奥山さん、鈍る
皆さんどうもこんにちは、奥山です。実は昨日、幹部の亜座美様から僕と話し合いをしたい人がいると言われました。一体どんな人なんでしょう。
「奥山さん、もしかしたら自分の気がついてないところで人を傷つけてるとかよくあることよ?」
「やめてくださいよ不安になってくるじゃないですか…あ、来たみたいですね。」
カツカツカツカツ…
下から一定のリズムの足音を刻みながら上がって来たのは黒い髪を短く切り揃え額から生えた二本の角が特徴的な和服の男性でした。
「奥山殿、ご無沙汰しております。」
「あ、鬼塚くん!久しぶりだね。もしかして話し合いがしたい人って鬼塚くんのこと?」
「はい、奥山殿に折り入ってお話がございます。」
彼はオーガの鬼塚くん。僕と同期で魔王城の囚人用監獄の看守をしています。曲がった事が大嫌いでかなり正義感が強いです。
「ふーん、思ったより普通の人が来たわね。もっとこう包丁持ちながら呪詛唱えてるような感じを想像してたわ。」
「もしそれが来たとしたら僕は一体何をしたんですか…」
「奥山殿!」
ドアの小窓越しに僕とフランソワ様が話していると、突然鬼塚くんが声を張り上げました。一体どうしたんでしょう?
「奥山殿に進言したいことがあります。今日をもって、ここの監視役の任を私に譲っていただきたい!」
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鬼塚くんの言葉に少々驚いてしまい、理解するのに時間がかかってしまいました。
「えっと、確認されて欲しいんだけど。鬼塚くんはここの監視役をやりたいの?」
「はい、最近のこの娘の行動は目に余るものがあります。このままは魔王城の規律が乱れるのを黙って見ているわけにはいきません。」
「じゃあ僕は別の部署で仕事をするってこと?」
「はい、安心してください。私が監視役をする以上厳しく取り締まりますので。」
なるほど、そういうことか…
「ちょっと!私抜きで話進めないでよ!奥山さんも何とか言ってやってよ!」
「鬼塚くん。その話は僕にとって凄くありがたいんだけどね、変わることは出来ないかなぁ。」
「そうよ奥山さん言う通り!私と奥山さんは人質と監視役を超えた友情で…」
「僕は慣れたからいいけど、何の経験もない状態でフランソワ様の相手をするのは身体、精神の両方に深刻なダメージを及ぼすと思うんだ。」
「奥山さん?あなたにとって私は病原菌か何かなの?」
やっと気づいてくれましたか。僕のあなたに対する気持ちに…
「なんと…そのような…おい小娘!貴様は普段何をしている!よくも奥山殿を傷つけてくれたな!」
「誤解よ!私は普段ゲームやネットサーフィンをして大人しくしてるわ。奥山さんには出前の注文と受け取り、ゲームの課金、通販商品の受け取りしかしてもらってないわ!」
「つまり普段から問題行動の山積みで…もう僕も注意するのを諦めてるんだ。」
「なんということだ…よくぞ今まで耐えてこられましたね奥山殿。」
「うぅ、鬼塚くん優しい…」
「どうしよう…私今回口を開いただけで悪役だわ。」
「奥山殿、やはり私と交代するべきだ。このままではあなたの身が持たない。」
「奥山さん、私は看守が他の人になるのは別にいいけどこの人だけはなんか嫌!助けて!私たち友達じゃない!」
「すごい…友達って言葉をフランソワ様が言うとこんなに薄っぺらくなるんだ…」
うーん、どうしよう。変わりたいけど不安だなぁ…フランソワ様の滅茶苦茶な行動に鬼塚くんがついていけるだろうか?
まだ結論に踏み切れない僕を見かねて鬼塚くんが自分の考えを語ってくれました。
「奥山殿、私がここの看守になった暁にはこの娘からゲーム、PC、その他諸々の娯楽の道具を没収してみせましょう。そして食事は出前ではなくこちらの用意したものにし、質素な生活を心がけさせます。」
「な、なんですって?!この鬼!そんなのまるで囚人じゃない!なんで自分の部屋でそんな生活をしなきゃならないのよ!」
「貴様は囚人だろうが!全くこれは相当な指導が必要だな…」
大丈夫かなぁ、やっぱりまだ頼みきれないよ。…そうだ!
「ねぇ鬼塚くん。こういうのはどうだろう。一週間だけ交代してみるんだ。それで何の問題もなかったらここの看守は鬼塚くん、でももし危ないと感じたら、引き続き僕がこの仕事を続けるってことで。」
「ねぇ、もしかしてこの部屋私以外に何か住んでる?ヤバめな猛獣とか、もしいないとしたらそれ全部私のこと言ってる?」
「いい案ですね。この鬼塚、必ずや奥山殿を納得させてみせましょう!」
こうして鬼塚くんの一週間フランソワ様監視生活が始まりました。
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1日目
看守を交代になって1日目の出勤は鬼塚くんが気を遣って昼出勤にしてくれていました。どこまで優しいんだろう…
「大丈夫かなぁ、まぁ昨日の今日でそんなトラブルも起こるわけないよね?」
不安と期待の入り混じった不思議な気持ちで階段を上がっていると上の方から何か大きな声が聞こえてきました。
「離さんか貴様ぁ!そもそも囚人の分際でPCを持っていることがおかしいのだ!これは没収するぅ!」
「嫌よ!ここには私の思い出が、血の涙の結晶が、心から愛した子達との記憶が詰まってるのよぉぉお!!」
「何を訳のわからんことを…クソ!なんて馬鹿力だ!」
監禁部屋のドアを開けた状態で鬼塚くんとフランソワ様がPCの両端を持って引っ張り合いをしていました。腕力でオーガと互角以上って、やっぱりヤバイなあの姫様…
「おはよう、大丈夫鬼塚くん?」
「おぉ奥山殿!ご心配なく!仕事は順調に進んで…ぬおおぉおぉお!離せ小娘がぁあ!」
「奥山さん助けて!鬼塚さんったら滅茶苦茶してくるのよ!これじゃ私の部屋が崩壊しちゃうわ!」
「だ、大丈夫なのかこれ?」
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5日目
鬼塚くんにもう大丈夫だから見にこなくていいって言われたけどやっぱり気になっちゃうよ。1日目からちょっと間が空いたけど大丈夫かな?
「だからね、私は言ってやったのよ!今期のアニメの覇権はアイドルものが来るって。でもそいつはアイドルものはもう時代遅れだとか言ってきてね、ひどいでしょ?」
「またか…また訳のわからんアニメの話か…毎日毎日呪詛のように繰り返しおってぇぇ…」
「鬼塚くん?なんかすごいやつれてるけど平気?」
「お、奥山殿いらしてたんですね…平気です。全く問題はありません。」
「あ、奥山さん久しぶりー。なんかね日に日に鬼塚さんが弱っていってるのよ。変わってあげたほうがいいんじゃない?」
「だ、黙れ!余計な事を言うな!これくらいなんてことはない!」
「む、無理はしないでね?ほんとに…」
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7日目
いよいよ運命の日です。5日目に見た時はだいぶきつそうでしたが、鬼塚くんは様子はどうでしょう。
「おはようございまーす。鬼塚くん調子はどうですかー?」
あれ?返事がないぞ?
「おはよう奥山さーん。鬼塚さんなら部屋の前に立ってるわよー。」
部屋の前まで行ってみると確かに鬼塚くんが立っていました。あの鬼塚くんが返事を返さないなんて珍しいですね。
「鬼塚くんおはよう、どうかな?ここの看守続けていけそ…鬼塚くん?鬼塚くん?!」
僕が目の前に立っても反応がないので違和感を感じて顔を覗いてみると、その目には光がなく、どこか遠いところを見つめています。
「立ったまま気絶してる…そんなにキツかったのかここの監視任務って…」
「今朝ここにフラフラしながら来てそこに止まった瞬間ピクリとも反応しなくなったの。寝不足かしら?」
「メディック!メディーーック!!」
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気絶した鬼塚くんを医務室に運んで、目が覚めた時に話してみたのですが、「恐ろしい…あそこは地獄だ。」と言って看守交代の話は無しでと言われました。
「おはよう奥山さん!やっぱりそこに立ってるのは奥山さんがいいわ、なんかしっくりくる。」
「喜んだらいいのか、自分がもう手遅れな事を嘆いたらいいのか分からなくなってきましたよ…」
魔王城の中でも腕利きの看守である鬼塚くんがこなせなかった任務を割と普通にこなせている。
他の同僚に言ったら驚くかな?いや、信じてもらえないだろうな…




