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超最弱!? 防御魔法の使い方  作者: カンタロウ
3章 怪力の巨人――スノータイタン
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3-11.冒険者を救え!

 リーベは、スノータイタンの猛攻をかわして、懐に潜り込んだ。そして、手に持っているレイピアを刺突する。あっという間に、抜け殻となった魔物は頭から崩れ落ちる。


「…………」



 ――いつ見てもすげぇや。



 ケンイチは、ショートソードを握りしめ、唾を呑み込んだ。

 自分は彼女のようなことができない。ただそれは、彼女にできないことが自分にはできるという裏返しにもなる。

 それは何か。



「こい、シールド!」


 先ほど積雪の中から現れた横向きのシールドが、真っすぐに飛ぶ。目指すは、スノータイタン――の膝。そうケンイチは、正々堂々と戦うつもりなんて一切ないし、どんな手を使ってでもヤツラを駆除し、生き残ろうと算段していたんだ。



「いっけー!」


 膝に当たった瞬間、スノータイタンの体勢が崩れる。その一瞬の間に、ケンイチは頭めがけてショートソードを振った。


「よし」


 終わったことに安堵したのも束の間、突然女の金切り声を耳にする。



「いやぁぁぁぁあぁ!! お願い!! こっちこないで」



 赤紫の髪をした女の冒険者は、杖を振り回して抵抗している。しかし、5体のスノータイタンはそんなこと気にするでもなく、ズカズカと近付いていた。


「リーベ!!」


「わかっているわ。行くよ、ケンイチ」


「あぁ」



 そうは言ったが、彼女の足はとても速かった。まるで光を見ているかのような金色の髪をなびかせて、走っていく。

 しかし、


「ちょっと、間に合わないかも……」


 リーベが弱音を吐く。


「…………」



 だが、それはケンイチもわかっていた。赤紫の冒険者が持っていた杖はスノータイタンに破壊され、腕を掴まれている。彼女は手足を使って抗って見せるが、びくともしていない。

 大粒の涙を流し、今にも殺されるかもしれない状況に彼女は怯えていた。



「リーベ。あれをやろう」


「あれって何よ?」


「あれはあれだ。あのーえっと……そうゴブリンの奴名前は――」


「ジャンプシールド?」


「そう。それ」


「そうしなきゃ間に合わないのよね……。わかった、いいよ、やるわ」



 リーベの足が止まる。そこをチャンスとして、また新たに横向きのシールドを出現させる。



「ジャンプシールド!」



 ケンイチの声に反応して現れたオレンジ色の板に、足を乗せると、シールドはトランポリンのように強く跳ねた。

 飛んでいるリーベの体は重力を抗い、月と同じ高さになる。



「イヤァァァァぁぁああああああーーーーー!!」


広がるリーベの絶叫を下に聞いたケンイチが一言。


「やべっ。力入れすぎた」



あの冒険者を助けたい一心で少々力んだ。その結果、10メートルを余裕で越える跳躍を発揮し、リーベの体は前方へと飛ばされる。

 まぁこれにより、シールドの可能性がまた見えたわけだし、許してほしい。



「…………」



 空を飛ぶ彼女と目が合う。涙を蓄え、りんごのように赤くなった顔で睨んでくる。

 すごく怒っていた。



「すまんな、リーベ」



 そう言って、ケンイチも足を進める。自分も乗れればいいのだけど、それができない。

 でも絶対にできるはずなんだ――ワイバーンの時を思い出して、呑み込んだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆



「………ッ」


 スノータイタンが徐々に徐々に大きくなっている。

 リーベは愛用武器――レイピアを突き出して、攻撃へと転換していた。



 ――あと少し。



 赤紫の冒険者と目が合う。彼女は、自分を輝いた目で見ていた。

 まるで勇者が来た――ような目をしている。



「アタシじゃないんだけどね。勇者は」



 どちらかというとケンイチであるのだが、そんなこと言っている暇はない。

 背をむけているスノータイタンの頭にレイピアを刺突した。すると、赤紫の冒険者は地面に倒れ込み、ずっと掴まれていた手首を抑える。そこは紫色に変色しており、見ていて痛々しい。


 だが、話しかける暇はなく、他のスノータイタンが攻撃を仕掛けてくる。

 一度、距離を取り、4体のスノータイタンを視界に入れる。



「…………」



 脳内でシュミレーションした。あまり体力を使わず、無傷で突破する方法を。


「これならいけるわ」



 得意な炎魔法は使えないから、全て刺突で、しかも一撃で終わらせる必要がある。

 光魔法がもう少しランクが高ければ、良かったんだけど――リーベは、雪の上を駆ける。


 まずターゲットにしたのは一番左端のスノータイタン。理由は、ぼけっとしており戦い慣れている雰囲気ではなかったから。


「……ッ!」


 リーベが近づいてきた事で、魔物は怯む。そこを軸に攻撃した。

 レイピアが音を立てて、スノータイタンの胸部――つまり、心臓を狙って突き刺した。

 手には鼓動が届いていたが、いつしかそれは止まり、動かなくなっていた。

 レイピアを抜くと、魔物は力なく倒れる。



「……ッ」


「…………!」


「…………ッ!」



 一瞬で終わったこの戦いに、スノータイタンは言葉を出すこともできていない。

 無理もない話。リーベは、レイピアという武器を幼少期の頃から叩きこまれていたからだった。だけど、同時に魔物の恐怖も知っていたから戦うことができなかった。


 でも、今は怖くない。そうする理由が無くなったから。



「…………」


 次々と残り3体の魔物の生命を止めていくリーベ。それはまるで闇夜で動く暗殺者のようだった。



◆◇◆◇◆◇




「俺、別に必要ないんじゃないか」


 今にも戦いが終わりそうだ。

 

「でも、もしかしたらがあるかもしれないし……ね」



 なんて言い聞かせるように呟いてみるが、結局なにかすることなく終わった――ように思えた。

 リーベが倒したと思われたスノータイタンの1体が突如、動き出し、リーベたちに牙をむく。岩石のような大きい拳を強く握め、力を振り絞っている。


 流石のリーベもあの攻撃は、無事では済まない。確実に怪我をし、こちらの戦力が削れることになる。そうなれば厄介だ。

 ソルに薬草をもらうこともあるが、それだと時間がかかる。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」



 喉を通り過ぎる冷たい息。短時間によるシールドの酷使、積雪、過酷な寒さ、3つの要素の中、無理やり体を動かしたのが祟ったのか、体がついていけてない。大声を出そうにも、疲労という塊が喉を圧縮し、喋れなくしていた。


 神に祈る気持ちで存在を気付いてほしいのだが、リーベは冒険者のカウンセリングをしているらしく振り向こうとして居ない。冒険者は、体を縮こませて、視界を遮っていた。



 ――今は自分だけなんだ。



 あの状況を助けられるのは、ケンイチのみ。だれ一人として彼女たちの存在を見てすらいない。まるで、世界から見捨てられたかのような孤独な空間。ならば、それに入るべきだ。例え、体を壊しても、あの中に入って2人を助けるべきなんだ。


 ショートソードを投げる体制に入り、狙いを定めた。目を絞り、力いっぱいに手を振る。

 ショートソードは一閃で飛ぶ――だが。



「…………!」



 狙いが若干、逸れている。それは、スノータイタンが貧血より姿勢を崩したばかりに、軌道からズレてしまったのだ。



 ――なんで、こうなるんだよ。



 全てが上手く行かない。これが無力の差ダメなのか。

 いや、違う。自分の甘さが原因なんだ。



「…………」



 ――諦めるのか。届かないからと言って、見捨てていいのか。


 喉を通る冷たい空気と疲労が、喉にへばりつき、絞めた。



 ――いいはずがない。絶対に、そうあって良い理由が無いんだ。



 やれることは、やっておきたい。あの世界で置いてきた後悔を少しでも晴らしたい。



 ――絶対に助けたい!



 スノータイタンの拳がリーベの後頭部めがけて、飛んでくる。

 浮いた右足が着地した場所――それは、冷たくも無ければ、柔らかくもない。まるで、タイルのような頑丈さと硬さがあった。

 瞬間、ケンイチの体が空を飛んだ。



「なんで……?」



 踏めないと思っていたシールド。しかし、どういうわけかそれを踏めていた。しっかりと足を付け、力を入れて、体を前に飛ばしている。

 夢でも、幻でもない。現実でそれが起きていた。

 わからないが、それを考えている暇はない。



「まぁいいや。そのほうが都合いい」



 ケンイチは、スノータイタンにしがみつく。それから、自分で飛ばしたショートソードを握り、首元に突き刺した。

 刃は首筋を貫通し、入り込む。



「………ッ!」



 ねじりながらショートソードを突き刺し、赤い液体を走らせてスノータイタンは力尽きる。

 


「あっぶねぇ」


 倒れた死体の上で、ケンイチは一息つく。


「どうしたの?」


 リーベが振り向いて、こちらを見る。



「スノータイタンが生きていたから、とどめを刺そうと思って」


「そうだったんだ。ありがとう。で、どうやって来たの? まさか走って?」


「違うよ。俺、シールドで飛んできたんだ」


「飛ぶって、もしかして乗ったの?」



 ケンイチは、首を縦に振る。

 すると、リーベは驚いた。


「えぇうっそ。あり得ないでしょ、それ」


「と、思うだろ? それができちゃったんだよ、俺」


「なんで?」


「なんで、と言われても……」


 答えられない。しかし、1つあるとしたら――。



「『危ない』と思ったら乗れた……としか言いようがないなぁ」



 気付けば3つのシールドが背中にある。設置した場所からここまでついてきたと言うのだろうか。

 まだまだ知らない事だらけだ。



「不思議なことがあるもんだね」


「そうなんだよ。あっ、そうだ、冒険者さん大丈夫ですか?」



 ヤドカリのように殻にこもった冒険者は、肩を震わせながら顔を上げる。

 幼さが同居した大福のような輪郭と、お花のような気品あふれた赤紫の瞳。

 戦闘によって失ったのか、身ぐるみをほぼ失っており、この寒さでは過酷と言える。

 幸い、体中に傷らしいものは見当たらなかった。とは言え、ところどころ血が滲んでいる。

 ケンイチは黙って、防寒着を着せた。


「…………」


 次は足へと視線を落とすと、彼女は見せないようにとひっ込めた。靴が無い事を恥ずかしいのだろう。見た目から察するに、お年頃ってやつだ。

 人のデリケートゾーンを凝視するわけにもいかず、ケンイチはリーベへと目を向ける。



「この子を村まで送ったほうがよくないか?」



 武器であった魔法の杖はスノータイタンに折られているし、この状態で敵と戦うのは不可能だ。



「そうね。その状態で戦うのはちょっと………」


「だよな」



 冒険者へと目を向ける。

 まずは、身の回りの事から。


「仲間はいないの?」


 彼女は首を横に振った。


「ワタシに、仲間はいない」


 触れちゃいけないデッドゾーンを早速踏むケンイチ。



「…………」



 気まずい。

 とりあえず、これは裏切られた、と考えたが、どうやらそれは違うらしい。右に居たリーベが耳打ちしてくれた。



「この子――キョウって名前なんだけど、どうやら今まで1人で冒険者をしていたらしい」


「ずっとってことだよな?」



 彼女は頷いた。

 ケンイチは、キョウと言われた冒険者に改めて目を向ける。そして、手を伸ばして、


「ここで1人は危ない。村まで送ろう」


 と、提案する。


「…………


 キョウは、一度ためらった。訝しい目をし、ケンイチの体を隅々まで視線を送る。最後に頭上を見た後、視線がやや右へとズレる。

 なにかを見たのか、彼女はそのままケンイチの手を取った。



「…………ッ」


 雪の冷たさに、目を細める。


「悪い。気にしてなかった」


 ケンイチは、キョウに対して背中を向け、腰を落とした。



「そのまま走ったら痛むだろ」


「それだったら、アタシがやるわ」



 ――なんで張り合う。


 理由はわからないけど、自分の考えを話した。



「戦力外なのは俺だから、こういう役目はするべきでしょ。それに、リーベにはやってもらいたいことあるし」


「やってもらいこと……?」


 深く考えた後に、ハッとする。



「まさか、アタシを飛ばす気!?」



「違うって。普通にスノータイタンをエリスと戦ってほしいだけ」


「そういうことなら、わかったわ。……でも、ケンイチはどうするの? 1人じゃ無理でしょ」


「うん。だから、途中でハンドックさんに頼もうかなぁと思ってる。力あるし、闇魔法も使えるから送り届けるのは安易なはず」



 それまでの間、自分が彼女を守ればいい――ハンドックとの距離は離れているが、そこまでの護衛をリーベにお願いしようかと考えていた。が、それは失敗に終わる。

 なんと彼は、1人でスノータイタンの輪の中へと突っ込んでしまったのだ。



「あっ」


 彼の姿が見えなくなる。


 ――やべぇだろ絶対。



「リーベ。急いで」


「どこに?」


「ハンドックさんの所」



 どうして――と言った表情をしているが、流石に心配になったのだろう。彼女は頷いた。


「わかったわ。でも、ケンイチは?」


「俺はなんとかする。だから、早く!」



 ケンイチに後押しされ、リーベは走って行った。


 ――さて、どうしようか。


 考えていた矢先、後ろから足音がして、振り返る。


「いいところに来るじゃねぇか」


 ギラついた犬歯を見せる女性――エリスがそこにいた。

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