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超最弱!? 防御魔法の使い方  作者: カンタロウ
2章 狡猾に笑う緑色人――ゴブリン編
26/52

2-11.森の中で

 時は戻る。これはまだリーベが畑仕事を終えているか終えていないかの瀬戸際に起きたことである。



 ケンイチは、ザベスのパーティに入り、後ろを付いて行っていた。場所はラロット村から2キロほど離れた森の中。木々の葉から光が注がれており、まるで道しるべのように4人を示していた。

 風が吹いて涼しいが、それでも運動しているのもあって汗がジワジワと噴き出している。ケンイチは、服で顎の汗をぬぐった。

 そんな彼に対して興味を示す人が1人。



「なぁなぁ、お前ワイバーンを撃退したんだろ。したんだろ」



 興味深そうに話しかける女性――その名は、カッシャ。艶のある黒髪は癖っ毛で、猫の耳のように突き立っていた。身長はケンイチと同じぐらいで、170センチほど。

 冒険者らしく派手な装飾など付けておらず、純白の白い服は彼女の性格をよく表していた。

 カッシャもザベス達と同じパーティということもあり、アイデンティティの黒いマントを背負っている。前方部分だけを開き、後方はマントに隠されていた。

 背には大きな木槌をこしらえ、幾匹の魔物をミンチに潰したのだろうと想像できる。



「ちょっとだけな」


 年齢も近いため、存分にため口が使える。


「きいた話によると、シールドで弾いたんだってな。どうして思いついたんだ? 教えてくれよ。な。な」


 カッシャは喋り方が独特で、語尾が伸びていた。



「特別なにもないけど……しいって言えば、野球の経験があったからかなぁ」


「おぉ~。すごいな。それ。それ」



 この世界には野球というスポーツがちゃんとあるから伝わった。




「きょ、きょきょ、興味深いですねねねね」



 眼鏡をクイっとあげ、赤面した顔でそう喋るピンク髪の女性――ロルは、分厚い本を抱えながらそう言った。



「ど、どど、どうして、そう繋がったんですかかか」


 最初あったときよりもどもりが酷くなっている。

 緊張しているのだろうか。

 ロルは、頬を撫でる汗を袖で拭った。気づけば、自分自身も汗をかいている。

 風ではかき消せない、夏のような日差し。

 今日はとても暑いな。



「シールドがボヨヨーンって揺れたから、いけるかなぁと思って」


 ロルは18歳で、ケンイチよりも年上。どうやらため口は彼女が苦手らしく、使ったら拒否られたのでいつも通りの喋り口調である。



「だ、だだ、大胆ですね。大丈夫だったんですかかか?」


「うん、ぜんぜん大丈夫だった。なんとかなるもんだ!」


「そ、そそ、そのアグレッシブさ、そ、そそ、尊敬します」


 ケンイチに対して敬意の目線を向けるところ、横でいたずらっぽく笑うカッシャ。



「ロルは、アグレッシブじゃないよな。な」


「う、うう、うるさいです」


 ロルが手に持っている本でカッシャを突いた。

 ケンイチは、ずっと気になっており、分厚いそれを指さす。



「ロルが持ってるその本。なんなんだ?」


「こ、ここ、これは……」



 近づいてきて、中身を見せてくれた。


 そこには、魔物の絵と共に説明が書かれた図鑑であった。


「と、とと、討伐する魔物は事前に調べないと、た、たた、戦えませんからね」


「確かにそうだな」



 偶然か、それとも狙ってなのか、ロルはゴブリンについてのページを見せてくれた。



 ゴブリン。全長は約120センチ。主な生息地は、森。ゴブリンは、人型魔物でよくみられる知能を持っている。例としてあげるのは以下の通り――グループによる社会性、武器による攻撃、優位に立ったときの堕落など。とにかくゴブリンは人間と似た行動をするため、彼らを『緑色人(りょくしょくじん)』とも呼ばれている。


 ゴブリンは性別ごとに行動が別れており、オスは人を襲撃し、メスは育児や木の実採取、群れの守護を仕事としている。

 その理由としてあげられるのは、メスが群れの形成を担っているからだ。特に出産後のメスは気性が荒いため、オスはグループ内でつまはじきとなっている。だから、せめてもの貢献として人間を襲って硬貨や宝石といった金属ものを強奪し、自分の妻あるいは好意を抱いているメスに手渡しで贈ってる。

 


「………」


 他にもいろいろと記述されていたけど、ロルが取り上げてしまった事で見れなかった。



「か、かか、顔が近いのでダメです」


 そんな理由で――と思ったが、確かに近かった。集中するあまり何も考えておらず、最終的に10センチにも満たない距離まで詰めていた。「ハァ、ハァ」と言っていたが、あれはロルの息遣いだったのかもしれない。



「わりぃ。つい」



 手刀を立て謝る。


「い、いい、いいですけど……そんなに読みたいのなら、貸しますよ」


「まじ?」


「ま、まま、まじです」



 ロルから本を受け取った。これで魔物の事がもっと勉強できる――歓喜に満たされたその瞬間、がさっと何かが動く音を耳にする。

 何かが居る――ザベスが警戒したその瞬間、目の前に立つピンク髪の女性が口から血を吐いた。



「い、いい――」


 喋り終える前に、彼女の頭が地面にぶつかる。ごんっと鈍い音がし、ケンイチは血の気が引いた。



「大丈夫か!」


 ケンイチは手を伸ばそうとしたが、ロルの背にある棒で動きが止まった。

 そこにあるのは、矢――それも不格好で、あまり上手と言えないし、何と言っても河川敷で見たものとよく似ている。いや、それなのだろうか。とにかく、ロルの背中には4本の矢が刺さっており、彼女を動けなくしていた。



「……ッ」


恐怖に引きつった表情のまま、ケンイチは1歩後ろに下がる。しかし、それから逃げられることはできず、どくどくと広がる血だまりは、やがてケンイチの靴を侵食していった。

恐ろしい速度で広がる血と量を見て、ロルが助かることは無いのだと悟る。



「ロルーーーー!!」



 カッシャの悲鳴に近い叫び声が、森の中に響く。それを合図としたのか、また何かが飛んでくる。それは、カッシャの後頭部を狙っており、ケンイチは認識できることができた。

 石――それも拳ぐらいある大きな石だ。シールドを出せば助けられるはずだ。あの魔法なら先が尖っていないものなら受け止められるから。

しかし、ケンイチは動くことができない。恐怖という鎖に繋がれてしまい、自分の得意魔法であるシールドを発現することができなかった。



「………」



 もうすぐそばまで来ている。

 動け俺の体――強く念じたその思念に反応したのは、ザベスだ。

 彼女は腰に添えてあるショートソードを抜いて、石を弾いた。


「…………」


 勢いが強かったからなのか、剣を持っていた手が上へと跳ねる。

 助かった、一安心したのも束の間、ケンイチの手を傷つける何か。それは貫通することなく、さっと手を切っただけで、致命傷になっていない。だが、



「……ッ!」



 黒いマントが鮮血に染まる。見るとそれは、ザベスだ。彼女は手を弾かれてしまったからこそ矢を防ぐことができず、がら空きとなった横腹に3本の矢を打ちこまれたのだ。

 ザベスは、片膝をついて倒れ込む。なんとか意識だけ保とうとしているが、こと切れるのも時間の問題。



「まずい! ケンイチ、戦え。え」



 カッシャが背中にある木槌を構え、リーダーを守るように前に出る。

 そこでようやくケンイチも腰にあるショートソードを抜いて、ザベスの後ろに立った。


「…………」



 木と茂みに囲まれているから、敵の位置が把握できない。

 だが、あらかた予想できる。


「これゴブリンだよな」


 ケンイチは自分の考えが間違っていないと、信じるためにカッシャへと投げかけた。


「そうだな。な」



 余裕な表情は何処かに消え、今のカッシャは怒りと悲しみ、そして恐怖の混じった表情をしている。

 それは、ケンイチも同じ。何が来るのかわからない状況の中、死の恐怖に吐き気を催しながら森の中を見ていた。

 どこから来るのか――風の揺れだろうがお構いなし、何か音がすればケンイチとカッシャはそのほうへと目を向ける。



「…………」


「…………」



 これは風なのか、それとも移動した際の音なのか定かではないが、確実に音はしていた。にもかかわらず、敵は一向に姿を見せない。

 じれったい――神経をギリギリまで削って、警戒する。



「きた!」



 カッシャは、叫んだその瞬間、飛び出した。フルパワーのまま、勢いを殺すことなくジャンプし、木槌を力任せに振る。

 だが、



「あれ、違う。う」



 カッシャが困惑した声を出す。

 気になってしまい、ついケンイチもその方向へと目を向けた。そこにあるのは、青い服を着て、麦わら帽子を被ったかかし。何の変哲もない、普通の案山子であるのだが、カッシャの反応が明らかに違う。何か動揺していた。



「これ、ラロット村の。の――」



 言い終える前に、カッシャの胴体が宙を浮く。足をばたつかせ、必死にもがいていた。

 

 ――罠だ!!


 ケンイチは、すぐさま彼女の元により、助けようとした。が、


「………」


 開いた口が塞がらない。

 宙を浮いていたカッシャの体は落ちてきた――言葉通り体だけで、首が無い。

 服装や身長は、カッシャの物だと想像できる。しかし、それをカッシャの物だと認識できなかった。

 混乱による思考放棄――それが今ケンイチの頭の中で行われている。

 流れる鮮血は、緑の上を滑った。



「か、カッシャ……」



 それが血だと認識できて、やっと思考が広がり始める。

 あんなに元気だったカッシャが、首を無くした瞬間、人形のように動かなくなってしまった。



「はは……」



 足が動けなくなり、地面に尻もちをつく。膝はガタガタと笑い、額から流れる汗に目がしみる。


 そうだ、俺はこの世界の人間じゃない――地獄を前にして、ケンイチはとうとうそう考えた瞬間、後方から飛んでくる矢。

 彼は気付くはずもない。なんせ、見ていないからだ。もう警戒はしておらず、戦う意思も残っていない――生きる希望だって見えてはいない。

 だが、誰かがそれを生かそうとする。この絶望だらけの世界で、森の中で、1人だけ残そうとしていた。

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