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第6章 「内廷での謁見」

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。

 そうして内廷に位置する豪奢な客間に案内された私は、思いもよらぬ御方と御会いする機会を得られたんだよ。

挿絵(By みてみん)

「吹田千里少佐、変わらず壮健のようで誠に重畳であるぞ。貴公が紫禁城に参内するこの日を、どれ程に待ち望んだであろうな…」

 ツインテールに結われた黒髪に、仕立ての良い豪奢な赤い満洲服。

 何もかも、あの叙勲式の日にモニター越しで拱手礼をさせて頂いた時そのままだ。

 その御方こそ中華王朝の次期天子であり、私が影武者を務めさせて頂いた愛新覚羅麗蘭第一王女殿下だったんだよ。

「おお、殿下…我が君、愛新覚羅麗蘭第一王女殿下!」

 気付けば私も、跪拝の姿勢で拱手の礼を示させて頂いていたよ。

 正直言って、「これでも敬意の表現が足りないんじゃないかな」って感じだったね。

 現在の中華王朝は寛容な立憲君主制を国是とされているけど、世が世なら三跪九叩頭の礼で敬意を示す必要のある高貴な御方なのだからね。

挿絵(By みてみん)

「そう恐縮せんでも良い、吹田千里少佐。貴公は来賓なのじゃからな。そこまで畏まらずとも、貴公の忠節振りは(わらわ)達も存じておる。」

 そんな私を見るに見かねてか、王女殿下も苦笑混じりにたしなめて下さったんだ。

「叙勲式の際はネット会議の画面越しじゃったが、こうして貴公と直接対面する事が出来て喜ばしい限りじゃ。それにしても、顔立ちから背格好に至るまで(わらわ)に瓜二つ…まるで鏡を見ているようじゃのう。貴公はどう思われるかな、和碩親王殿下?」

「第一王女殿下の仰る通りで御座いますな。もしも第一王女殿下が一卵性双生児であらせられたならば、きっと吹田千里少佐のような姉君か妹君がいらっしゃった事でしょう。」

 これが大河ロマン的な漫画やアニメだったなら、私は何らかの理由で日本で育てられた愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の双子の姉妹って事になり、出生の秘密が明かされるんだろうな。

 とは言え私が吹田家の長女である事は遺伝学上でも戸籍上でも紛れのない真実であり、生まれついての貴種でも何でもないんだよ。


 だから今の話も大きくは進展せず、高貴な御方同士の他愛もない冗談と「吹田千里という人間が影武者として最適な人物だった」という事実の再確認に留まったんだ。

「さて、吹田千里少佐よ。貴公は影武者として(わらわ)の生命を救っただけでなく、此度の長崎における日中友好式典では永祥和碩親王殿下の護衛と賊徒の殲滅に貢献してくれた。正式な叙勲は後日に大使館で行うとして、此度は略式ではあるが貴公を労わせて頂こう。」

 そうして内廷の客間で行われる茶会に御招待頂いたんだけど、麗蘭第一王女殿下と永祥和碩親王殿下の御二人や高位の官僚との御相伴という滅多にない機会に恵まれたのは実に光栄な事だったよ。

挿絵(By みてみん)

 それに茶菓子として供された点心も中国茶も、品質に拘り抜いた一級品でとっても美味しかったね。

 中国緑茶の中でも屈指の高級品である龍井ロンジン茶は御用茶園で栽培された茶葉を清明節の前のタイミングで手摘みした「明前茶」だから、ふくよかな香りと爽やかな甘さが素晴らしいんだ。

 女官の方が淹れている所をチラ見したけど、茶葉の形も美しいし鮮やかな緑色が目を引いたね。

「鮮やかな緑色をした形の美しい茶葉から、このようなふくよかな香りと爽やかな甘味が出るのですか。これが『四絶』なのですね。」

「よく御存知ですね、千里さん。流石は茶道の第一人者である千利休に縁の堺の町でお生まれという事もあり、御茶や茶菓子にもお目が高いと見えますね。」

 昔から「門前の小僧習わぬ経を読む」とは言うけれど、私が生まれ育った堺県堺市は千利休が茶道を大成させた地でもあるし、与謝野晶子の実家で和菓子を商っていた駿河屋が店を構えていた場所でもあるからね。

 士族の息女である淡路かおるちゃんや伯爵令嬢の生駒英里奈ちゃん程じゃないけど、そうした知識は日々の暮らしや学校教育で自然と蓄積されていくんだよ。

 その点で言うなら、お茶請けのお菓子も素晴らしかったね。

 白いインゲン豆の餡で細かく濾した小豆餡を巻いた芸豆巻ユンドウジュアンは練り切りに近い感覚で食べられたし、エンドウ豆を煮詰めて固めた豌豆黄ワンドウホアンは羊羹みたい。

 そうした具合に満洲族好みのお菓子は日本人の私の味覚とも親和性が高いんだ。

 何しろ堺市にはくるみ餅や芥子餅といった和菓子が名物として沢山あるから、少し改まった席でのおもてなしや盆暮れの贈答品に和菓子が供されるのは普通の事なんだよ。

 だけど紫禁城のお茶もお菓子も余りにも美味し過ぎて、思わず「この味を知った後で普通の食生活に戻れるのかな?」と心配になる程だったよ。

「それは杞憂という物ですよ、吹田千里少佐。確かに紫禁城の宮廷料理には王族の健康の為に安全な食材を用いていますが、調理方法などはレシピが公開されていますからね。ネットで探す手間は多少かかるかも知れませんが、市井のレストランでも同様の料理を召し上がる事も可能です。独立した宮廷料理人が営む店ならば、より再現度の高い味が楽しめるでしょう。神戸や横浜のような日本の中華街にも、独立した宮廷料理人の経営する店があるとの話です。」

「御教示頂き感謝致します、愛新覚羅永祥和碩親王殿下。近いうちに家族や友人と共に来店をさせて頂こうと存じます。」

 永祥殿下は非常に御優しい殿方で、その細やかな御気遣いや温かい御心には頭が下がる思いだったよ。

 御姿も威風堂々とされた美丈夫だし、このような御方の御妃様になる御方が羨ましいと改めて感じた次第だね。

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― 新着の感想 ―
三跪九叩頭の礼!? 初めて聞きました……こんな礼もあるんですね。 それはそれとして。 これ、もし千里少佐が和碩親王殿下と結婚なんて事になったら和碩親王殿下の方は気まずいんでは^^; そんで宮廷のお…
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