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超最弱!? 防御魔法の使い方  作者: カンタロウ
3章 怪力の巨人――スノータイタン
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3-16.危険で理不尽な世界にも奇跡があったり、無かったり

 入り口付近で、人だまりができている。

 何かあったのだろうか、リーベとハンドックが人だまりをかき分けながら歩いた。

 前に進むにつれ人の群れが少なくなり、やがて見えてくる。よく見れば、中央にはエリスが居て、凍った涙をポツポツとこぼしていた。



「どうした……の……」



リーベの言葉は、尻込みしてしまう。

 エリスの手の中には、人の頭があった。よく見ればそれは覚えがあって、赤い服と黒い髪というある意味特徴的な人物。


 

 ――ありえない。そんなこと、絶対にありえないわ。



 心の中で否定する。否定し、無かったことにし、違う人間なのだと言い聞かせた。



「嫌だ。嫌だ。お願い、お願い!」



 珍しく、エリスが取り乱していた。いつも茶化す彼女が、今日ばかりは泣いていた。声を荒げ、その現実を否定している。

 気付けば、自分も涙がこぼれていた。宝石のように固い涙が上から下へと落ちていく。



「…………」


 人の波をかきわけ、エリスの前に立つ。

 彼女が顔を上げた。


「リーベ、ごめん……ごめん……」



 顔を赤くし、泣きじゃくる。

 そこに居るのは、少女だった。



「そんな……」


 リーベは、顔を見ることはなかった。それは見たくなかったのかもしれない。

 とにかく、そこに眠る人物がわかった――ケンイチ。自分が冒険者に誘い、数多もの危険を共に生き残った強い人が、そこで変わり果てた姿で抱かれていた。

 でも思考が拒否し、彼を探していた。



「ケンイチは、どうしたの?」


 エリスは振り絞った声で、


「彼は、死んだ」


 と、事実を事実のまま伝える。



「うそ……だ」


 リーベは立ち尽くした。

 拒否していた思考も視覚による情報では、できなかった。スポンジのように事実を吸収し、ただただ呆然するしかできなかった。


 リーベはエリスに近づいた。しかし、彼を見ることができなかった。見たら、その現実を視界に入れたら、自分の何かが壊れそうで怖かったから。 

 

「何があったの……」


 寝ている子供に話しかけるような声色で、リーベは喋りかけた。


「ゴメン、ほんとにごめん……」


 エリスは、壊れた喋る人形のように「ごめん」という言葉を吐いていた。ずっと、ずっと、引きつった顔で、絶望に打ちのめされた目のまま、彼女は連呼する。



「ごめん。本当にごめん……。オレのせいだ」


「そんなことないよ。エリスは、悪くない」

 

「いや、違うんだ。オレが悪い。オレのせいで、ケンイチは死んじまったんだ」


 絶望に叩きつぶされた感覚。

 わかっていた。わかっていたはずなのに、「死んだ」と言われたら悲しい気持ちになる。



「……ウッ……! グスッ」


 リーベも、大きな粒を流した。その現実を聞いてしまったばかりに、彼女もまた少女のような涙を流した。



「そんなこと……そんなこと」


 言わないで――なんて吐けるわけなかった。

 エリスの絶望した顔の前で、言えるはずがない。


 

「待て、エリス!」


 何かを止めるハンドックの声。

 リーベは、涙を拭いていたからその状況が見えていない。



「止めるな、ハンドック。けじめは自分で取る」


「あそことは違うだぞ、エリス。死ぬ必要はない」


 死ぬ?

 リーベは視線を上げる。見れば、エリスは喉元にダガーを突き立てていた。自分の手で、自らの意思で、死のうとしている――。

 そんな彼女をハンドックは、止めていた。



「それでも、けじめはとらなきゃ。やらなきゃならねぇんだろ」


「それはない。絶対にないんだ、エリス」


 彼女のダガーを奪い取るハンドック。それは力強く攻撃的でもあったが、彼の優しさが垣間見えた。

 そして、エリスを腕1本で持ち上げ、


「すまない。少し離れてくる」


 と、告げた後、遠くのほうへと歩いて行く。

 それは年長者としての務めか、彼の性格によるものかわからない。しかし、悲しみに暮れていた。



「離せ! オレは、オレは……」


 腕の中で暴れるエリスを離さないようガッチリとホールドし、遠くのほうへと行った。


「…………」


 集まる冒険者の真ん中で、たった1人。

 孤独と悲しみが襲い、リーベはまたポロポロと涙を流す。



「どうして、どうしてよ……ケンイチ」


 冷たくなった手を握る。

顔を見るべきか悩んだ。もし見てしまえば、自分はこの現実を受け止めた――ということになる。今の自分には、その覚悟はあるか? 


 答えは、ない。彼が死んだという事実はまだ受け止められていないし、正直これは別人であってほしいとさえこの状況になってもなお思っている。だけど、手の感触、武器、服装、髪色――その全てがケンイチと酷似……いや、一致していた。

 だから、もうあとは顔を見るだけなのだが、見れない。



「できないよ……」



 ――どうして、大事な時にいつも勇気が出ないの。あと少し……少しの勇気だけでいいのに。


 それすらもできない自分と――なによりも、死んでしまった彼に失望する。

 彼は一緒に戦ってくれると言った。あの言葉がどれだけ救われたことか。どれだけ自分を自分として生かしてくれたことか。

 にもかかわらず、彼はその約束を破った。

 これ以上の悔しさはない。



「アタシ頑張ったのに。アナタが生きてくれるのを信じて、正しいと思って戦ったのに、その結果がこれ? ふざけないでよ。一緒にこれからも冒険者としてやってくれるんじゃなかったの? 来る前にも言ったじゃない、安心だって……そんなものどこにあるの? 安心なんて、存在しないじゃない」


 ――この世界のどこを探しても安心なんてもの……。


 嗚咽交じりの声で言いたいことをぶちまけた。故人に対してするべきことじゃない――それは、わかっている。それでも、言わなきゃならないこともあって、できないこともある。


 涙が止まらない。

 体内の水分を全て枯らす勢いでボタボタと落ちる雫たち。


 ――アタシには、アナタが必要。いや、それだけじゃない。パーティ仲間であるエリスとハンドックを含め、カヤコ、ローナ、シユ――今まで出会った人たちとこれから出会う人たちにとって、ケンイチという存在は必ず必要不可欠な要素だ。

 だから、


「起きてよ、ケンイチ。こんなとこで終わるのアタシは嫌だ。一緒に冒険者を続けたいのに……どうして、どうしてよ!」

 


 最後の言葉は、世界に向けていた。この理不尽でどうしようもない世界に怒りをぶつけ、救いを求め、悲しみを背負わせ、邪魔な物をすべて払った。

 


「…………」



リーベの手が光に包まれる。それはまるで太陽のような明るい閃光は、温かくて、そして優しい。


 ポカポカとした気持ちになり、今まで芽生えていた負の感情が消え去る。

 リーベは落ち着いた気持ちで、彼の顔を見た。目を閉じて安らかな表情で眠っている。それはゴブリンのことと重なって、リーベは口角が緩んだ。

 そうだ、あのときも彼はこうして眠っていた。三人が必死に戦っているところで、スヤスヤ寝息を吐いて、ケンイチは休んでいた――思い出すだけで、笑えてくる。



「あの時期と一緒ね」


 ただ違う点もあり、それは自分と彼が強くなっているころだ。少しずつではあるが、力をつけ、戦えている。

 成長――というやつだ。



「…………」


 光がケンイチを暖める。ゆっくり、ゆっくりと、外側から内側へと渡り、みるみるうちに生きた色へと変化する。



「何、これ………」


 自分にこの魔法はできない――にもかかわらず、できている。しっかりと手から発した魔法の光がケンイチの体を暖め、全てを癒していた。


「フフッ」


 口角が緩む。

 こうなりゃどうだっていい。ケンイチを生き返らせるなら、目を覚ますのなら、無意識にやっていることに頼る。


「…………」



 ケンイチの口が数ミリだけ動く――瞬間、今まで感じたことのない嬉しさと幸福で胸いっぱいになり、リーベの体は飛び上がりそうになった。

目視で確認できるかできないかのほんの小さな奇跡でも、これだけ喜べるって――邪心を捨て、意識を集中させる。

 絶対に上手くいく――いや、いかせるんだ。

 

「…………」



 ……そう心に決めてみたが、やり方がわからない。突然目覚めた力だから、初めて使う魔法だから、知識がなかった。ただ感覚は炎魔法を使うのと似ているから、意識を切らなければ問題はないはずである。

 神経を研ぎ澄ませ、光に集中した。大きくならないように、小さくならないように、自身の精神や肉体が疲れない絶妙な塩梅を見つけ、不思議な力に保った。



「…………」



 丁度いい光を浴び続けたケンイチ。いつしか、その小さな奇跡が大きくなっていた。上下する胸。動く指。寝返りをうつ顔――あとは、目を開けるだけなのだが、果たして。



「…………ん」


 彼の喉仏が動いている。

次々と起きる奇跡に、リーベはまた泣いてしまった――今度はうれし涙であった。しかもそれは、宝石になっておらず、原形を保ったまま流れている暖かい雫であった。



「…………」


 彼は、目覚める――もうそれはまもなく起きる現実で、リーベは今か今かと待ち焦がれていた。

 ケンイチが目を開けたら言ってやるんだ――それもバシッとかっこよく。



「…………」


 彼の瞼が開いた。黒い瞳と青い瞳は交じり、1つの線となる。


リーベの涙が止まることを知らず落ち続け、声は嗚咽と喘ぎ声によって阻まれた。それでも言ってやる。絶対にそう言葉にしてやる、と気持ち一つで口を開く。


「お、お、おかえり……」


 あまりにも無様でかっこよくない声。恥ずかしい、と思いはしたが、彼には届いていた。

 ニコリと笑い、


「ただいま」


と、ケンイチは口にする。

 

まさに奇跡――野次馬が口をそろえて、そう言った。

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