↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『三法師ですが、羽柴秀信にはなりません! ~史実を知る三歳児、織田家を残すために大名たちとお話しします~』  作者: ほまれ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/15

第一話 俺はだれ?

お読みいただきありがとうございます。

是非最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

 俺は、歴史が好きではない。

 いや。

 正確には、嫌いではない。

 ただ、三十八歳にもなって、休日に歴史小説を読みながら「この合戦の布陣はですね」なんて語り出すような人間ではなかった。

 俺の仕事は、歴史ルポライター。

 ……と言えば聞こえはいい。

 実際は、ネットニュースサイトから依頼をもらって、全国の城跡や古戦場、寺社を取材して記事を書く、しがないフリーライターだ。

 一本書いて数千円。

 交通費が出ると喜ぶ。

 記事が読まれれば、少しだけ追加報酬が入る。

 そんな生活だった。

 歴史そのものより、現地に行くのが好きだった。

 古い石垣を見る。

 地元のおじさんから昔話を聞く。

 資料館のおばちゃんに、展示されていない話を教えてもらう。

 そういう取材は面白かった。

 ただし、歴史の知識が身につくかというと、別の話だ。

 織田信長。

 豊臣秀吉。

 徳川家康。

 明智光秀。

 この辺りなら分かる。

 だが、戦国武将の家臣の名前を十人並べられたら、半分くらいは怪しい。

 年号なんて、もっと怪しい。

 それでも、俺には一度だけ大きな当たりがあった。

 数年前。

 歴史記事を書いた。

 内容は、自分でも意外なくらい読まれた。

 朝起きたら十万PV。

 昼には五十万。

 夜には百万を超えていた。

「……何これ?」

 編集部から電話がかかってきた。

『桐生さん、記事、すごいことになってますよ』

「俺が聞きたいです」

『SNSでもかなり拡散されてます』

「何で?」

『こっちが聞きたいですよ』

 その記事をきっかけに、少しだけ仕事が増えた。

 出版社から連絡が来たこともある。

 俺は思った。

 もしかしたら、この仕事で食っていけるんじゃないか。

 そう思った。

 思っただけだった。

 次の記事は三万PV。

 その次は八千。

 その次は二千。

 バズったのは、その一本だけ。

 結局、俺は元の生活に戻った。

 三十八歳。

 独身。

 売れないライター。

 貯金は少ない。

 将来の見通しは暗い。

 それでも、まあ。

 死ぬほど不幸というわけでもなかった。

 だから。

 あの日、山道を走っているときも。

 まさか自分が死ぬなんて思っていなかった。

     *

 雨が降っていた。

 俺は取材帰りだった。

 助手席にはカメラ。

 後部座席には資料とノートパソコン。

 今回の記事も、正直あまり期待していない。

「……また二千PVくらいかな」

 独り言を呟く。

 山道を走る。

 カーブ。

 路面が濡れている。

 タイヤが滑った。

「え?」

 車体が横を向いた。

「ちょ、待て!」

 ハンドルを切る。

 ブレーキを踏む。

 だが。

 遅かった。

 ガードレールが目の前に迫る。

「うわっ!」

 車が突っ込んだ。

 身体が浮いた。

 何かが割れる音。

 そして。

 世界が暗くなった。

     *

「……?」

 目を開けた。

 知らない天井だった。

 木。

 梁。

 薄暗い部屋。

「……病院?」

 声が変だった。

 高い。

 幼い。

「……え?」

 俺は起き上がろうとした。

 起き上がれない。

 身体が重い。

 いや。

 違う。

 身体が小さい。

 手を見た。

「……」

 小さな手。

 短い指。

 細い腕。

 俺は自分の顔を触った。

 頬が柔らかい。

 髪も長い。

 服は着物。

「……なんだこれ」

 立とうとした。

 転んだ。

「痛っ!」

 痛みは本物だった。

 夢じゃない。

 俺は四つん這いになって、部屋の隅まで這った。

 そこに置かれていた金属の器に、自分の顔がぼんやり映っていた。

 子供。

 どう見ても二歳か、せいぜい三歳。

「……俺?」

 器に映った子供も俺を見る。

「……嘘だろ」

 そこから数日。

 俺は訳の分からない生活を送った。

 誰かが飯を食わせてくれる。

 誰かが着替えさせてくれる。

 眠れば布団をかけられる。

 歩こうとすれば支えられる。

 俺が何を聞いても、周囲の大人たちは困ったような顔をする。

「若君」

「若君、危のうございます」

「三法師様、お待ちくだされ」

 三法師。

 その名前だけが、妙に引っかかった。

「三法師……?」

 聞いたことがある。

 だが。

 誰だ?

 俺は必死に記憶を探った。

 歴史。

 戦国。

 織田。

 ……何かある。

 だが、思い出せない。

 そもそも俺は歴史学者ではない。

 戦国時代の人物を全部覚えているわけじゃない。

 それでも。

 四日目の朝。

 廊下から聞こえてきた会話で、俺は初めて異常事態の正体に気づき始めた。

「明智光秀が……」

 俺は振り返った。

「本能寺で織田様を……」

 心臓が跳ねる。

「羽柴殿は?」

「中国より戻られました」

「清洲へ向かわれるとのことだ」

 俺は固まった。

 明智光秀。

 本能寺。

 羽柴。

 清洲。

 知っている。

 全部知っている。

 いや。

 細かいことは知らない。

 だが。

 この単語の並びは。

「……戦国時代?」

 俺は呟いた。

 その瞬間。

 外から大きな声が聞こえた。

「若君!」

 人が走ってくる。

「秀吉様!」

「お待ちくだされ!」

「若君の御前ですぞ!」

 何人もの大人が止めようとしている。

 だが。

 一人の男が、それを振り切って走ってきた。

 小柄な男だった。

 だが、動きは恐ろしく速い。

 俺の前まで来る。

「おお!」

 男の顔が近づいた。

 そして。

 ひょい。

 俺は抱き上げられた。

「三法師様!」

 男は嬉しそうに笑っている。

 俺は固まった。

 顔を見た。

 見覚えがある。

 教科書。

 テレビ。

 歴史番組。

 ネット記事。

 この男は。

「……羽柴秀吉?」

 思わず口から出た。

 男が目を丸くする。

「おお?」

 周囲の家臣たちもざわめいた。

 俺は秀吉の顔を見つめる。

 秀吉はすぐに笑顔へ戻った。

「これはこれは!」

 俺を抱き上げたまま、豪快に笑う。

「三法師様、この秀吉が戻りましてございますぞ!」

 その名前。

 三法師。

 もう一度、頭の中で響いた。

 三法師。

 どこかで。

 俺は。

 こいつを。

 知っている。

「……三法師?」

 俺は秀吉の腕の中で呟いた。

 その瞬間。

 記憶の奥から、一つの光景が蘇った。

 数年前。

 資料館。

 展示ケース。

 古い肖像。

 俺が書いた記事。

 あの記事のタイトル。

「……」

 思い出せない。

 いや。

 違う。

 タイトルじゃない。

 記事の最後に書いた文章だ。

 俺は、あの人物について書いた。

 織田信長の死後。

 清洲会議。

 その後の人生。

 そして。

 関ヶ原。

 俺は秀吉の腕の中で、ゆっくり顔を上げた。

 目の前にいる男。

 羽柴秀吉。

 俺を抱いている。

 そして。

 俺は。

 三法師。

「……待て」

 背中に冷たい汗が流れた。

 俺が書いた記事の主人公。

 まさか。

「俺……」

 秀吉が笑っている。

 俺を「三法師」と呼んでいる。

 なら。

 俺は。

「……誰だ?」

 自分で分かっていた。

 だが。

 認めるのが怖かった。

 そして、その恐怖の理由を。

 俺はまだ思い出していなかった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

いかがだったでしょうか。

ぜひ、感想やコメントをもらえたら嬉しいです。

また、おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―も連載中です。

そちらもよろしかったらご一読ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
AI独特の短文切り作風で、残念に思いました。 その半分をつなげて長文にすれば、もっと面白くなるのに。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。