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超最弱!? 防御魔法の使い方  作者: カンタロウ
3章 怪力の巨人――スノータイタン
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3-10.信じること

ブクマありがとうございます!


 積もる雪の中、今か今かと出番を待っているのは、横向きに展開したシールド。これはケンイチが隠していた防御魔法である。

 実はスノータイタンが足を崩したのも、雪の中で展開したこのシールドを知らず知らずのうちに踏んでしまい、ケンイチが動かしたことが原因である。



「…………」



 まだ顔を出す意味は無いし、ケンイチはそのまま隠したまま――にするつもりだったが、2体のスノーゴーレムがこちらに向かってくる。

 ケンイチは、もう1枚のシールド(今度は立て向き)を展開し、攻撃態勢を取った。


 ――これいける?



 今まで展開したシールドは4枚。まだまだスノータイタンが居る中、ここまで出しているのはなかなかリスキーだ。

 無計画にもほどがある。

 リーベはシールドにもたれかかって安心しきっている状況下だから、使いたくない――いかなる理由があっても、このシールドだけは解除したくないケンイチ。ならどうするか。



「やるしかないだろ」



 ケンイチは雪の中で隠していたシールドを移動させ、右側のスノータイタンへと忍ばせる。

 二足歩行の魔物が前に進み、踏んだ――その瞬間、移動させスノータイタンが転ぶ。その隙にケンイチは走って、距離を詰める。


 狙うは左のスノータイタン。理由は、倒れたスノータイタンに意識が集中しているからだ。

 これならいける――確実にケンイチの事は、気付いていない。そのあいだに詰め寄って、なんやかんやして、喉元を掻っ切れば殺せるはずだ。


 ケンイチは、なんやかんやをするため立て向きのシールドを前に移動させたその瞬間――胴体が強い衝撃によって後方へと吹き飛ばされた。



「…………ッ!!」



 何が起きたのかわからない。口には鉄の味がし、体がズキズキと痛む。呼吸をする度に体の奥がズキズキと痛み、何かが砕けたのかボロボロと崩れ去った感覚に支配される。だが、1つ言えることは、とても痛い事だ。今まで感じたどの痛みよりもそれは強くて、ワイバーンの爆発を超える衝撃に見舞われたことだった。



 ――わからない。わからない。



 小鹿のように震える手で体を支えながら起き上がった。そして、殴られたであろう胴体へと手を伸ばして、絶句する。


 胸――つまり、胸骨が粉々に砕けたことで凹んでいた事だ。


 今までこんな経験したことが無い。部活の経験で何度か骨折をしたことはあるけど、肉体に大きな窪みができる怪我ではなかった。だから今とても混乱している。痛みと絶望と恐怖と死に思考の全てが浸食されており、指先にある凍てつく痛みが届くはずなかった。



「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ!」



 気がつけば呼吸が乱れていた。口が酸素をかき集めるが、潰れた胸骨が邪魔をして肺には届かない。

 このままではスノータイタンの前に、窒息で死んでしまいそうだ。

 

 ――ヤバい、ヤバい、ヤバい!



 焦る気持ちが現実に現れたのか、頭上から黒い影が飛んでくる。後方を確認すると、そこに居たのはスノータイタンだ。その魔物の拳からは血が染みついており、自分が深手を負ったのもこの魔物が原因だと思われる。


 とにかく、今は一刻が大事だ――ケンイチは、近くに置いていた縦型シールドを張った。


 スノータイタンの拳がシールドにぶつかった瞬間――砕ける。まるで割れたガラスのように光の粉を拭きながら、散り散りになった破片が雪の上に浮かんで、消滅した。

 それだけならどれだけ良かったか――シールドを破ってもなおスノータイタンの攻撃は止まらず、その大きな拳はケンイチの顔目掛けて飛んでいた。


 あんな攻撃を顔で受け止めたらどうなるか。確実に死ぬ。だから、ケンイチはシールドを出そうと考える。

しかし、思考よりも行動は早くない。

シールドを出す前にその拳は、顔面に飛んでくるだろう。だからと言って、今展開しているシールドを呼び寄せても間に合わない。

 全てが攻撃よりも遅かった。


  くる――まずい。


 瞬間、鮮血が空を飛び、スノータイタンの肘から下の部分が綺麗に切り取られていた。



「グオオオオオォーー!」



 スノータイタンの体が赤き炎に包まれる。まるで太陽のような神々しい灯りに包まれ、雪を溶かしながら、真っ黒の炭へと変えていく。

 肉が焦げた臭いに鼻がもげる思いをしつつ、ケンイチは命からがら生き残ったことにホッとした。




「大丈夫か、ケンイチ」


 金色の髪を持ち、クリスタルのような瞳を持った男――ソルだ。

 ケンイチは頷くと、手に持っていた何かを渡してくる。

 見ると、それは赤色の葉――ケンイチは、もしかして、と察しがついた。



「これは薬草だ。効果は、痛みの緩和と回復速度を上げてくれる」


 ソルの手に乗った薬草を噛んで、呑み込んだ。


「ングッ」



 口の中で広がるヒリヒリとした痛みに、唐辛子をがぶ飲みしたような辛さが食道を刺激しながら胃袋へと流し込まれる。



「俺がしってるやつじゃねぇ」



 ケンイチが知っていた薬草は、苦み成分たっぷりの緑色の葉だった。しかし、今回は辛味成分たっぷりの赤色の葉だ。


 全く違う新種の薬草に、ケンイチは驚いている。



「ハハッ。カヤコが開発した薬草らしいぜ」


「まじ?」



 グリフォンの羽といい、今回の薬草といい、道具屋の店主以上の働きをしている。実は、彼女って凄い人間じゃないのか、とさえ思ってきた。



「まぁそんなことよりもだ。もうじき援軍がくるから何とか持ちこたえてほしい。できるか?」


「いやいやいや。俺怪我だらけで……ん?」



 自分の胸辺りを触って、言葉を失う。

 そこには窪みが無ければ、痛みもない。あるのは、並行に伸びた胸筋のみ。



「な、治ってる」


 もしかして新しい魔法開花しちったのかもしれない。そうだよな。こんな世界で防御魔法1つで生き抜けなんて普通あるわけないよ。絶対何か目覚めると思ったよ。


 ケンイチは、ニンマリ笑顔を浮かべた。



「薬草が効いたようだな」


「…………え」


 ――たった葉っぱ1枚飲むだけで、こんなにも体が治っちゃうのかよ。


 俺の希望が――少年は、絶望した。

 ソルはそんなこと気付きもせず、手を取って彼の体を起こす。



「ってことで、頑張ってくれよ」


「わかった。やるだけ、やってやるぜ」



 ソルは他のところに走っていく。どうやら、彼は仲間を助けているらしい。

 リーダーってこういうことなんだろうな――自分の力の弱さを実感する。



「おい、ケンイチィ~。結構やっつけたぜ。見ろよ」


 エリスが手を振ってくるので、彼女のほうへと目を向ける。赤く染まった雪の上に、首が無い死体が12体ほど落ちていた。その中にさっきの二体が含まれているようで、体勢を崩したまま死んでいた。


「…………」


 仲間に助けられるリーダー――これも悪くない。

 ケンイチは、リーベへと目を向ける。



「大丈夫か」


 声をかけるも、返ってこない。顔を下に向けて、現実から逃げているようだった。

 よくわからないが、とにかく精神的に不安定なのは確かだろう。


――よーし、いっちょ励ましますか。


 軽やかなステップを刻んで、シールドを避けつつ彼女の元による。


「暗い顔してるなぁ。どうしたんだよ」


「……アタシ戦えなかった」



 静かな声だった。まるで風のようで、意識していなければ聞き逃してしまいそうだ。

 ケンイチは、膝をつき、頭を悩ませる。けれど、なんて声をかけるべきかわからなかった。いくつも思い浮かんでは消してを繰り返しているうちに、やがて面倒になってくる。


だから、決めた。思ったままのこと――つまり、自分らしい言葉をリーベにかける、と。



「大丈夫だ。人間は日々成長、昨日の失敗は明日の成功に繋がる。だから、気を落とすなって」


「ごめんなさい。ケンイチはアタシを助けてくれたのに、アタシは助けに行けなくて、ごめんなさい」



 いつ死ぬかわからない状況で、ナイーブになったリーベ。ケンイチは、少し腹が立ってきた――が、暴言は吐かない。

 彼女は、自分の力を知らないのだ。



「リーベ!」


 大きな声で彼女の名を口にする。


「よく聞け、リーベ。俺は死んでねぇんだ。こうして生きてるんだから、気にするな」


「でも……」


「なら、今からすればいいだろ。1度の後悔が全てを台無しにするわけじゃねぇんだからよ」


「…………」


「だから、さ……その」


 彼女の手を取った。



「元気出せよ。お前思ってるほど弱くないんだからさ。リーベが居なきゃこのパーティ即壊滅よ」


「それは、無いんじゃないかな」


「あるって。リーベ、お前はさ、他の冒険者が立ち尽くしてる中、雪原を駆けまわってスノータイタンを倒していたんだぜ」


「でも、それはエリスが居たから」


「エリスが居ても、あそこまで動ける人は居ない」


「あれは、エリスが……」


「あぁそういうこと言うんだな。わかった。こっちだって手があるさ」


意地でも自分がすごいって、認めさせてやる。




「お前の強いところを言うから、しっかり脳に刻め。強い、足早い、力強い、炎魔法すごい、レイピアすごい、あと強い……」


「わかった。もういい!」



 恥ずかしそうに顔をそむける。しかし、その誉め言葉をお世辞とは思っていないようで、唇を噛みしめながら受け取っていた。



「だからよ。お前は思ってるほど弱くないから、これからゆっくり自信もってこうな。1人じゃないんだから」


「わかったわ……」



リーベは頷きながら立ち上がる。目には凍った涙を浮かべているが、それはまるで固めた意思を表しているようで、宝石のように美しかった。



「まっこれからやるのは、援軍のための時間稼ぎなんだけどねー」


 ケンイチは、恥ずかしそうに言った。

 しかし、リーベはそんなこと突っ込むこともせず、レイピアを手に取りながら、


「前哨戦だろうが、関係ないわ。アナタと一緒なら、アタシ迷う気がしないわ」


 彼女もまた恥ずかしそうに、顔を赤くした。



「やっぱ、今のなしで」


「ざんねーん。俺覚えちゃいました。脳に刻んじゃいましたー」


「今すぐ記憶を消してよ!」


「やなこった。べろべろバー」


 と遊んでいたところ立ちはだかる2体のスノータイタン。

 リーベの表情が変わる。明らかに、自身に満ち溢れていた。



「アタシは、どっちを相手にすればいいの?」


「んー」

 ケンイチは指を動かした。傍から見れば何をしているのか、わからないが本人はいたって真面目に選んでいる。

 リーベがどっちのあいてをするのか。



 ――ど、れ、に、し、よ、う、か、な。て、ん、の、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お――



「り!」


ケンイチが刺したのは、左のスノータイタンだ。


「わかったわ。アタシが相手にする」


 リーベは動いて、ケンイチの左側に立ち、レイピアを構えた。


「任せた。それじゃあ、やるぞ」


 ケンイチは、1歩を踏み出した。

 それは、勝利への第1歩でもある。

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