奥山さん、意識する
皆さんこんにちは奥山です。そろそろお昼時、フランソワ様が出前を取るよう言ってくる時間です。最初は違和感だらけでしたが、もう開き直ってしまいました。
「奥山さーん。」
ほら来ましたよ。言った通りでしょう?おそらく僕の予想ではチンジャオロース定食を頼むはずです。
「私ドラゴンの肉を食べてみたいんだけど、頼んでもらえる?」
「……ファ?」
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慣れたと思ったのに…そんな矢先にこの姫様はまためちゃくちゃなことを言い出しやがるなぁ本当に!
「フランソワ様、順を追って説明していただけますか?何故ドラゴンの肉を食べたいと?」
「ほらドラゴンの肉ってこう、食べたら不死身になるとか身体にドラゴンの鱗が浮き上がるとかそんな副作用ありそうじゃない?そろそろ私も不死身になってみようかなって。」
「どういう精神してたら突然不死身になろうと思うんですか…それに今の魔界でドラゴンの肉を食べることは出来ませんよ。」
「奥山さん…いくら食いしん坊だからってドラゴンを独り占めするのは良くないわよ。ちょっとでいいから私にも分けてくれない?」
「もし僕にドラゴンを捕食する程の力があればここに勤めてないですよ…別に誰かが肉を独占してるとかじゃなくてそもそもドラゴンがいないんですよ。絶滅しちゃいました。」
「へー、ドラゴンって強そうなのに絶滅しちゃうのね。」
確かにドラゴンは強いです。ですがそれよりも強い魔獣が全部食べちゃったんですよ。魔王様が使役している獅子村さんが。まぁこんなこと言えば獅子村を呼べとか言い出しそうだから言わないんですけどね。
「残念ねぇ。でもそれならしょうがないわ、今日はチンジャオロース定食にする。」
「あ、当たった。」
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「やっぱりチンジャオロースは中華の王様よねぇ奥山さんもそう思わない?」
「確かに美味しいですけど、個人的にはやっぱり麻婆豆腐がいいですかね。山椒がめちゃくちゃ効いてるやつ。」
あー、この会話は良くないですね。どんどんお腹が空いていました。今日は魔笛屋の麻婆豆腐定食で決まりですね。
「フランソワ様、ちょっと出前の電話かけますからテレビの音落としてもらっていいです…」
「おい、動くんじゃねぇぞ豚野郎。下手なことしたらその首掻っ切るからな!」
急に脅迫され、気づいたら僕は後ろから首元にナイフを突きつけられていました。
「え、嘘?!なんで?強盗?やめてください。ここには何もないですよ!」
「強盗じゃねぇ、お前看守だな?ここに美しい人界の姫がいると聞いた。この扉の中か?」
「美しい人界の姫?誰?ここにはそんなプロフィールが当てはまる人いませんよ!」
シャンッ!
「奥山さんそれマジで言ってる?」
さすがに気づいたのかフランソワ様が小窓をを開けて僕の様子を覗いてきました。
すると僕の後ろにいる人が僕を蹴飛ばし、フランソワ様にナイフの切っ先を向け殺意を剥き出しにしています。赤いヤギのような角と真っ黒な長髪が特徴的な若い魔物です。
「てめぇがフランソワだな!琉詩緒様に対する無礼、万死に値する!」
あ、この人琉詩緒様の関係者なのか。それならフランソワ様に殺意を向けるのも納得だ。
「琉詩緒?奥山さん、そんな人いたかしら?記憶にないんだけど。」
「ほらあれですよフランソワ様。この前来たパツキンロン毛のホスト崩れみたいな感じの。」
「あー、あのうるさかった人ね。であの人がどうしたの?」
「きっさまらぁぁぁぁあ!あの方の偉大さも理解できん愚鈍な…」
「そういうのいいから自分の名前とここに来た用件を言いなさいよ。」
「え?あ、はいすいません。」
謝っちゃうんだ。この人見た目に反していい人なんじゃ…
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「俺の名はサタナキアの棚木!琉詩緒様の親衛隊隊長だ!この前はよくも琉詩緒様を!」
「そんなこと言われてもねぇ、マジでうるさかったし。ていうか親衛隊の隊長ならあの時も一緒にいればよかったじゃない。それで私達だけが悪いって言うのは責任転嫁よ?」
「え?あの、えっと…あ、あの時は!お一人になりたいと仰られていたんだ!主がそうしたいと言ったのなら従者はそれに従うべきだろう!」
「それはどうでしょうか?いくら主の命令でも一人にするのは危険です。なんとか言い聞かせて側に仕えた方が賢明だと思いますよ?」
「な、オークの分際で舐めた口きいてんじゃねぇぞ!!」
「そうそういいこと言うじゃない奥山さん。さすがは私の従者だわ!」
「看守です。」
「あの、無視しないで…」
棚木さんは何かを言い返そうとしているのですがその度にフランソワ様に邪魔をされ、おろおろとしています。やっぱり棚木さんはいい人なんでしょうね。
「もういい…これ以上の議論は無駄だろう…だが俺がここに来た真の目的は貴様らへの報復ではない!」
「その報復ですらまともに出来てないのに真の目的の達成とか出来るの?」
「で、出来る!と思う…」
「頑張って棚木さん!大丈夫ですって。聞かせてください真の目的!」
棚木さんは僕を見てから頷き、なんとか踏ん張ってフランソワ様の目を正面から見つめ、少し逸らしてから喋り始めました。なんなんでしょうこの空間。
「フランソワ!貴様が琉詩緒様から奪った『祝福の白翼』と『懺悔の黒翼』を返してもらうぞ!」
「白翼と黒翼?なにそのハンターがモンスターから剥ぎ取りそうな素材。」
「素材ではない!貴様が千切ってしまったあの翼だ!あれがなければ琉詩緒様は真の力を発揮できないのだ!お前達が持っていても何の意味も成さない。だから早く返せ!」
「まあ返すけど…翼がなくていいんじゃない?売れないホストがヤバイビジュアル系ホストになっちゃうわよ?」
「馬鹿を言え!琉詩緒様なら入店した瞬間に夜の帝王だ!」
「うーん、なんて不毛な会話なんだろう。」
ちょっと待ってと言ってフランソワ様は部屋の奥に行き、すぐに翼を持ってきました。持ってきたのですが、
「おい、なんだこれは!サイズが小さいぞ。これは本当に琉詩緒様の翼なのか!」
確かに前に見た時は両手でやっと持てるサイズだったのに今は片手で持てるサイズになってます。
「まあ本物と言えば本物よ。ちょっと大きかったから羽をむしって羽箒にしてみたの。これがすっごい埃を集める超優れものなのよ!」
「フランソワ様、あんた堕天使の羽で箒つくったんですか…」
「おい待て…むしったと言ったな?ならば残りは?翼の本体はどこだ!」
「捨てた。」
「あ、この前の燃えるゴミの日にやたらゴミ袋が多かったのってそのせいですか。」
「何を呑気に!こ、この下衆どもがぁぁぁ!!」
棚木さんはもう僕達に目もくれず窓から外に飛んで行ってしまいました。先週あたりに出したのでもう手遅れな気もしますが。
「あれね、奥山さん。人のものはちゃんと返さないといけないわね。」
「まぁ、ちぎれた翼を回収に来ることもその翼で羽箒を作ることも全部予測出来ないですし、いいんじゃないですか?」
僕はいつのまにか堕天使の翼を可燃ゴミとして捨てていたようです。今度からなるべく袋の中身は確認することにします。




