エピローグ編第1章 「日本に帰国した巴図魯の矜持」
挿絵の画像を生成する際には「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
私が第一王女殿下や和碩親王殿下の御二方と君臣の誓いを新たにしている間、かおるちゃんの方も非常に得難い経験が出来ていたみたい。
それというのも、訓練の視察やら体験入隊による他流試合やらで、中華王朝禁衛軍との技術交流を存分に出来たんだって。
この技術交流は中華王朝禁衛軍にとっても良い機会になったらしく、その成果は御前試合という形で私達も目の当たりにする事が出来たんだ。
まあ御前試合とは言っても厳密な勝敗は問わない模擬戦だから、エキシビションに近いけどね。
そうした具合に長崎での式典に付随する形で執り行われた紫禁城における臨時の日中親善交流は双方にとって実りの多い一時となり、私とかおるちゃんの二人はその素晴らしい成果を故郷である堺県堺市に持ち帰る事と相成ったんだ。
公安職として和碩親王殿下や第一王女殿下を御守り出来た上に直々に御褒めの御言葉と玉佩を賜わり、更には王城である紫禁城の内廷で茶会という形で親密な一時を過ごさせて頂く。
日本人初の巴図魯にして麗蘭第一王女殿下の臣下を自負する私としては、この上なく喜ばしくて且つ名誉な事だったよ。
だから日本に帰国してからも、何かの拍子に紫禁城での一時の余韻をついつい思い起こしていたんだよね。
改まって玉佩を手にして殿下達に思いを馳せる時だけじゃないよ。
何気無く堺の町を歩いている時でも、そして堺県立御子柴高等学校での学校生活でもね。
「さて…これは今の授業範囲とは直接関係がある訳では無いのですが、県立近代美術館で現在『南画と南宋画の比較から浮かび上がる日中の文化交流』という特別展が開催されています。もし皆さんの中で興味をお持ちの方がいらっしゃったら、職員室の私のデスクまでチケットを取りに来て下さい。但し枚数には限りがありますので、早い者勝ちになります。」
『そう…確かに南宋画は長崎を訪れた伊孚九や費漢源といった来舶四大家の貢献により日本にもたらされ、そこから学んだ池大雅や与謝蕪村が南画という新たな様式を生み出した。それは間違いなく日本と中華の文化交流の一つのあり方であり、非公式的な物とは言えソフトパワー外交の成功例と言える。こないだの紫禁城における殿下との茶会も、非公式的ではあるものの文化交流の一つと解釈出来る訳だよね…こういう平時におけるソフトパワー外交が、円満にして緊密な国際交流の要となってくる訳か…』
ほらね、こんな風に授業終了間際における日本史教師の何気無い告知にも思わず反応しちゃう程なんだから。
だから放課後のタイミングになると、支局の同期でもあるクラスメイトの生駒英里奈ちゃんにこのように言われちゃったんだ。
「やはり千里さんらしいですね。『南宋画』という一言が出るや、直ちに御顔が引き締まるのですから。」
「アハハ、まあね…よく見てるよ、英里奈ちゃんも。」
思わずツインテールの頭をバリバリと掻いたけど、今更分かり切った事を言っているって自覚はキチンとあったんだ。
だって英里奈ちゃんは巴図魯としての私の支援団体である「後援の三傑」の筆頭であり、荘襄王を「奇貨」として擁立した呂不韋に因む形で「今仲父」という異名を持つ私の後見人でもあるんだから。
私の一挙手一投足にキチンと気配りしてくれているのには、本当に頭が下がるよ。
まあ、それで言えばマリナちゃんと京花ちゃんも「双璧」という肩書で「後援の三傑」を支えてくれている訳だから足を向けては寝られないんだけどね。
「ところで、千里さん…やはり特別展のチケットは先生より頂くのですか?」
「私としても行っておきたい内容ではあるけど…あのチケットは他の子に譲るのが筋だろうね。自腹を切って御忍びで来館するも良し、美術館側との都合が合えばミニ講演をさせて貰うって手もあるじゃない。」
中華王朝の準貴族である巴図魯ともあろう人間が、南宋画の特別展に学校の先生から無料でせしめたチケットで入場する訳にもいかないよね。
春秋時代の魯の国で宰相として活躍した公儀休だって、「自分は宰相でお金があるから魚は自分で買える。賄賂として魚を貰えば宰相を続けられなくなり魚も買えなくなる」と言って人から贈られた魚を受け取らなかったじゃない。
自分の立場を踏まえた言動というのは、多分こういう事なんだろうね。
「ところで千里さん…今日の放課後は如何なさいますか。ここ暫くは中央公会堂での晩餐会や長崎での友好式典などで何かと御多忙で御座いましたし、今日でしたら京花さんもマリナさんも支局でのシフトが御座いませんし。」
要するに英里奈ちゃんが言いたいのは、「たまには放課後に遊びに行きませんか?」って事なんだよね。
確かに今日は、支局での軍務も巴図魯としての公務もない普通の登校日だからね。
人類防衛機構の特命遊撃士にして中華王朝の巴図魯でもある私だけど、それと同時に県立高校に在籍する女子高生でもある事を忘れちゃいけないよね。
たまには同年代の子達と同じく放課後に何処かへ繰り出さないと、市井の感覚を忘れてしまうかも知れない。
そういうのは色々と具合が悪いんだよね。
「うん!良いね、英里奈ちゃん!ここ最近は諸用も多くて、この四人でガシの店にシケ込むのも久々な気がするし。」
「フフッ、堺東の事を『ガシ』と仰るのも千里さんらしゅう御座いますね。それではマリナさんと京花さんの御二方にもSNSで呼び掛けておきませんと…」
いそいそと軍用スマホを操作する時の嬉しそうな様子を見るに、英里奈ちゃんも久しく四人で遊びに出れていない事に思う所あったんだろうな。
それならお店選びも慎重にやらなくちゃ…




