A級艦長
よろしくお願いします
俺は応接室から出ると、アイカに向き直った。
「おい、何か言うことはないか?」
「A級昇格おめでとうございます。艦長」
「そうじゃなくて!」
「昇格祝いの準備をヘッジホッグ食堂内で行っています」
「そうじゃなくて!」
「艦長の好物のパインステーキも用意していますよ」
「そうじゃなくて!お前、ここに来る前にやった問答、予習じゃなくて本番だったじゃねえか!聞いてねえぞ!」
「ストレスの上昇を確認しました。毛髪環境に悪影響ですよ?」
「禿げねえよ!騙しやがって!」
「騙してはいません。言ってなかっただけです」
「言えよ!」
「必要な対策でした」
「何がだよ」
「艦長のことですから、提出用の問答と知ってしまえばつまらない答えしかしなさそうでしたので」
「面白さを求めるな!」
「実際、あまり気負わず回答できたでしょう?」
「そうだけどさ……アイカ、お前今週の天然オイル没収な」
「聞き捨てなりません。断固として反対します」
「却下だ。合成オイルでも飲んでろ」
「横暴です。艦長の寝室に夜な夜なお経を流し続けますよ」
「そんなことしたらリズに分解させて語尾にござるってつけさせるぞ」
「頭に来ました。艦長、演習区画へ移動してください。必要であれば実力差を物理的に証明します」
「お前感情無いんじゃなかったか?」
「私に感情はありません。ですが、艦長への制裁は別問題です」
「やかましい。さっさと帰るぞ」
こうして、A級昇格の余韻も何もないまま、俺たちはいつも通り騒がしくヘッジホッグへ戻るのだった。
「「「コウキ(おにいちゃん)A級昇格おめでとう(おめでとー)!」」」
俺が食堂に入ると、パンパンパン、とクラッカーが鳴る。……妙にデカい音だ。
「火薬臭ぇ!リズ、お前クラッカーに火薬仕込んだだろ!」
「はっはっは!派手な音だろう?祝い事に相応しい見事な音だ!」
「艦内で火薬使うとか、何考えてんだ!」
「まぁまぁ、ほらコウキ、いい酒揃えたんだから、ほら飲んで飲んで」
マリナに無理やりグラスを押しつけられ、そのまま度数の高い酒を流し込まれる。
「ゲホ!ゴホ!殺す気か!?」
「ほらほら、席について」
「今日の主賓だ。良いものを用意してある。さあ、座るといい」
こいつらまったく反省していない。……いつものことだが。
「おにいちゃん、おめでとー!」
「キョウカはいい子だなぁ」
俺はキョウカの頭をなでる。
「お前ら、落ち着いて祝う、ってことができないのか」
「無理ー」
「爆発こそ、祝いの華!」
「艦長、艦内の幸福度指数が上昇しています」
「俺は不幸な気分だよ!」
俺はクルーに促されるまま、席に座る。
「艦長、前菜のパインステーキです」
いつの間にか、アイカが給仕服に着替えて立っていた。
「しょっぱなから重いな!」
「続いて、パインステーキのムースです」
「ステーキをムースにするな!」
「メインのパインステーキです」
「ステーキばっか!」
「メインのパインステーキです」
「二皿目!?」
「メインのパインステーキです」
「何皿あるんだよ!」
「五皿用意してあります」
「多いわ!」
「艦長の好物ですので、多めに用意しました」
「限度があるんだよ!このポンコツが!」
「名誉棄損ワードを確認。制裁を実行します」
天井から降る金ダライ。それは見事に俺の頭に命中する。
「痛ってえな!」
「完璧AIに対して酷い冒涜です。制裁を実行しました」
「まだ現役だったのかよその制裁システム!」
「いやー、A級艦のクルーに戻ってきたって感じ?酒が美味いわー」
「我が名はA級天才マッドサイエンティスト、リズ・ベラット!ふははははは!」
「なんで俺よりお前らが嬉しそうなんだよ……」
「A級と言うのは、それだけのもの、ということです。A級艦載AI……私は最初から完璧でしたが、悪くない気分です」
「おにいちゃん、すごい!」
「あはははは!ほら、コウキも飲んだ飲んだ!これは良い酒よー」
「うむ。このサラダも美味いが……いろどりが足りないな。よし、このレインボー食紅を一つまみ……」
「入れるな」
「なぜ!?」
「料理を発光させるな!」
「おいしいね!おにいちゃん!」
結局どんちゃん騒ぎは夜まで続き、大量の肉と酒に俺はやられ、倒れるようにして自室のベッドへと飛び込んだ。
静かな自室のベッドの上。俺は、天井に手を伸ばし、拳を握った。
「A級……か。……俺、ここまで来たんだな」
いろいろあった。アイカを拾い、マリナと出会い、キョウカを見つけ、リズが居着いた。
「全部アイカと出会ってから、か。俺のクソみたいな人生が変わったのは」
変なAI。どこか抜けていて、自分を完璧と言い張る。出会ったころと比べてずいぶん感情豊かになった。自分に感情はないと言い張っているが。
「まぁ悪くない、かな」
そう言って俺はベッドから起き上がる。
「ま、A級になったばかりだ。まだ、ここからだ」
ぎゅっと握った拳を見る。
「スラムからここまで来たんだ。……少しくらい、自分を褒めてもいいだろ――」
ビービー、と艦内に非常ベルが鳴り響いた。
「……やかましいな!」
俺は外へ出ると、食堂へと向かう。
「お前ら!今度は何やった!」
食堂内には、いつものメンツ。
「いや、ちょっとね……」
「ドローンにパーティーサービス機能を追加しようとしたら、ちょっと、ちょっとだけ不具合が……」
「おにいちゃん、すごいの!クルクル、パーンって!」
「問題ありません。修正可能範囲です」
「人がしんみりしてたってのに、ぶち壊しやがって!」
相も変わらず艦内は騒がしい。それでも、この日常が、悪くないと思っている自分がいた。
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