A級昇格
よろしくお願いします
「なあアイカ、服とかこれで大丈夫だよな?」
「問題ないかと」
「髪とかおかしくないよな?」
「問題ないかと」
「靴とか、これで問題ないよな?」
「艦長、しつこいです」
「いや、でもさ……」
「諦めてください。もう着きますよ」
「マジか。どうするんだよ……」
「どうするも何も、審査受けてください」
「……はぁ、行くしかないか……」
「そうしてください」
――星間海賊ギルド、マリア・クレスト宙域管理支局――
「いつものギルドと違うな……」
「実際いつものギルドではないですからね」
グレーを基調とした大きな建物。入口には制服を着た守衛が立っており、さながら軍の施設のよう。
「たしか、この宙域のギルドまとめて管理してるとこだろ、場違い感半端ないんだが」
「正確にはマリア・クレスト宙域のギルドに依頼を割り振る、この宙域の中枢みたいなものですね。高難度依頼や秘匿性の高い依頼などはここから直接依頼を発注されることが多いので、これからよくお世話になることになると思いますよ」
「A級になれば、の話だろ。……だんだん不安になってきたぞ」
「艦長であれば問題ありません。さっさと審査を受けて、A級になってきてください」
「……A級になれば依頼料も上がるし、名前も売れる。こういうチャンス、スラム育ちがそう何度も掴めるもんじゃねぇ」
「そうですね。試算ではB級の時と比べておおよそ2.8倍の収入増、戦艦を運用することも理論上可能となります」
「さすがに戦艦は要らないぞ。これ以上デカくしてどうすんだよ。扱いきれん」
「夢がないですね、艦長」
「わりと今の環境で十分満足してるし、戦艦なんか乗ってたらステーションのドックに入らないだろうが」
「入港に著しく制限がかかるのは否めませんね」
「だろ。ヘッジホッグで十分ってことだ」
「そろそろ時間ですね。行きましょうか」
「おう」
俺は小さく息を吐いて、目の前の自動ドアを見上げた。
「コウキ艦長ですね。……確認がとれました。A級昇格審査ですね。二階応接室になります。どうぞお進みください」
「どうも」
「……ここか」
「そのようですね」
「艦長」
「なんだ?」
「私は入室できませんので、ここからはおひとりで頑張ってください」
「え、お前入れないの?」
「持ち込み可能なのはペンと飲料水、参考書のみです」
「試験かよ!……試験だったな」
「私はここでお待ちしております」
「そうか……わかった。行ってる」
「次に会う時はA級ですね。待ってます」
「……おう。それじゃあな」
俺はアイカと拳をあわせ、応接室のドアをノックした。
「どうぞ」
「失礼します」
俺は応接室に入る。中には、職員らしき二名の男女、それと、リサ提督がいた。
「……リサ提督?なんでここに」
「ちょうど近くまで来ていたのでな。見学だ」
「そうか。じゃあ見ててくれ。俺がA級になるところをさ」
「ふふふ、そうだな。見させてもらおうか」
「よろしいですか?」
「ああ、すみません。大丈夫です」
「では、昇格審査を始めます。担当のオリバーです。彼女は記録係のメイ。審査内容を記録するだけなので、お気になさらず」
「わかりました」
「コウキ艦長はリサ提督からの推薦をいただいているので、筆記はパスとさせていただきます。次は、模擬演習です」
「模擬演習?」
「こちらの眼鏡をおかけ下さい」
「はい」
そう言って俺は眼鏡をかける。すると、視界に見慣れた艦橋が。
「これは……ヘッジホッグの艦橋?」
「これからコウキ艦長には戦闘の指揮をとっていただきます。目標は大型戦艦二隻、中型艦三隻、小型艦四隻。これを無力化していただきます」
「ずいぶんと戦力差があるな」
「A級ともなればこの程度はやっていただかないと」
「武装は?」
「現実のものと同じものが登録されています」
「ハイペリオンは?」
「使用可能です」
「わかった。始めてくれ」
「では、開始します」
「まずは大型から潰す。ハイペリオン発艦。目標は大型戦艦。装備はC型兵装」
俺の指示通りにハイペリオンは武装を積み込み、発艦していく。
「ヘッジホッグは前進。小型艦を仕留める」
ヘッジホッグがゆっくりと小型艦へと向かい始める。
「ハイペリオン、推進器を狙え。動きを止めろ」
ハイペリオンが高速で動き回り、戦艦の背後を取る。
「主砲をつぶせ。そうすりゃただの的だ」
ハイペリオンは的確に敵戦艦の主砲をつぶしていく。
「ヘッジホッグ、そのまま前進。小型艦の攻撃は放置。シールドを貫く武装はない。そのまま撃ち続けろ」
ヘッジホッグは四方八方に弾幕をばらまき、小型艦を撃墜していく。
「ハイペリオン、中型艦の正面へ。かく乱しろ。回避重点」
ハイペリオンは中型艦の前に出ると、でたらめな挙動で砲撃を避けていく。
「ヘッジホッグ、主砲用意。目標、敵中型艦三隻。発射」
ヘッジホッグの上下左右から主砲が展開。照準を中型艦に向け、発射していく。
「よし。撃破。残りは動けない戦艦二隻。主砲再充填。発射」
ヘッジホッグから青白い光が敵戦艦へと向かっていく。白い光に包まれた敵艦は、大きな穴をあけて、爆散した。
「現視界内の敵艦、全滅確認。ハイペリオン着艦。ヘッジホッグ索敵モードへ移行。……反応二。後ろから!?」
「増援です。継続してください」
「ちっ。シールド後部に集中。ドローン発艦。ヘッジホッグ転回」
ヘッジホッグはゆっくりと転回していく。
「ダメージコントロール。シールド抜けた箇所は装甲で受けろ。ハイペリオン再発艦準備」
ハイペリオンがハッチで発艦準備に入る。
「ハイペリオン発艦。増援戦艦の一隻を抑えろ。片方はこっちで落とす。……面倒だ。艦橋を狙え。一撃で落とすぞ」
艦橋が鈍く揺れた。
「損傷は軽微だ。そのまま転回。シールドを側方へ。シールドドローン、出力最大。三秒持たせろ。主砲準備」
ドローンが敵の攻撃を変わりに受け、その数を減らしていく。
「主砲発射。目標敵戦艦艦橋。撃て」
ヘッジホッグの主砲が敵戦艦を穿つ。戦艦の主砲がヘッジホッグの側面を掠めた。
「……敵艦沈黙。索敵モードへ移行。……もういないよな?」
自分で言っておきながら、背中がじっとりと汗ばんでいるのがわかった。
「終了です。お疲れさまでした」
「お疲れさまでした。背後からの増援、見事に捌かれてしまいました。お見事です」
「ちょっと意地悪じゃない?追加で戦艦二隻とか」
「常に情報通り、とはいかないこともあるのが高難度依頼です。戦闘終了後即索敵に入るとは、しっかりされている」
「俺なら気が緩んだところを後ろから狙う。だから索敵は入れたが、本当に戦艦二隻まで足してくるとは思わなかった」
「初期戦力の撃破だけで気を緩めず、増援を想定して索敵へ移る。さらに転回中の脆弱時間をドローンで埋め、即座に反撃へ移る。艦長としての危機対応能力は十分ですね」
「純粋な火力差や性能差ではなく、状況判断と資産運用で戦況をひっくり返した点も高評価です」
「どうも」
「それでは審査の結果を発表します」
「あれ、面接は?」
「ありません。事前提出の問答ログを審査資料として受領していますが、説明を受けていませんでしたか?」
「え、こっち来る前に面接想定問答やらされたけど、それ?」
「どのようなことがあったか把握はしていませんが、会話ログは提出されており、模擬演習中に確認させていただきました」
「え?」
「審査の結果、コウキ艦長をA級へと昇格とさせていただきます。おめでとうございます。コウキ艦長。今日からA級として、ギルドの顔として、益々の発展をお祈りしております」
「え?」
「お疲れさまでした。これにて審査を終了とさせていただきます」
「え?」
「おめでとう、コウキ艦長」
「……アイカ騙しやがったな!この野郎!」
ドアの向こうから、アイカのくすり、と笑う気配がした。
……ともあれ、こうして俺は、晴れてA級艦長になったらしい。
最後まで読んでいただきありがとうございました




