エピローグ編第2章 「緑茶の香りで結ばれた堺の町と紫禁城」
挿絵の画像を生成する際には「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
店内BGMとして再生される琴の調べが雅びやかな雰囲気を醸し出し、緑茶と抹茶の馥郁たる和の芳香が自ずと心を落ち着かせる。
地元でも老舗の百貨店である高鳥屋堺東店の地階にテナント入居している和風甘味処は、くるみ餅や芥子餅といった堺市内の名物和菓子を取り揃えた名店として地元民からも観光客からも愛されているんだ。
私も小さい頃には高鳥屋百貨店の屋上遊園地で遊んだ後に、両親や祖父母にクリーム餡蜜とかを食べさせて貰ったもんだよ。
そして長じた今は、こうして同期の友達と連れ添って放課後にしけ込むって訳だね。
長い年月を経るうちにメニューも店員さんも色々と入れ替わったけど、色んな思い出が宿っている訳だもの。
こうして腰を下ろして湯呑み茶碗の温もりを掌に感じると、何とも言えない穏やかな気持ちになっちゃうね。
「しかしまた…渋い選択するよね、千里ちゃんも。カラオケとか『漁火水産』の飲み放題とかに行くのかと思ったら、緑茶のお供に和風スイーツだもん。」
「そう言う割にゃ、お京も満更じゃなさそうだけどな。抹茶パフェに餡蜜とは豪勢なオーダーじゃないか。」
そうして相棒に笑い掛けながら具沢山のお汁粉を静かに啜るのは、大型拳銃の使い手にして双璧の右側を担当している和歌浦マリナちゃんだった。
長い前髪で右片方を隠した切れ長の赤目は、あの式典会場での大立ち回りの時の氷のカミソリみたいな鋭さとは打って変わって、至って穏やかな光を宿していたの。
もっともそれは京花ちゃんだって同様だし、恐らくは私もそうなんだろうね。
「この『和風茶寮・四絶』を選んだのは、やっぱりあれかな!巴図魯になってから中華料理を食べる機会が増えたから、千里ちゃんも和食が恋しくなったとか?」
如何にも快活な京花ちゃんらしい、屈託のない無邪気な答えだよね。
こういう明朗快活で素直な誠実さが京花ちゃんの良い所であり、私としても好感が持てるポイントなんだよ。
「それもまあ、無きにしもあらずなんだよね。だから努力賞として、くるみ餅を一つ京花ちゃんに進呈しようかな。」
「ははぁ、成る程…つまり私は千里ちゃんから和菓子を下賜されたのか。こんなの親父ギャグにもならないや。そうなると、やっぱり真意を聞きたくなるよね。」
くるみ餅をちゃっかりと貰いながら、京花ちゃんがグッと身を乗り出してくるよ。
意味深な物言いをした以上、私も責任を取らなきゃいけないよね。
湯気の立つ温かい緑茶で喉を潤した私は、軽く呼吸を整えて静かに切り出したの。
「内廷で殿下達の御茶会に同席させて頂いた時に、清朝の流れを汲む満洲族式の御茶や御菓子の楽しみ方に不思議な程の親近感と親和性を覚えちゃったんだよね。」
「へえ…親近感を。もっと詳しく聞かせてくれないかな、千里ちゃん!」
そうやって身を乗り出して急かしてくると、こっちも話し甲斐があるってもんだよ。
この分だと、どうやら京花ちゃんもなかなかの聞き上手みたいだね。
私も今後は外交的な会談の機会が増えてくる訳だから、今以上の話し上手にして聞き上手にならなくちゃいけないよ。
「そう!そうなんだよ、京花ちゃん!特に芸豆巻や豌豆黄の繊細な甘味なんか、この芥子餅やくるみ餅みたいな堺の和菓子に通じる所があってね。だから再確認もしてみたくなっちゃって。」
「千里さん…それは実に良い御考えで御座いますよ。昔から『古きを温ねて新しきを知る』と申しますし、地元の味覚を的確に踏まえてこそ中華王朝の御料理などもより理解が捗るのかも知れませんね。」
抹茶わらび餅を食べ進める手を止めながら笑う英里奈ちゃんに、私は何度も頷きながら笑顔を返したの。
北京の紫禁城と堺の町。
二つの場所は海を隔てているけれど、御茶と茶菓子を楽しむ時のリラックスした豊かな時間は確かに通じ合っている。
それを確認出来たのも、あの友好式典から始まる一連の出来事における収穫の一つと言えるだろうね。




