奥山さん、聴く
皆さんこんにちは奥山です。今僕は魔王城の近くにある森の中にいます。
監視業務の一環なんですよ?だって…
「ふぅ、魔王城の近くにこんな森があったなんて。森林浴も悪くないわね奥山さん!」
「フランソワ様帰りましょうよ…いるわけないですよ狼なんて…」
フランソワ様も外に出ているんです。もう何も聞かないでください…
フランソワ様が外に出たがった理由なんですが昨日寝ている時に狼の遠吠えを聞いたらしいんです。でも魔界に狼っていったらウェアウルフくらいですし、そのウェアウルフ達も魔王城の近くには住んでないんですよ。
「でも私は確かに聞いたわ!雄々しくも美しい狼の鳴き声を!あの声の主に会うまで私は帰らないわ!」
「早めに諦めてくれることを祈りますよ。」
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迷わないよう目印として木に切れ込みを入れながら歩くこと30分、狼どころか動物の影すら見当たらず僕たちは休憩するために森の大木の根元に座りました。
「まさかこんなに苦戦するとは…狼は私を受け入れてくれていないというの?」
「むしろ受け入れてくれてると思ってたの?そんな当てずっぽうでこんな所まで…僕もう疲れちゃいましたよ。」
「まぁ疲れたのは確かね、お腹も空いたわ…あ!奥山さん、バックに入れてたメロンパン出して!魔法瓶にはちゃんと紅茶淹れてきてくれた?」
「はいはい持ってきてますよ。今出しますから待っててくださいね。」
『メロンパンあんの?食いたい!』
「だから今出しますよ待ってて下さい。」
「奥山さん…」
「どうしたんです?どんだけメロンパン食べたいんですか。」
あれ?さっきフランソワ様とは違う声が混じってなかったか?気になってフランソワ様も方を見てみるとフランソワ様は僕の後ろを見つめながら何かを指差しています。
…やだなぁ、振り返りたくないなぁ。でも振り返らないとダメなんだろうなあ。行くぞ…せーの!
バッ!
「…え?け、ケルベロス?!」
『なぁメロンパン持ってんだろ?俺も食べたい!早く早く!』
「この子よ!この子が遠吠えの正体なんだわ!ねぇあなた!昨日の夜遠吠えしたわよね?」
『うーん、メロンパンくれたら教えてあげるよ。』
「奥山さん早く!ハリーハリーメロンパンハリー!」
「な、なんなんだこの状況…」
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僕がバックから出したメロンパンを三つ首の犬の真ん中の頭がガツガツと平らげてしまいました。
『ご馳走さま、お前らいいやつだな!』
「お安い御用よ!自己紹介するわね、私はフランソワ!隣にいるのは奥山さん!ねぇ、あなたなんでしょ?昨日の夜の遠吠えの正体は!」
『そうだよー、特にする意味もなかったんだけど暇だから吠えてみただけなんだけど。』
「僕らそんな暇つぶしの正体を突き止めるためにこんな森の奥まで来たんですか…徒労にも程があるでしょ…」
『なんかよくわかんないけどごめんな?俺はケルベロスの犬堂だよ。よろしく。』
よろしくと言われましても…もう僕たちこの後は帰るだけなんですけど。…あれ?犬堂さんの首って三つあるのに真ん中しか喋ってない。左右の首は寝てる…のか?
いやダメだ!このことに触れたらより面倒くさいことになる気がする!ここは何も聞かず帰ろう!
「ねぇ犬堂さん、なんで左右の頭は喋らないの?寝ているの?」
『…気づいて、気づいてくれたかフランソワー!』
「もう!やっぱりこうなっちゃうじゃん!何でそんなことすんの!」
「だって気になるじゃない?ほら見てよ余りにも力が入ってなさすぎて左右の首がキーホルダーみたいになっちゃってるもん。犬堂さん、理由を聞かせてくれる?」
『あぁ実はね、こいつら一度寝たら中々起きなくて…俺が何回も呼びかけても起きてくれないんだ。』
「ちなみに今どれくらい寝てるんですか?」
『2週間かな?』
「寝すぎだろ!むしろよく起きないでいられるな!」
『まだ軽い方だよ、この前は1ヶ月ずっと眠ってたし。こんな重い首二つぶら下げてる状態だから俺も肩こっちゃって…なんとか起きて欲しいんだけど…』
「うーん、何か起きそうなものは無いの?好きな食べ物の匂いを嗅がせるとか、音とか。」
『音…あー、音っていったら違うかもしれないけど俺たち歌が好きなんだよ。なんかいい歌を聴かせてくれたら目が覚めるかも!』
「歌…ですか。困りましたねぇ、僕あんまり音楽には詳しくないですし。再生機器とかも…何やってんですかフランソワ様?」
早く帰りたいが故に僕が解決策を模索している横でフランソワ様は何故か身体をほぐしています。
「何って、決まってるじゃない!私が歌うのよ!」
『フランソワ歌ってくれるの?歌得意なの!』
「えぇ、これでも私『三丁目のローレライ』と言われていたのよ?」
『す、すごい!のか?』
「犬堂さんこの人の言うこと真面目に受け取ったら会話出来ないですよ。」
「任せなさい!心ゆくまで聞かせてあげるわ!アニソンメドレーフランソワベストセレクションを!」
「あ、これ長くなるやつだ。」
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好きなアニソンを周りの迷惑を気にせず歌えるのが余程気持ちがいいのか、フランソワ様は汗をかき、髪を振り乱しながら豪快にアニソンを歌い続けています。
犬堂さんもどうやら気に入ったのか、目を瞑って心地良さそうに聞き入っています。
「確かにうまいなぁ、水分補給無しで10曲連続ってどんな喉してんのあの人…」
僕もやることがないので一人と一匹だけのアニソンコンサートの様子をボーッと眺めていたのですが今、犬堂さんの左の頭の耳がピクリと動きました。
「耳が…聴いてる!フランソワ様、寝てる頭が歌を聴いてますよ!」
『え?ほ、本当だ!半分目を開いてる!フランソワ頑張って!もうちょっとのはずだよ!』
僕たちの言葉を聞いてフランソワ様はテンションが上がったのかよりアップテンポなアニソンを歌い始めました。
「お、おぉ!動いた!完全に左右の頭が起きましたよ!」
『お、お前ら!やっと起きてくれたのか…!』
左右の頭はゆっくりとその位置を真ん中の頭に合わせ、フランソワ様を見据えながらその大きな口を開きました。
『うるせぇぞ!歌うんなら演歌歌えや!』
『キャンキャン喚いてんじゃねぇぞ!寝起きはジャズって相場が決まってんだよ!』
そう言い残し、左右の首は再び眠りにつきました。
「「「えぇ…」」」
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結局左右の頭を完全に起こすことは出来ませんでした。
僕達はせっかく歌ってくれたのに申し訳ないと何度も頭を下げる犬堂さんと別れ、帰路についています。
「フランソワ様気を落とさないでください。歌の好みは多種多様ですから、しょうがない結果ですよ。」
「いいえ…違う、違うわ奥山さん。私の歌唱力が足りなかったのよ。」
「はい?」
「本当に歌が上手ければどんなジャンルの歌だって万人に聞いてもらえるはずだもの!今日はそれを思い知ったわ!こうしちゃいられない。さぁ早く帰って練習よ!」
「もう今日は休みましょうよ…」
あれだけ歌ったのにまだ動けるのか…もう当分フランソワ様の外出は控えてもらおう、そんな決意をした帰り道でした。




