奥山さん、バトる その2
皆さんお久しぶりです、奥山です。今日はルシファーの琉詩緒様とその部下『七罪天』対魔王軍選抜組の決闘当日です。もうすぐ開始なのですが、待合室は殺気に満ちまくってます。
「あの、魔王様?相手側もそんなに本気じゃないと思いますよ?だからもうちょっとリラックスした方が…」
「何ぬるいこと言ってんだよ奥山ぁ…奴ら魔王城に来て喧嘩ふっかけてきたんだぞ?これがどれほどのことか、わかるだろ?」
「分かるわ魔っちゃん。ロングスパンでやってるアニメって面白そうなんだけど1話から見なきゃいけないと思うとちょっと躊躇っちゃうわよね?」
「フランソワ様耳鼻科行きましょう。きっと耳に呪いでもかけられてるですよあなた。」
「へへ、全く頼もしいぜフランソワちゃんはよぉ…」
「どこに頼もしさ感じたの?アニヲタがただ悩み打ち明けただけだったよ?!」
大丈夫かな…そういえば相手は7人で、こっちは6人だから助っ人が必要だったよな…誰が来るんだろう?
コンコン…
「誰だろう、はーいどうぞー。」
「おーい、お主ら。相手方が揃ったぞい。闘技場に集合じゃ。」
「雨井博士!博士がわざわざ呼びに来てくださったんですか?」
「まぁ、ワシも参加するしちょうどええじゃろ。」
参加する?じゃあ最期の1人は雨井博士だったのか!でも…
「博士、失礼を承知で言わせていただくんですけど…戦えるんですか?博士ってもうおじいちゃんですよね?」
「安心せい!毎日腰痛予防のために筋トレを欠かさずやっとるぞい!」
「いや健康的にはよろしいんでしょうけどね…」
魔王軍選抜組のメンバーはこれで全部出揃いました。魔王様は部屋にいるメンバーをぐるりと見回し、立ち上がって全員に声をかけました。
「よし、行くぞてめぇら!」
「「「「「「おぉ!!」」」」」」
=====
闘技場に出るとフィールドを囲むように設置されている観客席には、魔王軍の関係者達でいっぱいになっていて僕たちに気づいた瞬間、歓声が上がりました。
魔王様ー!頑張ってくださーい!
幹部の皆さん、応援は任せてくださいよ!
奥山!今まで楽しかったよ!
「ちょっと待って!なんか最後お別れの言葉が聞こえてきたんですけど!」
「ここまで応援されちゃあ、自然と気合い入っちまうなぁ。なぁ亜座美。」
「まぁ、下手な勝負は見せられんな。部下に舐められては魔王軍参謀の名折れだ。」
「フフフ、おめでたいことだなぁ。魔王軍というのも。」
「なんだと…?」
亜座美様の睨んだ先には今回の対戦相手『七罪天』の7名が横一列に並んでいて、その真ん中に立っているルシファーの琉詩緒様が嘲笑を浮かべていました。
「こんにちは、魔王軍諸君!積もる話はありまくるわけだが、まずはお互いの陣営の自己紹介といこう。」
琉詩緒様が手を挙げると左右三人ずつに控えていたメンバーが一歩だけ前に出ました。
「我々のメンバーは『憤怒のサマエル』『嫉妬のレヴィアタン』『怠惰のベルフェゴール』『強欲のマモン』『暴食のケルベロス』『色欲のアスモデウス』そして余!『傲慢のルシファー』だ!」
「長いわねー。覚えらんないのよ、あなた達はカッコいいと思ってるのか知らないけど、それただの自己満足でしかないからね?」
「シッ!フランソワ様!思ってても言っちゃいけないこともあるんですよ!」
「七つの大罪って言われてもねぇ。よくわかんないのよ。何?あんたらになんか許可とかもらわないとダメなの?」
「メレ姐さんまで!ダメですって、誰にでもそういうのが無条件でかっこいいと思っちゃう時期があるんですよ!」
フランソワ様とメレ姐さんの口撃に相手方の殺気が増したような気が…いや、確実に増してる。琉詩緒様は顔真っ赤になってるけど。
「ふ、フフ…言わせておいてやろう。さぁ!君たちも早く名乗りたまえ!」
「よーし、早速第一回戦開始だ!てめぇら円陣組むぞ円陣!」
「話を聞けぇぇぇぇ!!」
琉詩緒様の嘆きはこちらのメンバーに綺麗に無視されました。本当に性格悪いなこの人たち…
「いいか?これを少年漫画みたいな勝負だと思うな?接戦の末最後の勝負で決着が付くとかそんなの求めてねぇ…全勝だ!完膚なきまでにあいつらを殴り倒せ!二度と魔王軍に舐めた口聞けねえようにな!」
おう!
「行けるかてめぇら?!」
おう!
「俺たちは最強だ!」
おう!
「魔王軍!ファイ!」
おう!
「いつ決めたのそれ!そんな掛け声僕知らないんですけど?!」
=====
お互いの陣営の挨拶?が終わり再び控え室に戻ってきました。これから第一回戦なのですがまずは誰からなんでしょう?
「おい奥山。何でお前闘技場に残ってないんだよ?」
「え?何ですか?何か言われてましたっけ?」
「いや、一回戦お前じゃん。」
「…魔王様、マジ?」
「マジ。」
そっかぁ、一回戦僕からかぁ…責任重大だなぁ…
「何でですか!嫌ですよそこは魔王様が先陣切るとかそんな感じのやつじゃないんですか?!」
「いやぁ、俺ちょっとトイレ行きたいし。」
「奥山さん、私はスマホゲーの周回イベントをやっておきたいの。」
「理由になってねぇよ!よくそれで説得できると思ったな!フランソワ様に到っては聞いてねぇし!ヤバイ、なんか身体震えてきた…めちゃくちゃ怖い…」
「なんじゃ奥山、自信がないのか?」
「だって確か1回戦ってあのレヴィアタンとかいうムキムキで槍持ってたウロコの人でしょ?絶対強いよ!明らかに実力不足だよ僕!」
「そうか、ならこの槍を持って行け。ワシ特製じゃ。」
そう言うと雨井博士はどこからか2メートルくらいの長さの槍を僕に手渡してきました。博士特製か…見た目は普通の槍だけど…ん?
「博士…この持ち手のところにあるボタンってなんですか?」
「勝負が始まったらな、その槍を相手に向けてそのボタンを押すんじゃ。それでほぼ確定で勝てるぞ。」
「え?なにそれ…怖いんですけど…」
「奥山早く行け!魔王様の命令だ!博士の言うとこを信じろ。はいGOGOGO!!!」
「奥山さん!ファイト!骨は拾ってあげるから!」
「なんで僕が死ぬ前提なの?泣きそうなんですけど…」
=====
『さぁーやってまいりました。七罪天VS魔王軍選抜組の第1回戦!レヴィアタン対オークの奥山の組み合わせです!この大会の実況は私、ゴブリンの五部原が担当いたします!ルール説明なんですが、反則は一切ございません。相手が戦闘不能になるまで戦っていただきます!』
あいつあんなところでなにやってんだよ…ていうかルールがえぐい…まぁもう腹をくくるしかないか、今は目の前の敵に集中しないと。僕の相手であるレヴィアタンさんはものすごい眼光で僕を睨んでいます。
「なんという侮辱だ…この私の相手がオークだと?ふざけおって!」
「いやぁ、すいません。僕も出たくないって言ったんですけどあの人たち話を聞いてくれなくて…」
「黙れ豚め!私の前でその汚い口を開くな!覚悟しろ?ゴングが鳴った瞬間、貴様をこの槍が貫くぞ!」
皆さん聞いてください。僕はこんな危機的状況で頼りになるものがよくわからないボタンのついたよくわからない槍だけです。一体なにをどう間違えたらこんな状況になるのでしょうか…
『オークの奥山くんは僕の同期で友人なのですが今日でお別れと思うと…特にないですね。それでは第一回戦スタート!』
カーンッ!
「死ねい!醜いオークよ!」
「うわぁぁぁあ!!」
嫌だ!こんなところで死にたくない!まだやりたいことだって沢山ある!まず今は五部原を殴りたい!そんな思いで僕は槍をレヴィアタンさんに向けて構えボタンを押しました。
するとどうでしょう、僕とレヴィアタンさんの空間が歪み始めたではありませんか!
「なんだこれは!貴様なにを…ぐぉぉ!ひ、引き込まれる!クソ!クソォォォォオ!!!」
空間の歪みはレヴィアタンさんの抵抗を関係なしと言わんばかりにどんどんその体を飲み込み、完全にレヴィアタンさんの体が消えたところで歪みも収まっていきました。
…………
『こ、これはどういうことでしょう!フィールドには奥山くんの姿しかありません!奥山くん、一体なにをしたんですか?』
「わ、わからないよ!この槍は雨井博士からもらったものだし…」
『あー、すまんね。ちょっと失礼するよ五部原くん。』
『おや?えー、ただいまですね。実況席に雨井博士が来られたのでちょっと解説していただきましょう。雨井博士、この現象は何なのでしょう?』
『うむ。奥山が持っておるのはな、槍の形を模した次元転送装置じゃ。試作品が出来たんで実用例が見たくてのう。結果、大成功ということじゃ!』
『なるほど、ちなみにレヴィアタンさんはどこに行ったんでしょうか?』
『さぁ…行き先設定はランダムにしておいたからなぁ。魔界のどこかじゃろうて、ここからかなり遠い魔界のどこかじゃ。』
『はぁー、そうですか。わかりました。えー、大会の進行上ですね。あまり遅延が起きるのは望ましくないので、この勝負は奥山さんの勝利ということなります。』
おおおおぉぉぉーーー!!!!
おめでとう奥山!
よくやったぞ!見直したぜ奥山!
俺は奥山を信じてたぜ!
「え、いいの?本当にいいの?喜ぶべきなのこれ?」
『はい、それではどんどん行きましょう!続いて第2回戦です!奥山くんお疲れ様でした、控え室に下がってください。』
一応僕の勝利らしいです。…らしいんですが、なんだかすごく申し訳ないようなことをしたような気がします。
そんなモヤモヤした気持ちのまま控え室に帰っていたら通路に魔王様が壁に背を持たれるようにして立っていました。
「フ、やりやがったぜ本当に…やっぱりお前はとんでもねぇやつだな奥山。」
……
「おっと、次は俺の番か…あんな勝負見せられちゃ、俺もうかうかしてらんねぇな。」
…
「任せな、ちゃんと次に繋いでやるからよ。じゃあ、行ってくるぜ!」
そう言い残し、魔王様はすれ違い様に僕の肩をポンっと叩き、フィールドに向かっていきました。
「…何これ?」




