奥山さん、睨まれる
「フランソワは激怒した…」
「フランソワ様?」
「かの邪智暴虐の王を除かねばならぬ…」
「ちょっと、本当どうしちゃったんですか?!」
「フランソワは魔法が使えぬ…そういう意味なのよ奥山さん!」
「分かんねえよ!何一つ情報が手に入らなかったよ!」
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皆さんこんにちは奥山です。また突然フランソワ様が訳のわからないことを言いだしました。
「私考えたのよ、普段自分が戦ってて何が足りないのかって。」
「普通のお姫様はそんな悩み持たないと思うんですけどね…」
「それでね、考えたんだけど。なんかこうオーラを纏うとかそんな感じのエフェクトをつけたいと思ったの!」
「エフェクト?必要なんですかそんなの?」
「当たり前よ!想像してみて、戦う場で私がファイティングポーズをとった瞬間、腕がオーラに包まれる。それだけでもうかっこよくない?ゾクゾクしない?」
う、うーん。かっこいいのかなぁ。僕の想像力が乏しいのか?
「ゾクゾクするとか、かっこいいとかは分からないですけどそれって何か効果があるんですか?腕力が増すとか?」
「強くなる!気がする!いやすると思う!すればいいかな?」
「最後の方願望じゃないですか!でも僕にはどうしようもないですよ。オーラを出せるようになる方法なんて知らないですし…」
「…奥山さん、試しに墓地に行って呪われてきてくれない?」
「負のオーラってこと?嫌ですよ!それ強化じゃなくて明らかに弱体化でしょ!死んじゃう奴でしょ!」
「チェッ、奥山さんのケチ!」
オーラを纏う云々の話でケチって…どういうことなんでしょうか…
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「奥山さーん、今日はカニクリームコロッケ定食がいいわー。」
「はいはいもう出前はとってありますよー。」
我ながら慣れたものだ。日夜フランソワ様にこき使われているせいで出前とか頼まれ事に対する対応がめちゃくちゃスムーズになったぞ。
最近はフランソワ様の睨みもちょっとは耐えられる。うん、ちょっとは…
「お、奥山くーん。こんにちは、ちょっといいかなぁ。」
「ん?眼崎さん、どうされたんですか?こんなところに来るなんて珍しいですね?」
「う、うん。ちょっと頼みたいことが…あ、でも奥山くんにというか奥山くんから頼んで欲しいというか…」
「頼んで欲しい?一体どんな?」
「なになに奥山さん!その大きな目玉さんは誰なの?」
「ヒィ!ご、ごめんなさい!僕なんかがお時間を取らせちゃうなんて、本当にごめんなさい!」
「あれ?なんで私謝られてるの?」
「まぁ…こういう方なんで。」
昼近くの監禁部屋を訪ねてきたのはゲイザーの眼崎さん。
黒い皮膚に包まれた大きな目玉が宙を浮いているというかなりインパクトの強い見た目をされた方ですが物腰は柔らかくとても優しい方なんです。そしてかなり臆病な方なんです。
「それで頼み事って何なんですか?気軽に言ってください。眼崎さんにはお世話になってますから。」
「本当に?ありがとう。でももう目的の人に会っちゃったから僕が直接言うよ。あの、ふ、フランソワ、ちゃん?さん?あれ様…かな?ごめんなさいごめんなさい!僕どう呼んだらいいかわからなくて…」
「え?眼崎さんフランソワ様に用があるんですか?!」
「落ち着いて眼崎さん。あなたの好きな呼び方でいいわよ。」
意外すぎる…眼崎さんってフランソワ様とは相容れないような感じの人なのに…一体どんな用が?
「じ、じゃあフランソワさん。お願いがあるんだ。あの、僕に睨み方を教えて!」
「睨み方?どういう事かしら?私そんな事したことないわよ?」
「フランソワ様、ご自分のことが見えてないんですね…」
「あのね、ゲイザーって種族は眼差しに色々な能力を持ってるんだ。相手を睨む事でその効果が発揮されるんだけど、僕臆病で人を睨むとか怖くて出来ないんだ…」
「眼崎さん…そんな悩みが…」
「それでね、この前食堂でグレンデルの九練さんと戦ってるフランソワさんを見て、この人だって感じたんだ!あの時のフランソワさんの眼差し本当に凄かった!だから睨み方を教えて欲しいと思ったんだ!」
「うーん、でも私も睨み方なんて教えたことないしなぁ。じゃあこうしましょ!私が眼崎さんを睨んでみるから眼崎さんはそれを真似して!」
「わ、わかった!僕頑張るよ!」
「応援してます眼崎さん!頑張って!」
ぶっちゃけこんな方法で睨み方を習得できるかは分からないけど、必死な眼崎さんを見ていたらそんなこと絶対に言えなかったです。何かコツをつかめればいいのですが…
「じゃあ合図を出したら睨むからね…はい!」
「ヒ、ヒィィィ!!こ、怖いぃぃぃ!」
「ちょっと眼崎さん!ビビったらダメよ!私の目を見て!」
「いくら眼崎さんだからってゲイザーを睨みでビビらせるって…フランソワ様、あんたどんな…怖!小窓から覗いてるから目がより強調されてめっちゃ怖い!」
「うぅ、ごめんフランソワちゃん。僕やってみせる!…う、うぐ…あれ?なんだ?身体が…痺れ…」
「ちょっと!なんでフランソワ様の睨みの方に能力宿っちゃってんですか!ストップ!一旦休憩!」
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「はぁ…はぁ…す、すごい。一体どんな経験をすればあんな睨みが出来るんだ…」
「そうね…数々の感情、嬉しさや悔しさを常日頃から感受しているから、かしらね?」
「素直にゲームしたりアニメ見てるって言いなさいよ。もしかしてそれ普段からモニター睨んでる賜物ってことですか?」
「もう一回!最初からすぐに身につくとは思ってないもん!フランソワさんもう一回お願い!」
「はいはーい、じゃあいくわよー。はい!」
………
「う、くぅ…ぬぅぅ…」
おぉ!今度は耐えられてる!その調子ですよ、頑張って眼崎さん!
バコンッ!
「バコン?なんだ今の破裂音…うわ!なんで壁が砕けて…いや、爆ぜてる?」
突如として石壁が爆ぜ、その原因を探るため辺りを見回していると爆ぜた所の対角線にフランソワ様の目がありました。
「だからなんであんたの睨みに効果が出てんですか!危なすぎるわ!眼崎さん逃げて!」
「邪魔をしないで奥山さん!私たちは真剣なの!」
「僕の方を睨むな!何が起こるか分かんなくて怖いんだよ!何これ?空間全域がデッドゾーンなんですけど!」
「はぁ…はぁ…すごい。こんな睨み、僕の村の族長だって出来ないかもしれない…」
「眼崎さんそれ族長さんがヲタク以下ってことになっちゃうから!この姫様普段からダラダラしてるだけだから!」
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2時間後
すごいなこの二人…2時間も睨み合うの続けてるよ…
この2時間の間の訓練で出た被害を纏めますと、眼崎さんの身体がまた痺れる、壁に巨大な亀裂が入る、僕の鎧が凹む、なんなら僕が壁に向かって吹っ飛ぶ。
などなど悲惨なまでも被害が周りに出ております。足の震えが止まりません。
「よくここまで頑張ったわね眼崎さん!さぁ私を睨んでみて!特訓の成果を出すときよ!」
「は、はい。…では行きます!はぁ!」
……ミシッ。
眼崎さんが扉越しにフランソワ様を睨むと少し間を置いて何かが軋む音が聞こえてきました。すると…
ミシッ…ミシミシッ…バキバキバキバキ!
「う、うわぁ!と、扉が!」
これが眼崎さんの能力なのでしょうか。鉄製の扉がおそらく眼崎さんが睨んだところを中心に渦を巻くように凄まじい音を立てながら凹んでいきました。
「出来た…出来たよ奥山くん!フランソワさん!」
「あぁ…扉完全に壊れちゃったよ…」
「おめでとう眼崎さん!すごい力ね!なんだか感慨深いわ…」
「うん、フランソワさんのおかげだよ!僕なんだか自信が湧いてきた!」
「フフ、あなたは元々凄かったってことよ。さぁ早く友達にでも教えにいってあげなさい。」
「そ、そうだね。じゃあ僕行くよ。本当に…本当にありがとう!」
フランソワ様と僕に何度もお礼を言いながら眼崎さんは帰っていきました。無事悩みが解決できてよかったですね。でも…
「この壊れた箇所どうすればいいんだよ…」
「いいじゃない。眼崎さんの努力の結晶ってことでそのままにしておきましょうよ。」
「こんな通気性抜群の監禁部屋あったらダメでしょ…」
目はただモノを見るだけじゃなく、それ自体にも力が宿っている。そんなことを痛感した2時間でした。
もう二度と味わいたくはないですけどね…




