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超最弱!? 防御魔法の使い方  作者: カンタロウ
2章 狡猾に笑う緑色人――ゴブリン編
33/52

2-17.出口を目指せ!! 

「――だいぶ出て来たな」


 たった2ヶ月の知恵には限界があるため、リーベを含めた3人に各々きいてみたケンイチは纏め始める。



「作戦名は――追い込み漁だ!!」


 ケンイチが天井に人差し指を向け、勝ち誇った表情で宣言する。

 しかし、3人はと言うと――



「もうちょっとマシなのなかったの?」


「ダセェよ」


「その場しのぎならいいんじゃないか」


 などと抜かし、彼らはこの作戦名に不満たらたら。ハンドックだけがフォローしてくれてるけど、それが余計に傷ついてしまう。



「うるさい、うるさい。俺がリーダーなんだぞ! 文句は言わせねぇ」


 作戦を考えていくうちに誰がリーダーになるべきか――という話題も持ち上がった。ケンイチは、もちろん自分の実力や知識を含めてリーダーにはふさわしくはないと考えていたから、辞退を強調した。

 しかし、強調すればするほどケンイチは肉体的に強くないという部分が強くなり、戦闘をするなら自然と後方に配置するよう話が進み、結果として『一番見渡せる位置』にケンイチが配置されることとなり、自然とリーダー――という司令塔になった。


 あとは、ワイバーン戦の機転の利いた戦い方もある。

 まぁとにかくこの場のリーダーにされた以上リーダーとしての立ち振る舞いをするべく、強引な態度をしている。

 なれないことをするから、エリスから笑われるのだった。



「へいへい。わーったよリーダーさん」


 エリスはからかうように犬歯を見せる。

 大人の余裕です――と言わんばかりの表情に、ケンイチはさらにムキになりかけたが、咳払いをして落ち着かせる。

 俺はリーダーだと言い聞かせ、一刻も早くラロット村に帰ることを願う。



「作戦内容は、文句ないですよね」


 各々の顔を見る。リーベとハンドックは頷いた。しかし、1人だけ頷かず、口を開いた物が居る。


「作戦内容は! 文句ないよ」


 エリスだ。彼女は、『作戦内容』の部分だけ強調している。

 

「うるさい、うるさい。追い込み漁作戦でこの場を乗り切ります! 各自準備を。以上!!」



 無理やりしめた。

 しかし、問題はいつ作戦を開始するかだ――ケンイチが使えるシールドは残り1枚。あと5時間で回復するのだが、それまでに待ってては陽が暮れてしまう。なるべく早い段階で行動したいのだが……。


 考えているケンイチをよそにリーベは、レイピアの点検をしていた。白い布で赤い液体を付着し、自身の息を吹きかけ磨いている。

 エリスとハンドックも自身の武器の手入れをしながら、隅のほうで何か話していた。口元が動いているだけで、何を話しているのかわからないから確認するつもりもない。


 とりあえず、自分も手入れを始めるべきだろう――鞘に納めたショートソードを取り出し、思い出す。


 あれ、本が無いと……。



「無くしちまったか、俺」


 分厚くて、ふせんだらけの本。いつも持ち歩いていたからなのか、表紙は傷や欠けた箇所が目立っており、どれだけ冒険したのかよくわかる傷物となっていた。彼女が――ザベスたちの思い出が詰まった大切な本を無くしたなんて知ったら、彼女たちも悲しむはずだし、何よりも自分が許せない。

 もし泥だらけになっていたら、ゴブリンたちに壊されていたら――不幸なことばかりを想像するたびに、胃がキリキリする。



「どうしたの?」


 リーベと視線が交じる。彼女はよそよそしいケンイチの雰囲気を察して、心配していた。


「いや、本を無くしちまって」


「それは大変ね。どんな本かしら?」


 ケンイチは、事細かくその本の特徴を伝える。


「なるほど」


 真剣な表情でリーベは、聞いてくれた。


「ここが終わったら探しに行きましょ。必ず見つかるわよ」


「そうだといいのだが」


 不安はあったが、まだ絶望ではない。必ず希望があるはずだから――ケンイチは、一度深呼吸して気持ちを落ち着かせた。



「なぁちょっといいか」


 エリスに話しかけられ、そっちのほうに目を向ける。エリスとハンドックは二人で話していたが、もう終わったらしい。

 彼女たちを見た。


「これを見てほしいんだが……」


 エリスが指さしたのは、さっき通った道だ。なにがあるというのか――こんな暗くてジメジメした洞窟の中で、一体どんなこと…………が?


「んだよ、これ!!」


 そこには、グツグツと煮込まれた緑色の液体がどこからともなく流れ込んでいた。

 しかし、幸いにも段差があったおかげでケンイチたちのところまで流れてこないが、もしなかったらと思うとゾッとする。今すぐにでも行動するべきだ――ケンイチは前に出て、足を地面に付けようとした。が、



「待てよ」


 エリスに腕を掴まれ、後方へと引っ張られる。彼の体は三回程地面を転がって、岩壁に頭を激突した。ジンジンとした痛みが脳天に疼き、少し涙目となる。痛い、痛い――と心の中で叫び続けた。

 エリス、リーベ、ハンドックは、そんなことを気にせず謎の液体に視線を集中させる。



「これは――」


 ハンドックは、顔を近づけそのにおいをかいだ。鼻を動かし、地面を埋める緑色の液体を嗅覚で調べる。その瞬間、表情が歪んだ。眉を寄せ、苦虫を嚙み潰したような顔で立ち上がった。


「とても、くさい。毒の可能性がある」


 そこでようやくケンイチは、頭を抑えながら三人の元に寄った。



「なんで毒が流れてるんですか」


脳天に腫れあがったこぶがあり、触るとヒリヒリする。なるべくふれないよう守りながら、ケンイチはハンドックに言葉を投げかけた。


「考えられることは、この大地の血液ってところか」


「血液?」


「この毒は、腐敗したにおいがする。きっとラッドから流れているのだろう」



 ラッドとは、裸子植物の落葉性に分類される木である。高さ7メートル、幅40センチぐらいで、よく森の中に咲いている。秋ごろになると赤い木の実がなるため、ラッドはその防衛本能として夏頃から毒が流れるようになっている。

 どうやらその毒が上から降ってきたらしい。



「あぁそういうことか。ヤツラ知ってたんだ――これがあるってわかっていたんだ」


 難しい顔をしたハンドックが言った。



「知ってたってことか……。ならオレたちハメられたな」


 この穴に入れたのも、空いていたのも、全てゴブリンが考えてやっていた――ということか。復讐と言ってもやはり生物の本能には、抗えないのだろう。

 狡猾に笑う緑色人――その名にふさわしい魔物だ。



「あぁ、そうだな。まぁ突破できるけど」


「えっ、まじっすか」


 ケンイチは聞き間違えかと思った。が、ハンドックはサラリと、


「ぼくは、毒無効なんだ」


 と言った。


「どうしてなんですか?」


「それは、パワーの能力である程度の毒が無効になっているからだ。と言っても、弱い奴だけど……まぁラッドぐらいは余裕さ」


澄ました顔で、ハンドックは毒の沼に使った。深さは足首が浸かるぐらい。

 ハンドックが気にするそぶりを見せず、その場でジャンプして見せた。準備運動感覚で体を動かし、頷きながら「これぐらい余裕だな」と言葉を漏らす。



「ぼくが全員を担げばいいよね」


 ケンイチは頷く。


「余裕――と言いたいところだけど、全員は無理だ」


「えっ」


「毒の体制に力を使うから、1人は別の方法で移動する必要がある。防御魔法も使えないし」


「それなら……俺のシールドで乗せればいいですよね」


「でも、あと一枚なんだろ。あまり無茶は………」


「いや、するべきでしょう。ここで一人残すほうが問題です。それに、皆で出なければ作戦は実行できないわけですし」



 ハンドックは深く考えた後に「わかった」と返事をした。

 それから一度陸地へと上がり、誰がどういうふうに乗るか話し合い、決まった。


「本当にこれでいけるのかしら」


 不安そうな声を漏らすリーベ。


「まぁいけるっしょ。とりあえず、毒に落ちなければいい!」


 ケンイチは、大丈夫と言った表情でピースを見せる。


「そんな適当な……」


 呆れて見せたが、彼女が安心した表情をしていた。

 大丈夫、きっと上手く行くはずだ――絶対に失敗はさせない。ケンイチは、固く誓う。



 ハンドックは走る。1人の女性を抱え、1人の少年を背負って一心不乱に走った。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」


 体中びっしりとかいた汗は、顎をつたって独沼に落ちる。


「ハンドック頑張れよ」


 ケンイチのシールドに乗ったエリスがあぐらをかいて応援した。


「わ、わかっているさ……」


 彼の後頭部から発せられる熱は、ケンイチの頬に触れている。ケンイチはハンドックの首に手を回しつつ、エリスが落ちないようシールド魔法を展開させていた。少しでも意識が途切れれば、どっちかの力が抜けそうで、なんとか必死に耐える。


「見えました」


 ハンドックが前に突き出した盾に身を隠したリーベが出口を指さした。そこからはオレンジ色の光が伸びており、どうやら夕方になったらしい。洞窟の中は暗くジメジメしていたからわからなかった。


「もうちょいだな」



 嬉しさ半分、苦しさ半分の声音にケンイチはエールの念を送る。

 声に出せない――いや、出なかった。ケンイチは、どういうわけか疲れていたのだ。カラカラの乾いた喉から漏れる喘ぎ声と冷たい汗は、体調を崩し始める。

 いま意識を断てばエリスが落ちる――ケンイチは、ギリギリの意識を保った。ただそれだけをし、それ以外に意識を向けず、後方ばかり見て、結果――。



「ケンイチくん!!」


 ハンドックが彼の名を叫ぶ。

 エリスが出るまでの間保っていた意識が、プツンと切れた。まるで電源を落とされたテレビのように、彼の目から光を奪われ、黒くなった瞳が夕陽へと注がれる。


 たぶん生きれるはずだ――左手に持っていたグリフォンの羽が空を舞う。

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