幕間 ジャガイモの味
オーダは「清潔の迷子――シズク――記:リテア・ライト八代目」にようやく目を通し終えた。その途端、腹の虫が遠慮なく鳴いた。
このアーカイブには日光が一切入らない。入るたびに時間の感覚が曖昧になる。台所へ向かって何か腹に入れることも考えたが、今は教団の者たちが屋敷の中に大勢いるはずだ。下手に動かぬ方がよい。そう思った矢先、重い扉がかすかに軋んだ。身を隠せる場所はいくらでもある。だが、この場所に辿り着ける者は領館の中でもごく限られている。オーダは書類を元の位置へ戻し、来訪者を迎えた。ヴィルだった。
「お食事をお持ちしました。お待たせして申し訳ありません」
「いや、ありがたい。ちょうど空腹が限界だった。助かるよ、ヴィル」
ヴィルは盆を、いつもリテアが書類整理に使っている机の上へ静かに置いた。献立はジャガイモと羊肉のシチュー、それに黒パン。ヴィルらしい気配りでおしぼりも用意されている。オーダは思わず苦笑し、おしぼりで手を拭い、スプーンでジャガイモを掬って口へ運んだ。うまい。
食事を摂りながら、オーダはヴィルと屋敷内の状況を手短に確かめ合った。やはり、まだ油断できる段階ではないらしい。
ジャガイモには散々苦労させられたものだ。そういえば、あれはいつの時代だったか。
オーダは盆の脇に置いた記録へ手を伸ばす。「ものさしの迷子――ノリコ――記:リテア・ライト十代目」と記された束を開いた。




