奥山さん、気づく
皆さんこんにちは、奥山です。皆さんは悪魔を使役したいと思いますか?人間の魔術師の方なんかは知識欲しさに召喚などしていますがいざ使役するとなると大変なんですよ。そのいい例が今目の前にいます。
「ぬぉぉぉぉ!!どうしよう魔王さん!『レメゲトン』を無くしちゃったよぉぉぉ!!」
「まあまあ落ち着けよソロモン君。ここには俺ともう一人スペシャリストがいるんだぜ?」
「どーもソロモンさん。スペシャリストのフランソワよ。」
「なんのだよ…」
「スペ…え?何で人間の女の子が?」
魔王様とフランソワと向き合うようにソファに座ってらっしゃるのはソロモンさん。人間なのに自由に魔界と人間界を行き来出来たり、悪魔を72体も使役しちゃってる凄い方です。
ですが何かトラブルがあったようで困り果てた末に魔王様の元にやってきたそうです。そして何故かその魔王様がフランソワ様を召集したのです。そう訳が分かりません。
「あのー、ソロモン様。差し支えなければ教えて欲しいんですけどレメゲトンってなんですか?」
「おいおい奥山知らねえのか?常識だぞ?」
「よく躊躇いもなく聞けたわね、恥を知りなさい。」
「じゃあお二人説明していただけますか?」
「「………」」
「えっとですね、簡単に言いますとワタシが使役している悪魔の名簿なんですよ。72体分の名前とか労働契約とか個人情報が書かれてるんです。」
「そうだよこんな事も知らねえのか奥山!」
「あまりにも有名なことよ、恥を知りなさい!」
「うるせえよ!ここぞとばかりに便乗してんじゃないよ!」
それって相当ヤバイ問題じゃないか?下手をすれば全ての悪魔を失って罰を受けることになりますよ。
「どうしてそんなものを落としちゃってんですか?何か思い当たることはありますか?」
「はい、実は…」
「なるほど、ソロモン君の悪魔達の使役権を奪おうとした奴がやったんだ、間違いねえ。」
「それか悪魔が反乱を画策しているのよ。事件の匂いがプンプンするわ。」
「ちょっとそこのボンクラ探偵二人は黙っててください!で、何か心当たりは?」
「ワタシが覚えている限りですと、昨日の夜11時に就寝するときはちゃんと金庫に保管してあることは確認しました。それで朝7時に起きて金庫を開けてみると中にあるはずのレメゲトンが無くなっていたんです。」
「じゃあソロモン様が寝てる8時間の間に無くなったということですね。誰かが盗んだのか?」
「その時間は俺も寝てる。最近買った安眠枕のお陰で爆睡だ。」
「私もオンライン対戦を終えて疲れ果てているわ。」
「あんたらの睡眠事情はどうでもいいんだよ!真面目に考えてくださいよ!ソロモン様本当に危ないかもなんですよ?」
「わかってないわね…最早犯人は絞り込まれているに等しいのよ奥山さん。」
「え?!そうなんですか?」
今までの話のどこに犯人を特定するところがあったんだろう?それにフランソワ様がちゃんと話を聞いていたのが驚きです。
「この事件で注目すべきは金庫が開いていたという点よ。犯人を悪魔と仮定するにはこれは余りにも不自然すぎる。」
「そうだな、俺もそこが引っかかってた。何故なら悪魔は人間界の物体への物理干渉が出来ないんだよ。」
「な、なるほど。さっきゴミのような推理をしていた人たちとは思えない…でもこれで犯人は人間ということになりますねソロモン様!」
「あの、悪魔達も普通に人間界の物には触れるんです。事務所のお菓子とかよく食べてますし。」
「だと思ったよ。お前はすぐ結論を出そうとする、悪い癖だぞ奥山。」
「真実とは見えないほど細い糸を辿った末にやっと知ることが出来るの。奥山さん、焦る気持ちはわかるけど推理は慎重にね?」
「ソロモン様、もうこいつらが盗んだことにして悪魔達に襲わせません?」
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スペシャリスト達の推理は意味を成さず、わかったのはこの二人が役立たずだということだけでした。
「ソロモン様、泥棒が押し入ったという線はないですか?」
「あり得ません。ワタシの許可なく無断で忍び込もうとする者には通路が迷宮化する魔法と攻撃魔法、さらにワタシの部屋にある警報が鳴るんです。魔術師ましてや普通の人間が入るのは不可能です。」
「じゃあよ、悪魔達はどうなんだよ。あのバアルとかそんな小細工なんて簡単に突破しちまうだろ?」
「確かにそうなんですけど、バアルさんって極度のめんどくさがりなんで考えにくいというか…」
「うーん、もう72体全員手当たり次第尋問していく?一人ずつ魔王城に呼び出せば簡単なんじゃないの?」
「フランソワ様、発想がギャングですよ…」
完全に泥沼に嵌っちゃった感じです。僕も推理なんてしたことないですし、最初はノリノリだった二人も飽きてきたのかだんだん返答がいい加減になっていってます。
「どうしよう…魔界まで来て成果なしなんてアガレスさんにどやされちゃう…」
「アガレスさん?誰なんですかそれ?」
「ワタシの秘書をしてくれている悪魔です。厳しい人ですけど仕事が出来てよく気が利いて話し相手にもなってくれる面白い方なんです。昨日を寝るまで部屋で話してて、まだ部屋にいるのに申し訳ないなぁと思ってて。」
これって言うべきなのかな?いや、僕が言わなくても言ってくれる人達がいるじゃないか。
「なぁソロモン君…そいつじゃね?」
「へ?」
「だからね、レメゲトンを奪ったのアガレスさんじゃないかしら?」
「……あり得ないですよ!だって!だって…えぇ?!アガレスさんですよ?あのアガレスさんが…きっと昨日も僕が寝た後すぐに帰ったに違い…ない…かと。」
ソロモン様の声から自信がどんどんなくなっています。もうこれ決まりなんじゃないかな?
「ソロモン様、今日のところは一度お帰りになった方がいいんじゃないですか?それでアガレスさんとお話して真偽を確かめるのが一番かと。」
「気まずいですよ…もし違ってた時のこと考えると胃がキリキリしてきた…」
「覚悟を決めなさいよソロモンさん。違ったら違ったで謝れば…」
プルルルル…プルルルル…
フランソワ様の言葉を遮るように携帯の着信音が突然部屋に響きました。どうやらソロモン様の携帯のようです。
「もしもし、すいません今魔王城で…え?バアルさんが軍勢を率いて暴れてる?!アガレスさんが手引きを?!」
おー、まるでこちらの会話を待っていたかのようなタイミング、しかも内容が的中しちゃいましたね。電話を切り終わったソロモン様は顔面蒼白で死にかけの魚のように口をパクパクさせています。
「どうするソロモン君泊まっていく?いい酒置いてるぜ?」
「最近発売された対戦ゲームが面白いの。部屋でみんなでやりましょうよ!」
「すいません、帰ります…人間の部下達を守らなければならないので…」
「が、頑張ってくださいね!ソロモン様ならきっと大丈夫ですよ!」
「はい…」
俯きがちに帰路につくソロモン様を僕たち3人は声援を送りながら見送りました。何も悪いことをしていないのに、そう考えると少し涙が出そうです。
「なぁ奥山、フランソワちゃん。二人は俺の寝首を掻こうとか考えてないよな?」
「普段から気をつけていればそんなこと気にしなくて済むんじゃないですか?」
「魔っちゃん、人の心は水のごとく移ろいゆくものよ。」
「なんでそんな不安になること言うの?!ちょ、今夜一緒に飲もうぜ!なぁ待ってお願いだから!」
よくよく考えたら魔王城も他人事ではないのかもしれません。




