2-13.大空へ!
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自分の感覚が狂っていないのであれば、ここからラロット村までの距離はまあまあ離れているはず。だからどうして、リーベがここにいるのか不思議だ。
ケンイチが混乱している中、背中を向けるリーベ。そこにはヒーロー然としたたくましい後姿をしていた。
「ケンイチ、アタシのために剣を握ってくれると言ってくれて、ありがとう。そんなこと初めてだったから、嬉しかったわ」
「そ、そうか」
安堵から流れる涙が止まらない。その光景を目にしたリーベが、微笑む。
「でも、アナタだけに背負わせたくない。戦うのは怖いけど、ケンイチ――あなたが死ぬほうがもっと怖い」
「…………」
「だから、アタシも戦う――あなたが戦うのなら、隣で剣を構えるわ」
「…………」
この世界には知り合いもいなければ、親だっていない^^孤独だった。寂しさと悲しさを表に出さないようひたすら隠して2か月間すごしていたが、もうそれはしなくていい。
――俺は1人じゃないんだから。
「…………」
前に居るゴブリンに対して、ビビることはない——リーベが居て、帰るべき場所がある。
涙を拭いて、ゴブリンを睨みつけた。
涎を垂らし狡猾に笑う緑色人。
見た目通りの不気味さと蔑むようなゲスな笑みをこぼし、余裕をぶっこいている。
――絶対に倒してやる。
ケンイチは立ち上がって、リーベの隣に立つ。彼女はは凛とした表情をしていたが、手に持っているレイピアが少しだけ震えていた。
まだ怖いようだ――それでも、助けに来てくれて、戦おうとしてくれている。これほどうれしい事はない。
ショートソードを一段と強く握った。
「なぁリーベ」
「どうしたの」
彼女と目が合う。
「ありがと!」
瞬間、リーベがケンイチのふくらはぎを蹴る。
「ば、バカじゃないの! まだ助かったわけじゃないんだからね」
そんなに怒らなくても、と思ったが、耳まで真っ赤になったリーベの顔を見て、照れ隠しだと理解する。
「きゅーーー!」
河川敷に居たゴブリンが叫び、前に出た。
勝てる――そう思っているのだろう。リーベはフッと鼻で笑った。
「以前のアタシと思わないでよね」
瞬間、リーベはゴブリンとの距離を縮めるため走った。後方に居たゴブリンが弓を構えるのが見える。
このままじゃまずい――ケンイチも走りつつ、さっきまで展開していた2枚のシールドをリーベの前に出す。
弦がはじかれ、5本の矢が空を飛ぶ。しかし、それはシールドが防いだことで矢は彼女に当たることはなかった。
それでも、シールドは貫通し、矢の攻撃を受け止められなかったが。
「…………」
距離を詰めたリーベがゴブリンと、剣術で戦う。両社互角――かに思えたがけど、ゴブリンのほうが不利だ。確かに力勝負で行けば緑の魔物にぶがあり、リーベのほうが押されている。だが、それ以外――腕の長さと体格をいかした防御に、何と言っても水のように受け流した防ぎ方は、ゴブリンの攻撃を大ぶりにした。
「……………」
リーベは、ここぞと思ったのか、青い瞳を光らせる。瞬間、腕は伸び、レイピアの先がゴブリンの胸を貫いた。人間でいう所の心臓部分に、剣先がある。
リーベが剣を抜くと、ゴブリンは動くことなくその場で倒れ込んだ。その小さい穴から血を流して、ピクピクと痙攣しながら息絶える。
河川敷とは思えない強さに、ケンイチが驚いた――むしろ自分のほうがお荷物なのでは、と考えてしまうほどに。
「まだ。いるわ」
リーベの言葉で我に返ったケンイチは、前方のゴブリンに目を向ける。数はあと5体と言ったところか。弓が3体、剣が2体。ここで厄介なの乃が遠距離攻撃だ。剣部隊を倒してからでもいいのだが、正直それだと危険だとケンイチは考えた。
ならば――あの手を考える。
「リーベ。俺に作戦がある」
「一体何を」
「シールド使うから飛んでくれ」
「…………」
返事が返ってこず、リーベのほうへと目を向ける。見ると、彼女は口をパクパクしながら首を振っていた。
嫌がっている。それもめちゃくちゃ。
「大丈夫だって。できるって」
心配なのだろう。まぁそうだ、なんせ自分もそうするのは初めてだから。しかし、だからと言ってやらないわけにはいかない。
確証だってあるし――それは、ワイバーンのとき証明したから。
ケンイチは、話した。
「安心しろ、成功する――いや、させるから絶対に」
ケンイチの意思に半ば折れかけたが、リーベは踏みとどまる。
「違うのよ。アタシ、高いとこダメなの」
そうだったのか――だからと言って思考しない。暇が無いからだ。
ケンイチは、再度言う。
「大丈夫、大丈夫。できるって」
「人の話聞いてた!?」
リーベは唇を尖らせた。明らかに不機嫌だけど、それしか方法が無い。
「自分でやればいいじゃない? 別にアタシがやらなくたって問題ないじゃん」
「シールドは、基本的に40センチの隙間ができるからできないの! できたら、俺だって苦労しないさ」
シールドの性質を話したら、リーベは喋らなくなった。難しい顔をして、ため息を吐く。
「魔法の条件なら、仕方ないね。やればいいんでしょ、やれば」
逃げられないこの状況に、投げやりになる。
「いえす!」
全く納得した表情ではないが、それでも呑み込めたらしい。リーベが少し前に出る。
「戻ったら、真っ先に『レ・ベッカ』の特製ハンバーガーを奢ること。約束ね」
『レ・ベッカ』という店は、冒険者協会にある食堂の事である。リーベはそのハンバーガーが好物らしく、何かあればその食べ物を引き合いに出してくる。
「わかってるって」
その言葉を合図に、リーベが大地を駆けた。
「ちょ早すぎ……」
彼女は嫌なことを真っ先にやるタイプなのは知っていたが、こんなすぐだとは思っていなかった。少し出遅れたが、ケンイチは唱える――新たな防御魔法を。
「ジャンプ・シールド!」
リーベの前にだされた横向きの半透明の板。彼女はそれを踏み、(高所恐怖症のリーベにとって)大空(4m上空)へと駆ける。まるでペガサスのように。
「ギヤアアアアアアア!」
と、大きな悲鳴をあげながら、弧を描いて飛び跳ねていた。
地面にいるケンイチでさえもよく聞こえる絶叫だ。
――頑張れ、リーベ。
彼女を応援した。
「…………」
悲鳴をあげ、絶叫を轟かせても、やるときはやる女。地面に着地するやいなや、リーベは持っているレイピアでゴブリンの心臓を貫いた。
1体、2体、3体――と、見事弓部隊を屍へと姿を変える。それもまさに一瞬で、見ているケンイチはついその美しさにうっとりとしていた。
「ケンイチ、前!」
リーベにそう言われるまで、ぼーっとしていた。
棍棒を持ったゴブリンが前に出てくる。咄嗟に身をかがめたことで、回避することに成功した。
ケンイチは、シールドを展開することなく、ショートシールドで首を切った。
傷は浅いかに見えたが、噴き出す鮮血の量で致命傷を与えられたのだと知る。
すぐに距離を取って次の相手を探す。すると、右斜めの方向に草むらが揺れ、走っていく小人の姿が――。
「まずい!!」
やりきれない剣を鞘に納めて、その方向へと足を向ける。だが――。
「ぎゃあああああ!!!!」
聞こえる悲鳴は、絶対に人間だ。
「ど、どうしよう……」
色が抜けた目をリーベに向ける。
「大丈夫。きっと違うはずだから」
そう慰めてくれるが、そこには自信が無い。
自分の甘さによって誰かが傷ついてしまった――と考えたその時、茂みが揺れ、現れた人物によって安心感を得た。




