奥山さん、読む
皆さんこんにちは奥山です。僕は今監禁部屋の中で椅子に腰掛け、漫画を読んでいます。フランソワ様は何をしてるかというとモニターを睨みながら高速でキーボードを叩いています。
「フランソワ様、出来ました?」
「もう少し待って。フフフ、いいわ。もう傑作の予感がプンプンする!」
フランソワ様が何をしているかというと、ネットの小説投稿サイト『小説家にならない?』に投稿するための小説を書いているんです。
また何かに触発されたのか、今日出勤したらいきなり『傑作の誕生の瞬間に付き合わせてやる』とか言って無理矢理部屋に連れ込まれました。
創作意欲がどんどん湧いてくると呟きながらその身を震わせている姿は何か狂気じみたものを感じました。おや?フランソワ様がキーボードから手を離しましたね。
「ふぅ……」
「フランソワ様、終わりました?」
「えぇ、ちょうど書き終わったわ。奥山さん、早速なんだけど読んで感想を聞かせてくれないかしら?」
「僕なんかでいいんですか?一応小説は読みますけどフランソワ様が望んでるような感想は言えないかもですよ?」
「えぇ構わないわ。むしろそういう方が素直な感想が聞けそうでいいかもしれないしね。」
そう言ってフランソワ様は僕にモニターを向けてきました。わぁ、なんかドキドキするな。モニターには文字群の上に大きめな字があります。おそらくこれがタイトルでしょう。えーと、なになに……
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『勇者は盾で成り上がる。』
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「どう?」
「駄目の二文字だよ!丸パクリじゃないですか!あんたこれでよくそんなやり遂げたみたいな顔出来ましたね!!」
「えぇ?!パ、パクリ?!これは私のオリジナルよ!この物語はね、盾を装備した……」
「わーー!やめて、言わなくていい!言わなくていいですから!とにかくなんと言おうとこれは絶対駄目ですよ!こんなの投稿してごらんなさいよ!たちまち地獄が広がりますから!」
僕の言葉を聞いてフランソワ様はその場に膝から崩れ落ちました。なんかドラマチックな動きしてますけどあんたただ盗作やらかしただけだからね?
「そ、そんな……ク!こんなことでへこたれてる暇はないわ!まだ私の創作意欲はゴウゴウと燃えているのだから!」
「その炎のせいでネットで炎上しないでくださいよ?」
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フランソワ様は再びモニターに向き直り、キーボードを叩き始めました。本当は諦めて欲しいんですが……
カタカタカタッターーンッ!!
「はぁ……はぁ……!出来た!出来たわ!」
「え?もうですか?まだ1時間くらいしか経ってないのに。」
「さっきの奥山さんの言葉、あれはいい燃料になったわ。お陰で今の私はエンジン全開よ!」
「全開なのはいいんですけど、それが変な方向に向かってないでしょうね?」
「大丈夫よ。ちゃんと踏みとどまるべきところではブレーキを踏んだから。さぁ読んでみてちょうだい!」
再び向けられたモニターを僕は先ほどとは違う意味でドキドキしながらモニターを見ました。
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『生まれ変わったらスライム的な何かしらだった件』
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「だから駄目じゃん!ブレーキ踏めてないよ!間違えてアクセルガン踏みしちゃってるよ!」
「そんなことないわよ!これは不動の人気を誇る異世界ファンタジーのジャンルに一石を投じる作品になるわ!まず主人公が……」
「やめてやめて!もう僕鳥肌立っちゃってるんですよ!悪い意味でですからね?!あと的な何かって何だよ!なんでそこ曖昧な感じになってんですか!!」
「まだ納得してもらえないなんて……ええい次々!私の中のクリエイティブな部分を総動員して書いてやるわ!」
「もうやめましょうよフランソワ様?僕胃がキリキリしてきました。」
「何を言ってるの奥山さん!苦難を乗り越えてこそ、名作は生まれるのよ!」
「フランソワ様の場合、迷作だと思うんですけど……」
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カタ、カタカタ、カタカタタタ、ターーン!
今更だけどこのキーボードの音、滅茶苦茶うざいな……
「はぁ…はぁ…で、出来た!書きあがったわよ奥山さん!」
「ねぇフランソワ様。それ読まなきゃ駄目ですか?」
「何を言ってるの!もう私達は引き返せないところまで来てしまっているのよ!」
「目が罪人のそれですよ……どれどれ……」
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大葉ロード
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「フランソワ様、これって農家とかのスローライフものですか?」
「え?バトルものだけど?」
「どうやってそっちに持ってくの?!タイトルからして畑の土地争いくらいにしか発展しないでしょ!」
これはもう駄目だ!フランソワ様完全に暴走しちゃってるよ!僕はその後、いかにフランソワ様の作品がおかしいかということを繰り返し説明して、5回目でやっと自覚してくれたようで……
「ま、まさか小説を書くことがこんなに難しいだなんて……作家さん達はいつもこんな苦労をしているの?」
「フランソワ様の場合、そういうこと以前の問題だと思うんですけどね……さぁもう諦めましょう、フランソワ様。」
「えぇ、後はどれくらいの人が見てくれるかで続行するかどうかを決めるしかないわね。」
「……今なんて?」
「いや、だからどれくらいの人が見てくれるかをね?」
「もしかして……もう投稿しちゃってるんですか?」
「最初に奥山さんに見せた作品だけだけどね。」
…………
「何やってんですかあんた!どこをどう判断すれば投稿しようなんて思うんですか!」
「だって……我慢出来なかったんだもん!」
「もんじゃねぇよ!ちょっと、やばいでしょ!もう2時間くらい経ってますよね?うわぁ、大炎上してそう……」
「いや、逆にすごい注目されてるかもしれないわよ?このサイト自分の作品がどれくらい見られたか数値で表示されるの。ここをクリックすればすぐ見られるわ!」
「ねぇ、やめませんフランソワ様?もう削除して終了でいいでしょ?」
「嫌よ!私の作品がどれほどの人に見られたのか気になるじゃない!さぁ、開けパンドラの箱よ!……え?」
「1……これって、1人にしか見られてないってことですか?あれ、フランソワ様?」
フランソワ様はフラフラと歩きながらデスクから離れ、ベットにうつ伏せになって倒れました。ショックだったのでしょうか、まるで浜辺に打ち上げられた海藻のようにぐったりとしています。
「炎上しそうとか思ってたけど杞憂……だったのかな?まぁ良くないことは確かなんだけど。」
注目されなかったとはいえこの悪行をそのままにしてはおけませんからね。
僕はソッと削除ボタンを押して監禁部屋を出ました。皆さんもサイトに妙なタイトルの作品があったらフランソワ様の作品かもしれないので気をつけてくださいね?
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