゃダメだ、しっかり反論しないと!


「ならフランソワ様も考えてみてください。人質が監禁されている部屋を自由に出入りして何不自由のない生活をしていたらどう思いますか?」


「え?w何それ?そんなの人質ですらないでしょwww」


「自覚ないのかよ!よくそんな笑えるなあんた…」


「ねぇいいでしょー?私オークの仲間入りだけは絶対に嫌なのー。綺麗な姫でいたいのー。」


「フランソワ様、とりあえずデブの代わりにオークを使うのやめてもらえません?」


もうかれこれ一時間はこのやり取りを続けている。まさかここまでしつこいとは思っていませんでした。一体どうすればこの人は納得してくれるんだ。次に何を言おうか悩んでいた僕の脳内に魔王様の言葉が思い浮かびました。


あんな年頃の子がさぁ、一人で知らない城に連れてこられてんだぜ?それだけでも十分辛いのに狭い部屋に閉じ込められ続けるなんて可哀想だろ?


そうか、閉じ込め続けるからダメなんだ。見張りの形は色々あるじゃないか。


「フランソワ様、こういうのはどうでしょう。」


「何かしら?」


「今からフランソワ様がランニングに行くことを許可します。そのかわり僕もついていってちゃんと帰って来るように見張らせてもらう。どうですか?」


「あら!いいわね。ちょうどランニング中の話し相手が欲しかったの!そうと決まれば善は急げよ!早くここを開けて!」


下手に抑え込むより柔軟に大きさのあった器に入れてあげる。それがこの姫様への接し方なのではないか。変ではありますが今はこれでいいのかもしれません。


「あ、そうだ。ランニングの後シャワー浴びたいからその監視時間も追加ね!」


「監視時間をオーダーしてくる人質ってなんなの?」


やはりまだまだフランソワ様への理解は及びそうにありません。




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