第2章 「魔弾を察した巴図魯の神技」
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
こうして件の遊撃服と同素材で出来た耐久性抜群の満洲服に袖を通して、私は式典会場のある長崎へと旅立ったんだ。
この式典自体も、私にとっては得る物の多いイベントになったよ。
何しろ長崎の華僑コミュニティの重鎮や市長さんを始めとする長崎市の御偉いさん達とも、様々な御縁を繋ぐ事が出来たからね。
「お会い出来て光栄で御座います、劉大人。」
「こちらこそ、巴図魯殿。巴図魯殿がいらっしゃると、まるで本物の麗蘭第一王女殿下がこの場にいらっしゃったかのようです。また機会が御座いましたら、是非とも長崎へいらして下さい。」
そして喜ばしい事に、愛新覚羅永祥和碩親王殿下とも謁見させて頂けたんだ。
「貴女が吹田千里少佐ですか。成る程、影武者を務められただけあり麗蘭第一王女殿下に瓜二つ…『EMプロジェクト』における影武者作戦ではさぞや御苦労をされた事でしょう。誠に大義で御座いました。」
凛々しい貴公子である殿下は、物腰も柔らかくて紳士的。
思わず「こんな素敵な殿方の伴侶になるのはどんな人だろうか。」って考えちゃったよ。
可能ならば、その伴侶のポジションに私が収まれると良いんだけどね。
そうすれば日中友好や安全保障も、今よりもっともっと捗ると思うんだよなぁ…
そんな具合に日中友好式典が滞りなく進行する裏で、それらをぶち壊しにする為の悪意もまた虎視眈々と隙を狙っていたんだ。
『やはりな…』
それを特命遊撃士としての経験則と生体義眼の多機能デバイスとで察知した私は、満洲服の懐に忍ばせた鉄扇を静かに握りしめたの。
「むっ!」
悪意と殺意の凝縮された一発の弾丸を捌くのは、手首のスナップだけで事足りた。
特殊合金製の骨組に強化繊維を貼った鉄扇の威力は、実に心強いよ。
「良し…」
そして次の瞬間に遠方のビルの屋上から墜落した人影は、私が弾き返したライフル弾の跳弾で逆に急所を直撃された狙撃手の成れの果てに違いないね。
狙撃の腕前に関しては情報が少なくて何とも言えないけど、用心深さという点ではお世辞にも評価出来ないね。
だって狙撃銃のスコープが太陽光を反射しているもんだから、一発で居場所が分かっちゃったじゃない。
幾ら残存組織の内部事情がカツカツだからって、もう少し機材には拘って貰わないと。
とはいえ、連中が要人暗殺による示威行為を目的にしていてヒットマン自身も秘密保持の為に即座に自決するつもりだったのなら一応の筋は通るけど。
でもそれにしたって、貴重な人的リソースを使い捨てるのを想定しなきゃテロ活動も満足に出来ないんじゃ組織として先がないよ。
テロ組織であろうと民間企業であろうと、持続可能性を失ったらもうそこで終わりだってのに。
ましてや狙撃手は専門技術を習得するのに手間と時間がかかっているんだから、もっと大事にしてあげても罰は当たらないと思うんだよね。
普段の自分がレーザーライフルを用いた狙撃を得意にしているもんだから、余計にそう考えちゃうよ。
そうして改めて考えてみると、このように正規軍人である人類防衛機構の特命遊撃士として万全の状態で戦えるってのは非常に幸せな事なんだろうね。
まあ何にせよ、命の遣り取りをする時は色んな事を考えておかないといけないよ。
敵組織の資金や人材が潤沢で大規模なのか、或いは公安組織による締め付けにより干上がりつつあって気息奄奄の有り様なのか。
実戦ではこういう事も計算に入れておかないとね。
それによって対応だって変わってくるわけだし。
いずれにせよ、相手が狙撃による暗殺を企ててくれたのは私にとってはやり易かったよ。
そりゃ私だって常日頃からレーザーライフルの狙撃技術で、テロリストだの過激派だのを日常的にバンバン暗殺しているんだもの。
そこで役に立つのが、「自分が暗殺者ならばどう隙を突いて任務を遂行するか」って考え方だよ。
やっぱりそこは「蛇の道は蛇」で、何処からどの角度でどのタイミングで狙撃すれば良いか手に取るように分かるんだよね。
敵の攻め方が事前に分かっていれば、防ぐのは決して難しくはないんだよ。
あの有名な孫子だって、「兵法」の中で「彼を知り己を知れば百戦危うからず」って言っているじゃない。
海の事は漁師に問え、暗殺の事は狙撃手に問えってね。




