奥山さん、挑む
皆さんこんにちは奥山です。朝7時25分、僕はいつもこの時間にフランソワの監禁部屋のある建物に着くよう出勤しています。
少しだけ余裕をもって周りの風景を楽しみながら歩くのはとてもいい運動になります、さぁ!今日も一日頑張る…
「うぅ…た、助けて…くれ…」
僕が建物に入ろうとすると入口の横辺りから苦しそうな声が聞こえてきました。
「え?だ、誰ですかあなた!うわ、傷だらけ…しっかりして!今手当てしてあげますからね!」
「俺のことは…どうでもいい…早く仲間…を」
声の方向には息も絶え絶えなダークエルフの女性が倒れていました。
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城の医務室へ担いで行く手もあったのですが監禁部屋のある建物とは距離があるため、建物に常備してある救護セットで応急措置をしてフランソワ様のベッドで休ませることになりました。
「あのね奥山さん。綺麗な子と付き合いたくてアタックしたい気持ちは分かるわ。でもねこの子と奥山さんじゃ体格差がありすぎるでしょ?」
「物理的にアタックしたわけないでしょ!ここの入口の前で倒れてたって説明したじゃないですか!」
最初フランソワ様のベッドで休ませてもらうようお願いしたら嫌がっていたのですが、ダークエルフだと伝えると180度態度を変えてきました。なんて欲望に忠実な方なんでしょう。
「う…ここは…どこだ?」
「目が覚めたのね!大丈夫?あなたがこの建物の前で倒れていたところを私が見つけて傷の手当てをし、このベッドに寝かせたのよ。」
「おい記憶改ざんしようとしてんじゃねーよ!僕!僕がやったんですからね!」
「はぁ…そうか、あなた達が俺を助けてくれたんだな。ありがとう、礼を言うよ。」
「すごい!オレっ娘!ダークエルフでオレっ娘ってすごい属性じゃない!」
「オレっ娘?属性?」
「はいはい、落ち着いて落ち着いて。まずは色々聞かなきゃいけないことがあるでしょ。」
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「申し遅れた。俺はダークエルフの黒森。東の奥地にある『精霊の森』の森に住んでいる。」
精霊の森は確かここから少なくとも100kmは離れている秘境中の秘境です。黒森さんはそんなところからわざわざ魔王城まで何をしに来たのでしょう?
「ダメじゃない黒森さん!いくら地方組でも欲しい同人誌があるからって深夜に並ぶのはマナー違反よ!」
「マ、マナー?えっと、なるべく分かりやすく…」
「黒森さん無視していいですよ、闇に飲まれますから。それで?どうしてここに、しかも傷だらけで倒れていたんですか?」
「あぁ、俺の部族は精霊の森に小さい集落を作っているんだが、昨日そこが…トロールの襲撃を受けたんだ!」
なるほど、種族間の衝突があったんですね。こういう事件は昔はよくあったのですが今では魔王様の統治によりほとんど起きることは無くなりました。
ですが精霊の森のような遠方の地では統治が間に合っておらず未だに衝突があるのでしょう。
「トロール達は俺たちが作っている『妖精の水』を狙ってやってきたんだ。急に襲ってきた奴らに対して俺たちは必至に抵抗した。でも数が多くて、食い止めるのが精一杯で…」
「もしかして…僕たち魔王軍に救援を頼みにここへ?」
「あぁ、戦局が厳しいとみた父は俺をテレポートの魔術でここへ…頼む!どうか俺たちを助けてくれないだろうか!」
これは可哀想ですね…魔王様に報告すれば恐らく歩兵部隊を手配してもらえるはず…
「わかったわ黒森さん。あなたは幸運よ。何故なら1番にこのフランソワの元へたどり着いたのだから!」
「そうそう…ん?ちょっと、何言ってんですかフランソワ様!」
「あなたは?一見すると人間のようだが…」
「ただの人間じゃないわ。私は人間で初めて魔王軍幹部に選ばれた戦闘のエキスパートよ!」
「な、なんということだ!まさか直接幹部の方にお会い出来るとは!」
「信じちゃダメ!それ詐欺だから!人間であること以外言ってること全部嘘だから!」
どうしてこの人はこんな緊急事態に堂々と嘘を言ってのけることが出来るのでしょう久々に鳥肌が立ってきました。
「辛かったわよね、でももう大丈夫、トロールの群れを撃退するのなんて私とこの奥山さんの二人で十分だわ!早く精霊の森に連れて行ってちょうだい!」
「不十分だよ!何一つ必要な要素満たせてないよ!」
「ありがとう…本当にありがとうフランソワ殿、奥山殿!では早速テレポートで飛ぶぞ!」
ひざまずいた黒森さんが床に手を触れると魔法陣が展開されテレポートが開始され始めました。
「マジで行くの?待って!冗談抜きで!せめてあと何人か歩兵を、あああぁぁぁ…」
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テレポートが実行され一瞬だけ目の前が暗くなった後、僕たちはうっそうとした森の中に立っていました。
「ここが精霊の森ですか?思ってたより普通な…」
「奥山殿お静かに!あちらを…」
黒森さんの指差す方向を見てみると少しだけ開けた場所がありました。あそこがダークエルフの集落なのでしょう。ですがそこには遠目からでも分かるほど巨大な物体が動いていました。
「いた、トロールだ。やっぱり何回見ても大きいな…もう完全に集落を制圧しているみたいだ。」
「…ねぇあそこ!トロールの前にダークエルフ達が並んで縛られてる!」
「…父上!クソ、捕まってしまわれたのか!」
どうやら列の中に黒森さんのお父さんがいらっしゃるようです。きっと妖精の水の在り処を聞き出そうとしているのでしょう。
「ヤバイなぁ、あの数のトロールに3人だけって明らかに不利ですよ。何か作戦とかないんですかフランソワ様。…フランソワ様?」
「フランソワ殿ならもう集落の方に走っていかれましたよ?」
「…止めてよぉ。」
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『おいダークエルフ、早く妖精の水の隠し場所を教えろ。さっさとしねぇとぶっ殺すぞ!』
「誰が貴様らトロールなんぞに!今に見てろ!私の娘が魔王軍から援軍を連れてくるぞ!」
『魔王軍?プ!ハーハッハッハッハ!それがどうした、魔王軍なぞ恐るるに足らず!どんな奴が来ようと潰してくれるわ。フフフ…ではまず、見せしめとしてお前の頭を潰してやろう!』
ブンッ!
「くっ!娘よ…どうか!」
「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」
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「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」
トロールが棍棒を振り上げた瞬間、茂みから飛び出したフランソワ様が声を張り上げました。
『ん?なんだ貴様は、人間か?』
「誰かですって?別に、通りすがりの…えーと…フランソワよ!」
「それただの一般人じゃないですか!考えてないなら言わなきゃいいでしょ!」
「父上ご無事ですか!魔王軍から幹部の方が来てくださいましたよ!」
黒森さんのその言葉を聞いてこの場にいる全員の視線が僕たちに集まりました。
「娘よ、幹部とはそこのオークのお方か?」
「いいえ、そのお隣にいらっしゃるフランソワ様です!」
「「「………」」」
痛い…こんなに痛い沈黙生まれて初めてだ。誰でもいい!この沈黙を破ってくれぇ!
『ク、ククク、ハーッハッハッハッハ!その人間か?そこにいる人間のガキが魔王軍の幹部だと?ククク、魔王軍も堕ちたものだなぁ!』
「笑っていられるのも今のうちよトロールさん。私を馬鹿にした罪、高くつくわよ?」
『おぉ、怖い!なら証明してもらおうか?おい大野!』
『へい!』
トロールの親玉が呼びかけると群れの中から黒い腰蓑を巻いたトロールが前に出てきました。
『おい嬢ちゃん、そこの大野を倒してみな。身長だけでもあんたの三倍くらいはあるが魔王軍の幹部なら余裕だよなぁ?』
「いいの?私は昔、学校で172cmの上級生をボコボコにしたのよ?」
「なんですかその凄いのか凄くないのかよく分からない自慢?!フランソワ様危ないから下がって!」
ま、まずい。確かにフランソワ様は強いけどこの体格差はどうしようもない!
『へへへ、さぁ来いよ?特別に一発目は防御なしで受けてや…ウッ!』ズドン!
ドッスーーン…!
「必殺、フランソワ翔吼拳!」
『な、何ぃぃぃ?!』
フランソワ様の前に立ったトロールは飛び上がったフランソワ様に腹部に正拳を叩き込まれその場に崩れ落ちました。
「すごい!トロールをたった一撃で沈めてしまうなんて!さすが魔王軍の幹部ですね奥山殿!」
「そ、そうですねー。なんたって幹部ですからねー。」
『チクショウ…てめぇら!構うこたぁねぇ!全員でかかってぶっ殺せ!』
「黒森さんは縛られてるエルフ達を解放して!さぁ行くわよ奥山さん!こいつら全員なます斬りにしてやりなさい!」
ボストロールの号令で周りにいたトロール達が一斉に襲いかかってきました。もうこうなったら覚悟を決めるしかないみたいです。僕は正面から迫ってくるトロールに対峙します。
「よ、よーしやってやるぞ!はぁぁぁ!」
「危ない奥山さん!とりゃぁぁぁ!」
フランソワ様のドロップキックが正面からくるトロールに炸裂。
「あ、ありがとうございます。次は右からか!うぉぉぉ!」
「気をつけて奥山さん!はぁ!」
フランソワ様の裏拳が右から来たトロールに炸裂。
「助かります!今度は左か!このぉ!」
「油断しないで奥山さん!オラァァ!」
フランソワ様の回し蹴りが左から来たトロールに…
「いや強いなあんた!僕やることないじゃん!武器構えてるのが虚しくなってきたんですけど!」
「何言ってるの、奥山さんはちゃんと敵を集める役目を果たしてるじゃない!」
「それ囮じゃん!なます斬りにしろとか言っておいてそんな扱いかよ!」
そんな会話をしながらもフランソワ様はバッタバッタとトロール達を倒していき、黒森さんがダークエルフ達を解放し終えたのを確認すると更に勢いを増し、とうとうボス一体だけになりました。
『バ、バカな…魔王軍の幹部とはここまでの実力なのか!』
「私たちを侮った罰よ。さて、どうするの?もうお仲間は全員ダウンしちゃったわよ?降参すれば?」
「結局一体も倒せなかった…僕来た意味ないじゃん…」
『グゥゥ…舐めるなよ!こうなったら一騎打ちだ!俺と勝負しろ!』
トロールのボスが手に持った棍棒を僕たちの方に突きつけてきました。もう早く倒してもらおう、それで家に帰ってゆっくりするんだ。
「ええ、受けて立つわ!行きなさい奥山さん!」
「…僕?」
「そう。」
「「……」」
「嫌だ!なんでいきなりキラーパスしてくるんですか!あんな奴に勝てるわけないでしょ!いつもの訳わかんないフランソワ何ちゃら拳で倒してくださいよ!」
「何男らしくないこと言ってんのよ!美味しいとこ譲ってあげるんだからありがたがりなさいよ!」
『おい…』
「無理無理!まず体格が違うもん!僕骨折とかマジで嫌ですから!」
「大丈夫よ!女の私でだって勝てたんだから多分大したことないって!」
『黙って聞いていれば…もう一騎打ちなどどうでもいい二人まとめて潰れろぉぉ!』
我慢の限界だったのか、トロールのボスが僕たち二人めがけて巨大な棍棒を振り下ろして来ました。しまった!いくらなんでも油断しすぎ…
「人が話してんのに割り込んできてんじゃないわよ!喰らえ、フランソワ昇!竜!けーーん!」
『グワァァア!!』
「結局こうなるんかーーい!」
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「ありがとうございますフランソワ様!あなた様が来て下さらなければ我々はどうなっていたこと。」
「お礼なんていいのよ黒森さんのお父さん。間に合ってよかったわ。」
集落に来たトロール達を倒した後僕とフランソワ様はダークエルフ達から手厚い歓迎を受けました。トロール達はというと何人かのダークエルフが「森の栄養にする」と言ってどこかに連れて行ってしまいました。…深くは聞かないようにしましょう。
「おぉそうだ!フランソワ様、奥山様。どうかこれを受け取ってください。」
そういうとお父さんは腰につけていた小さな壺を差し出して来ました。
「何なのその壺?」
「これは妖精の水です。飲めばたちまち傷を癒す万能の薬なのですよ。」
「それは凄いわね!…でも要らないわ、これは今回の事件で怪我をした集落の人たちに使ってあげて。」
おぉ!なんかカッコいいこと言ってる!少し見直しましたよフランソワ様!
「その代わりといってもなんなんだけどね、ちょっと頼みたいことがあるの。」
「なんでしょうか?何なりとお申し付けください!」
「あのね、ここにいる可愛いダークエルフの女の子たちと、楽しくイチャイチャいたなぁーなんて思ってるんだけどぉ。」
「はぁ…なるほど!宴会ですな!分かりました!今夜は盛大におもてなしさせていただきましょう!」
「やったぁぁぁ!楽しむわよ奥山さん!」
「1秒でもかっこいいと思った僕がバカでした…」
その後朝まで宴会が催され、魔王城に帰ったら亜座美様にバレてこっぴどく叱られたのはまた別の話。




